鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第二章三編 いつもの犠牲者(ニグン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仕事を与えるとき、その仕事をやりたいと思っている人にやらせてあげる。効率も部下のモチベーションも同時に上がる。そして、その成果により仕事を預けられなかった人にも火が着く』

 

 

 そんな言葉が昨夜読んだ経営者の本に書かれていた。

 

 

 ゲートが開き、村の西門が見えたと同時にセバスとユリは文字通り弾丸の様に発射された。

 セバスはもちろん、事情を聞かされたユリも作戦会議中から美しい柳眉を潜めて、怒りと不快感を騎士達に対して抱いていたらしく数十メートルほど先で、ユリの「でやあぁっ」という破裂声と共に「ガキンッ」と金属が弾き飛ばされる様な音がする。

 

 

 モモンガは、目の前で交通事故現場を見てしまったような気持ちになりながら、「……生け捕りにしたいからなるべく殺すなって、命令したよな?」と隣のナーベラルに話しかける。

 

「はい。申し訳ありません。ですがユリ姉さ……ユリ・アルファは創造主様であらせられる「やまいこ様」と同じ性格で御座いますので……」とナーベラルが姉の不始末に縮こまりながら心から申し訳なさそうに顔を伏せて答える。

 

「あー やまいこさんな……なら仕方ないな うん」

 

 (やまいこさんは子供を愛する熱血の鉄拳女教師だったなあ)

 ユグドラシルでは「女教師怒りの鉄拳」という神器級ウェポンを荒々しく振り回す半魔巨人(ネフィリム)であり、リアル世界でのモンスターペアレントたちへの鬱憤を晴らしていたのであろう激しい戦い振りはアインズ・ウール・ゴウンの中でもトップクラスの猛々しさを誇り、そして何よりも子供好きで有名だった。

 

 今回の件で敵兵士への怒りを込めて身を躍らせるのであれば、やはりプレアデスの中でも一番激情に身を任せた振る舞いになるのかも知れない。ヒトへの愛情が在る故にヒトへと鉄槌を奮う……か。

 

 

 

 (……おかしい、良かれと思ってした判断だったのだが)

 

 モモンガは、そんな事を考えつつも、今の音が本物の戦場であると感情のスイッチが少し入った気がした。まさかナザリックとしての初めての戦闘が淑女であるユリによって火蓋が切られようとは思ってもみなかった。

 

 (さて、アンデッドとしての特性よ……フル稼働して俺を少しでも落ち着かせてくれよ……)と思いながら深呼吸をしていると、隣を歩くナーベラルが「……モモンガ様。そちらの木々の向こうに、ガガンボ(人間)の気配が致します」と足を止めて森の奥を指さす。

 奥へ足を進めると、倒れ伏す少女達に剣を振り上げる二人組の兵士が見える。

 

 少女を相手に大の大人の2人が剣でいたぶるとか……と少し不快感を覚える。少しなのはアンデッドだからかな?と自分自身に疑問に覚えることで少し冷静になれた気がする。

 

 モモンガは『ナーベ、スリープを掛けてみてくれ』とメッセージを送る。

 

「はっ 解りました!モモンガ様」と気合が入った返答が返ってくる。

(……今、「ナーベ」と略して下さったわよね? 断言しよう、私は今モモンガ様と良い関係を築けていると!)

 

 モモンガが隠密のためにわざわざメッセージで語りかけたのに係わらず、普通に口頭で返答したナーベラルに対して(まさか、ポンコ……え?)と微妙に不安を感じている中で、彼女は素早い動作で印を切るとスリープはアッサリと効果を発揮して兵士は2人ともパタパタと倒れ伏す。

 

 モモンガは……ここで「人を殺す」という事を経験しておいた方が良いかも知れないと一瞬、無抵抗の兵士にトドメを刺すことを考えるが止める。

 

 先ほどから緊張感と高揚感、そして恐怖が体中に纏わりつき息苦しさを感じる。

 すぐ目の前に背中に切り傷を負った少女が居たお陰で自分が取るべき行動を思い出し体を動かす。

 

 倒れる二人の少女に近づいて声をかける。

「大丈夫か?助けに来たぞ。怪我が酷いな……これを飲みなさい」と低レベルな赤いポーションを渡し飲むように促す。

 

 少女は妹らしき幼子を庇いながら、「ありがとうございます。本当に有難うございます!」と涙混じりで言いながらポーションを飲み干す。

 

「間に合った様で良かった。他の人々も助けたいのだが、どこへ向かえば良いのかな?」

 

 と優しく、なるべく冷静に問いただすと、少女は震える指で村の中心を指さす。

 

「この人達が急に村の出入口を塞いで村のみんなを村の真ん中へ真ん中へと追い立て出したんです! 私達のお父さんとお母さんもその中に居ると思います! どうかお願い致します!村のみんなを! お父さんとお母さんをお助け下さい!」

 

 と2人の幼き少女に地面に頭を擦り付けながら懇願される。その健気さと痛ましさに心を動かされない者が果たして居るだろうか……目の前に居た。

 

 ナーベラルは明らかに面倒くさそうに「なにナザリックの王に直訴してるのか蟻の分際で」とでも言いたげに「チッ」と舌打ちをしている。

 

 こ こわあー この子たちの『ナザリック原理主義』怖いんですけど

 

 言葉を一瞬詰まらせつつナーベラルとの距離を感じるが、「解った。出来るだけ助けたいと思っている。君たちは隠れていなさい」と告げると煙の立ち上がる村の中央へと歩を進める。

 

「さて、出来るだけ生け捕りにするぞ。ナーベ」

 

「わかりました!モモンガ様!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 セバス様に惨状は聞いていた。

 

 ナザリックで、私、ユリ・アルファとセバス様とペストーニャは属性が「善」に偏った珍しい存在です。だからと云って仲間たちに反感を覚えることも無いですし、ナザリックの為に成ることであれば「悪」を為すことにも躊躇する気は有りません。我々のために一人残って下さった慈悲深きモモンガ様は、今回その慈悲を人間にも向けて下さりました。本当に素晴らしい御方であらせられます。そして心より感謝致します。貴方様にお仕えさせていただくことは私の誇りであり幸せそのものであります。

モモンガ様より、敵だからと云って極力殺したりしてはいけない。手加減してあげなさい。出来れば生け捕りに。と更に慈悲深い御言葉を頂いておりました。しかし---

 

 ゲートが開いた瞬間に60メートル離れた路地で子供に剣を突き立てる兵士が見えた。

 

 嗚呼、子供はダメだ。

 

 子供はイケナイ。

 

 創造主たる「やまいこ様」に作られた私は無垢なる子供を害しようとする輩だけは許せない。見逃せない。

 フルスロットルで地面を蹴り全速力で飛ぶように駆け寄ると、全速度と体重を掛けた鉄拳を、子供に剣を刺している兵士の側頭部に叩きつける。

 兵士は「ガキンッ」と音を立てて兜ごとその頭部をひしゃげさせながら「グルンッ」と体を空中で側転させる。2回転半して地面に叩きつけられたその(かぶと)の左頬の部分と右頬の部分は、間に頭蓋骨があった事を忘れさせるほどに密着していた。

 

 前言撤回致します。あなた達に与える慈悲は無いわ。至高の御方の慈悲など、あなた方達には勿体ないですもの。 

 

 

 

 

「……ユリ・アルファ、もう少し「ヒト」によって攻撃されたと思われる程度に力を抑えて下さい」

 

 セバスは「フー フー」と猫の様に興奮状態にあるユリに声をかける。我々は実戦は初めてですが、創造主に与えられたこの力を自らの信念のままに振るえる今の状態に力が入るのは解ります。ただ人を愛し、特に子供への慈愛心が強いユリ・アルファが、よりによって子供が無碍に殺されるシーンを初めに見てしまうとは……。これは私は相当気をつけていかねばなりませんね。とユリのバーサクモードにより逆に平静になり、落ち着く事に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 カルネ村は100年ほど前にトーマス・カルネという開拓者が切り開いた、王国に所属する村である。

帝国と王国の中央を走る境界線たる山脈――アゼルリシア山脈。その南端の麓に広がる森林――トブの大森林。その外れに位置する小さな村であり、人口はおおよそ120人。25家族からなる村は、リ・エスティーゼ王国ではそれほど珍しくない規模だ。

近場にある城塞都市、エ・ランテルまでおよそ50キロ。人の足で2日かかる距離にある。

 

 森で採取できる木の実や果物と農作物が生きる糧で、森で取れる薬草の元となる材料を商人が年に3度ほど買いに来ることを除けば、徴税吏が年に1度来るだけの村。ほぼ人が来ない、時が止まったという言葉がまさに相応しい、そんな王国にありがちな小村であった。

 

 そんな村でエンリ・エモットは生まれ、そして16年の月日が流れた。

 

 朝は早く、都市のように魔法もない田舎の貧村では太陽こそが生活の、生命活動の中心である。

起きたとともに村の共同井戸で水を汲み家の大ガメに水を貯める。そして母が作ってくれた朝食を4人の家族で食べる。それが終わると父と母とともに畑に行く。もしくは12歳になる妹と薪拾いに出かけることもある。そして太陽が傾き出した18時ごろには家族とともに床に入る。そんな代わり映えのしない日々。何時までもそんな生活が続くものだと思っていた。この村は人が少ない。きっとその辺りの同世代の男の子とそろそろ結婚の話も出てくるだろう。それを考えると少しもやっとしたものが胸に浮かばないでもない。

 

 そんな諦観(ていかん)の日々の中で、いつものように今日を迎えた。

 そう、それはいつも(・・・)の様な日々である筈だった。

 

 モルガーさんが「バハルス帝国の奴らだ!」と村を駆けまわる頃も、まだ「はあ せっかく貯めた食料などを奪われるのか……」とだけ思っていたが、それから始まったのは村人への虐殺だった。彼らは家を焼き、名前を知っている人々に槍を突き立て、家族をも襲った。

 私は妹と共に父に逃げるように促されたが、父は兵士に逃げ場を塞がれて村の真ん中に追いたてられていた。地獄だった。絶望だった。そして希望が私達を救ってくれた。

驚くほどの美しい黒髪の女性と、黒い鎧に包まれた騎士は、まるでお伽話の王子様の様に私達を救うと、そのまま村を救うために敵兵の群れに飛び込んでいった。

妹のネムに「お姉ちゃん?」と体を揺さぶられるまで「ボーッ」としていたエンリはようやく立ち上がり隠れ場所を探しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルティアはウキウキとしていた。崇拝し恋い焦がれる御方であるモモンガ様から直接「重要な任務」を初めて授かり、そしてその任務を着々と達成出来ている事に満足していた。

 シャルティアの任務はシズ、ソリュシャン、エントマ、ルプスレギナと共にエイトエッジアサシンをバックアップしながら村を完全包囲し、村の中から逃げてくる敵兵と、門で村を封じ込めている敵兵の全てを殺すかナザリック送りにする事だ。

 恐らく、セバス達に襲われて恐怖の中で逃げてきたであろう敵兵に立ちふさがり、サックリと殺すのも楽しい。絶望に打ち震える人間をゲートに放り込んでナザリック送りにするのも楽しい。そう 本当に楽しい!ユグドラシルと違って、ここの人間たちは紙くずのように千切れてくれる。エントマもソリュシャンもルプスレギナも人間どもを滅殺することに、恍惚としながら仕事を楽しんでいる。まあ、シズは淡々とゲートに生きている人間を放り込んでいるけれど。

 

(順調順調!これはモモンガ様に褒められてしまうでありんすー!)

 

 生き生きと仕事に励むシャルティアは、気を抜くとニンマリと笑ってしまいそうな自分の顔筋に気合を入れ続けることだけが、唯一の苦労だっただろう。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 モモンガが村の真ん中、村人が集められていた場所に到着した頃には、突入部隊の仕事はセバス&ユリの異常な頑張りにより終了していた。

 生きている村人に、隠れている兵士は居ないか家々を調べてもらったが大丈夫みたいだ。ついでに隠れていた先ほどの姉妹も村人により発見されたようで良かった。良かったが……姉妹の両親は敵兵によって、すでに殺されていた。泣き崩れる姉妹が痛ましい。一瞬クレリックのルプスレギナ・ベータを呼んで蘇生魔法をかけてもらおうかと思ったが、あれはペナルティで5レベルのエナジードレインがある。つまり5レベル以下である村人の遺体にかけても復活するどころか消失するだけだろう。

 しかしエナジードレインのペナルティ無しに蘇生可能な高位リザレクションを使えるワンドを自分は持っている。これなら助ける事が可能だが、使ってしまっても良いものだろうか……と逡巡しているとセバスが制する様に、ゆっくりと首を振った。「これ以上の慈悲と力の享受は諍いを産み出しかねません」と小さく呟いた。

 

 ……確かにその通りだ。人に死を与える集団と、死んだものを蘇らせる集団。どちらが大きな波紋を起こし、より災禍に巻き込まれかねないかなど考えるまでもない。色々な出来事に心が揺れ動きすぎていたな……アンデッドの癖に困ったものだ。

そう自嘲しながらモモンガはセバスに「大丈夫だ。すまない」と視線を送り、村人と被害者達に哀悼の意を示して深々と礼をする。

 ナーベラルは何故 アブごときに主が頭を下げるのかと驚愕し固まっていたが、セバスとユリは主人の心を知り忠誠度のメモリをグルグル回転させながら主人に倣い、一礼をして死者に哀悼を捧げた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 そんな村の救世主の姿に、村長を始め村人は大いに感激した。何の縁もないこの村を助けて頂いた上に、死んでしまった愛する人達に対して礼儀を尽くしてくれたのである。

最初、村人たちは自分たちの所属する国の騎士団の人達だと救世主の事を思っていたが、「モモン」と名乗るこの精強な方々は「ゆぐどらしる」という見知らぬ国から来た騎士団であり、現在旅の途中だと云う。

路銀も食料も足りているので謝礼は不要だが、この国の地理や法律など出来るだけ詳しく教えて欲しい。という事だけを要求された。

それを聞いて「あとで恐ろしい請求が待っているのでは?」と訝しむ者もいたが、彼らに家族の仇を討ってもらった者や、彼らの真摯な対応に心を打たれた者たちは、彼ら「モモン騎士団」を心より歓迎した。

 半分以上の敵兵が村の外へ逃げ散ったため、しばらく村の外へは出ないほうが良い事を教えられ、また敵兵の死体に関しては鎧や剣などは剥がして村の財産とすれば良いとのこと(敵からの賠償金代わりだと笑っていた)数十頭の馬が捨てられているので、それも村の財産にするように仰られた。なんとも剛腹な方である。

 その後、村長宅で地理や、この国の社会制度についてお教えしていると、どうやらこの国の文字が読めない事が解ったので、子供の勉強用とかで良いので、文字の習得に使える教科書のような物を売って欲しいと言われた。これはエンリ・エモットが家から自分の教科書を提供した。この少女の家は薬草を街に納品し買い取ってもらうことで生計を立てていたため、子供にもある程度、簡単な教育をしていたらしい。

 これを譲り受けたモモン様は対価としてマジックアイテムだと云う「小さな角笛」を渡し、使用方法をエンリに教えていた。なんとも優しき御仁である。そう村長たちは感心したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になろうかという時に、モモンガにアルベドからメッセージが入る。正体不明の騎馬50騎が、この村を目指していると云うものだった。

先ほどの兵士達とは随分姿が違うようであり、またバハルス帝国の兵士だと云うこの者達とは違い、馬を走らせている方角を考えると、この国の騎士団ではないか?とのこと。あんまりこちらの腹を探られたくないのだが、ここで逃げるのもおかしい……とりあえず、村の外の隊には、透明化出来るエイトエッジアサシンと隠密行動に優れたソリュシャンを残して全員ゲートでナザリックへ退避させる。

やれやれ 精神的に疲れたし、もう帰りたいんだがな……。

モモンガは「客人が来たようです」と村長に告げて立ち上がった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 モモン様が突然、立ち上がって村の門の所に行くと、本当に騎兵の集団が現れました。

 またバハルス帝国の兵たちかと身構えたものの、なんと私達の国の戦士団であり、高名な戦士長「ガゼフ・ストロノーフ」殿であると名乗られました。非常に驚いたものの、モモン様に「本物?」と尋ねられたので「恐らく……」とお答えしました。

その後は……そう 本当に大変でした。

 モモン様に頭を垂れる王国戦士長にも驚きましたが、ガゼフ殿が我が国に仕えぬか?と勧誘したり、エ・ランテルで冒険者になってみては?とお話しておりました。冒険者のお話をしている最中にいきなり、モモン様が「え!?魔法って、この国にもあるの?!」と大声を出されておられました。

 突如 モモン様が「また、お客さんか……」と呟き、ガゼフ殿と2、3やり取りをされるとモモン様方とガゼフ戦士団は村から出て、こちらに向かっている騎兵団を迎え撃つ様でした。大変に心配しましたが、モモン様が「全然大丈夫なので気にしなくて良い。それよりここは良い村だし、また立ち寄っても良いかな?」と尋ねられたので、是非とも!と村人総出でお見送りしたのです。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 はあ……魔法あったのか……普通に。

 

 もう本当に疲れた、精神的に。帰って寝たい。そう 今の俺なら寝ることが出来そうだ。たとえアンデッドだとしても。

 その様子がセバスにバレたらしく「モモンガ様、お疲れでしょうか?ここは我々に任せて頂いても」と言ってきた。

 

「セバスよ 先ほど村を出るときのガゼフの目を見たか?」

 

「はっ」

 

「どう思った?」

 

「死地に赴く覚悟の目と、村人や我々のために、籠城などでは無く囮となり派手に死のうという強い意思を感じました」

 

「ああ 私も同じことを感じた」

 

「はい」

 

「アインズ・ウール・ゴウンの支配者としては失格かも知れぬが、セバスよ」

 

「はっ」

 

「私はあの目に憧れたのだ。彼の覚悟、人間の勇気に敬服したのだ。……笑うなよ?」

 

「笑うなど……むしろモモンガ様がそういう御方であらせられることが、どれだけ私にとって嬉しく、どれだけ誇らしいことか。……不敬をお許し下さい」

 

 そう言いながらセバスはハッキリと白い髭の中で笑った。

 

「よい ニグレドの報告によれば、敵は天使を召喚して我々を待ち受けているらしい。ユグドラシルの天使を、だ」

 

 モモンガはプレアデスの3人を呼び寄せる。

 

「敵には聞きたい事が山ほどある。なるべく多くの兵を生け捕りにするぞ」

 

「「「はっ」」」

 

「初めは戦士団に任せよ。ユグドラシルであの天使達を召喚出来るレベルの集団であることを考えると、戦士団にはかなり厳しい相手だ。だがガゼフは死なせるには惜しい男だ。助けるぞ。一応、王国最強の戦士長という肩書と名声を持つ者に恩を売る形になることは、此後の展開によっては有利に働くかも知れぬしな。コキュートスの見立てによると彼のレベルは30強といった所らしい。それで王国最強という事は、この世界の人間にはそんなに強者は居ないのかも知れないな」

 

「はっ」

 

「ガゼフによると、この世界での魔法はバハルス帝国の魔術師が第六位階まで使えるのが最高峰らしい。警戒されぬよう、ナーベラルは第四位階までの魔法の使用に留めよ。またガゼフの兵を巻き添えにしないように」

 

「はっ」

 

「できればガゼフに合わせて、セバス、ユリはレベル40くらいの強さで戦ったほうが良いかも知れないが……まあ、それで、こっちが被害を受けるようでは意味が無いしな。あとは臨機応変で良い。流石に私もこの格好だとそんなに強いわけではないしな。皆の邪魔にならぬ様、私はガゼフを引き取って下がるので、後は3人に任せるからセバスの指示に従ってくれ」

 

「はっ お任せ下さい」

 

「では行くか」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズルズルズルズル……

 

 

 ……何故だ 何故こうなった?

 

 ニグン・グリッド・ルーインはスレイン法国の中でも輝ける「陽光聖典」というサモナー部隊の隊長として活躍していた。今回はリ・エスティーゼ王国の戦士長である「ガゼフ・ストロノーフ」を人類救済の贄として捧げるための作戦であった。

しかし、カルネ村にてガゼフを捕捉したまでは良かった。しかし、突撃してくる戦士団を薙ぎ倒し、ガゼフを追い詰め、トドメを刺そうとした瞬間 

 何故かガゼフを担ぐ黒騎士が現れた。我々は瞬きも何もしていないのに「突然」黒騎士はそこに居たのである。そして黒騎士はガゼフと共に消えた。どんなトリックを使ったのかわからない……そして天使を展開する我々を睥睨するかのように現れた三人組。老人に女二人という三人組が、何故あんなに強いんだ? おかしいのだ!そもそも!なんっ ガッ

 

 

「ブツブツ煩いわ。ミノムシ」

 

 ナーベラルは縛り上げたニグンをゲートに引きずっていたのだが、茫然自失としながらブツブツと呟いていたニグンが疎ましくなったらしく、剣の柄で頭を殴り気絶させた。

 

そして、ゴミでも捨てるかのように主人が開けてくれているゲートにニグンを放り込む。

今頃、主人は、あのー、なんだ、ひげ面の人間や村長と事の顛末について話されている最中だろう。

どうしよう……モモンガ様の偉大さに心を打たれた人間どもが「私たちだけの支配者」であらせられるモモンガ様に仕えたいなどと浅ましくも身分違いなことを言い出したら……正直ごめんこうむりたいわね。

 

 

 スレイン法国の死体も何体かは村に持って行く命令が出ているから持って行かないと……何故だろう?食べるのカナ?

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 
  
 
 
 
takaseman様 カド=フックベルグ様 誤字脱字修正ありがとうございます

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