鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第二章五編 ユリ・アルファが倒せない

 

 

 

 

 

 

 ~地下10層 玉座の間~

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓の最終地点10階層 ここにはまず「レメゲトン」と呼ばれる大広間が玉座の手前にある。最終防衛地点となる、この大広間には「レメゲトン七二の悪魔」を模った超希少金属ゴーレムが設置されている。しかし本当は製作者である「るし★ふぁー」が飽きたため六七体しかない。更に天井には四色のクリスタル型モンスターがおり、クリスタルは戦闘時にはエレメントの召喚と魔法爆撃を行うなど、ゴーレムと合わせたその戦闘力はガチビルドのパーティが来ても楽に壊滅させられるほどの強さを誇っている。

 

 その広間を抜けて辿り着くのが玉座の間である。至高の41人の旗が掲げられており、またギルドコンソールなどナザリックの全てを管理する部屋でもある。

 ここにヴィクティムとガルガンチュアを除いた階層守護者が集まり報告会議が行われる事となった。

 ちなみに司会は守護者統括のアルベドである。

 

「献身的な……非常に献身的な協力者(犠牲者)が多数ナザリックに現れた事により、色々なことが解った。それは「まだまだ知らなくてはいけないことが多い」という事だ。圧倒的に情報が不足している」とモモンガが問題点を皆に提示する。

 

 ……誰かの経営学だったかな。 

 

『コミュニケーションの要諦は、「あくまで上司から部下へ」です

 リーダーとは常に勇気と希望を与える存在でなければいけない。

 部下に力を発揮してもらうのは難しいことではありません。

 やりたがっている人にやってもらう。ただそれだけです。

 リーダーは、裸の王様になってはいけない。

 とくに社長は、本社の椅子に座って部下の報告を聞いているだけではいけない』

 

 

 そう 彼ら忠誠を誓ってくれる部下を信用し信頼し上手に育ててあげなければならない。それが今のアインズ・ウール・ゴウンと自分が生き残って行く活路となるだろう。俺なんてしがないサラリーマンでしか無い。ユグドラシルでも意見調整としてのギルドマスターだっただけの男だ。

 だが能力だけはこの世界では充分高い。俺も、守護者達も、だ。

 だからこそ、それ以外の部分での成長をする事が出来れば、まだまだ真っ暗闇なこの世界での灯りとなるだろう。

 

「さて……まずは先日、突発的な対応で勝手に戦闘行為に及んで済まない」と守護者各位に謝る。

 

 ここで素直に謝ることにより、独断専行による戦闘は至高の御方であっても褒められた行為では無く、ましてや守護者であれば という意識を持ってもらう。

 突然、自分たちに謝罪した(あるじ)に守護者達が一斉にザワつく。それを抑えるようにモモンガは言葉を繋げる。

「守護者よ 覚えているか? 我がアインズ・ウール・ゴウンの軍師『ぷにっと萌え』さんを」とモモンガが問いかける。

 

「おおっ ぷにっと萌え様!」と「至高の41人」大好きっ子な守護者たちのテンションが上がる。

 

「勿論で御座います。至高の御方の中でも、更に一際「知謀」に優れられた深謀遠慮の御方であらせられます」とデミウルゴスが答える。

 

「うむ 彼の考案した「誰でも楽々PK術」でもそうなのだが、戦でも政治でも経済でも正しい判断を行うには正しい情報がいる。分かるな?」

 

「はい 仰せの通りで御座います」と司会者のアルベドが相槌を打つ。

 

「そうだ。そして正しい時に正しい判断をし、正しい行為を行えば正しい結果が待っている訳だ。解るか?コキュートス」

 

「ハッ 力押シダケデナク 虚実ヲ見切ッタ上デ ソノ真ヲ打ツコトハ 剣術ノ極意ニツウジルモノガアリマス」

 

「うむ その通りだコキュートス そしてその虚実を見極めるためにはまた別の情報と判断力が必要となる訳だ」

 

 今まで侵入者を、蹴散らしたり蹴散らされたりを繰り返してきただけの守護者には難しい話かも知れないが、私は彼らの成長こそが、今ある異変を乗り越えるための鍵であると思っている。

 どれだけ密偵を放ってあらゆる情報を掻き集めたとしても玉石混合の情報の中から有意義な情報を取り出したりするのはそうとうな頭脳が必要とされる。当然、小卒の俺の出番では無い。

 

「そんな訳で、これからこの世界のあらゆる情報を集めようと思う。そこでこの情報を統括し管理するという、我々の運命を決めかねない役をまず誰かにやってもらわねばならない」と告げるとアウラとマーレは「うええ~」という顔をしているし、コキュートスは「ナルホド」と人ごとのような反応だ。

 

 そうなるとナザリック1位2位を争う智者のアルベドとデミウルゴスが残る。しかも二人とも目を輝かせてやりたそうな顔をしている。まあ デミウルゴスの瞳は宝石なので何時でも輝いてはいるのだが……。あと、何故かシャルティア(アホの子)も目を輝かせているが。

 

「実を言うとナザリックでもトップクラスの智者であるアルベドかデミウルゴスに任せようと思っていたのだが、この「情報総監」という仕事は、あまりにも時間と手間暇がかかる仕事なので、色々な仕事を同時進行で行ってもらう予定のデミウルゴスの負担を考えると役からは外そうと思う」

 

「負担などと!」とデミウルゴスが否定するが、良い。と手で制する。

 

「では私が……」と司会者のアルベドと、何故かシャルティアが手を挙げる

 

「いや アルベドには傍に居て欲しいからな」

 ナザリックの管理やNPCの事で解らない事が多すぎるからなあ。これまで通り秘書兼管理者として働いてもらわないと。

 

 視界の端に立つアルベドの腰の黒い羽が、ぴーんと横に張り詰めた様に広がった。

 

「くふ くふくふくふ 傍に……居て欲しい……傍に……居て欲しい……」

 という文言をブツブツと繰り返し始めたのでモモンガは見なかったことにして話を進めた。シャルティアの事は初めから見えていなかったので安心だ。

 

「そこで、だ。階層守護者では無いが頭脳ならデミウルゴスやアルベドに匹敵し、尚且つ信頼できる者をみんなに紹介したい」

 

「え?」と守護者達が驚いた顔をする。あとシャルティアが哀しそうな顔をしている。

 

「まさか」とアルベドが思い至った顔をする。

 

「まあその、手前味噌みたいな褒め方をして悪かったが……パンドラズアクターよ! 入るが良い!」

 

 本当はまだ少し抵抗はあるんだよ。自分の恥ずかしかった頃の作文を読んでる様でも有り、黒歴史の塊である対モモンガ用メンタル兵器と言っても過言ではない存在だからな。しかし今のカオスな状況において使える駒は全て使いたい。しかもスペックだけは無駄に高い。

 いや 本当に昨夜、宝物殿に入って対峙した時、ずっとキラキラしてた事を思い出す。自分の体に対する問題も含めて悩む材料があり過ぎる。

 

 カツーンカツーンという靴音をワザと立てながら玉座の間の前で止まった者が居る

そして 「んっううん」と咳払いをしている声が聞こえる。

 

 このドアは意外と薄いということを教えてやらねばな……主に俺のために。

 

「ギッシ」と玉座の間のドアを開けて、軍服に身を包んだ埴輪が入ってくる。

そして胸を張って大股で歩き、呆然とする守護者達を無視してモモンガの前方5メートルの所で止まり、創造主に一礼すると、クルリと踵を返して守護者の方を睥睨する

そして舞台役者がアンコールに応えるかのように手を胸に置いて深く一礼し

 

「御紹介に与りましたパンドラズアクターで御座います。皆様方、以後、お見知りおきを!」

 

 なんだろう……「ポカ――――ン」という顔をした全守護者を見ていると、パンドラズアクターでは無く、俺の心が守護者にサンドバッグにされてボコボコに殴られている様な感覚になるのだが……。

 あとアルベドよ……彼の半分はタブラさん(お前のパパ)で出来ているからな? ある意味、オマエの腹違いの姉弟だぞ? こういう言い方をすると茶釜さんが悪い顔をしだすからアレだけどな

 

「あー 突然の事で驚いたとは思うが、わがナザリックの宝物殿の領域守護者であり財務管理を行っていたパンドラズアクターだ。有能であるが故に重要な任務に就き、それ故、宝物殿に籠もり切りで孤独な戦いをしていた。どうか良くしてやって欲しい」

 

 ここまで言って、ようやくちょっとアレな子を見る程度に優しい目になった守護者達から「パチパチパチ……」と小さく(まば)らな拍手が巻き起こった。

 

「パンドラズアクターには情報総監という役についてもらう。今まで縦のラインでのみ吸い上げて下ろしていた情報を情報総監が一括で管理し、取捨選択した上でプールし現場に必要な情報を横のラインに流通させる。体の器官で言うところの『延髄』の役割をしてもらうつもりだ。そうして今まで以上にスムーズ、かつ膨大に集めた情報をデミウルゴス、アルベド、私で判断した上でこれからの作戦と方針の立案に役立てていくつもりだ」

 

「『情報総監』! なんと素晴らしく格好良い役職名でしょうか!?宝物庫より飛び立とうとする雛鳥がごとく未熟な拙身にこのような果……「また 今まで以上に情報を集めるために色々と手を打ちたい。まずは恐怖公とその眷属たちとエイトエッジアサシンなどの隠密に優れた下僕による大規模な諜報機関の設立である。デミウルゴスが調べてくれた周辺国である、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国へと彼の眷属を潜り込ませて膨大な情報を得るつもりだ」

 

 アウラは「あ 遮った」と思った。

 

 また、恐怖公の名前を聞くとアルベドやシャルティアが「ひいっ」という顔をし「良かった。情報総監に選ばれなくて……」と心の中で呟いた。

 

「これらにより膨大な情報処理のシステムをパンドラズアクター、アルベド、デミウルゴスで確立せよ。これはナザリックの生命線になる重要事項であるので三人で完璧に仕上げるように」

 

「「ははっ!」」と名前を呼ばれた三人が誇らしげに応える。

 

「更に、一番近い大都市エ・ランテルには冒険者組合という特殊なコミュニティがある事が解った。他のプレイヤーの情報を探したい我々としては是非活用したい機関だ。ここに先回のカルネ村救出戦で名を挙げたセバス、ユリ、ナーベラル、私が入ろうと思う。王国戦士長に渡りもつけてあるしな」

 

「お待ちくださいっモモンガ様! 何故御自ら、かように危険な所に身を投じられるのでしょうか!? どうか我々下僕(しもべ)にお任せ下さいませ!」

 守護者統括のアルベドが「(私の見えないところに行くなど)とんでもない!」と言わんばかりに反対意見を述べる。勿論、全守護者にはカッコの中は丸見えだった。

 

 アルベドの必死さに「アルベドは守護者大好きっ子だなあーまったく」と呑気に考え「私が参加するのは「たまに」だ。たまに。主な活動はプレアデスのリーダーであるセバスとユリ、ナーベラルでやってもらう。頼むぞセバス」とフォローを入れる。

 

 セバスは敬愛と尊敬と忠誠を捧げている主の命令に「はっ」と力強く応える。

 

「冒険者の中で確固たる地位を築け。お前やユリの持つ慈悲の心と仁愛義心を思う存分発揮して、実績だけでなく、他の冒険者や街の人間に信頼されるチームとなるのだ。それが後々私が思い描く絵図の大切なピースの一つとなろう。難しい任務だと思うが大丈夫だ。オマエがやりたいと思うことをやれば良い。それが自然と賛嘆を集める事になり人望へと繋がるであろう」

 

「はっ 恐れ多い御言葉有難うございます。栄光あるナザリックが支配者であらせられるモモンガ様の執事として恥じない働きをお見せ致しましょう」

 

「うむ 更にプレアデスからはソリュシャンもエ・ランテルに商人など一般市民として侵入しアサシンの能力を生かして、セバス達とは違うラインで情報を集める様に指示せよ」

 

「はっ」

 

「アウラは現在実行中であるトブの森の捜索を続行せよ。アウラの報告書は中々良かったぞ。また捜索終了後にマーレと共に取りかかって欲しい作業があるので頼むぞ」

 

「はい! わかりました!」

 

「マーレはナザリックの隠蔽が終わった後にアウラと共同の任務の下地作りをして欲しい」

 

「は、はい!」

 

「コキュートス、シャルティアには重要案件であるナザリックの防衛を頼むが、それとは別に任せたい仕事も出てきた。追って連絡するが、今回の我々の動きに対して何者かが何らかのリアクションを取ってくることも考えられる。ナザリックの防衛の要であるオマエ達が敗北するときはナザリックの陥落へと繋がる事と再認識し、各自研鑽に努めて欲しい。決して派手な働きではないが、オマエ達がナザリックを守っていてくれる信頼感があるからこそ、私も仲間たちも安心して外へ出ていけるのだ。よろしく頼むぞ」

 

「「ハッ」」

 

「御言葉……骨身臓腑に染み渡らせて、今まで以上に働かせて頂くでありんす……」

 シャルティアは主からの信頼という光栄にすぎる言葉に打ち震え、必死に涙を堪えた。

 

「とにかく我々が欲するのは一にも二もなく情報であり、派手な行動は慎むことを胆に命じておいてくれ。この先、原住民にどれだけの強者が居るか、またはプレイヤーが居るか分からない状態では極力、敵対然とした立場を取りたくないからな。ただし今回のカルネ村騒動で敵対し、幾ばくかの情報提供者を得たスレイン法国については『異形種の抹殺』を国是としており、またこの世界でもかなり強者が揃っていると聞く……今回は全ての関係者を捕捉し、魔法防御で覗き見もさせなかったつもりだが、我々の知らない方法で、我々の情報が送られている可能性も「(ゼロ)」ではない。仮想敵国として行動し、かの国には最大限の警戒をするよう」

 

「そうなるとカルネ村で戦闘行為を行った、セバスやユリを外に出す事によって『リ・エスティーゼ王国』などでスレイン法国の者に見つかる危険性もあるのでは?」とアルベドが不安を呈する。

 

「ん?あれは遠国より通りかかった親切な旅の一行が『バハルス帝国』の騎士団から無垢な村人を救い、『リ・エスティーゼ王国』内で王国戦士長が卑怯な暗殺者に襲われた時に王国戦士長に助太刀した』だけだからな?何も問題は無い。その縁もあってリ・エスティーゼ王国に旅の一行が身を寄せる訳だしな」

 

「なるほど……見つかってもセバス達の一行には何の問題もありませんし、我々との関係性、そもそも我々の存在を晒した訳ではありませんからね」とデミウルゴスが捕捉してくれる。

 

「うむ アルベドは姉のニグレドと共に、使い方を覚えた鏡と魔法を使って緻密な地図の作成を頼むぞ」

 

「はい お任せ下さい」

 

「デミウルゴスはパンドラズアクターを商人であった音改(ねあらた)さんに変身させてエクスチェンジボックスに、この世界で採集できるありとあらゆる物を放り込んで、どれが効率よくユグドラシル金貨を獲得できるかの調査を頼む」

 

「はっ 『ありとあらゆるモノ』で、御座いますね?」

 

 エクスチェンジボックスはアイテムや貴金属などを投入すると、価値に応じたユグドラシル金貨に変換してくれるBOXである。ゲーム時代は不要アイテムの処理などに使われていたのだが、ここにきて重要アイテムになったな‥‥カルネ村で聞いたがユグドラシル金貨はこちらでは出回っていない様だし、ナザリック内でのギミックに対するコストなどにユグドラシル金貨は必要になる可能性は高いだろうから、エクスチェンジボックスが在ることがこんなに有難い日が来るとは‥‥ちなみに商人のスキルを持つ者がエクスチェンジボックスを使うと、金貨への交換が割増しされるのでお得だ。

 

「うむ 石ころから木材、穀物に鉱物まで、あらゆる物で試してくれ」

 

「お任せ下さい。『ありとあらゆるモノ』で調べつくさせて頂きます」

 

「うむ またポーションやスクロールなどの消耗品が、この世界の物から製作できるかどうかも同時進行で頼むぞ」

 

「確かに『あらゆるモノ』を集めて試行するという意味では、同じ種類の任務ですから効率が良いですね。お任せ下さい」

 

「図書館のティトゥス·アンナエウス·セクンドゥスに素材を渡せばスクロールに関しては実験してくれるハズだ」

 

「はっ ポーションに関してはナザリックのポーション製作所の者に素材を渡して試行錯誤させてみます」

 

「よろしい。雲を掴むような困難な作業だがデミウルゴスになら安心して任せられるな。では各自、詳細は後ほど指令書を作成し渡すのでよろしく頼む。兎にも角にもまずは情報、情報、情報だ。では私は私室に戻るので何かあったらメッセージをくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして主人は守護者達に見送られ玉座の間から出てゆく。

 

 深々とした礼を上げるのも勿体無いと言わんばかりに主の居た空間にて守護者達は頭を伏せ続ける。

 

 突如「くふ」という声と共に美しい顔を上げたアルベドがウットリとして体を自らの腕で抱きしめながら「アルベドは傍に居て欲しい……くふくふふふ」と呟く。いや呟きにしては、やや大きめの自己主張()にシャルティアがイラッとした。

 

「そりゃ秘書としてでありんすえ? 私はコキュートスと共に普段の働きを労って頂いたので、充分幸せでありんすよ」

 

「全クダ。アノ『ナザリック大戦』デ至高ノ御方ガ1500人ノ侵入者ヲ41人デ壊滅サセテカラ、アインズ・ウール・ゴウン ニ ダレモガ恐レヲ抱キ我々ノ出番ハ久シクナッテシマッタガ、モモンガ様ニ アノヨウニ労イ讃エテ下サルナド勿体無キ栄誉デアル」

 

「それは最後まで残りし慈悲深き御方ですもの。私たちのことを良く見ていて下さっているのよね」

とアルベドがウットリとしたまま大きめの自己主張(胸)を揺らしつつ体をクネらせると、ふと跪いたままの2人の男性守護者が目に入る。

 

「どうしたの? セバス、デミウルゴス? 仲良く俯いたまま震えているけど?」

 そう言われると2人は、ハッとして隣で自分と同じ格好をした相手を見やると気まずそうに立ち上がる。

 

「申し訳ありませんね。モモンガ様より、あまりにも有難い御言葉を頂いたため歓喜に胸を震わせてしまいまして」とデミウルゴスが眼の宝石を潤ませながら言い訳をすると、続いてセバスも

 

「……そうですね。私もデミウルゴス様と一緒です」と主人の出て行った扉に再度、礼をしながら答える。もしかしてデミウルゴス以上に何か感じるところがあったのかも知れない。

 

「この世界に来られるまでのモモンガ様は、支配者然とした態度で悠々と我々を支配して頂きつつも、たった一人でナザリック運営のために全てを一人で背負っておられました。しかし、この世界に来られてからは、不敬かも知れませんが我々守護者を頼って下さり、その背負っている物を我々にも分け与えて下さろうとしている気がします。至高の御方のために働けることがこれほど幸せだとは!」とデミウルゴスが熱弁し守護者たちが大きく頷く。

 

「それにあの流れるような素晴らしい立案の数々。まさしく端倪すべからざる御方であらせられる!」

 

端倪って何?とアウラがシャルティアに聞いたがシャルティアは虚ろな顔で聞こえないフリをした。

 

「ただ、ワタシはモモンガ様がセバス達と一緒にエ・ランテルに出かけられる事は、どうしても心配なの。モモンガ様にもしもの事があったらと思うと……」とアルベドが哀しげに眼を落とす。

 

「いえ その心配は無いと思いますよ? アルベド」

 

「どうしてそんな事が言えるの? デミウルゴス」

 

「コキュートスとセバスに聞きたいのですが、助けた王国最強の戦士長の強さはユグドラシルレベルで云う所のどれ程だったのですか?」

 

「そうですね……身近で見て感じた所見としては、Lv30強と云った所でした」

 

「コキュートス、君の1/3くらいのレベルだが、彼……ガゼフが3人程集まったとして君は苦戦するかい?」

 

「ソレハ有リ得ナイ。彼ガ3人集マロウト10人集マロウト、彼ハ私ニ傷一ツ付ケラレナイママ、一刀ノモトニ切リ捨テラレルダロウ。同ジ3倍ノ差ト言ッテモ、「レベル3ト レベル10ノ差」ト、「レベル30ト レベル100」ノ差ハ全ク別次元ノ物ダ」

 

「なるほど。つまり王国最強であり、モモンガ様も警戒されていたスレイン法国ですら彼を暗殺するために陽光聖典という精鋭を送り込んでくるほど、この世界でも強者である彼・ガゼフですらその程度であれば、Lv100であり、竜人に変身すれば守護者最強格であるセバスが居れば、モモンガ様は安全と言えるんじゃないかな? アルベド」

 

「勿論、モモンガ様の身は命に代えましてもお守り致します」と大きくセバスが頷く。

 そしてパンドラズアクターが「おおっ モモンガ様の事、よろしくお頼みいたします」と大げさな素振りで願い出る。その姿を「モモンガ様はオマエだけの物じゃない」と云う気持ちを抱いた、アルベドやアウラに冷たい目で見られる。パンドラズアクターは、もう少し空気を読んだほうが良い。

 

「でも その……ガゼフも『武技』という特殊スキルみたいなのを使うと、その瞬間レベルが5~8くらい上がったんでしょう?そういう風に、モモンガ様や私達の知らない能力や魔法で不意を突かれたりしないかと不安になってしまうのよ!」と諦め切れないアルベド

 

「……やっぱりワタシも見た目は、『ただの絶世の美少女』にしか見えんしんすし、モモンガ様に同行を願いするでありんすかねえ?」とシャルティアも不安そうに言う。

 

「でもねアルベド。ワタシ今、森を飛び回ってるんだけど楽しいのよね。未知の森を冒険して、知らない生き物を発見したりとかさ。モモンガ様や至高の御方も元々は、一冒険者だったんでしょ?冒険したいんじゃないかなモモンガ様も」とアウラが優しく諭す。

 

「むうー」

 

「それにね アルベド」

 

「なによデミウルゴスまで」

 

「昔から『良妻』という者は家をしっかり守って夫の帰りを黙って待つものだと言うよ?」

 

 その瞬間、音速でアルベドとシャルティアが振り返ってデミウルゴスを見る。合わせてレベル200の風圧で少しデミウルゴスの髪が揺れた。

 

「「それは本当なの(でありんす)?デミウルゴス!」」

 

 ふふ……今 この世界で最も危険な状態におかれているのは実は自分なのではないだろうか……と思いながらデミウルゴスは2人を(なだ)める。

 

「はい 本当です。本当ですとも。我が創造主ウルベルト様も仰っていました。『男の三歩後ろを付き従う女性こそ妻とすべき大和撫子である』と」

 

「まあ……控えめな淑女たる私がモモンガ様にピッタリである事が分かる言葉だわ。解りました。良き妻として夫の帰りをナザリックで待つことにしますわ」と顔を赤くしたアルベドが女神のような微笑みで宣言する。

 

「待つでありんすえ。まだ私との正妻戦争について決着は着いていなかったハズでありんす!」

 

「あなたは同行をお願いするんでしょ? 盾として立派に死になさい」

 

「なっ あなたねえ!モモンガ様と一緒に寝泊まりしんすのよ? ワタシとモモンガ様の関係の進展は心配じゃないでありんすか!?」

 

「盾というか板みたいな胸して何言ってるのかしら、このヤツメウナギは。モモンガ様は豊満な胸がお好みよ」と自己主張の激しい自らの胸を引きこもり気味の胸を持つシャルティアに見せつける。

 

「おんどりゃあ~! 吐いたツバ呑まんとけよぉ~!」とシャルティアがアルベドに飛びかかる。

 ああ こいつら何やってんのかな……とジト目で2人を見るアウラが、ふとパンドラズアクターを見ると思案気に「うーん」と唸っているのに気づく。

 

「どうしたの? パンドラズアクター」

 

「……いえ 『三歩下がって後ろを着いてゆく』とか『淑女』だとかって、まんまメイドの皆様方の事ですねえ……と、思いまして」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「「!?」」

 

 再び音速で二人はプレアデスのリーダーであるセバスに振り返る。

 

「いえ 少なくとも戦闘メイド『プレアデス』の(むすめ)たちに限ってその様な事にはならないと思います。彼女たちはモモンガ様を敬愛しておりますが、それは至高の御方全てに当てはまるものであり、不敬の壁を乗り越えてモモンガ様と関係を持とうなどと……有り得ません」とセバスが力強く告げる。

 

「そ、そうよね そんな事を考えるのは彼女たちに失礼と云うも……の……? どうして震えているのかしら? シャルティア?」

 

 ブルブルと小刻みに震えながら、顔面蒼白になっているシャルティアがアルベドの胸にしなだれかかって来た。その時にさりげなくアルベドの胸の感触を頬で楽しむことを忘れないのは流石『変態紳士』の愛娘さんである。

 

「……その、ね。ユリ・アルファが、この前、モモンガ様の御寵愛を頂いたって……。一般メイドもプレアデスも、みんな知ってるみたいでありんす……」

 と蚊の鳴くような声でシャルティアが最悪のタイミングで爆弾発言をする。

 

「え」とセバスが、声にならない驚愕に固まった顔で、ギギギ……と寄り添う二人に顔を向ける。

 

「……管理ミス…なのではないかしら? セバス」

 アルベドは文字通り凍り付くような目でセバスを睨め付ける。身体中から立ち込める殺気が視覚化して、まるでアルベドを後ろから悪魔が抱きしめているかのような光景に、セバスは決して目は合わせないようにしているものの、心臓を金瞳に嬲られているような怖気を感じる。

 

「いえ、まさか、そのようなことが……」と取り乱しつつあったセバスは顔に浮かぶ大量の汗を拭くことも忘れて、同僚たる守護者たちに助けを求めようと周囲を見渡すと、エルフの姉弟は「でねー、ワタシは言ってやったわけよー」と棒読みで会話しながら出口に向かって歩きだしており、蟲王は「アア!爺ハ!爺ハ!」と天を仰ぎながら姉弟を追うようにフラフラと去っていくのが見えた。……セバスは信じた部下と同僚に同時に裏切られたことにショックを受けつつ「申し訳ありません……確認致します」と頭を下げた。

 

 

 

 

 

「ユリ・アルファ……」とアルベドは呟く。

 

 

『三歩下がって後ろを着いてゆくメイド』

 

『慎ましい淑女』

 

『豊満な胸』

 

『モモンガ様と同じアンデッド』

 

『エ・ランテルへも同行』

 

『眼鏡』

 

 

 あ これは駄目かも知れん……とアルベドは崩れ落ちた。

 

 

 

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

「ア、アルベド!? アルベドの心臓があ!」

 

「アルベド!?アルベド!しっかりしなさい!」

 

「痙攣しておられます!」

 

「セバス!ペストーニャを呼んできてください!」

 

「はっ わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 ペストーニャさんが何とかしてくれました……わん

 

 

 

 

 その後、ユリ・アルファが泣きながら誤解を解き終えるまで、アルベドに凄い目で見られ続け、シャルティアからは「どうにかして交ぜて欲しい」と懇願され続けたと云う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ねえ。前々から言ってるけど私、ユリの事が大好きでありんすえ?当然モモンガ様の事も……2Pが3Pになっても良いんじゃないかと思うでありんすでありんす」

 

「ですから違うんですって……。本当に私は、ただモモンガ様の剣を……」

 

「モモンガ様の! 剣を!? ふひっ」

 

「もう いやーー! ふえぇん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
トウセツ様 デュオ・マックスウェル様 ペリ様 読み専さかな様 kubiwatuki様、とんぱ様、カド=フックベルグ様 誤字脱字修正を有り難う御座います。

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