鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第一章一編 モモンガとの遭遇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつからだろうか……この社会に、世界に疑問を抱いたのは?

 

 この世界に何か不満がある訳じゃない。飢えることのない生活。

 幸せ……そう、幸せと言っても良い牧歌的な暮らしと優しい人々。

 戦争もなければ差別も無い。そんな不自然さが自然と蔓延する最高に……不自然な世界。

 

 ボクの一族は代々不思議な力を受け継いできたという。昔々、神と交わった姫との間に産まれたのが祖先だと言い伝えでは聞いている。

 その、生まれつき備わっていた得体の知れないナニかがボクの中で叫ぶのだ。

 時には右腕が疼いたり、左目からナニか能力的なモノが溢れ……そうな気もする。

 そんな風にカラダから溢れ出る力が「全ては偽物だ」と、そんなふうに訴えかけてくるんだ。

 

 この世界は何者かが陰で操っている。人為的な、作為的なナニかによって無理矢理作られた平和な世界。「パンとサーカス」と誰かが言っていたな……。

 

 ここまで世界の在り方に疑問を抱いてしまったら『冒険』に旅立ち真実を追い求めるしかないじゃないか。代々ボクの家に受け継がれてきた『封印の書』もある。内容は秘密だけれども、冒険者として生きていくに必要な物は全てココに詰まっている。これさえあれば大丈夫だろう。

 

 別に、この幸せな世界を壊したい訳じゃない。ただ、神か悪魔か知らないが、この世界を作り出した何者かに問いたいのだ。

 

 

 

 「どういうつもりで、こんな世界を作ったんだ?」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はいわば二回この世に生まれる。

 

 一回目は存在するために、二回目は生きるために。

 

                        ルソー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……楽しかったんだ……ほんとに、楽しかったんだ。

 

 

 

 

 納得したように、させるように。そう心のなかで呟いた鈴木悟は、そっと十数年の年月を噛みしめるように目を瞑り、静かにその時を待った。

 

 

 

 

 

「……アレ?」

 

 

 

 

 

「なにも……起きない?」

 

 期待はずれ……イヤ、別にこの世界の終了を期待していたわけではなかった。ただ、諦めて静かに、穏やかに心が死ぬような感覚に身を浸そうとしていた事に対する拍子抜けが、鈴木悟の心身を包む。

 

 

 

「……どういう……ことだ?」

 

 『モモンガ』 ユグドラシルの世界で、そういう名前で呼ばれ続けた鈴木悟は閉じていた眼を開け、不安の中で思わず独り呟いた。

 長年のサービス終了に伴い、真っ暗な画面が映し出されるか、粋な運営に依る「Thanks!」画面などがモニターの前に広がっていると予想していた彼は戸惑いを隠せなかった。

 

 目の前に広がるのは先程と同じナザリック地下大墳墓の、いつもより散らかった玉座の間だ。

 

「んん? 先程までモニターの端っこにあったはずの時計や情報パネルが無くなっている?」

 

「それに、ON表示にしていたはずのミニマップも消えている……」

 

「いや 落ち着け……今までもこういうバグが無かった訳じゃない。そもそもサービス終了の時間なのだからゲームが終わってないのがオカシイんだ。追い出されない時点ですでにバグっていると思った方が良いだろう」

 

 矢継ぎ早に疑問点が声に出てしまう。

 

「このバグのせいでサーバーダウンが延期したのか?」

 

 考えられる。そう考えた鈴木悟は、何らかの要因によってサーバーのダウンが延期しているのであれば、GMが何かを言っている可能性があるのではないか? と思いつき、慌てて今まで切っていた通話回線をオンにしようと、コンソールを出そうとした。

 

「出ない!?」

 

 本来なら指のフリックアクションによって出るはずのコンソールが出ない事に事態の深刻さを感じて、動揺が大きくなる。

 

「なんなんだ……一体?」

 

 コンソールやシステムコマンドだけではない。本来なら、視線の片隅に浮かんでいるはずのシステム一覧も出ていない。モモンガは慌てて他の機能を呼び出そうとする。

 シャウト、GMコール、システム強制終了入力。どれも感触が無い。

 まるで完全にシステムから除外されたようだ。

 こうなればリアルの鈴木悟の腕を動かして装着型モニターに付いている強制終了ボタンを押すしかない。

 

「明日は4時起きだしな……。いつまでもユグドラシルに浸っている訳にはいかないよな」

 

 そう独り言を続ける。

 あれだけ賑わった、我が愛すべきギルド『アインズ・ウール・ゴウン』

 最盛期には41人のプレイヤーが所属し、世界でも有数の強さを誇っていたと自負している。

 

「……今では4人しか居ないけどな」

 そう再び愚痴っぽく独り呟く。

 長く寂しいこの世界(ユグドラシル)でいつの間にか身に付いてしまった哀しい癖だ。

 

「さて……強制終了ボタンはVRのどこに付いてたかな?」

 自分のリアルの腕を動かして、モニターを探っているつもりだが、先程からゲーム内のアバターである「モモンガ」の骨の腕がワサワサと動いているだけだ。どういう事だろう?

 確かにこのユグドラシルはヴァーチャルダイビングシステムによって普段自分の体を動かすような感覚でプレイをするのだけれども、プレイ歴10年の自分がこんな初歩的な操作ミスを?

 

 不思議に思っていると、突然、前方から

 

「どうかされましたか? モモンガ様?」というシットリとした美しい声が聞こえる。

 

「え?」と驚いて目を向けると、先程「控えよ」という音声命令により、(かしず)いていたNPC達がこちらを心配そうに見ていた。

 

 (ん?) 

 

 心配そうな表情? 表情……NPCのAIを主に担当していたのは先程まで別れを交わしていたヘロヘロさんだ。

 ヘロヘロさんったら、ブラック企業で大変なのに、いつの間にこんな凝ったギミックをAIのシステムに組み込んでいたんだろう……困った人だなあ、ハハハハ。

 

「モモンガ様?」

 

 モモンガは現実逃避に失敗する。

 表情だけじゃなくNPCの口がスムーズに動いている事に気づいてしまったのだ。

 

 先程からの異常にリアルすぎる視界。そして肌(骨?)を通して感じる空気感。

 どう考えてみても現実。圧倒的現実がそこには広がっている。

 しかし、聞いたことはないが「ユグドラシル2」のβ版テストに巻き込まれたとかいう可能性もあるのではないだろうか?

 それが、まだまだスタッフ間での調整中のためヴァーチャルダイビングシステムが暴走気味に働いている……のかも知れない。

 再び現実逃避しつつモモンガは状況の打開について頭を巡らせる。

 

「GMコールは勿論、強制終了も出来ないのは何故だ……」と呟いた瞬間、控えていた老執事が

「申し訳ありません。GMコールという言葉は蒙昧な私めには解りませんが、どうかされましたでしょうか?」とやはり口を動かし答えてきた。

 

「……う、うむ。今、何か色々とオカシイのだ。外に調べに行ってみようと思う」

 話しかけてくるハズのないNPC達にジワリと恐怖を感じた鈴木悟(モモンガ)は、必死に彼らの主人であるというロールプレイを続けながらも、なんとかココから逃れようとする。

 

「それは危険です。私どもで見て参りますので、モモンガ様はこちらでお待ち下さい」

 と老執事に制止された。彼は、たっち・みーさんがクリエイトしたNPCで、名前は先程プレアデスをつき従えて玉座の間に入るときにセバス・チャンだと確認済である。

 

 モモンガは戸惑いながらもセバスとプレアデスに状況確認のために命令を出してみる事にする。

 

「あー……うん、セバスよ。ではこの大墳墓を出て周辺の状況を確かめてくれま……確かめよ」

 人に命令した事など人生で経験したことのない鈴木悟(モモンガ)辿々(たどたど)しく目の前の老紳士に指令を与える。

「はっ わかりました」

 白髪の老人(セバス・チャン)はキリッと顔を引き締めると深々とモモンガに(かしこ)まる。

「プレイヤーがいた場合は交渉して友好的に、ここまで連れてきてほしい」

「……プレイヤー、で御座いますか?」

 モモンガはセバスの一瞬戸惑った表情からNPCが『プレイヤー』という言葉の意味を正確に認識していないことを悟る。

 

 (GMと云い、ユグドラシルの言葉……ゲーム用語が通用しない?)

 

「う、うむ。そうだな……人……いや異形種の場合もあるのか? そうだな……とりあえず言葉を理解し知性が感じられる者が居たら友好的に連れてくるのだ」

「はい。わかりまして御座います」

「……むう。相手がコチラをアインズ・ウール・ゴウン(嫌われ者ギルド)だと知れば害を加えてくるかも知れないな……。そうだ、プレアデスのメンバーに転移魔法や高速移動など、危険時の逃亡方法を備えたものは居ないか?」

 そうモモンガが、控えていた戦闘メイド『プレアデス』たちに尋ねると、皆がウズウズと顔を見合わせつつ、一人の黒髪のメイドが「はい。私、ナーベラル・ガンマは転移魔法を使え、フライなども使用出来ます」と緊張した面持ちで声を上げた。

 モモンガは(この子は確か弐式炎雷さんの……)と思い出しつつ「では、ナーベラルはセバスと共に行動してくださ……い」

「はっ!」

 ナーベラル・ガンマは深々と頭を下げると、至高の御方に命令を頂いたことに感極まりつつ、口角が上がりそうなるのを耐え……られなかったので不自然にモモンガから顔を背けて震えた。

 

 その仕草にモモンガは(しまった。モモンガは下僕(しもべ)の絶対支配者であるのに不自然だったよな……顔を背けてるけど不信感や軽蔑からだろうか?)と焦っていた。

 

「ん、うん! えー、まずは、行動範囲はナザリックの周辺1キロとする。重ねて言うが戦闘行為は極力避けよ。何も解っていない状況で、敵はなるべく作りたくないからな。相手が好戦的な場合もナーベラルの力で出来得る限り、大墳墓の場所を特定させないようにしながら退却せよ」

「はい わかりました」とセバスとナーベラルが力強く応える。

「残りのプレアデスを、大墳墓入り口で待機しセバスとナーベラルが緊急時に救出するチームと、9階層の守備チームに分けて警戒にあたってくだ……あたるのだ」

「はい わかりました!」

 セバスとプレアデスは、やる気に満ちた顔でモモンガに礼を取る。

 

 これら非常に複雑な命令を、当たり前の様に受け入れたNPC達が命令の履行に動き出し玉座の間から退出してゆく後ろ姿を、モモンガは呆然としながら見送った。

 

 (なんだこれは!? 怖い 怖い 怖い!)

 

 周りから見れば一連のスムーズな出来事に、モモンガは恐怖を感じながら頭を抱える。

 

 ありえないからだ。

 

 いや、そんな生易しいものではない。

 

 (今、確かにNPCと会話をしていた!)

 

 これは決して起こりえないことなのだ。

 

 NPCが言葉を発する。そして、プレイヤーと会話をして、「歩け」「跪け」などの単純命令では無く、ナザリックの外に偵察に行くなどと云う複雑な命令を実行に移すなどと。そもそも言葉を発するようにAIを組むことはできるが、会話ができるように組むことなんて不可能だ。それは相手がどのように話してくるかを予測して組み込むことなんてできるわけが無いからだ。

 そもそも拠点型NPCは設定地点(ナザリック)から外には出られなかったハズでは無かったか?

 

 (生きている……)

 

 このNPC達は自分で考え行動する事が出来るとしか思えないという結論に至る。

 それは同時にモモンガ(鈴木悟)に更なる恐怖を呼び起こす。

 これが事実だとしたら……それが逃れようもない事実だとしたら、彼らこそがゲームに取り込まれたかも知れない「ただの人間」であるモモンガ(鈴木悟)を気分次第で襲うこともありえるのだ。

 さっきまで、ここに居た者達は「ヒト」では無い。

 竜人だったりショゴスだったりアラクノイドだったりと人類に仇なす者達だ。そもそもナザリックには異形種しか存在しないのだ。

 所謂(いわゆる)「モンスター」の群れに囲まれた現状に戦慄を覚える。そして恐慌状態に陥り叫びそうになった瞬間、自らの体から緑色の光がユラユラと立ち昇るのを感じた。すると、完全にでは無いものの「スーっ」と自分が落ち着きを取り戻していくのをモモンガは感じた。

 

 (やめてくれ……この感覚は…怖い……)

 

 感情が薄れるような、動揺が脊髄を伝わり空に散っていくような。今まででの人の身では有り得ない感覚。

 完全に無くなるわけではない恐怖に恐怖し、心の底にジンワリと恐怖が降り積もっていく感覚。

 

 嗚呼……わかってしまった。

 

 わかりたくないのに解ってしまったのだ。今のはアンデッドにもれなく付いている状態異常無効化のうちのスキルの1つ精神作用の無効化が発動したのではないか?

 

 (つまり、俺は本当に「ヒト」では無くなってしまったのか……)

 

 鈴木悟は恐怖する。

 

 在らざるモノ(モンスター)に 在らざぬ自分(オーバーロード)に 骨のみで構成されている自分自身(モモンガ)

 

 (……いや、それでも、まだユグドラシル2、もしくは他のDMMORPGに飛ばされた可能性は捨てきれない。非常に、非常にリアルな情景と感覚ではあるが、「ゲームの中に取り込まれました」という御伽話に比べれば、どちらが有り得るかは考えるまでもないはずだ)

 

 縋るような気持ちで、助けを求めるために、GMコールやギルドメンバーへのメッセージなどを繰り返し試行錯誤をしていると

 

「モモンガ様? 私はどう致しましょうか?」と扇情的に可愛く首を傾げ微笑みながら白い貴婦人――アルベドが尋ねてくる。

 

 (……なんだ、この可愛い生き物は?)と生命力に溢れた瑞々しいアルベドに見蕩れ、そしてアルベドが右手に持っている物にモモンガは疑問を感じる。

 

 (何故そんな物を持っているんだ?)

 

 そう云えば、他にもここがユグドラシルがどうか調べる方法があった事に思い到ったモモンガはアルベドに「こちらに来てくれ」と命令を出す。

 

「はい!」 うふふふふーと言わんばかりに、上機嫌に顔をほんのり赤らめたアルベドが目の前に来る。

 

(近っ 近い近い近い近い!?)

 彼女居ない歴=年齢のモモンガ(鈴木悟)にとっては焦りと戸惑いが「ブワァー」という勢いで立ち昇り、体温も無いのに顔が熱くなる。そして体中から湧き上がる緑色の光。

 

 (しかし、それにしても生きているアルベドって本当に美人なんだな。創った時にタブラさんがニヤニヤしながら「モモンガさん、俺の娘(アルベド)可愛いでしょ? 嫁にどうだい?」と言っていたけど、なるほど……これは本当に美しい。濡れたカラスの羽の様な艷やかにして青みがかった黒髪、陶磁器を思わせる透き通った白い肌、完璧なスタイルとギリシャ彫刻を思わせる整いすぎている相貌。緊急事態でなければドストライク過ぎる好みに悶えたかも知れない)

 

 突然「ぐふぅっ」ブシャー、という音が前方から聞こえる。

 

 驚いてモモンガが思考の海から戻ると、跪き、小刻みに震えながら俯いているアルベドが耳まで真っ赤にしつつ、手で溢れる鼻血を抑えていた。

 

 (ん? あれ?)

 

「……もしかして、声に出してた?」

 

「はひ」 ポタポタ

 

「……ど、どのへんからだ?」と恐る恐る聞くと、蕩けそうな顔を上げたアルベドが

 

「……「それにしても~」からモモンガ様はお声に出されておられました。くふー」バッサバッサ。

 

 よし 全部だ。

 

「そ、そうか、すまないなアルベド。困らせるようなことを言って」

 

「いえ! お言葉、心より嬉しく思います! なお一層の忠義と愛をモモンガ様にお捧げ致します!」ボタボタボタボタ。

 

 うん、とりあえず鼻血拭けオマエ。

 

 さて、ユグドラシルでは18禁に触れるような行為は厳禁とされている。15禁ですら許されない事が多い。違反すれば公式ホームページ上に違反者の名前を公開した上で、アカウントの停止という非常に厳しい裁定を下している。重課金者の我々としては恐ろしい話である。 

 もし、今でもゲームの――ユグドラシルの世界ならそのような行為はできないよう、何らかの手段がとられているはずだ。第一、製作会社が監視しているなら、モモンガの行為を止めるだろう。

つまりユグドラシルの18禁監視システムが機能しているなら間違いなくゲームの世界だと断定出来る訳だ。

 18禁行為といっても、別に性行為をするとかじゃなくて、胸や局部へのボディタッチでも充分アウトだ。相手がNPCだとしても、だ。

 アルベドの胸を触ることが出来るかどうか……。上司(不死王)部下(サキュバス)の胸を触る。完全に小者感満載なセクハラで申し訳ないが、アインズ・ウール・ゴウンは我が会社と同じでブラック企業なのだと思って諦めてもらうしかない。すまないアルベド。次のボーナスは弾むからな。

 

 実は、さっきからこんな状況なのに無反応なので気になっていたんだが、無くなってるな……アレ。未使用のままで消えてしまうとは何だか申し訳ない様な情けないような。

 まあ、アンデッドだから仕方ないと言えば仕方ないが……しかしアンデッド特有の精神作用無効化のスキルが発動しているお陰で、普段なら、こんな美人が至近距離まで近づいて見つめてくるという状況は羞恥で我慢できないはずだ。

 なのに、こうして、扇情的すぎるアルベドに擦り寄られている今も、何とか耐えていられる。本当ならもう堕ちてる頃だ。童貞を舐めてはイケナイ。

 

 くふー。

 

 長々と言い訳のように説明してしまったが、そんな訳でこれからする作業は確認のため仕方がないことだ。

 決して、決してスケベ心に突き動かされて自分好みの部下にイヤらしい事をしたいなあとかそういう下心では断じて無い。

 

 

 くふー。バッサバッサ

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

「……もしかして?」

 

「はい「しかしアンデッド特有の~」から口に出されておりました。くふー」

 

「……すまない」

 後、その語尾に「くふー」って付けるの「うぐぅ~」なみに斬新すぎる萌え口癖みたいになってるから止めた方が良いと思う。

 

「とんでもありません! モモンガ様! ワタシ幸せです! 今、とても幸せです!」

 

 何故2回言ったんだろう? 大切なことだからかな? カナ?

 

 しかし、長いこと独りぼっちでゲームをしていたせいか、完全に独り言が身に付いてしまっていて困る。NPCが反応している時点で『独り言』じゃなく『心が駄々漏れ』という案件が発生している。

 

 ……待て、そもそもNPC達の記憶ってどこからあるんだろうか、さっきからだよね?

 作成された時からなのか、それともサービス終了後の異常事態発生からなのか。

 

 これは非常に重要なことだ。

 また、きちんと確かめなければな……。もし昔の独り言を全て聞かれていて、その記憶がNPCにあるとしたら……危険だ。これは危険だ。主に俺のハートがブレイクショットしてしまう。

 

 ふと気が付くと縦瞳金眼のアルベドがブツブツと何か呟きながら、目の前で服を脱ごうとしていた。

 

「ア、アルベド! 何をしている」と慌てながら問いかけると

 

「はい、モモンガ様がワタシの胸を揉みしだく必要があると仰ったのでその準備をしております」

と汚れなき眼で言われた。え? 誰だ、その頭のオカシイ犯罪者は?

 

「ま、待てアルベド」

 リアル世界でも哀しい意味で魔法使いだったモモンガとしては生乳(なまちち)に触れるなど、あまりにハードルが高すぎる行為だ。

 しかもタブラさんの創造したNPCを汚してしまうことに大きな罪悪感がある。

 そもそも「揉みしだくとか言ってないからな! 触るだけだ! 触るだけ!」

 と手をワタワタと振りながら意思の疎通を試みる

 アルベドは聞こえてないかのように「ハアハアハア」と息を荒げながら両手両足を広げて低い姿勢を取り、ジリジリとこちらに迫ってくる。

 モモンガも捕食者(アルベド)と一定の距離を保ちつつ低い姿勢をとりつつ「どうどうどう」と(アルベド)を落ち着かせる。

 

 おかしい!? 何故俺は、こんなに部下に追い詰められているんだ!

 

「落ち着きなさい! アルベド! もう、他のメイドに頼むことにするぞ!?」

 

 ええー、と残念そうにアルベドは呟くと、ようやく玉座の間で急遽開催されたカバディ選手権の幕が下りる。

 情けない。せめて威厳ある支配者であるところを見せなければ忠誠度が下がったりして反乱へと繋がる可能性だってあるのだ。彼らにとって忠義を尽くすに相応しい、威厳のある支配者でなければ。

 ふう……と息を整える。何、簡単なことだ。むしろセクハラする側は我にあり、攻めるのはあくまでこちらであり、こちらがお客様……じゃなかった。上司であることを忘れてはいけない。よし。

 

「では……触らせてもらっても、か、かまわにゃいな?」

 

 はふん! 無理でした!

 

「ええ、どうぞ!」と豊満な凶器(おっぱい)を自慢気にアルベドは突き出してくる。

 むむ、なんという美乳……むしろアレが無くなっていて良かった。もし有ったら最低な事をしていそうだ。と恐れながら、胸に震える手を伸ばす。威厳なんて始めから無かった。

 

 

 

 

 

 ふにょん。

 

 

 触れた

 

 触れてしまった

 

 指先から伝わる初めての神の感触

 

 それに触れることが出来てしまったのだ。

 

 諦めよう そして認めよう ここは仮想世界(ユグドラシル)ではない 現実世界(リアル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 





ゆっくりしていきやがれ様、kubiwatuki様 きなこもちアイス様 誤字脱字修正有り難う御座います
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