鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第二章六編 初めての睡眠

 

 

「では各自、詳細は後ほど指令書を作成し渡すのでよろしく頼む。兎にも角にもまずは情報、情報、情報だ。では私は私室に戻るので何かあったらメッセージをくれ。」

 

 

 そう言い残すとモモンガは守護者達に見送られながら玉座の間のドアを開けて出て、私室へ向かう。

 

 

 

 今日のモモンガ番はルプスレギナ・ベータだ。 ワーウルフのクレリックで、静かで厳かな雰囲気を醸しだしつつ、「お疲れ様で御座いました。」とドアから出てきた主人に一礼し、五歩下がってモモンガの後をしずしずと連いてくる。

 

 心の中で「ああ……こういう雰囲気の娘も良いな クレリックだしセバス組に入ってもらった方が良かったかな?」と考えていたが、極度の心的疲労に気づくと、やや早歩きで私室へと移動を始める。

 アンデッドにはそぐわないが、精神的疲労による凄まじい眠さを感じたのだ。

「これは初めてこの体で眠れる!」という自信に漲った良い顔をしている。骸骨だが。

 

 そんな主人をルプスレギナは「わわ モモンガ様の横顔が自信に満ちあふれたお顔をしてるっス!超格好良いっス!」と思いながら見ていた。

 ルプスレギナに「少し眠りたい」と告げて私室に入る。邪魔な装備品などを外してベッドに横になると服の袖口から「カサッ」という音が聞こえる。

「ああ さっきの会議用に作ったカンペか……」と独りごちる。いつもなら会議前に頭に叩き込むのだが、今回はカルネ騒動の後から会議まで時間があまり無かったからな……

 

 それなりに何とかやれたと思うが大丈夫だったろうか……彼らにとっての良い支配者であり、彼らの成長を促せる先生であれただろうか?

「……まあ、生徒の方が遙かに優秀なのが辛いところなんだがな。」と苦笑いをして目を瞑る。

 

 本当に色々あった。

 

 結局自分は直接手を下していないが、目の前で何人の人間が死ぬのを見ただろうか

死ぬ人々への憐れみが無かった訳ではないが、自分とは別種族であり味方でも無いせいか、さほどの思いは抱いていない。

 死んだスレイン法国の兵隊達は、一般的な観点から行くと分かりやすい悪者だったと言っても良い存在だったので、彼らへの贖罪の気持ちも感じずに済んだ。

そう納得させることは出来るのに、心に引っかかるのは鈴木悟の残滓が悲鳴を上げているのか?

 

 ……いや それだけでは無い気がする。

 

 自分の指示によって、大切な子らに人殺しをさせた

 そういう種類の罪悪感を感じているのだ。

 

 40人の仲間達よ 皆の大切な子らの手を汚させてしまった。

 俺を救ってはくれないのなら、せめて俺を裁いてはくれないか?

 俺は、ナザリックを守るためだけに戦い続けて仲間達の子供に人殺しさせ続けるのだろうか?

 みんなの夢の跡と 夢の欠片たちを守るために?それだけのために?

 

 ……いや そうじゃ無い 未来を思うときは夢を、希望を描くべきだ。

 

 そう 美しいこの世界の夜の星の様に 我々の未来は我々の手で輝かせる物なのだ。

 

 私が征くは星の大海

 

その大海をナザリックという船で渡るのだ。彼らこそを仲間として。

 

目指す先は…… 我々の行き着く目指すべき世界は……

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・

 

 

 

 

『戦闘メイド・プレアデス』ルプスレギナ・ベータは寝ずの番でナザリックの支配者である主人の私室の外で警護をしている。

 いと嵩き御方の私室のメイドは本来「一般メイド」と呼ばれるホムンクルスから作られた戦闘力のないメイドが持ち回りで勤めるのだが、現時点では警戒態勢に伴い戦闘メイドであるプレアデスがその任に着いていた。至高の御方の警護とメイドを任されるというのはナザリックで働くものであれば誰しもが憧れる誉れ有る仕事であり、事実シャルティアやマーレには「代わりたい……」と羨ましがられている花形業務である。

メイドとしての仕事モードの時のルプスレギナはクレリックを模したメイド服を着ているに相応しい、「厳粛な淑女」を思い起こさせる。

 

 しかしそれ以外の時のルプスレギナに関してはワーウルフ特有の犬歯と愛くるしい瞳が示すようにプレアデスの中でも活発で気さくであり、和気藹々とした人柄と云える。ナーベラルに言わせると「ルプーは効率的に物事を進め確実に命令を成し遂げる狡猾な人物」であり、またルプスレギナに言わせると、「ナーちゃんは命令外の事にも面倒臭がらず対処し、私心なく即断即決出来る人物」という評価である。

 ちなみに「プレアデス副リーダー」ユリ・アルファの評は、「ナーベラルは命令を拡大解釈しすぎであり、ルプーは命令を縮小解釈しすぎる」という物であった。

 つまり、『「A」という人物を救え』という命令の時、ナーベラルは「A」に危害を加えそうな人物を積極的に排除にかかるし、ルプスレギナは「A」が生きてさえすれば「A」の手足が失くなろうが、心が壊れようが気にしない。という評価である。

 

 そんな、後に『駄犬』の愛称すら頂くように成るルプスレギナであるが、やはり主人の警護は格別な物があるらしく気合に満ち溢れて立っていた。しかも姉のユリは否定していたものの、一般メイドの中では「ユリ姉様はモモンガ様の御寵愛をお受けになった。」という逸話は確定事項として流布されている。それはそれでユリがモモンガ様の「お手つき」になったという事で、プレアデスの誉れであり何ら恥じることは無いのであるが、「もしかして自分にもモモンガ様からお声がかかるかも‥‥」という淡い乙女の期待の様な物も持っていなくは無い。お年頃ですもの。

 

 しかし、そんなアバンチュールも無く、夜が過ぎて明るくなり「ユリ姉のモモンガ様係の日を多めに設定した方が良いっスかねえ~」などと、何も無かった事に対して「シュン」としながら考えていた時に突如、主人の部屋の中から「うわああ――――?!」という主人の悲鳴が聞こえた。

 

 

 !? 考えるより先に体が動く!巨大な十字架を模した聖杖(スタッフ)を何時でも使用可能な状態に構えつつドアを蹴り開けて室内に転がり込むように飛び込む!

 

「どうされました!?」とナニかあったらしい主人に大声で呼びかける。

 執務室には居ない! 奥の寝室だ!ルプスレギナは周囲に警戒を張りながらも寝室へと脚を進める。

 

「モモンガ様! ……モモンガ様?! ……モモンガ様?」

 

 モモンガ様は寝室の大きな鏡の前で、手で御自らの顔をグニグニと伸ばしたりしていた

 呆然と立ち尽くすルプスレギナに気づくと

 

「ああ すまんすまん 寝ぼけていてな。 私が私であることを忘れていた。」と抑揚のない声で呟かれる。

 

 な なんとも哲学的な事を仰られたっス?!

 

「あ はい 御無事でしたら結構ですので。ハイ」

 

 とルプスレギナは、主人の言葉の意味を理解できない自分に文字通り尻尾を巻いてシュンとなる。

 その姿を見たモモンガは……むう メイドを驚かせてしまったな……まあ びっくりしたのはむしろ自分で、寝起きに仕事行こうと時計探してた瞬間に骸骨な自分の姿を見て、とんでもなく驚いてしまった……恥ずかしい。と皮膚があるならば、顔を赤くしていたに違いない

 

 精神作用無効化が半減しているが故の中途半端なアンデッドか……。

 

 本当のアンデッドだとしたら……こんなポンコツ支配者じゃなく、とてつもなく冷静沈着に上手く物事を運べていたのかも知れないな。

 しかし アンデッドと言えば、「生者への憎しみ」 つまり生命などへの執着と云える。

 それは未来を見ずに過去の、そう、過去の仲間や栄光への妄嫉に耽る怪物になりえたかも知れない。

 著作権フリーになっている昔の電子コミックで読んだことがあるな……中途半端な吸血鬼に対して「そのままでいい おっかなびっくりしながら生者と死者の間で、昼でもなく夜でもない夕方を歩いていけ」というセリフが……。まさかあの時の婦警……だったな?彼女と同じような立場に自分が成るとは今でも信じられないが。

 

 しかし そう 夕方だから見れる景色が有る。

 

 その茜色の空の向こうに我々の目指す世界があるのかも知れない

 

 

 

 

 

 

「茜色の空が、どうか致しましたか?」

 

 

 

 ぎゃぼ――――――――!! 口に出してた!?

 

 

「い・つ・ま・で・オ・マ・エ・は・コ・コ・に・居・る・ん・だ?」

 

 と尖った人差し指で正確にルプスレギナの眉間をザスザスと刺し突つきながら自室のドアより外にメイドを追いやる 無論 THE YATUATARI である。

 

 あう、あう、あう、あう、あう、あぅ、とルプスレギナは指で突かれながら涙目で変な声を上げつつ「し、失礼致しました――――!」とドアを閉めて退室する。

 

 

 

 

 その後 ベッドでゴロンゴロンと転がりながら両手で顔を覆いつつ声にならない叫びを上げ続けるオーバーロードが居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 その日 突然アルベドの部屋を訪ねてきたシャルティアは暗い顔をしてアルベドのベッドに転がり込み横たわると虚ろな眼で

 

 ぼへえ~~~~  と、どこから出しているのか分からない声の様な何か

 大抵エクトプラズム的な物を口から出していた

 

「ちょっとアナタ……なんて声出してんのよ」

 

「ぼへえ~~~」

 

「聞きなさいよ……てゆーかベッドに寝ないで頂戴。そのベッドを使って良いのは私とモモンガ様だけなのよ?」

 

「ふふ……そんな夢物語を言うなでありんす……」

 

「誰が夢見る乙女よ」

 

「乙女とか言ってないでありんす オバさん」

 

「……。」

 

 げしげしげしげしげしげしげしげし 二人は無言で蹴り合う

 

「で どうしたの?突然。」

 

「――今日、いつものようにユリを視姦しに食堂に行ったら……」

 

「いつも視姦しに行ってるのね……迷惑防止条例をモモンガ様に提出しましょう」

 

「プレアデスの皆がルプスレギナを取り囲んで……」

 

「……昨日のモモンガ様係ね」

 

「ルプスレギナが、半泣きで顔を赤らめて、朝からモモンガ様に突かれた……とか 激しかったとか……突かれるたびに変な声出た……とか」

 

「?!」

 

「血も少し出たとか言ってたでありんす……」

 

「げふっ 血だ……これ」

 

「……。」

 

「……。」

 

「しくしくしくしくしくしく」

 

「しくしくしくしくしくしく」

 

 と二人で仲良く顔を覆ってさめざめと泣いた

 

「何故モモンガ様はこれだけ熱烈アピールをしているのに私達には振り向いてくれないでありんすか……」

 

「本当にねえ こんなに可愛いヤツメウナギなのにね」

 

「おい 創造主たるペロロンチーノ様の悪口は止めてもらおうか」

 

「何を言ってるのよ アナタは元々 ぷっ ヤツメさんだったのをペロロンチーノ様の御手により今の可愛い姿に生まれ変わる事が出来たんじゃない 流石ペロロンチーノ様だわ」

 

「ペロロンチーノ様を讃えながら器用にわたしを下げるなでありんす 大口ゴリラ」

 

「前から言いたかったのだけれども……ベースがヤツメウナギで今の姿に変わったアナタと、元々がサキュバスで、強化のためにタブラ様によって「ガ○」を摂り込んだワタシとは色々と違うと思うのよ。私の場合、本当の姿がこの姿なのよ?もちろん○グにも変身出来ますけどね」

 

「わたしだって与えられた鎧とかの関係で、今じゃこの姿の方が強いでありんすえ」

 

「……なんだか 血の狂乱の時に真祖(ヤツメウナギ)の姿で生き生きとしているアナタの姿が目に浮かぶのだけれども」

 

「あー 血の狂乱の時って酔っ払っているのと同じでありんすから、開放的になっちゃうのよねー」

 

「酔っぱらいが脱ぎたがる様な物なの?」

 

「そー それそれ!」

 

「……そもそも『血の狂乱』にならないように努力してもらいたいのだけれども」

 

「あ はい」

 

「モモンガ様の件についてはやはりメイドとして私室に仕える事でチャンスがあると思うのよ」

 

「なるほど……でありんす」

 

「手始めとしてメイド服を作りましょう」

 

「アルベド……その…わたしの分も……」

 

「やあね 私たち友達じゃない」

 

「アルベド……」

 

「ちゃんとアナタの分も作るわ えーっと四足歩行用ので良いのよね?」

 

「よし 友達 表に出ろ」

 

 

 

 

 

 












カド=フックベルグ様 誤字脱字の修正を有難うございました

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