IS 不浄の箒   作:仮登録

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6.勇気を出して

 朝の日差しを部屋に入れる。今日は特別な日にしようと、箒は意気込む。獲物を狙う獣の様な目つきだと、箒は一夏に言われたが、それでも気持ちは変わらなかった。

 

 寮での食事、朝の登校に一夏と一緒にいる。それが一夏の提案した解決法であった。

 一夏は色んな人物に挨拶される。一夏が挨拶を返すときに、一緒に挨拶を返すところから始めようと提案されたのだ。

 

 そして今、箒は一夏と教室の前で立っている。

「ほら、大丈夫か? 俺と一緒にするぞ」

「ああ」

 

 一夏はためらいなく教室に入った。箒も慌ててそれに付いていく。

「おはよー」

「お、おはよう」

 

 一夏が声を出し、箒も続いて声を出す。これで一夏に返事をしたのか、クラスに挨拶をしたのか、分からなくしたのだ。クラスメイトに「お前に返事したんじゃねーよ」と言われたくなかったからだ。

 

 クラスが声を返してくる。一夏が席につくと、すぐに周りに人が集まった。

 さすが一夏だ。友達が自然に集まるとは。ライバルであるセシリアもいる。箒はその様子を自分の席から眺めていた。話が弾んでいるなと思いながら、一時間目の用意をする。

 

「その情報、古いよ」

 

 教室の前の扉に、黄色のリボンがいた。二年生という意味ではない。黄色のリボンで括ったツインテールの可愛い女の子がそこにいた。体は箒と比べて小さく、その制服は脇が見える改造が施されている。

 黄色のリボンで視線を集め、脇を魅せるのか。箒はその行動に驚いた。

 

 箒が話を盗み聞きしていると、どうやらその子は、二組の中国の国家代表候補生らしい。クラス代表で専用機持ちと言っている。

 

「リン。お前、鈴(リン)か?」

「そうよ、中国代表候補生、ファン・リンイン(凰 鈴音)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 リンと呼ばれた少女が、格好良く一夏へと指を向ける。

 

「なにカッコつけてんだ、すっげー、似合わないぞ」

 一夏が笑いながら鈴へ指摘する。それを受け、鈴も親しそうに反論する。

 

 転校生と一夏が既に親しい。その事に箒は目を見開く。たとえ転校生でも一夏はすぐに仲良くなれるのだと、箒は尊敬した。

 

 

 昼休み。箒は一夏に食堂へ行こうと誘われた。ライバルであるセシリアも誘われ、久しぶりに話が弾む昼食になるかもしれないと、箒は考えていた。

 

 そこに、二組から凰鈴音がやってきた。一夏が移動の準備をしているところを見ると、「私も行くわ」と付いてきた。その一言を出せることが羨ましいと、箒は思った。

 

 食堂で注文をし、受け取りの列に並ぶ。注文された順番に出すのが、本当に効率的なのだろうかと、箒は不思議に思うが口には出さなかった。

 

 鈴はラーメンを受け取る。

「相変わらず、ラーメン好きなのか。ちょうど一年になるな。元気にしてたか」

 一夏が鈴に尋ねる。

 

 これは普通の人にとっては、当たり前の会話なのかもしれない。しかし、箒から見ると、一夏が相手の好きな物を覚えており、そして体調を気遣っているように見える。その流れるような会話の作り方を覚えようと、箒は必死に聞いていた。

 

 箒は定食を受け取り、一夏の隣に座ろうと移動する。しかし、一夏は鈴と二人の空間を作っていた。それに割って入る勇気を箒は持っていなかった。

 

 箒が寂しく定食を持っていると、セシリアが一夏いるテーブル席の一つ隣のテーブル席に座った。続いて、その後ろにいた一組のクラスメイトが座っていく。

 

「篠ノ之さん、座らないの?」

 クラスメイトの一人が声を掛けてきた。

「ああ、うん。座ります」

 箒は頷き、そのテーブル席に着く。テーブル席に誘われたことに、箒は心の中でガッツポーズをする。

 

 テーブル席のほとんどのクラスメイト達は、必死に一夏の方へ聞き耳をたてている。

 箒はそんななか、必死に名前を思い出そうとしていた。

 

 自分の隣にいるのは、いつも一夏に話しかけている女子の一人だ。

ヘアピンで前髪の両側を止めている。箒と束が姉妹であることを千冬に尋ねたのもこの人だ。一夏の二つ後ろの席で、観察力が有る。

 

 箒はそこまで思い出したが、この隣の人物の名前が思い出せなかった。諦めてその隣を見る。つまり、箒の二つ隣だ。

 

  彼女の名前は覚えている。のほほんさんだ。一夏がそう呼んでいたことを箒は思い出す。彼女はいつも手先を隠すように制服の袖を伸ばしている。手に怪我 を負っているのかと箒は思っていたが、ISの実習で見たところ、綺麗な手だった。そういう制服の改造の仕方というだけだった。のほほんさんは、黄色い動物キャラがついた髪留めで、髪の毛を両サイドで 固定している。常に眠たそうな顔でマイペースだが、いつか覚醒モードに入るのではないかと、箒は注目している。今ものほほんさんは一夏に注目するというよ り、ご飯に注目している。

 

「あれ〜、しののん。これ、食べたいの?」

 のほほんさんが、「いいよ〜」と言いながら、箒へ食器を突き出してくる。箒は「しののん」に少し戸惑うが、御礼を言い、少し取る。そして、お返しに唐揚げを一つ、その食器に乗せた。「ありがと〜」と言いながら、のほほんさんが笑顔で唐揚げを頬張る様子は、微笑ましい。

 

「二人共、良いの? 織斑君、仲が良さげだよ」

 箒の隣から、箒とのほほんさんに向かって言われる。

 

「そだね〜。仲、良いよね〜。フッフッフ、しののんはどうするの?」

「うわっ、口でフッフッフなんて言った」

 箒はそれを見ながら、感動していた。まるで自分が友達と会話しながら、昼御飯を食べているかのようだった。嬉しくて笑みが溢れる。

 

「おおっ、笑った。幼馴染の余裕ってやつ?」

 箒の向かい側に座っている、髪が赤みがかっていて、後ろで二つにくくっている女子が、会話に入ってきた。

 

「ユコ〜、しののんが羨ましいよ〜」

「おお、よしよし。慰めてあげよう」

「ちょっと、私の膝の上でイチャイチャしないでくれる?」

「あ〜、かなりんに怒られた〜」

 ユコとカナリンか。箒は必死に名前と顔を一致させた。

 

「ちょっと! 皆さん、お静かになさい!」

 セシリアが大声を出す。テーブル席に座っている皆が、セシリアがうるさい、と返した。

 セシリアは恥ずかしさを誤魔化すように咳をし、箒を見た。

 

「篠ノ之さん、宜しいのですの? あの方が、一夏さんとどんな関係か気になりませんの?」

 

 ライバルのセシリアにそう聞かれたら、その期待に答えるしかない。二人の世界を壊すことにした。箒は食器を置き、「聞いてくる」と席を立つ。セシリアもそれに続いた。

 

 鈴が一緒に訓練をしようと一夏へ持ちかけている。箒は会話の入り方が分からず、一夏の前で立ち止まる。すぐに一夏がこちらを向き、今しかないと口を開けた。

「一夏、二人はどんな関係だ?」

「此方の方と、まさか、つ、付き、付き合ってらっしゃるの?」

 箒とセシリアが一夏に尋ねる。

 

「只の幼馴染だよ」

 一夏が答える。それを聞いた鈴がそっぽを向く。箒は一夏のいる位置からなら、鈴の腋がよく見えているだろうなと思っていた。

 

「そうか、お前とはちょうど入れ違いに転校してきたな。前に話しただろ、鈴。箒はファースト幼馴染で、お前はセカンド幼馴染だ」

 ファーストやセカンド等と、まるでアメリカの政府要人の夫人かのように一夏が紹介する。

 その紹介方法はよく分からないが、鈴が納得したので箒は何も言わなかった。

 

「初めまして、これからよろしくね」

「ああ、こちらこそ」

 初めてちゃんと挨拶を交わせたのではないだろうか。一夏の特訓が効いている。先程も話しかけられたし、私もできるじゃないか、と箒は鼻高々だった。

 

 セシリアは咳をし、注目を集める。

「私を忘れては困りますわ。私はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

 箒は忘れてなんかいないぞ、という思いを込めてセシリアを見る。ライバルが、すらすらと口上を述べており、よく喋れるなと感心していた。

 

「ちょっと、聞いてますの!」

「ごめん、あたし、興味ないから」

 鈴が冷たく言葉を言う。それに触発され、セシリアは熱くなった。

 

 箒はそれを気にせず、一夏に尋ねる。

「一夏、私も訓練して良いか?」

「おう、良いぜ」

 一夏は直ぐに返答する。それを聞き、セシリアと睨み合っていた鈴が反応した。

 

「はぁ、なんでアンタと! 一夏もなんで返事しちゃうのよ!」

「篠ノ之さん! 何、敵と馴れ合っていますの!」

 箒はセシリアに睨まれるが、言い返す。

 

「セシリアとはライバルだからな。どんな手を使ってでも、近付いてみせる」

 箒の決意が現れていた。セシリアにライバルとして認められたという思いが、箒に勇気を与えたのだ。

 

「なんですって!」

「ちょっと、関係ない人達は引っ込んでてよ」

 鈴が箒とセシリアを見ながら、笑う。

 

 セシリアが鈴の方へ向き直り、顔を近づける。

「あなたこそ、後から出てきて何を図々しいことを」

「後からじゃないけどね。一夏とは長い付き合いだし、何度も家で食事する間柄だけど?」

 鈴がセシリアなんてどうでもどうでも良い、という風に笑った。セシリアの声がだんだん大きくなる。鈴はそれを無視しながら話を続けた。

 

「一夏は小さい頃から、よく家に来て食事してたの、そういう付き合いなの」

「ああ、鈴の実家は中華料理屋で、鈴の親父さんが作る料理がうまいんだ」

 セシリアはそれを聞き、暴走を止めた。お店なら仕方がない、と納得したようだった。

 

「親父さん、元気にしているか?」

「ああ、うん。元気だと思う」

 箒はその鈴の言い方を不思議に思うが、チャイムが鳴ってしまう。

 

 鈴は素早く立ち、テーブルから離れていく。一夏に放課後の約束を取り付け、その後姿は小さいながらも、堂々としていた。

 

 

 クラス代表決定戦の後に、訓練機の使用許可を箒は申請していた。申請理由に一夏の名前を載せれば、簡単に打鉄を借りることが出来た。このISを通して白式のデータを収集することが、目的なのかもしれない。箒はそう思ったが、気にしない事にした。

 セシリアのライバルとして、少しでもISに慣れるべきだろう。

 

 箒は打鉄の近接ブレードを展開する。姉さんが作ったISで無いのが残念だと思いながら、一夏の方を向き、構える。

 

「では、一夏。始めるとしよう」

「お、おう」

 一夏も剣--雪片弐型--を展開し、構える。

 

「御待ちなさい、一夏さんのお相手はこの私でしてよ!」

 箒の隣で、ブルーティアーズが展開される。360度の視野がそれを捉えていた。箒は気にせず、一夏へと言う。

 

「さあ、一夏。練習開始だ」

 箒は言うやいなや、白式へと剣を振りかざした。

 

 白式と打鉄の鍔競り合いが起こる。

 箒は不利を察し、距離を開けた。

 そこに、ブルーティアーズの連射が白式へと迫る。

 

「ちょっ、ちょっと待て!」

 

 白式はそのビームを切り伏せる。

 その隙に白式へと迫る。切り抜ける。

 白式は打鉄を追おうとするが、正面からブルーティアーズの射撃が迫っていた。

 跳躍。白式は飛び上がり、射撃を回避した。

 ブルーティアーズは白式を打ち続ける。

 

 無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)や、三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)など、回避機動は何種類かあるが、一夏はどれもできていないようだった。

 

 打鉄も飛び上がり、白式へとドッグファイトを仕掛ける。

 近接ブレードを振るう。当たらない。

 白式の鋭い反応が、打鉄を襲う。

 打鉄の防御シールドが減る。

 返す刃で、白式を襲う。

 が、距離をとられた。

 そこをブルーティアーズのビットが白式を襲う。

 白式は空にいたブルーティアーズへ加速する。

 ブルーティアーズはライフルを向ける。

 速い、間に合わない。ブルーティアーズが撃つ前に、白式は剣を振るう。

 その好機を逃す箒ではなかった。

 打鉄が白式を襲う。

 白式が落ちていく。

 

「セシリア、なぜ近接武器を使わない?」

「それは、苦手ですから」

 

 箒が疑問を出し、セシリアが答える。箒はその答えで良いのかと思う。セシリアに返答する間もなく、一夏からの通信が入った。

 

「お前ら! 二対一なんて卑怯だと思わないのか!」

「一夏、私はIS初心者だ! 適性もCだ。いないも同じだ!」

 箒は一夏へと言い返す。

「一夏さん。そういうことなので、続けますわよ」

 

 訓練は日が落ちるまで続いた。

 

 

 一夏が荒い声を上げている。地面寝転がり、大の字になっている。体力が足りていない。箒はそう思った。

 

「鍛えていないから、そうなるのだ」

「二対一じゃ、こうなるって」

 箒の言葉に、息を切らしながら一夏が答える。

 箒は出入口を見ながら、鈴を思い出す。

「鈴は来なかったな……転校初日だし、忙しいのか?」

「どうでも良いですわ、あんな失礼な人は」

 セシリアは拳を握り、昼休みのことを思い出しているようだった。

 

「一夏さん、また後で」

 セシリアが倒れた一夏に手を振り、去っていった。「また後で」とは、食堂で夕御飯を一緒に取ろうということだろう。一夏は今日で何人の学生と夕御飯の約束したのか、箒は覚えていなかった。そのお零れに預かっている箒としては、何も言えない。

 

「一夏、部屋のシャワーを先に使わせてもらうぞ」

「ああ、先に戻っててくれ」

 

 箒はゆっくりと寮への道を歩いた。違うクラスに新しい友人が出来たことを思い出す。凰鈴音。彼女は明るく、とても可愛らしい。背は箒より小さいくらいだ。そんな彼女が「よろしく」と言ってくれたことが、とても嬉しかった。

 部屋でシャワーを浴び、一夏を待つ。

 

 一夏が部屋に戻り、「飯、食いに行こうぜ」と誘ってくれる事に、箒は安堵する。これが無ければ、箒はご飯を食べにいけなかったのではないだろうか。そんな事を思いながら、箒は一夏と食堂へ向かった。

 

 一夏が大勢の学生に囲まれながら、ご飯を食べている。セシリアが一夏の横に座り、その反対側には鈴が座っている。

 

 箒は二言ほど、学生との会話に参加できた。「ああ、そうだな」や「そうと思う」しか言っていない気がするが、それでも参加できたのだ。

 

 箒が覚えている名前は、のほほんさんだけではなくなった。鷹月静寐(たかつきしずね)さん、谷本癒子(たにもとゆこ)さんの名前と顔を、教室に有った座席表を見て確認していたのだ。だからこそ、気後れせずに会話に参加できたのかもしれない。

 

 食堂の帰り道に思わずスキップしてしまうくらい、箒は浮かれていた。一夏に「夕食、お前の好きな物だったけ?」と聞かれ、「好きになるかもしれない」と箒が答えるくらい、浮かれていた。

 

 

「というわけだから部屋、替わって?」

 鈴が笑顔でそう言ってきた。

 就寝時間に近く、箒も一夏も、寝間着に着替え終えていた。そんなときに鈴の声が聞こえ、箒が玄関を開けると鈴が入ってきたのだ。

 

 部屋を替わる。それが如何に大変か、箒は伝えたかった。

 今まで築き上げた部屋の使用ルールが、無くなるということなのだ。

 

  部屋のシャワーの時間帯を決め、奥のベットを使い、窓の外を気楽に眺める権利を、箒は築き上げたのだ。それを部屋の交代で捨て去ることになるのだ。そして 何より、一夏がいる。食事に誘ってくれるのは一夏だけだ。箒よりも箒の友達付き合いを心配してくれるのは、一夏だけだ。たとえ友達としてよろしくと言ってくれた鈴でも、簡単に頷けることでは無かった。

 

「む、無理だ! 私は一夏と一緒でなければ、生活できない!」

「なっ! そこまで言うの! 一夏! さっきあんた、ただの幼馴染って言ってたじゃない!」

 

 鈴が箒を通り越して、一夏の方へ顔を向ける。箒も後ろを向き、一夏を睨む。

 

「ああ、お、幼馴染だ。ただ、箒は」

「これは! 私と一夏の問題だ! とにかく、部屋は替えられない!」

 

 箒は慌てて一夏の声より、大きな声で言った。「友達がいない」なんて恥ずかしいことを、言ってほしくなかった。しかし、鈴は諦めない。

 

「ところでさ、一夏。約束覚えている? 小学校の時にした。お、覚えている、よね?」

 

 鈴が語り出したので、箒は離れる。友達に意見するなんて荒行を終え、精神的に疲れたのだ。「替わって」と言われたら、再び話に参加しようと箒は考える。箒は鈴に背を向け、自分のベッドへ向かった。

 

「あれか? 鈴の料理の腕が上がったら、毎日の飯を鈴の家で御馳走してくれるってやつか? いや〜、一人暮らしにはありがたい」

 

 箒がそのやり取りを見ていると、一夏が叩かれていた。鈴が自然に一夏へと近づき、頬を平手打ちしていた。流れるような動作に、流石、代表候補生だと思う。

 

「最低! 女の子との約束くらい、ちゃんと覚えときなさいよ!」

「なんで怒っているんだよ、約束なら覚えていただろうが」

 

 箒は一夏に凄さに気づいた。頬を叩かれたのに、態度を全く変えていない。姿勢は伸ばしたままで、不貞腐れていなかった。

 

「約束の意味が違うのよ! 意味が!」

「じゃあなんだよ、説明しろよ」

 

 箒は自らが一夏へ行った攻撃を思い出す。どれに対しても一夏は反撃していない。普通ならあれだけ攻撃されたら、手が出てもおかしくない。一夏はいつも冷静に口で意見を言っているだけだ。

 

「説明って、そんなことできるわけないでしょ」

 これは一夏へ恩返しする良い機会だと、箒は思った。鈴が去ったら一夏に、女の子との約束にどんな意味があるのか教えようと考える。

 

「じゃあ、こうしましょう。来週のクラス対抗戦。そこで買った方が、負けた方に言うことを一つ聞く、ってのはどう?」

「良いぜ、俺が勝ったら、説明してもらうからな」

 

 二人は睨み合う。鈴は「覚悟してなさいよ」と捨て台詞を吐いて、部屋を出て行った。部屋の交換の話はどうなるんだと箒は思ったが、あえて言わないことにした。

 

 扉が強く閉められる。箒は一夏の方を見た。

「なんだよ」

「口の中は切れていないか?」

「ああ、大丈夫だ」

 一夏はベッドに飛び込み、うつ伏せになった。溜息を大きく付いている。

 

「一夏、私は鈴の約束を、恐らく説明できる。勝負をせずに聞くか?」

 

 一夏は体を起こし、ベッドに座る。そして箒を見て、「聞かない」と答えた。

 その思いを箒は理解できた。

 

「なら、クラス対抗戦に向けて、特訓が必要だな」

 一夏はベッドに仰向けに倒れこみ、「特訓は一対一でな」と言った。

 


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