鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第三章三編 ナザリックの王とニニャ(貴族キラー)

 

 

 後ろでニニャがカッパーの人たちに蘊蓄話などを披露している。

好きだからなあ……アイツ。と微笑ましく思い振り返る。チームで一番の人見知りなのに和気藹々とやれている様で良かった。と思い、顔を正面に戻した瞬間。突然、隣を歩くルクルット・ボルブが片手を上げて「止まれ」のハンドサインを出す。

 

「漆黒の剣」リーダー、ペテル・モークは足を止めて、信頼するチームの目と耳であるルクルットの邪魔にならないように、後続にストップの合図を出して息を殺した。

ルクルットはいつものヘラヘラした顔を潜めて、真剣な顔で大地に耳をつけて1つの音も聞き逃さないように集中している。

後ろのニニャとダインも緊張感を纏い、今日の依頼仲間のカッパーチームを押しとどめる。

 

「‥‥‥居る‥な。森の奥からだ。数は多いぜ。15~20。ココからの距離100といった所か。」

 

「モンスターか?」

 

「ああ、ゴブリン独特の武器を引き摺りながらの小忙しい足音が聞こえる‥‥速歩(トロット)から駈歩(キャンター)に変わりやがった!確実にこっちに向かってきやがる。」

 

ルクルットが自慢の耳で敵の情報を伝えてくれる。つまり敵はもうこっちに気付いている。

 

「総員、迎撃態勢を取って下さい!あの方向から敵が15~20向かって来ています!」

 

大声でパーティのみんなに伝えつつ敵が現れるであろう方向に向かって先頭に立つ。そして武技〈要塞〉を発動する。

 

「ニニャ!支援魔法を頼む!ダインは草原地帯に足止めの呪法を!ルクルットはいつも通りに!」

 

「よっし!亀の首を引っ張り出して叩き落とすぜ!」

 

「モモンさん達はンフィーレアさんと馬車を守りつつ‥‥!?」

 

振り返ると、すでにモモンさんは「ユリは馬車と依頼主の護衛。私とセバスは右から敵の集団に横から当たり、『漆黒の剣』との挟撃。ナーベは反時計回りで敵襲団後方に回り込み範囲攻撃で殲滅せよ。仲間を呼びに行かせないために一匹たりとも逃がすな。」

 

とキビキビと冷静に、そして効果的にチームを動かしていた。何者なのだろう?どう考えても只者では無い。まるで数多くの戦いを潜り抜けた歴戦の勇者の様な指揮ぶりだ。

 

‥‥あの皆さんの動きならカッパーだなんて侮らずに、このまま挟み撃ちをお任せしたほうが良いだろう。

 

「よし!みんな!シルバーとして格好良いところを見てもらうぞ!」

 

「おう!敵襲団、襲歩(ギャロップ)だ!来るぞ!」

 

ダインが印を切ってドルイド魔法の準備を終える。

 

ニニャも〈防御上昇〉〈力上昇〉の補助魔法を掛けてくれる。

 

森の木々の隙間からキラリと光る金属片が見える。何よりも幾頭もの「ぶぎゃうあうああああー!」という雄叫びが聞こえる。

 

「出た!」と短く言い放ったルクルットが、いつも通り弱めに弓を放つ。敵の随分手前に弓が落ちるのを見た敵が射程範囲外だと判断して勇んで突っ込んでくる。しかしそこに待っているのはダインの足止め魔法!無数に生える植物にゴブリン達は足を止められる。

 

「よし!行くぞぉお、おおおおおおおおぉぉぉ!?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 ペテルとルクルットは考え事をしているせいか、手慣れた作業のハズが、いつもよりのろのろと野営の仕度をしている。

 同じく、ニニャもいつもより随分行動が遅い。いつもなら、もうアラームなどの魔法で野営地をガチガチに固めているはずなのに、まだまだ掛かりそうな雰囲気だ。

 ダインだけは飄々と口笛を吹きながら「トントントントン」とシチューの具を切り「さぶさぶ」と水一杯の鍋に手際よく入れている。

 モモンさんのチームはテントの設営をしてくれている。

 ただそれだけなのに、その一挙手一投足に惹き付けられる。

 そう、我々は昼のモモンさん達の戦い振りに圧倒された。魅惑された。憧れた。

 

 ルクルットがポツリと

「‥‥‥スゴかったな」と言った。

 

 ペテルは一瞬、目を閉じて瞼の裏に浮かんだ光景を思い起こし

「ああ……すごかった」と返した。

 

 あの時、モンスター達に横殴りに襲いかかったモモンさん達は焦る事も恐れる事も、そして昂ぶる事もなく淡々とモンスターを刈り取っていった。

 

 2本の漆黒の大剣を自在に操り、一刀のもとにゴブリンだけでなくオーガをも真っ二つに切り捨てる黒い鎧のモモンさん。

 

 不思議な構えから素手で拳をゴブリンに放つと一撃でゴブリンを爆散させるセバス翁。

 

 聞いたこともない高度な電撃魔法で一度に数匹ずつのゴブリンを死に追いやったナーベラル女史。

 

 あと、すごくリラックスしたまま終始ンフィーレアさんと世間話をしていたユリさん。

 瞬く間に戦闘が終わったその瞬間、我々は呆然として彼らを見つめることしか出来なかった。

 

 (……凄かった。うん 本当に凄かった!)

 

 彼らは遠方からこの国に流れついた旅人だと云う……。モモンさんの顔を見たが、南方の方に多い人種とのことだ。故郷ではさぞかし勇名を馳せていたのだろう。しかも、それでいてあの礼儀正しさや鎧から滲み出る風格……敵わないと云うよりも、いつかはこの道の先が彼らの様な英雄級の人たちへと続いていると信じたい。と強く願った。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 ああ……風が心地良い……。

 

 モモンガは岩の上に寝そべりながら自然の風を浴びている。

 ヘルムを取り魔法で作った顔は風を通すため、本来の骸骨頭に風が当たる。

 

「これ、風が攻撃判定だったらレベル60以下の攻撃だろうから無効化されていたんだろうか……」

 

 などとつまらない事を呟きながら佇んでいると、漆黒の剣のリーダー・ペテルから「夕餉が出来ましたよ」と声を掛けられる。

 

 (ふむ 当然食べれないし飲むことも出来ないのだが)

 

 大抵、口に入れると「ざばー」っと顎や喉から零れるはずである。

 セバスやユリ達がそれに気づいたのか、心配そうな顔でモモンガを見ている。

 

「気にせず頂きなさい。せっかく作ってくれたんだしな」

 そう言ってセバスやナーベラルの背中を押して、キャンプファイヤーの様になっている竈の元に行く。

 

「ダインの料理はなかなか美味しいんですよ?どうぞどうぞ」とニニャが奨めてくれる。

 

「有り難うございます。ただ私は宗教上の関係で、殺生をした日は断食し悔い改めなければ為らないため、大変申し訳ないのですが、頂く事は出来ないのです。すみません。この3人は大丈夫ですので御馳走してあげて下さい」と先程考えた割りにはそれらしい理由を流暢に伝える。

 

「えっ そうなんですか……残念です」

 とニニャが自慢の仲間の料理を味わって貰えなかった残念さを顔に出し

「宗教上の理由なら仕方ないのである」とダインはニニャとモモンガ一行に気にしないようにドルイドらしく大らかに応える。

「はい すみません。ただ こういう雰囲気は好きですし、ここに居させて頂きますので楽しくやりましょう」

 そう云うと黒騎士は寛いだように岩に座り、冒険仲間の食事風景を嬉しそうに見守る。

 

 パチパチパチパチと焚き火から心地良い火の爆ぜる音が聞こえてくる。

 

 ルクルットが取った新鮮な肉と塩漬けの燻製肉で味付けしたシチューを、各員のお椀に注ぎ込む。それに固焼きパン、乾燥イチジク、クルミ等のナッツ類が今晩の食事だ。

少し強すぎるぐらいの塩味が汗をかいた体にしっかりと染み込んでくる。ナザリックの者達からすれば最低レベルの食事だが、それでも栄養補給という点では合格点を与えられる。

 漆黒の剣のメンバーは互いに笑いあいながら、食事を進める。時折、モモンガ達にも会話を振ってくるので、参加はするがどうしても垣根のようなものを感じてしまう。それが寂しいとは思わないが。

 

 それにしても仲が良い。命を預ける冒険者なのだから当然ともいえるが、これが普通なのだろうか。

 興味を持ったモモンガは質問を投げかけた。

 

「皆さん仲が非常に良ろしいですけど、出身地などが一緒だったんですか?」

 

「いや。俺達は最初の昇格試験で会った仲さ」

 

「ニニャの噂は聞いてましたけどね」

 

「うむ。天才の名はな。実際、ニニャがいてくれたお陰で、皆が生還した事は多いのである。」

 

「そんなことはないと思いますよ。ボクだけの力では決して無理です。ルクルットの早期警戒にモンスターが引っかかったからいつも先々に手を打てるのですから。」

 

「うん? そうか? 俺的にはダインの治癒魔法のお陰だな。先日もゴブリンの矢がたまたま胸に刺さって呼吸が苦しくなったときは、やべぇって思ったもんだ」

 

「そのとき、ゴブリンを引き受けてくれたのはペテルだがな。ペテルがいなかったら治癒魔法を飛ばすのが少し遅れただろうからな」

 

「ニニャの防御魔法があったからですよ。あのときの私の腕では2匹同時はきつかったです。3匹も受け持てたのは支援あってこそです」

 

 互いに互いを褒め謙遜しあう。本当に仲の良いパーティーだ。羨ましいような懐かしいような、そんな気持ちになる。

 

 ンフィーレアは街中では余り見ない大人同士の戯れ合いに疑問と戸惑いを感じて

 

「冒険者の皆さんってこんなに仲が良いのが普通なんですか?」と問いかける。

 

「多分そうですよ、命を預けますからね。互いが何を考えているか、どういったことを行うかが理解できないと危険ですし、そこまで行けばいつの間にか仲が良くなるってものです」

 

「あと、異性が居ないからというのもあるんじゃねえかな」

 

「それにパーティーとしての目標もしっかりとしたものがあるからじゃないか?」

 

「ボクもそう思いますね。やはり全員の意識が1つの方を向いているというのは大きいですよ」

 

 ペテル達4人はうんうんと頷く。

 

「……なるほど。ところで我々にはまだチーム名が無いのですが、皆さんの『漆黒の剣』というパーティー名は何処から来たんですか?」とモモンガが尋ねる。

 

 実際、黒い剣を武器としているメンバーはいない。ぺテルはブロードソードだし、ダインはメイス。ルクルットはコンポジット・ロングボウ。ニニャはまぁ魔法か。むしろ何か少し気まずい事に、漆黒の剣を使っているのは自分(モモンガ)だけだったりする‥‥。

 

そんなモモンガの質問に4人はお互い顔を見合わせる。それはモモンガが知らないことに対する、愕然とした何かがあった。

 

「……ああ、それはあれです。モモンさんの国では聞いたことないですかね、『漆黒の剣』っていう魔法の武器」

 

「漆黒の剣は4本存在していると言われているので、この4人で一振りずつ持つのが夢なんですが……ご存知ありませんか?」

 

 モモン一行の皆の表情に理解の色が浮かばないことを確認した4人は再びショックを受けたように言葉を続ける。まぁ、パーティー名にまでした魔法の武器を知らないとか言われれば、多少なりとも精神的衝撃はあるものだ。

 

「おとぎ話の13英雄の1人が使っていたとされる武器さ。振れば暗黒魔法を起こすとも言われる武器だな」

 

「それを発見するのが俺達の第一の目標ってわけさ。まぁ、伝説って言われる武器は色々あるけど、その中でも存在がしっかりと確認されてる武器だしな。まぁ、今も本当に残っているかは不明だがねー」

 

「まぁ、最終的にはかの伝説の12剣が目標だが、その前の第一歩だな」

 

「今はまだ漆黒の剣を発見するには遠く及ばない程度のランクでしかないけど、いずれは手に入れても可笑しくないまで昇っていくつもりだよ」

 

「なるほど、ステキですね。みんなで伝説の剣を求める旅だなんてロマンですね。」

 

「いえいえ。むしろ子供染みた夢で恥ずかしいんですけどね。」

 

「いえ、私も昔は仲間たちと色んな伝説の武器やアイテムを求めて冒険を繰り返していましたから」

 

「そうなんですか?」

 

「でも確かに今日の戦いぶりは凄まじかったですよね?」

 

「セバスさん達も、めっちゃ強いのな!」

 

「ナーベラル殿の魔法も鮮やかで、その熟練ぶりが良く解るのである。」

 

「……そうですね。私が……遠い国で、まだ駆け出しの冒険者だった頃、多人数に襲われた時に私を救ってくれたのは白銀の騎士でした」

 

 創造主様のことだ!とセバスの目が暗闇にギラリと輝く。なぜかユリとナーベラルの瞳もキラリと輝く。お前ら「ギルドメンバーの話」好き過ぎだろ……とモモンガは少し呆れるのと嬉しい気持ちを感じる。

(彼らは本当に創造主たちのことを思ってくれているんだな……)

 

 そんな叙情的な気持ちから、モモンガは昔を懐かしむように語る。

「あとで解ったのですが、彼は「世界最強」と讃えられ『ワールドチャンピオン』の称号を持つ高名な剣士でした」

 

「え?!『世界最強』?!とんでも無いじゃないですか!」

 

「ええ とんでも無かったです。」と苦笑し「彼は一人で竜の群れに突っ込んで、一人で全て叩き伏せる程の強者でしたからね。」

 

「……」 漆黒の剣とンフィーレアは言葉に出来なかった。セバスはゆっくりと目を閉じて頷いている。

 

「他にも素晴らしい仲間たちが集まってきました。彼に案内されて、四人の仲間と出会ったのです。そうやって私を含めて六人のチームが出来上がり、更に私の様な初心者を3人加えて9人のチームがなったのです。そして冒険は始まりました。世界の秘宝を求めるために」

 

 ほおお~と感心する漆黒の剣とプレアデス達 「嗚呼‥『至高の41人サーガ』の序章だわ……」とナーベが呟く。待て、なんだそれ。

 ナーベの発言が気になるが、続ける

 

「聖騎士、刀使い、二刀忍、魔術師、神官、妖術師、最高の友人たちでした。あれからも冒険を繰り返しましたが、その中でもあの日々のことは私にとって掛け替えのない想い出です」

 その淋しげな言い方に全員が何かを察して黙り込んだ。特にセバス、ユリ、ナーベラルは沈痛な面持ちに項垂れた。

 その空気を切り開こうとなんとかニニャが言葉を紡ぐ。

 

「……きっと、また出会えますよ。そんな素敵な仲間に。」

 

 そう慰められたモモンガは一瞬「そうだろうか?」と考えたのち、ゆっくり頷いた。

 

「ええ 出会えました。ここに居ます。私の素晴らしい仲間が」と、一転して朗らかな雰囲気でセバス、ユリ、ナーベラルの肩に手を伸ばし抱き寄せる。

 え?と云う顔で驚く3人を無視して、

 

「私が愚かで気づけなかっただけで、仲間はいつもそばに寄り添ってくれていたんです。それに他にも居るんですよ。素晴らしい仲間達が。私達は事故でこの国に飛ばされてしまいましたが、みんなでなら乗り越えられると思っています」

 

 

 ……何かを口にすれば泣いてしまいそうなほど感極まっている3人を余所に、機嫌の良さそうな黒騎士にマジックキャスターとしてニニャが尋ねる。

 

「そう言えば、モモンさん達は『転移魔法の失敗』で飛ばされて故郷に帰れなくなったと聞いてましたけど、どのような実験だったのですか?」

 

「……そうですね。国家機密にも関わることなので余り詳しくは言えないのですが」

 というかそこまで深く煮詰めてなかったが

 

「大規模範囲転移魔法の実験だと思って下さい」

 ……なんだ、それ?

 

「大規模範囲転移?」

 

「……ええ。例えば、今まで転移魔法は術者と、術者に触れる者の転移が限度でした。それですら高位転移魔法ですが」

 

「はい 術者の見える範囲への転移魔法が第五位階、見えない場所への転移や、無詠唱化での転移が第六位階に在ったと思います」

 

「その転移魔法を術者が家などの建物ごとや、10メートル範囲の人や者に掛けて集団で転移させるという実験です。」

 

「そんな!そんなことが……」

 

 自分の口からの出任せに苦悩する若いマジックキャスターをモモンガは哀れに感じて申し訳なく思う‥‥。

 

「ええ。失敗続きでした。どうやら魔法の力が足りない様でしたので何人か掛かりで転移魔法を掛けたりしたのですが……」

 

「ちょっとまって下さい!モモンさんの国には第五、第六位階が使える魔術師がゴロゴロ居るということですかっ?!」

 

「あ、はい」

 

 ……どんな修羅の国なんだそれは……と『漆黒の剣』は生唾をゴクリと飲んだ。

 

「それで掛けられる側、転移対象の中からも転移魔法でブーストを掛ける者が必要じゃないかと云うことで私が……」

 

「ええっ?!モモンさん、転移魔法使えるんですか?!」

 ニニャが思わず立ち上がり目を見開く。

 

 (……あれ?まずった?『蒼の薔薇』のリーダーが神官戦士で第五位階を使えるって聞いてたから自分も良いかと思ったんだが)

 後ろを見ると、ユリが曇った眼鏡に手を当てている。なんであの娘アンデッドで体温無いのに眼鏡が曇ってるんだ? 隣のナーベラルは「私も使えますよ ふんすっ」というドヤ顔をしている。いや知ってるが

 しかし 転移魔法はこの黒騎士(ダークウォリアー)モードの時も何かあった時の回避用に使える魔法に設定してあるしな……危険があったら躊躇せず使用するだろうし、ここは使えると告白しておいた方が良いよな。

 

「はい 使えます……一応、内緒にしてくださいね?」

 

 漆黒の剣のメンバーとンフィーレアは今度こそ呆然とした。

 

 特にペテルは友人の剣士の師匠がミスリル級の剣士であり、自分も何度も手合わせをお願いしてもらっている。ミスリル級の強さは身に沁みて解っているからこそ、今日のモモンの強さが、ミスリルの何段階も上、アダマンタイトにも達するレベルであると仲間たちやンフィーレアに告げていたのだ。「モモンさんは戦士長レベルの戦士だ」と。

 

 それだけの剣士でありながら第五位階の転移魔法も使いこなせる。それはもう『お伽話』に出てくるレベルの『英雄』である。

 

 冒険者が憧れる「英雄」 それが今、自分たちの目の前に存在する。

 現在で言えば、「草野球のメンバーが足りないから入って。」と頼まれて中学生の野球少年が市民球場に行ったら、自分のチームメイトがメジャーリーガーだった様な衝撃である。

 

『漆黒の剣』のメンバーは色々な冒険譚を聞きたがったし、それはセバス達も一緒であったため、モモンガが思っていた以上に自分の話でみんなが盛り上がるという貴重な体験を焚き火が消えるまですることになった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 焚き火の明かりはとうの昔に消えている。灰を触っても温もりも感じられない。

 では、焚き火が消えていて、周囲は完全な闇夜かというとそうではない。

 月や星という天空に輝く明かりが、草原の殆どを見渡せるほどの光源と化しているのだ。多少の薄い雲がかかっているが、その程度では阻害にもならない。

 草原を走る風が草を揺らし、ザワザワという音を生み出す。静まり返った世界にはそれ以外の音は無い。

 

 アンデッド故に眠れないのを生かして、みんなが渋る中、寝ずの番をモモンガはしている。

 メッセージでアルベドやアウラ、デミウルゴスから報告を聞き指示を与え、パンドラズアクターから情報を聞く。

 ついでに「漆黒の剣」という武器について何かのついでで良いので調べておくように告げる。

 

 アンデッドなので暗闇でも回りが見渡せる。眠くならないし、夜の警備員として優秀だな……と我ながら思う。

 それだけでは無い。自分がなったから言うわけではないが、いやむしろ自分が成って初めて気づいたから言うのだが。

 

 アンデッドは便利だ。

 

 色々とナザリックで実験したが、死体を媒介としたアンデッドはかなり長持ちすることが解った。

 

 まず、命令には絶対服従。

 

 判断力も思考力も殆ど失われているので単純作業しか任せられないが、逆に言うと朝も

昼も夜も、延々と食事も睡眠も褒美も与えずに働き続ける最高の「単純作業員」。 しかも集団運用が可能……これはまだ実験中だが、普通にアンデッドになって重労働をさせると、力は問題ないものの筋組織などが早く痛むせいか早く駄目になるのだが、それに補助魔法によって耐久力とストレングスを上昇させるとかなり持つようになる。

 

 アンデッドという労働力。これは一大革命をもたらすだろう。

 

 モモンガが、そんな変な野望に燃えていると「漆黒の剣」のテントから人が出てくる。

あれはニニャだな……。と気づきつつ放っておくが、セバス達のテントにも動きがあり、もぞもぞと動いたかと思うとテントの下の方から首だけ出したナーベラルが、妙な笑顔で「キラン」と目を光らせてニニャを監視している様だ。

 

 あいつ……寝ておけと言ったのに……まあ 彼女たちの忠誠心を考えれば「至高の御方に番をさせて自分だけ寝るなど!」という事だろうから仕方ないけどな。

 

 ニニャが近づいてきて「ニニャです。すいませんモモンさん」と小声で言いながらモモンの隣の椅子代わりにしていた丸太にちょこんと座る。

 

「眠れないのですか?ニニャさん」と声を掛けると

 

「……そうですね。モモンさんの様なスゴイ人達と出会ってしまって、未だに興奮が収まらないみたいです。」と淋しげに笑った。そしてニニャは何か言いたげに、でも言いにくそうに口をモゴモゴとしている姿が月明かりに照らされている。

 

 ……何故、俺はこんな所で中性的な青年と良い雰囲気になってフラグを立てているのだろう。 こういうのはマーレで充分間に合っているのだが。

 

「モモンさん……突然ですいませんが、「人探し」が出来る魔法を御存知ないでしょうか?」

 

「人探し……ですか?」

 

「はい そんな魔法があると師匠に聞いたことがあったのです。すみません、魔法の種類など星の数ほど溢れているのに」

 

「……そうですね。〈物体発見/ロケートオブジェクト〉という魔法があります」

 自分では気づいていないが、ユグラシルに存在する無数の魔法を、ほぼ(そら)んじることが出来るという変態的な能力を持つモモンガは、するりとニニャの質問に答えた。

 

「えっ 御存知なのですか!?」

 

「これは正確には『無くし物』を探す魔法なのですが、他の魔法と組み合わせる事で魔法を反転させて、忘れ物、つまり探し人の持ち物から持ち主を探知することが出来るかも知れません。精度は高く無いかも知れませんが」

 

「!? 本当ですか! あっ、姉は連れて行かれてしまって数年経つのですが……大丈夫でしょうか?」

 

「お姉さんを? そうですね、その物にどれだけのお姉さんのマナというか残滓が残っているかが鍵になりますね……」

 

「そうですか……姉の残滓……!? 昔、姉が私にお人形さんを作ってくれたんですけど、その時のお人形さんの髪の毛は姉さんの髪の毛が使われていたと思います!」

 

 男の子に人形を?そう言えば、昔は人形に自分の不幸の身代わりをしてもらう風土なども有ったそうだから、そう不思議でも無いのかな?

 

「本人の髪の毛ですか。それだと成功率は高くなると思いますね」

 

「~~~~!! あっ すみません!急に一人で興奮してしまって……」

 

「いえ、それに〈物体発見/ロケートオブジェクト〉は第六位階という高位魔法です。この国で使える方はおられるのでしょうか?」

 

「第六位階……ですか。そうなるとバハルス帝国のフールーダ・パラダイン卿しか使えなさそうですね……」と目に見えてニニャは落ち込む。

 

「……。もしかして私がユグドラシルから飛ばされてきた際の荷物の中に〈物体発見/ロケートオブジェクト〉のスクロールが紛れ込んでいるかも知れません。また探しておきましょう」

 ぬか喜びさせてしまったことを申し訳なく思ったモモンガは(このくらいの親切はいいよな?)と思いながら答える。

「え?!本当ですか?もしスクロールが見つかったら何とかワタ……僕の姉を探すのに使わせて頂けませんか?お願いします。料金は頑張って支払います。お金以外だとしてもどんな命令にでも従いますから!お願いします!お願いしま……す、すみません 動転してしまって……」と土下座した状態からモモンの足に縋り付いていた自分に気がついて恥ずかしそうにした。

 

「いえいえ。行方不明のお姉さんを探されているんですか?」

 

「……はい。少しだけ私の話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

モモンガは手で「どうぞ?」と続きを促す。

「昔、私達家族は田舎の村で静かに暮らして居ました。しかし突然現れた領主の一族のバカ息子が姉を見初めて無理矢理さらって行ったのです」

 

「‥‥‥」 愛する人が不条理に奪われる。さぞ辛かっただろう

 

「両親は姉を返して欲しいと領主に陳情に行きましたが、金貨数枚を投げ捨てて帰れ。と」

 

「‥‥‥」

「それでも帰らなかった両親は散々に棒で打ち据えられました。だから私は貴族が嫌いです。すみません、モモンさんは貴族関係者だと云うのに‥‥‥」

 

「いえ 貴族なのは友人ですし、セバスやユリ達も貴族では無く、仕える側の人間です。それでニニャさんの気が晴れるとは思いませんが。」

 

「すみません。気を使って頂いて‥‥貴族にも良い人、悪い人が居ることは解っているんですが、どうしても働きもせず下層階級から搾取するだけで飯を喰う寄生虫め!と心がドロドロしてしまいます」

 

「そ……そういう面も有るかも知れませんね」

 

「何の能力も無いのに、当たり前の様に人の上に立つ……せめて迷惑を掛けないように部屋の隅っこで虫でも囓りながら生きて居れば良いんですがね」

 

「あ はい……すみません」

 

 

 

 ナザリックの王は 心が少し折れた。

 

 

 






まりも7007様、きなこもちアイス様、rovelta様 誤字脱字修正有り難う御座います

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