鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第三章二編 はじめての冒険

冒険者として活動しているセバスからの報告書を読み耽る。

 

まず、リ・エスティーゼ王国の王都に出向き、ガゼフ・ストロノーフと渡りをつけたこと。

犯罪者やクズ貴族を大量にナザリック送りにしてから「エ・ランテル」に戻り、ガゼフの紹介状を出して冒険者となったこと。

ちなみに、この時、パンドラズ・アクターに「黒騎士モモン」として同行してもらい、一応チームリーダーとして登録した。

冒険者の宿屋でナーベラルが揉めかけたがセバスとユリの丁寧な対応で毒気が抜かれた相手が謝ってきたこと。

その時の騒動で女冒険者のポーションを壊してしまったので、手持ちのポーションで補填したこと。

ゴブリン退治やオーガ退治など、簡単な依頼をいくつか達成した事などが書かれており、そして最後に

「明後日、有名なタレント持ちである『ンフィーレア・バレアレ』という少年の依頼でカルネ村まで護衛に着いて行きます。『どんなアイテムでも使用することが出来る』という希少なスキルを所持している方であり、またカルネ村はモモンガ様に取っても馴染みのある村。安全な旅ですし、息抜きにお越しになられるのも宜しいのではないでしょうか」と締められている。

 

 ……ふむ ついに冒険に出る時が来たか。

 

 ふふふふふ、ふふふふふふふ。

 

この世界特有の『武技』と『タレント』について精査して欲しいと伝えていたが、こんな形で直に確かめられるとは良い機会だ。

 

その後のカルネ村も気にはなるしな。ちょっとだけだぞ。ちょっとだけ。

ただ セバスがナザリックのポーションを現地人に渡した事は少し気になるな……元々、何か有った時に使うためと、ポーションを現地でも扱っている場合に、売って現地の金を得て路銀に充てるために多目に持たせてあったのだが、先日、現地で売られているポーション、スクロール、武器、鎧などを、ひと通りナザリックに送ってもらいデミウルゴスに調べてもらったら、現地のポーションは青色で、尚且つ効果も薄いんだよな。即効性があまり無いというか……。ナザリックのポーションは赤くて即効性があるから、とんでもない希少品を渡されたという事で、その女戦士が騒がなければ良いのだが……。

 

しかし、ようやく俺もこの世界で冒険者デビュー。

ユグドラシル時代は魔法職だったが、今回は正体の隠蔽という意味も込めて戦士として戦う予定だし、正直新鮮で楽しみだ。

セバスには『明後日、合流する。』というメッセージを出し、今日は黙々と大量の報告書に目を通す。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 時間としては早朝の部類に入る時間にモモンガは玉座の間にてゲートを開く。

「では行ってくるぞ」と留守を預かる守護者統括のアルベドに告げると、なんとも言い難い顔をして。

「パンドラズアクターに代わって行ってもらう訳には参りませんか?」と心配そうに尋ねてくる。

「心配してくれるのは有り難いが、現場を知らないのは責任者失格である。心配なのは解るが、ニグレドとミラーで見守り、私に何かある様ならシャルティアでも送り込んでくれ。」

 

「ワタシではイケませんので?」と哀しそうに言うが、「いや 一応、人間に見えた方が良いだろう。それとも私の危機にヘルメス・トリスメギストスを装着してから来るつもりなのか? そもそもシャルティアじゃないとゲートを使えないだろうが?」と言うと恨めしそうな顔をしながら右手で左手の薬指をさすりつつ諦めて見送ってくれた。

 

 

 

 ちなみに出立が早朝だったのはモモンガが楽しみにしすぎて先走っているからでは無い。冒険者の朝は早いのだ。

いや、この世界に生きる人間の殆どが早いと言い換えても過言では無い。

太陽が出るとともに行動を開始し、日の入りとともに寝に入る準備に掛かる。これは単純に現代のように安価で光源が手に入るわけではないということに起因する。光源たる炎を作るのもそれなりの金が掛かるのだ。光源保持ということの最も基本になるのがランタンだが、燃料となる油だってそれなりの金額がする。裕福でも無い家なら勿体なくて頻繁には使えない程度の額だ。

そのため、つまり暗くなったら行動が取れないから、休みの時間になるということだ。

 

ではセバスが泊まっている冒険者の宿屋はどうか。1階部分が酒場になっているということも考えれば、遅くまでやっていると思うだろうか。

確かに遅くまでやっている。

だが、それでも現代の居酒屋とかバーのような時間まで開いていることは少ない。時間にしてしまえば平均20時までだ。それ以降は基本閉店だし、騒ぐようなら寝れなくてイラついた冒険者が複数殴りこんできてもおかしくは無い。

もしこれ以上騒ぎたいなら他の酒場に行けという寸法である。ただし、そういう酒場は割高だったり女(娼婦)が絡んで来る事が多いのだが。

 

ゲートを開くとセバス達が泊まっている宿屋の一室に出る。年季が入った古びた木造の部屋だが、メイドが主を迎えるために本気で掃除をしたのであろう、壁も床もピカピカに磨きぬかれており不潔な感じはしない。

ゲートから出ると、すでに、セバス、ユリ、ナーベラルが忠誠の儀をとって傅いていた。

ゲートが開いた時から待っていてくれたのであろうセバスとプレアデスに挨拶を交わすとセバスから新たな報告があった。

なんでも、今回の依頼がカルネ村での薬草採取ということもあり、人手が欲しいことから我々だけでなく『漆黒の剣』という「シルバープレート」のチームも今朝になって突然、合流する事になったとのことだ。

始めは依頼主の突然の申し出にセバスも悩んだらしいが、面会した際に「漆黒の剣」のマジックキャスターが珍しいタレント持ちと聞いたので調査対象が増えるのは良いことだし、彼らの人柄も信頼おける者達であると感じたので承ったとのことだった。

 

「なるほど、さすがセバスだな。」と呟き「その判断に間違いは無い。では魔法職である、私とナーベラルがマジックキャスターと接触し色々と質問しよう。セバスとユリは。ンフィーレア・バレアレの方を頼む。『どんなアイテムでも使いこなせる』というタレントらしいが、使い方を知らなくても大丈夫なのか?使うときに膨大な魔力を必要とするアイテムだとしても使えるのか?使う前からどんなアイテムでも使用効果が解るのか?等を中心に自然にさりげなく聞いてみて欲しい。」

 

「「「はっ」」」

 

「まあ 本当はナザリックに勧誘して、実験に参加してもらうのが早いのだが、どんな人物か解らない上に『人間』を簡単に墳墓に入れるのは、まだ抵抗がある者が多いようだし、警備上の問題もあるからな。」

 

まあ そのためにアウラとマーレに次の任務を任せるのだが‥‥‥。

 

この国の冒険者としてはセバス達の方が先輩であるため、色々とこちらでの常識などをレクチャーしてもらうと同時に、我々の設定などに付いても煮詰める。とりあえず、すでに申告したり、公表している内容について相談する。

 

1.我々はユグドラシルという国の者であり、ユグドラシルにて転移魔法の実験中に失敗して見知らぬ土地で迷子になりカルネ村に辿り着いた

2.そんな訳で、「ユグドラシル」を知ってる人を探している。

3.セバスは「ユグドラシル」での貴族に仕える執事兼ボディガードであり、ユリとナーベラルは姉妹でセバスの部下

4.黒騎士モモンはセバスが仕える貴族の友人

5.将来的にモモンガ自身が出馬するときは、この「貴族」をモモンガである事にし、スムーズに立場を得る事も考慮する

 

 と、こんな感じだ。

始めは、プレイヤーが存在していた場合に悪党ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」だとバレて悪印象を与えないように、セバスやナーベラルの名前も偽名を使おうかと思ったのだが、そもそもプレアデスの居るところまでプレイヤーが攻め込んできた事はなく、彼らは未お披露目だった。

ファンサイトのWikiなどなら紹介されていたかも知れないが、細かく名前まで覚えている奴なら、そもそも顔出しの時点でアウトだしな。

他にも 黒髪なのを良いことにユリ達をセバスの娘にしようとしたり考えたが、とっさの時に「セバス様!」とか叫んだら危険だし、なるべく設定は弄らずにそのままで行ける様にしてある。

また、モモンガがヘルムを脱ぐときは鈴木悟風の黒髪の顔が幻影として見えるようになっており、全員が黒髪で同じ国の出身っぽくなる様にする予定だ。

ちなみにセバスとユリには手加減も含めて、素手ではなく鉄の棒で戦わせていたが、この国でも素手で戦う強者が居ると云う情報が入ったので、今は伸び伸びと鉄拳を振るっている。

 

「食事はどうだ?」「文字は覚えたか?」などと他愛のない会話をしていると、突然セバスが部屋のドアを見つめる。

数瞬後に「コンコン」と機嫌よくドアがノックされる。

ヘルムを被ろうかと思ったが、魔法で顔を造ったほうが早いので、予定通りアジア風というか鈴木悟を少し美化した顔に擬態し、「どうぞ」と声をかけた。

 

「失礼します。」の声とともに20代初頭ほどで金色短髪で如何にも爽やかな体育会系と言った雰囲気の青年がドアを開けて顔を出し、入室すると、一礼し挨拶をする。服装は何条もの金属製の細帯が互いに重なりながら、皮や編んだ鎖帷子の上をそこそこ覆った鎧――帯鎧<バンデッド・アーマー>を着用した戦士風の格好だ。

 

初見であるモモンガを見つけると、「初めまして、貴方がリーダーのモモンさんでしょうか?」と言いながら右手を差し出してくる。

握手をしながら、モモンガも「初めまして、今日はよろしくお願い致します。チーム「漆黒の剣」のリーダー、ペテル・モークさんで宜しいでしょうか?」と挨拶をし、和やかに今日の段取りなどについて会話する。あと半刻程で出立と云う事を教えてくれた後、ペテルは部屋を出て行く。

 

「スゴく好印象な人物だったな……さすがセバスが認めるだけの事はある。」

と後ろのプレアデスに話しかけるも何故か返事が無い。不思議に思い振り返ると 呆然とした顔で3人がモモンガの顔を見ていた。

 

「ん?どうした?」

 

3人は、ハッとした顔をして「申し訳ありません。いつものモモンガ様との変わり様に驚いてしまいまして……」と言い難そうに言った。

 

 まあ リアルでは営業職だったから、むしろコレが自然な鈴木悟とも言えるのだが

 

「今は、一介の騎士『モモン』だから、TPOくらい弁えないとな。自分としてはハキハキとしつつも、礼儀正しく、どこか威厳のある人物……というコンセプトで演じてみたのだが……駄目だったか?」

 

「いえ! その様な事は御座いません!」

 

「はい! 完璧すぎる上に装いがいつもと違うため、一瞬モモンガ様である事を忘れてしまいました!」

 

「ははははは 誉めすぎだぞ? オマエ達。 出来れば私のことは様付けでなくモモンさんと呼んだほうが良いぞ?」

 

「しかし、主人の御友人という設定でしたら「様」付けでもおかしく無いのではないでしょうか?」

 

「まあな。しかし年上にしか見えないナイスミドルのセバスや、若い美人姉妹に「様」付けされて、チヤホヤされている図は周りの冒険者に悪い印象を与えそうでな」

 

「まあ! そんな美人姉妹だなんて……モモンガ様、モモンさんに成られるとその様にお上手になられるのですね?」とユリが笑いながら返してくれる。

 

「ふふふ さすがユリ。その調子だぞ? なるべく主従という事は忘れて、冒険者仲間として自然に振る舞おうじゃないか」

 

 

 ――セバス様、ユリ姉様とモモンガ様の噂は

 ――そうですね。そう聞いております――

 

 ん? 何にやらセバスとナーベラルがこちらをチラチラと見ながら小声で喋っているが?

 

「では、そろそろ参りましょうか皆様方。」とユリが立ち上がる。

それに倣って、みんなも立ち上がり、妙に豪勢な階段を降りていく。

階段の先にはモモンガが初めて見る少年……ンフィーレア・バレアレだと思われる前髪が長い15歳前後の少年が出迎えてくれる。

 

「初めまして、ンフィーレア・バレアレさんで宜しいですか?」

 

「はい!バレアレ薬品店のンフィーレア・バレアレと申します!今回は依頼を受けて頂き有難うございます!」

 

 なんともはや ハキハキした好少年じゃないか……。セバスが言うには、初め彼が接触して来て、「アイテム使用の能力者」だと判ると、危険人物だとしてナーベラルが斬りかかろうとしたらしい……ユリが「ドゴンッ」と怒りの鉄拳をお見舞いして止めたらしいが……。ナイス、ユリだな。

 思わず目の前にあるユリの頭を、ナデナデと撫でてしまう。

 ユリは「ひゃうっ?!」と主人からの不意打ちのご褒美に可愛い悲鳴をあげる。

 同時に後ろからナーベラルの「やはり……」という呟きと、セバスが妙に優しい目で見てくる。どうかしたのだろうか?

 

 ンフィーレアとともにモモンガ一行が外にでると「漆黒の剣」の面々が見える。見たところ、リーダーの戦士、レンジャー、マジックキャスター、ドルイドと言った所か……なかなかバランスの良いパーティだが、出来れば前衛にもう一人欲しい所だな。

 

 我々が道に出ると弓を持った優男のレンジャーがクルクルと回りながら、こっちに近づいてくる。なにこれ?と思っていたら、ナーベラルの前で

「おはよう!我が愛しの麗しの君ナーベちゃん!やはり美しい!結婚して下さい!」とのたまう。

 

 なんというか、凄いキャラだな……

 というか宿屋を出た時から感じていたけど、ユリやナーベラルに視線が集まりすぎじゃないか?こんなに目立つ予定はなかったんだがなあ‥‥。どうもナザリックの中で仲間たちが凝りに凝って作られた麗しいNPCによって美的感覚が麻痺させられていたらしい。この世界は妙に美男美女のレベルが高いなあと思っていたが、その中でもユリやナーベラルは恐ろしいくらいに際立った美人であるらしい。

 

「煩い、シロアリ。潰しますよ」

 

「あはん 冷たい御言葉有難うございます!」と言った瞬間にリーダーのペテルに「パシン」と後頭部を叩かれていた。

 

 ううむ、なかなかの軟派男だがハートの強さは見習いたい。

 

「確か……」先ほどセバスから聞いた記憶を思い起こす。

「ルクルットさんですね? レンジャーの。」

 

「はい! お父さん、娘さんをボクに下さ‥」

 

「イヤです」と被せ気味に断りを入れる。面白い人だな……

 

「うおお! 何故ですか! 大事にしますからあ!」

 

「この娘達がお嫁さんに行ってしまったら私は大変に困ってしまいます。それに彼女達の上司であるそこの白髭の人が許さないと思いますよ?」

 

「え?」と言ってセバスの方を見るルクルット。

 

「ギンッ」と音がしそうな眼力でルクルットを牽制するセバス・チャン。

 

「ヒイッ なんか、このお爺さん すっっごく怖いんだけど!?」

 

「ルクルット。良い加減にするのである。」と皮鎧をさらに厚手の皮で補強された厚手皮鎧<ハードレザー・アーマー>を着た大男がルクルットを制止しつつメイドに頭を下げる。――確かダイン・ウッドワンダーだったかな、ドルイドの。

 

「顔合わせの時からこんな調子なのか?」

と後ろのセバスに聞くと、ただ苦笑した。 まあナーベラルは面倒くさそうだが、害は無さそうだ。

 

 このエ・ランテルからカルネ村までは2日かかる距離がある。

「では行きましょうか。」と運搬用の馬車にンフィーレア君を乗せて、予定通りその横にセバスとユリが着いて護衛しつつ歩き、我々は地理に暗いという事でペテルとルクルットらに先頭を歩いてもらい、その後ろにダイン・ウッドワンダーと、お目当てのタレント持ちのマジックキャスター・ニニャが続く。

 

これから長い道中だし、初冒険を楽しみながら色々と聞かせてもらうとしよう。

こうして地面を自分の足で踏みしめながら歩くのは良いものだ。

しかも実はアンデッドなので疲労も無く歩き続けられるので自分だけズルをしている様な気にもなる。

 

――なんとなくだが、先程からルクルットやダイン、ペテルとは談笑しながら歩いているのだが、ニニャには敬遠されている様な雰囲気を感じる。あまり視線を合わせてくれないと言うか……。仕方が無いのでこちらからドアを開けよう。

 

「もし、話しにくい事や、秘密にしなければならない事でしたら結構なのですが、少しお聞きしても良いですか?」とニニャに切り込む。

 

「? はい どのような事でしょうか?」とニニャが少し怪訝な顔でこちらを見る。

 

「実は私の国には『武技』だとか『タレント』と呼ばれるような特殊能力が無かったのですが、ニニャさんはタレント持ちだとお聞きしました。そもそも『武技』『タレント』とはどのような物なのですか?」まあ 「武技」は知ってるんだけどね。「イージークエスチョン」から始めるのは会話の基本だ。

 

「ああ……そういえばモモンさん達は遠方の国から来られたんでしたっけね。そうですね『武技』と云うのは戦士職の者が修行や鍛錬に依って身に付ける技・スキルですね。それに対して『タレント』というのは文字通り特別な「才能」という感じになると思います。」

 

「ほう。『才能』……」

 

「はい 例えばボクの場合は『魔法の習熟度が早くなる』というタレントでした。つまり、ある魔法を覚えるとして、他の人の半分の時間で魔法を修得する事が出来るタレント。という訳です。」

 

「なるほど……スゴイですね。」

 

ルクルットが振り返り、「そう!そいつはすげえーんだ!その年ですでに第二位階の魔法まで使えるんだぜ!第二位階と言えば一人前のマジックキャスターだ。 なっ 『ニニャ・ザ・術者(スペルキャスター)』!」と可愛い弟分を自慢したくて仕方がないとばかりに口を挟む。

 

「や、やめて下さいよぉ。恥ずかしいですよ! そのアダ名。しかも、こちらのチームのナーベラルさんは第三位階まで使われるんですから!」

 

ああ そうか 第三位階の魔法と云うのは「才能ある魔法使いが、身を削る様な努力の末に行き着く限界」‥‥だったかな。だからナーベラルも冒険者組合にはそれで登録してるんだったな。

 

「そうですね。ナーベラルは子供の頃から英才教育を受けていましたからね。勿論本人の才能や努力の賜ではあるのですが、環境にも恵まれておりました。ニニャさんは、どうやって魔法を覚えられたのですか?」 我ながらスムーズに魔法使い事情について聞くことが出来たな。

 

「‥‥‥そうですね。ボクの場合は『ある目的』のために自分を強くしたいと思ったのですが、ボクはオ‥力も無く脆弱でしたので村で魔法を教えている元冒険者のマジックキャスターに弟子入りしました。そこで師匠となる方から「魔法高速習得」のタレント持ちであると聞かされました。」

 

「なるほど、魔法の先達者である『師匠』に弟子入りするという形で魔法の手ほどきを受ける訳ですね。」

 

「はい。帝国では魔導学園という魔法を子供達に教える学校があるらしいのですが、リ・エスティーゼ王国は魔法に対して蔑視する所があるため、魔法を習得するための環境は余り良いとは言えませんね。魔法を使おうとするのは冒険者やマジックアイテム製作者が殆どで、社会的地位が低いため、積極的に覚えようとする人は一握の人達です。」

 

「そうなんですか‥‥そんな劣悪な環境の中で、その若さで第二位階までの魔法を習得されるとは、確かにニニャさんはスゴイですね。」

 

「いえ‥‥そんな‥‥。」と言ってニニャは顔を赤らめる。もともとクリクリとしたドングリ眼と云い、中性的な顔のラインと云い、非常に可愛らしい顔をしているため恥ずかしそうな子供っぽい仕草は、なかなか愛らしい。

 

と言うか。ナーベラル何も話してくれないな‥‥‥。

 

セバス達は良い感じに会話が出来ているようだし、ナーベラルは居ない物として、ここは私が頑張るしかあるまい。

 

その後もニニャは自分が頑張って第三位階の魔法を修めれば、チームの実力的にすぐに「ゴールド」に上がれるだろうという話をしていた。第三位階のマジックキャスターが在籍するチームは難しい依頼もこなせるようになるため「プレート」を水増しして上げてくれるらしい。

 

「ゴールドになると結構違うものなんですか?」

 

「はい ゴールドになると上級者チームとなるために冒険者組合の依頼も報酬もググッと増えます。それに人手がいる依頼などでも『ゴールド以上に限る』という但し書きが多いんです。」

 

「なるほど‥‥ということは『シルバー』は中級者。『アイアン』は練習生扱いって感じですか。」

 

「そうですね。私達も今でこそ街道沿いのゴブリン退治などをしていますが、カッパー時代は薬草採集や「モンスター出現地域」での土木工事や素材輸送などが主な仕事でした。」

 

なるほど‥‥ずいぶん夢が無い職業なんだなあ。

あれ?そう言えばセバス達は「カッパー」の癖に『ゴブリン退治』とかやっていたみたいだが。

 

「この辺りですとスレイン法国国境の森林から出てきたモンスターが出てくる事が多いですね。後衛まで攻撃を飛ばしてくるような道具を使ってくるのはゴブリンぐらいですか。まぁ、ゴブリンは難度10程度ですからさほど心配されることも無いです」

 

「まぁ、その分弱くて、ぶっ殺しても銀貨1枚程度にしかならないんだけどなー」とルクルットが続ける。

 

一行の余裕に、モモンガは微かに疑問を感じた。

モモンガの知るゴブリンはそのレベルに応じて戦闘能力を増していく。彼ら一行ではゴブリンリーダーの1つ上、チーフクラスはきついんじゃないだろうか?

そういうものが出ないと確信しているのだろうか。それともこの世界ではゴブリンはその程度しか力を持っていないのだろうか。アウラからの情報でも、トブの森ではそこまで強いゴブリンは発見されて居ない様だったが?

一応はゴブリンという種において確認を取っておいた方が当然良い。現地民の知識と言葉は何よりも大切だ。

 

「‥‥強いゴブリンというのは居ないのですか?」

「漆黒の剣」は互いに顔を見合わせ、それから何かの考えに同意に至ったのか、安心させるような口ぶりで返答する。

 

「大丈夫ですよ、確かに強いゴブリンはいます。ですが我々が向かっている森から出てきません。というのも強いゴブリンは部族を支配する立場です。部族すべてをあげて動くということは考えにくいんですよ」

 

「ゴブリンも人間の文明は知ってますからね。大侵攻ともなれば厄介ごとになると理解しているんです。特に強いゴブリンのような賢い上位種は」

 

そうか‥‥ユグドラシルのゴブリンがこの世界に来たら、ゴブリン界の天下を獲れるな。

 

「なるほど、了解しました。ただ、参考までに遭遇する可能性のあるモンスターの一部が、どの程度の難度か教えてはいただけ無いでしょうか?」

 

漆黒の剣のメンバーが一斉にニニャに顔を向ける。それを受けてニニャが教師のような表情で指導を始めた。

 

「まずはボクたちが良く遭遇するゴブリンの難度は6ぐらい。ウルフが難度10ですね。その他の野生の獣では難度20後半に到達するようなものはこの辺りでは遭遇した記録がありません。最高で難度20前半です。草原で遭遇する可能性で最も危険性が高い人食い鬼<オーガ>で20ぐらいでしょうか」

 

「という事は「ゴブリン退治」などが依頼だとしても森には入らないのですか?」

 

「はい。森で行動するのを避けるのは単純に危険度が高いからです。跳躍する蛭<ジャンピングリーチ>や巨大系昆虫等ならまだ何とかなります。ですが木の上から糸を吐いてくる絞首刑蜘蛛<ハンギング・スパイダー>、地面から丸呑みにしようと襲い掛かってくる森林長虫<フォレスト・ワーム>等の難度20後半のモンスターは少々きついですね。ですので森には入りません。森に入ると一気に難度が上がりますから」

 

なるほど。モモンガは頷く。

 

「つまり、森から草原にこぼれ落ちたモンスターを狩るのが一般的ということですね。」

 

「はい 冒険をするという事と無茶をする事とは違いますから。」

 

すでにゴブリン退治をしている後ろのセバス一行を見ると、セバスとユリが、フイっと目を逸らした‥‥。アイツら、森で暴れたんだな‥‥‥。

 

 

あとナーベラルは、むしろドヤ顔で堂々としていた。スゴイなアイツ。

 

 

 

 




 
 
 
 




黒祇式夜様、おとり先生様、りの様、ゆっくりしていきやがれ様、きなこもちアイス様、大量の誤字脱字のご報告有難うございました。

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