鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

19 / 57
第三章六編 クレマンさんの扱いが雑

 

 

 

 

 

ンフィーレアは帰りの道中も、ずうーっとフワフワとした感覚の中で荷馬車に揺られていた。

 

原因はカルネ村に居る想い人との新生活‥‥‥というと同棲でもするかの様だが、そうでは無い。ただ何ヶ月かに1回しか会えなかった遠距離恋愛(但し片思い)の相手と小さな村の御近所さんになり、毎日でも逢うことが出来るのだ。まず、そのためには祖母の説得が必要だが、なんとかバレアレ薬品店の出張所という事で許可をもらいたい。そして、と右後ろを「ハムスケ」と名付けられた魔獣に跨る威風堂々としたモモンを見る。自分が憧れる物語の英雄的な存在に認められ、外部協力者として働くことが出来る。尊敬できる英雄の手伝いが出来る。

おとぎ話の主人公には成れないけれど、その語り継がれる物語の一節に自分の名前と、つ、妻のエンリの名前が出てくるか‥‥も。 うひゃあああ、と火照る顔を手で押さえる。

 

「ふふ。ンフィーレアさん嬉しそうですね」とニニャが微笑ましさに笑いながら仲間に話かける。

 

「恋は人を夢見る乙女にするのである」

 

「おーい、ンフィーレアさーん!エ・ランテルが見えてきたぜー」

 

ルクルットに声をかけられ、ハッとして彼方を見ると城塞都市エ・ランテルの高い壁が見えてきていることにンフィーレアはようやく気づくことができた。

 

──何というか 帰りはあっという間の道中だった。

 

「森の賢王」ハムスケを連れているせいか、一度もモンスターに襲われなかったのだ。

ハムスケへの、ニニャの質問攻めが凄かったが、それも旅の余興として楽しく過ごせた理由でもある。お陰で色々な『トブの森』トリビアを仕入れることが出来た。酒場で披露するのがちょっと楽しみだ。

 

もう夜で辺りは暗い、早く門を潜ろうと思ったが門番にモモンさんが止められて森の賢王の登録を求められていた。

 

「今、眼鏡を持っているのは誰だ? ん そうか ではセバスは私と一緒に登録所に行ってくれ。ユリとナーベラルはペテルさん達と共にンフィーレアさんの所で薬草の積み下ろしを手伝ってくれ」

とモモンさんが言った。あれ?眼鏡なのはユリさんなのでは?と漆黒の剣のメンバーは思ったが、それ以上に

「ちょ、ちょっと待って下さいモモンさん!大丈夫です!我々だけでやらせて下さい」とペテルが叫ぶ

 

「そうですよ。結局僕たち全然働いてませんし、これぐらいやらせてもらわないと」

 

「そもそもユリちゃんやナーベ…ラルちゃんみたいな女の子に手伝ってもらっちゃあ男が廃るってもんだぜ!」

 

「まったくである。この後の打ち上げで堂々と美味しい酒を頂くためにも労働したいところであるな」

 

「ユリちゃん?」ちょっとユリがイラッとして眼鏡の位置を指先でクイっと上げた。

その様子に(ナーベラルだけでなくユリまで…この2人だけを置いて行くのは良くないか…)と感じたモモンガは

 

「解りました。では後ほど、私どもが泊まっていた宿屋の1階の酒場でお会い致しましょう」と漆黒の剣の提案を素直に受け入れた。

 

「おう!待ってるぜ!特に美人姉妹のお二人さん!」

 

「ははは…では荷物下ろしお願い致します。打ち上げ楽しみにしてますよ」

 

そう言うとモモンガ達は「漆黒の剣」とンフィーレアと一旦別れる。

ハムスケを街に入れるためには「使い魔」として冒険者組合に登録しなければならない。そのためには書類の作成と似顔絵スケッチが必要なために意外と時間が掛かるのだ。

ちなみにモモンガの「眼鏡は誰が?」というのはマジックアイテムの眼鏡の事で、読めない文字でも読めるようになる翻訳眼鏡の事である。

書類作成が必要である事をニニャから聞いていたため、眼鏡を掛けねば読めないが、モモンガの顔は幻術であるため、眼鏡を掛けると眼鏡のフレームの位置と顔に擬態して見えている位置とのズレが生じるので人前では装着できない。

(そのためセバスに同行を頼んだのだが…しかし、「打ち上げ」か…。食べられないし飲めないのにどうしよう。今日は殺生もしてないしなあ…飲食できない理由が無いぞ?)などと困りながらも実はとても楽しみにしている自分が居ることにモモンガは気づいた。

 

リアルも含めて打ち上げだとか飲み会だとか数回しか経験していない。しかも会社でのイヤな雰囲気の中での物が殆どだ。

しかし、今回は違う。イヤな会社の上司でもなく、自分を過大評価しすぎる部下でもない。共に旅をし冒険をした仲間だ。

きっと楽しい打ち上げになるだろう。ンフィーレア君も来るなら色々と話したり、エンリの事をからかったりしよう

 

「漆黒の剣」…ペテルの裏表のない爽やかさ。ニニャの豊富な知識と強い決意。ルクルットの奔放さと気さくさ。ダインの大きく包んでくれる包容力。

「…良いパーティだ。本当に」

また こういう機会があれば一緒に依頼を受けられれば良いな。そんな事を考えながらハムスケのスケッチが終わるのを待っていた。これからの楽しい時間を考えながら。

 

しかし、そんな考えは突如中断された。アルベドからのメッセージが入ったからだ。

 

『モモンガ様 私はモモンガ様だけを監‥‥見守っていたので気づきませんでしたが、姉さんが「先程、モモンガ様と別れた人間達に問題が起こった可能性がある。」と言っております。』

 

『!? 薬屋で何かあったのか?』

 

『申し訳ありません 詳しくは判断出来ないのですが、荷物を積み下ろしている場所に、この世界の人間にしては探知魔法で強めの反応が出た人間が屋敷内に居るとの事です。』

 

強めの反応?ガゼフ・ストロノーフかな?いや奴は王都に居るんだっけ?

どっちにしろ協力者になってくれたンフィーレアと打ち上げ仲間だ。その身が気にならないと言えば嘘になる。あと、やはり俺はストーカーに対して大きな間違いを起こしている気がする

 

「ユリ、ナーベラル。ニグレドからの報告があった。今すぐバレアレ薬品店に向かってくれ。」

 

「「ハッ」」

2人は顔を見合わせて冒険者組合から飛び出して行く。ここからバレアレ薬品店までは近くない距離だが、彼女達なら数分で到着するはずだ。

訳も聞かずに駆けだしてくれた2人に感謝しつつ追加情報をメッセージで送る

 

『ナーベラル、ニグレドが言うにはンフィーレア達の居る所で強者の反応が出たらしい。気をつけろ。ただし話が分かる相手なら私が着くまで逃がさずに時間を稼いでくれ。ンフィーレアやオマエ達に敵対行動を取ってきた場合は全力で叩き潰して良い。』

 

『はい、お任せ下さい』

 

・・・・・・・ンフィーレアが帰ってきたと同時に強者が待ち構えている?都合が良くないか?

そもそも祖母のリィジー・バレアレも有名な薬師だと聞いているが‥‥。単なる偶然として片付ける方がオカシイだろう。

 

「‥‥‥気になるようでしたらモモン様も行かれた方がよろしいのでは?ここは私が手続きを済ませますので。」

 

「‥‥‥そうだな。ではセバスよ ここは‥」

『モモンガ様 バレアレ薬品店にて「漆黒の剣」が全員死亡しております。ンフィーレアも行方不明です』

という淡々としたナーベラルからのメッセージが入った。

 

 

 

 

 

‥‥‥‥

 

 

 

 

 

 私の提案によりモモンガ様に現地に赴くことをお奨めした瞬間、突然モモンガ様がいつもの光に包まれました。どうやら先行したプレアデスからの報告があったようです。

怒っているような、驚いているような、悲しんでいるような‥‥そして哭いておられるように私には見えました。

 そして「……すまない 登録所の君、ハムスケを置いてゆくので登録をお願い致します。ハムスケは終わり次第、先ほどの荷物を降ろした所に来てくれ。……セバス行くぞ。」と告げられました。

 

私は「はっ」と短く了承し、冒険者組合の人に一礼を致します。

 

「あっ ちょっと!魔獣を置いていかないでくださいよっ!恐いですって!食べられちゃいますよ!」

 

「ええっ 拙者を食べるので御座るか?!きっと美味しくないでござるよ?!勘弁してほしいでござる……」

 

「あ やっぱり大丈夫そうですね……はい」

 

そんな言葉を背後に聞きながら外に出て、セバスは先に行く主人を追いかけて先ほどの薬品店に駆け出す。

夜風が体にぶつかり、その中を潜り抜けるように足を伸ばして走りゆくと、間もなくバレアレ薬品店に到着した。

薬品店は、ひっそりと静まっており、この静寂が不吉さを醸し出している。

店の玄関の扉を開けて中に入ると『リィジー・バレアレ』と思しき年配の御婦人が「ンフィーレアやあ~~い!」と泣きそうな声で呼びかけていて、我々が少年に依頼された冒険者である事を告げて落ち着くように宥めて、主が入っていった奥の部屋には入らないように言い聞かせた。

 

中に入ると沈痛な面持ちのプレアデス副リーダーのユリ・アルファと淡々とメッセージで誰かと連絡をやりとりしているナーベラル・ガンマが部屋の隅っこにおり、主人は奥の部屋で、壁に持たれて座っている様に見える「ニニャ」だった物の前にしゃがみ込んで、何かを小声で話している様だ。

 

その部屋には「漆黒の剣」のペテル・モーク、ルクルット・ボルブ、ダイン・ウッドワンダーの死体が倒れていたが、その死体に疑問を覚える。ペテル・モークとダイン・ウッドワンダーの頭部の半分や肩は破裂するかの様に吹き飛んでおり、これはユリ・アルファの攻撃によるもの、ルクルット・ボルブの傷も片腕を切り落とした後、首を刎ねており傷口からナーベラル・ガンマのものではないかと思われたからだ。

彼女たちが主人と親交を重ねた者を無下に殺す?しかもナーベラル・ガンマならまだしもユリ・アルファが?

しかし、切り落とされたルクルット・ボルブの顔や微かに漂う死臭に混じった嗅ぎ慣れた香りによりある懸念に気づく事が出来た。

彼ら3人はアンデッドにされていた様であり、何者かに殺され操られて、入ってきたユリ・アルファ達に襲いかかって来たのだろう。むしろ初めにアンデッドの弱点である頭部では無く、肩や腕を攻撃して相手の攻撃力を封じようとしている時点で、主人と関わりのある者を出来れば殺したくないという2人の気遣いが見える。

すると主人が「ニニャだった物」から離れて立ち上がり

 

「セバス、この状況を、どう視る?」と尋ねてこられた。

 

検死するかの様に彼女の死体に目を凝らし検分をする。彼女だけはアンデッドにされていないが、ある意味最も凄惨な殺され方をしている様だった。彼女を知っているがゆえに彼女だと気づくのは難しいザクロの様な状態に眉を顰める。そして彼女の背後の壁に書かれてある「地下下水道」の血文字を発見する。そうして、あの奥の裏路地へと通じるドアの周囲の床の傷、擦過痕などにも目を通す、そしてペテル達アンデッド化した死体にも軽く目を通す。すぅーと明かりが見えたので顔を上げると主人が光っていた。モモンガ様はニニャの物と思われる荷物を調べていた様で一冊の本の様な物を先ほど私が使っていた文字翻訳の眼鏡で読んでおられました。

 

「……では、私の所見を申し上げても?」

 

パタンと本を閉じたモモンガ様は「うむ」と続きを促される。

 

「まず、彼らを攻撃した者は2名居ると思われます。ここでは犯人、AとBとします。まず、Aですが裏口より入り込み、その壁際で長いこと待ちぼうけをしていた様ですね。刺突武器と思われる刺しあとが、壁際の床や家具に数十箇所みられ暇つぶしに刺突武器で刺していた様な跡があります。」

 

「ふむ」

 

「そして『漆黒の剣』やンフィーレアさんが帰宅し荷物を全て降ろすのを待っていた様ですね。荷馬車の薬草は全て倉庫に移されておりました。そしてこの路地へと通じるドアがある奥の部屋ですが、ドアとは逆方向の壁や家具にペテル・モークやルクルット・ボルブ、ダイン・ウッドワンダーの装備品の背中側が当たって出来たと思われる擦過痕が沢山見受けられます。恐らく、ニニャさんとンフィーレアさんを逃がすために3人は、何度も「A」に立ち塞がり続けたのではないでしょうか。」

 

「‥‥‥そう、か」

 

「そして、彼らが、この部屋で玄関へと通じるドアを背に戦い続けたという事は、この時点で「B」はおらずに、「A」からさえ2人を逃せばなんとかなる状況だったと思われます。しかし、玄関のこの箇所とこの箇所、そしてカウンターにヘコミ傷があります。2人はここまで逃げた時に玄関より現れた「B」によって逃げ道を奪われ、腕力か魔法で2人から戦闘力を奪った様ですね。ただ、私は魔法によるものではないかと思われます。」

 

「ほう 続けてくれ」

 

「はい 「B」が遅れてきた理由にも繋がるのですが、この家の周囲に音の遮断などの魔法を掛けられていた様です。先ほどもリィジー婦人が少年の名前を叫んでおられましたが、外から邸内に入るまでは何も聞こえていませんでした。つまり「B」は魔法詠唱者であり、犯行音を遮断し確実に犯行を行うための処置を施してから薬品店に玄関よりンフィーレアとニニャの退路を防ぐように侵入。魔法により戦闘力を奪ったあと、今、ここに居ない唯一の人間、つまりンフィーレア少年を拉致したと考えられます。もうその時にはすでにペテル達はアンデッド化されていたようですね。刺突痕からの出血の少なさから「A」の持つ刺突武器自体か「A」か「B」による何らかの能力、もしくは魔法により殺すと時間をおかずにアンデッド化を施した模様です。」

 

「‥‥‥。」

 

「ニニャさんは体中に致命傷にならない程度の打撃痕が無数にありました。特に右胸部を潰した時にニニャさんが女性である事が犯人に解ったのでしょう。死亡に至るまでの攻撃は主に頭部に集中している様です。これは打撲痕の状態を視るに死亡の時間が近い打撲痕は「顔」に集中しており、頭蓋骨を数箇所砕かれ、眼底骨折による一撃で左眼球が飛び出しており、女性である事が解ってから顔への攻撃に偏っているという観点から嗜虐趣味が診てとれます。また犯人「A」は女性か子供のように小柄な者だと思われます。」

 

「‥‥‥何故だ」

 

「ペテル達のいる方向に向かって、何箇所か床を蹴って--使用武器を考慮すると「突き」を繰り出したと思われる跡があります。この跡から推測される足の大きさを考えると、女性か子供の物だと思われるからです。」

 

「ちなみに、ニニャが女の子だと知っていたか?」

 

「はい。私とユリ・アルファは気づいておりました。どれだけ変装しても男性と女性では骨格が違います。骨格が違えば筋肉の付き方が変わりますし、何よりも骨盤に大きな差異が有りますので、歩いただけで膝の角度やその際の筋肉の使い方などで男女の区別は付きます。」

 

「‥‥‥そうか‥‥私は気づかなかったなあ‥‥ペテルたちが少年だけでなくニニャも逃がそうとしたのはそのせいか‥‥な。」

 

「そう‥‥だと思います。道中の発言から気づかないフリをしていた様ですが。」

 

 

モモンガはどこへ向かって言ってるのか解らないまま語りだした。

「‥‥そうか、‥‥そうか、そうか、そうか!そうか!そうか!くそっ アンデッドなんだろ?!全部消してみせろ!この感情を宥めてみせてくれ!」

 

そう叫びながら何度も、繰り返し何度も光に包まれる主人にプレアデスとセバスは驚く。

 

「中途半端なアンデッドで、中途半端なニンゲンだな‥‥‥本当に。」

 

「モモンガ様‥‥‥。」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥楽しみに、してたんだ」

その小さな声に3人はかける言葉を失い、ただ静寂がその場を包む

 

「ナザリックの支配者モモンガに不満などは無い。お前達のような部下を持って不満などあるものか」

 

「‥‥‥モモンガ様」

 

「だが、一冒険者として旅をし、知らない人と出会い、未知と出会う。それはまるでユグドラシルを始めた時に、たっちさんを始めとした仲間たちとの出会いと冒険を思い出させてくれて楽しかったんだ。これから酒場で打ち上げをして、馬鹿な話をしたりされたり、夢を語ったり語られたり。同じ体験を共有した者達だけが持ち得る何かを楽しめるはずだったんだ。それは確かに俺がここ何年もの間、ずっと求めていたものの1つなんだ‥‥‥。」

 

 

 長い時間をかけて、ようやく輝くのが収まったモモンガ様は言葉を紡ぎだす

 

「‥‥これから ンフィーレア・バレアレの奪還に向かう。」

 

「「ハッ」」

 

「これはナザリックの支配者失格かも知れない私的な感情を基にした行動であることを詫びる」

 

「なにをおっしゃられますか!」

 

「お心のままに」

 

「モモンガ様」とユリとナーベラルが血相を変える中で静かにセバスがモモンガに優しく語りかける。

 

「なんだセバス」

 

「そういう我が儘があってこそ、ナザリックの王たりえるのではないでしょうか?」

 

「‥‥‥はあ。オマエ達は私に甘過ぎるよな」

 

「はい ここに居るのは、モモンガ様にお仕えさせて頂いている、誉れ在るナザリックの執事とメイドでございますれば」

 

「ふふふ なら仕方がないな」

 

「はい 仕方ありません」

そう言うと3人は片膝を突き、誇らしげに一礼をする。

 

「そもそもペテル達の剣に血も傷も肉片もついていない。犯人「A」は折れやすい刺突武器。恐らく武器を殆ど合わせる事もないまま、一方的に3人は、いたぶられて殺されたのだろう。それだけの強者とマジックキャスターがわざわざ挟み撃ちにしてまで才能の片鱗はあるが一人前では無い薬師の少年を攫いに来た?祖母のリィジーが小金持ちだから身代金として?そんな訳ないよな」

 

「はい 我々が近づくきっかけともなった彼の持つ『どんなアイテムでも使用できる』という希少タレントが狙いではないでしょうか」

 

「その通りだセバス。‥‥‥ふふふ、いや、スマン。ところで情報総監とは便利な役職を作ったものだな。オマエ達にもあらゆる情報が共有されているのであろう?」

 

「はい」

 

「では、以前あった情報だが‥‥

 1.我々の敵と為るであろう、この世界で異形種狩りを行っている国『スレイン法国』で「漆黒聖典」という英雄級以上の強さを持つエリートチームの女性隊員が脱走したらしい。

 2.この脱走者はある『国宝級マジックアイテム』を盗んでいる。

 3.そして、全ての国に存在する地下組織『ズーラーノーン』。彼らは不老不死を追求する組織であり墓地の死体を不法にアンデッドにしたりするなどしている。」

 

「‥‥モモンガ様?」

 

「そして今回の現場検証と状況だが

 1.犯人「A」は3人のシルバー冒険者を狭い室内での戦いで子供扱いする強者であり、女性か子供である。

 2.ンフィーレアは恐らく何らかの普通の人間では扱えない特殊なアイテムを使用させるために拉致された。

 3.ペテル達3人はアンデッドにされていた。

 

更に云うなら、情報漏洩を防ぐために味方である陽光聖典の隊長に尋問されたら爆発するような阻害魔法を使うのがスレイン法国だぞ?国宝を盗んだ上に脱走したエリート隊員。あらゆる手段で捕獲網を広げている事は想像に難くない。エリート隊員だったならそんな事は解っているだろうな。各国に広がる地下組織か‥‥その網をかい潜るのに非常に便利な組織だよなあ?」

 

そして、メッセージ。

『アルベド。 ニグレドは犯人を追っているか?うむ、それは墓地では無いか?やはりそうか、引き続き監視を頼む』

 

「と云う訳で、犯人はエ・ランテルの墓地に居る。黒いローブ姿の集団でズーラーノーンと見られるとのことだ。そして千体を越す大量のゾンビを作成し何らかの方法で操作をしているらしい。とりあえずニニャの背後の壁の胡散臭いダイイングメッセージは嘘だと証明できたな」

 

「千体を超すアンデッド‥‥それはこの世界のネクロマンサーにとって不可能なレベルでは?」

 

「そうだな。実験していないが私でも無理だろう。それを可能にする何かトリックがあるんだろうな」

 

「敵が墓場荒らしの常習犯『ズーラーノーン』であれば地道に用意していたのかも知れませんね」

 

「そうだな。では答え合わせといこうか?セバス」

 

「はい 以上の情報と状況を鑑みますに、全て無関係と考える方が無理があると思います。」

 

「うむ」

 

「総括しますと、「漆黒の剣」を殺してンフィーレア少年を拉致したのは元・スレイン法国女性隊員とその協力者のマジックキャスターであり、現在の墓地での異変と漆黒の剣の3人がアンデッドになっていた事から地下組織ズーラーノーンが深く関係している可能性が高いという事。」

 

「そうだな」

 

「そして法国の秘宝であるアイテムを使用するためンフィーレア君を利用して、何か事件を起こそうと企んでおり、同時に法国の女性隊員はそれに乗じて法国の包囲網からの脱走を図っているのではないかということ」

 

「うむ」

 

「モモンガ様でも不可能な量のアンデッドの作成と操作をしていることから、法国の秘宝はアンデッド関連のものか、元々アンデッド関連が得意なズーラーノーンの術者の魔法力を高める作用を持つもの、等が推測されます」

 

「うむ そんなところだ。ちなみに、この者達が使っている魔法は《アンデス・アーミー/死者の軍勢》と《アニメイト・デッド/死体操作》ではないかと推測できる。が、あれは第7位階という、なかなかの高位魔法でな。この世界であれらを使いこなせるならそもそも、この世界の最高の第六位階の魔法詠唱者であるという帝国の「フールーダ・パラダイン」以上の立場を得ることも可能な訳で、それだけの地位と権力があるならこんな非合法組織で燻る必要もないだろう。堂々と大魔術師として権力を握りやりたいことをやれば良い訳だからな。法国の秘宝は恐らく魔法力の上昇であり、普段、術者が使えない位階の魔法を使っていると私は予想する。まあ、だとしてもこれだけの量のアンデッドを起動するには他にもタネがあるんだろうがな。」

 

「さすがモモンガ様。」

 

「まず、ナザリックの支配者として良き協力者に成ってくれそうだったンフィーレアを奪還するのは当然だな」

 

「はい もしも少しでもナザリックに被害や危険が及ぶのであれば問題ですが、今回に於いても敵は我々を脅かす存在たりえません」

 

「そして これは私の我が儘なんだが‥‥アンデッド化してしまった3人はともかく、ニニャだけでも蘇生しようと思う」

 

「はい よろしいかと。」とユリが頷く。

 

「蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使って蘇生させるつもりだ。」

 

「えっ しかしあの杖は使用回数が決まっている物では?ルプスレギナを呼んでまいりましょうか?」

 

「いや ニニャはレベル10を越えては居るが《死者復活/レイズデッド》ではペナルティによるレベルドレインでレベルが5になってしまい、一度死んでいた状態から蘇生した事がバレバレだ。ペナルティ無しで蘇生し、ぎりぎり息のある状態で発見しポーションなどにより回復させた事にするのだ」

 

「すみません。蘇生の何が駄目なのでしょうか?モモンーー様として評価が高まるだけなのでは?」

 

「《死者復活/レイズデッド》まで使えたら、本当に危険視されるだろうし、余計な面倒事が増えるだけだからな。」

 

「はっ」

 

「では、まあ怪我の功名じゃないが、この状況を利用して我々の名声も上げさせてもらうことにしよう。この後の手順だが‥‥‥‥」

 

 

そう淡々と作戦を語られるモモンガ様の指は怒りと悲しみからか、わずかに震えているようにセバスには思えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「リィジーよ。私はこれからオマエの孫のンフィーレア君を救いに墓地に向かおうと思う。」

 

「なっ 孫は何故そんな所にっ?!」

 

「彼の持つタレントを利用して地下組織ズーラーノーンが街を数千体のアンデッドで襲おうとしているらしい」

 

「なっなんじゃとお?!」

 

「我々が今から救出に向かうから心配はしなくて良い。オマエに頼みたいことは2つある。1つはこの事を街の衛兵などに伝えて警備を厚くして墓地から溢れだすアンデッドを防ぐこと。2つ目はこの奥の部屋でニニャというンフィーレア君を守るために頑張った女の子が居る。我々がポーションを大量に使用し瀕死の重傷からは脱したが、まだまだ不安定な状態なので看てやってほしい。」

 

まあ、まだまだ目をさます事は無いと思うが‥‥。

 

「わ、わ、解った。年寄りにはキツイのう‥‥展開が早すぎて。」

 

「よし、ハムスケ入れ」というと「わかったで御座るよ。殿」という声と共に薬品店にノッソリとハムスケが入ってくる。リィジーは「ひゃあっ」と悲鳴を上げた。

 

「これは高名な『森の賢王』だ。言葉も喋れるし頭も良い。ハムスケを護衛につけるから先ほどの二つの件を宜しく頼む。」

 

「う、うむ 分かった。」

 

「あと ンフィーレア救出の報酬は要らないが、お孫さんがお願いがあるらしいのでそれを聞いてあげてくれ。」

 

「はは、まだ助けてもいないうちから大した自信じゃのう‥‥だけどお陰で少し落ち着けたし安心もしたよ。どうか孫のことをお頼みもうします‥‥。」

と言って深々と頭を下げる国一番の薬師に「ああ、任せるが良い。」と告げモモンガ一行は墓地に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「さて これで第一段階終了だな リィジーが沢山の人間を集めてくれるだろうからセバスとユリはギリギリ彼らや衛兵から見える位置で派手にアンデッドを叩き尽くせ。」

 

「はい お任せ下さい」

 

「当然だが街に被害は出さないように人も街も守りきれ」

 

「望むところで御座います」とセバスが深く一礼する。

 

仕事は、やりたい者にやらせてあげる‥‥‥本当だな

更にメッセージでアルベドに色々と指示を送り作戦を確認する。

『うむ シャルティアを敵が逃げそうな地点に配置させておいてくれ。そうだ何人かは捕獲、残りは殺して良いから一人として逃がさないよう伝えよ』

 

「モモンガ様、墓地の門が見えて参りました。」とユリが話しかけてくる

 

「うむ‥‥そろそろみんなモモンの方で呼んでくれ。‥‥もう、アンデッドが押し寄せて来ているようだな。」

 

5m程の高い塀の上で衛兵が必死に、昇ってこようとするアンデッドの群れと戦っていた。すでに何体かには昇られて側撃を受けて倒れる衛兵の姿も見える。なんというか思っていたよりも緊急事態な気がする。

しかし当然先程別れたばかりのリィジーによる衛兵の応援も間に合わなさそうな雰囲気だ。

 

「退却だ!退きゃーーーあく!」という叫び声が兵の上から聞こえてくると共に駐屯所の階段から必死な状態の衛兵が駆け下りてきた。

モモンガ達を見つけると一瞬、「冒険者か!」と助けを求めようとした様だったが、身につけているプレートが「銅」だったのと黒い鎧の偉丈夫以外は白髪の老人と女が2人という構成を見るや「銅プレートか‥‥。おい、あんた達!逃げろ!アンデッドが大量に湧いているんだ!出来れば住民への避難誘導を手伝ってくれると有り難いんだが頼めるか!」と逃げることを促してくる。意外と言っては失礼かも知れないが誠実さを感じて、モモンガやセバスは好ましさを覚えた。

 

「ナーベ、剣を」とモモンガが指示するとナーベラルは2本の大剣を差し出し、うち一本をモモンガは手にする。

 

「おまえたち、後ろを見ろ」

こんな状況に関わらず、冷静さと威厳を持ち合わせた言葉に衛兵達は自分たちが居た墓地を取り囲む塀を見上げた。

 

アンデッドが集まると、それらが合体し、より高位のアンデッドが生まれる。その高位のアンデッド同士が合体するとより高位な異形のアンデッドが生まれる。だからアンデッドを生み出すような大きな街の墓地には見張りが常駐しており早期のアンデッド退治をしているのだ。

 

そして、千体を超えるアンデッド群が作り出した10mほどの骨と腐肉で出来た怪物がそこには居た。

想像を超える光景に衛兵達は言葉も無く立ち尽くし、街を捨てる以外に道は無いのではないかと慄然とする

しかし、黒い鎧の騎士は巨大な怪物に大剣を無造作にただ投げた。

 

ザスッ 

 

鎧に合わせて誂えたような黒い大剣は怪物の眉間に深々と刺さり、アンデッドの怪物は「グガァォォォォ‥。」という断末魔と供に自壊し潰れていく。

 

息を呑んだ衛兵隊長が振り返り黒い鎧の冒険者を震える体で見る。

 

「‥‥‥あ、あんた何者なんだ?」

冒険者はそれに答えず、ただ静かに

 

「門を‥‥開けろ」と口にした。

 

「冗談ではない!アンデッドが街中に溢れ出したらどうなると思ってるんだ!?」

「門の向こうにはアンデッドの群れが居るんだぞ!?」

「それも数百というレベルじゃないんだ!悪いことは言わない、ここは門を閉ざして応援を待つべきだ。」

と衛兵たちは次々に黒い鎧の冒険者を押しとどめる。

 

「‥‥応援ならココに居るだろう?まあ良い。では私たちは墓地の中の首謀者を叩く。そして、この2人はこの門を守るから君たちは彼らが撃ち漏らしたアンデッドを掃除してくれ。」

 

「あ、あんた!な、なにを言っているんだ!?」

 

「私はモモン、このチームのリーダー、モモンだ。後は頼むぞ」と告げると 「ふんっ」 と云う掛け声で赤いマントを翻し、黒い鎧の冒険者と白髪の老人、そして眼鏡の女性は跳躍のみで壁を乗り越えて行く。残った1人の黒髪長髪の美女も「フライ‥‥。」という言葉と供に体を宙に浮かせて飛んでいく。先程の卓越した身体能力と云い、魔法詠唱者による高位魔法フライと云い、確かに只者ではない感じがするし、実際に強いのだろうが‥‥何故「銅」プレートなのだろうか?という疑問を残したまま、彼らは目を合わせる。

 

冒険者が街のためにあれだけ危険な真似をしていると云うのに衛兵として傭われている自分たちが逃げるなど出来ない。

衛兵達は自殺行為の様な行動を取った冒険者に驚きつつも急いで壁を登り、アンデッドに囲まれているであろう光景を思い浮かべながら、いざと云うときのために救出用のロープを手に門の内側を見た。

 

 

 

----そこに居るはずのアンデッドの群れは存在しなかった。

 

 

ただただ地面に散乱する人骨であったであろう白や茶色の残骸。それが絨毯のように敷き詰められていた。

そして遠くの空に見えるのは、先程のフライを唱えた長髪のマジックキャスターと、飛んでいる彼女に掴まっている黒い鎧の騎士。

そして30m先の墓地で白髪の老人と眼鏡の若い女性だけが取り残されていた。

さらには彼らに群がりつつある夥しい数のアンデッドの群れが見える。

 

「なんだ!?本当に2人だけ置いていったのか!?」

 

「彼らは武器も何も持ってないぞ!?」

そう、残された2人は徒手空拳である。衛兵隊長が叫ぶ。

「おーい!急いでこっちに来るんだ!ロープに掴まってくれ!」と墓地内へとロープを垂らす。

2人はまるで微笑ましいものでも見るかのように優しい衛兵達に一礼するとアンデッドに向き直る

 

「あー危ない!」と衛兵が叫んだ瞬間

白髪の老人に飛びかかったアンデッドの鼻先を老人が指先で「パシッ」と弾いた瞬間、アンデッドの頭蓋骨が粉々に粉砕される。

 

え? と衛兵達は驚くと今度は眼鏡の艶やかな女性が腕ごとガントレットをアンデッドに叩きつけて、やはり一撃でアンデッドが粉砕される。そう 折れるのでも砕けるのでも無い。文字通り一撃でアンデッド達は砕け散るのだ。

更に彼らはまるで舞踊の様に流れるような動作で拳、蹴り、手刀を繰り出しながらアンデッドの群れに突っ込んで行く。そして彼らがすれ違ったと思った瞬間にアンデッドは残骸と化し、白い絨毯が広がって行くのだ。

 

 なんなんだこの人達は……なぜ彼らがカッパーチームなんだ?そんな思いに囚われると同時に、彼ら二人ですら途方もない強さである。彼らを置いて、この首謀者を叩きに行った黒い鎧のリーダーと思しき男はどれだけの強者だと云うのだろうか。計り知れない……と塀の上から衛兵達は呆然とする。

 

「はははは……なんだコレは?俺たちは夢を見ているのか?」

 

「モモンと言ったな‥‥俺たちは伝説を目にしたのかも知れないな……」

 

「ああ……漆黒の騎士……いや、『漆黒の英雄』の伝説をな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あがあ゛あああああああああああああああ!? うぐうううういああああああ!!!!」

 

 

 遠くから見れば大きな男性が恋人を熱く抱きしめ、女性は「もう馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」と恋人の胸を叩いているような痴話喧嘩のシルエットに見えなくもなかっただろう。

 しかし、そこで行われていたのは、時間を掛けて行われる屠殺であり、突然降って湧いた『死』への抗いの饗宴であった。

 

 女は何度も何度も男を叩く、叩く、叩く、男の白くて鈍く輝く白磁の様な骨を叩き続ける。

 

拳で、腕で、肘で叩き、噛みつく

 

恐怖と怒りと憎しみと、生への執念の全てを叩きつけ

 

そして飛び散るのは女の汗と血と歯と、命だった。

 

ナザリックの王は、ただ静かに今、散りゆく命を見つめる。

 

暗闇の広がる眼孔に灯る炎にも似た赤い瞳は色と揺らぎに反して、ただひたすら冷たい温度を感じさせた。

 

 ずっと静かだった死の王は、ただ一言

 

  ──もうそろそろ終わりにしよう……。

 

 とだけ断末魔の悲鳴を上げ続ける女の耳元に囁くと、腕に力を込めて何かが潰れ折れた様な音と、続けてボタボタッと色々なモノが大地に叩きつけられる音と共に、厳かに『死の抱擁』を為し終えた。

 

 口から血だけでなく内臓までをも溢れださせた『元・漆黒聖典第九席次』だったモノは『死の王』から無造作に投げ捨てられる。

 

「誇りに思うが良い……女よ。オマエは俺が初めて自らの手で殺した『ニンゲン』だ……」

 

 そう呟くとモモンガは自らの手を見つめる。暗闇の中、ゆらゆらと緑の光が体中から立ち上がる。それは知らない者が見れば美しさも感じたかも知れない。その光は怒りと哀しみから構成されており、隠し味として無意識の罪悪感が振りかけられていたことに気づく者はこの世界には居ない。

 

 モモンガはメッセージでシャルティアを呼ぶ。

たちまちゲートが開くと暗闇のトンネルからいつも通りの白蝋じみた肌をボールガウンで身を包んだ『真祖(トゥルーヴァンパイア)』のシャルティア・ブラッドフォールンが美しい顔(かんばせ)を露わにすると、フィンガーレスグローブに包んだ腕でスカートの端を摘んで一礼する

 

「ご苦労だったな、シャルティア。いつも、重要ではあるが地味な仕事を任せてすまないな。そちらの首尾はどうだ?」

 

「有り難うございます。モモンガ様 6人程確保してゲートでナザリックに送らせて頂いたでありんす」

 

「6人か……思ったより少ないな。まあ、ズーラーノーンの情報を得るには十分な人数だな。」

 

「ナーベラルが張り切って沢山黒焦げにしてしまったでありんす。私も2人ほど逃げられそうだったので殺してしまったでありんすが……」

 

「そうか‥‥オマエが手に掛けたのなら凄い死に方をしてるんだろうな……」

 

「そうでありんすね。一人は頭から股下まで爪で真っ二つに、もう一人は腹を切り開いて内臓祭りでありんす。よろしければ御覧に為られますか?」

 

「……いや 良い。そういう死体は冒険者モモンと仲間達が手を下したには相応しくないしな……持って帰ってエントマへのお土産にでもしなさい」

 

「解りましたでありんすえ。エントマ喜ぶでありんしょうなあ~」

と言いながらさり気なくモモンガとの距離を詰めたシャルティアはモモンガの足下にある死体に気づいた。

 

「? モモンガ様、これはなんでありんしょうか?」

 

「ああ それでオマエに来てもらったのだ」

 

「はい?」

 

「コレを回収してナザリックに持って帰り、ペストーニャに蘇生魔法を掛けてもらって生き返らせてくれ」

 

「はい」

 

「で、生き返ったらヘタに拷問や尋問魔法を掛けたりせずにパンドラズアクターにタブラさんに変身してもらいコレの脳を喰わせろ」

 

「ブレインイーターの能力を使って情報を引き出すんでありんすね」

 

「うむ で、パンドラズアクターが咀嚼し終えて書き出せるだけの情報を書き出した後、実験がてら脳の無いコレに再びペストーニャに蘇生魔法を掛けさせろ」

 

「んふ! 生き返らせて殺してまた生き返らせるのでありんすか! ジュルッ、た、楽しそうでありんすえ!」

 

「でだ、一応コレはこの世界では『英雄級』の傑物らしいからな。勿体ないし、オマエの眷属にせよ」

 

「そして今度は人間としての命を奪う!? こ、これは……堪らないでありんす……」

 嗜虐趣味のシャルティアは何故か股間を押さえる様に蹲ると赤い目をギラギラさせてヨダレを流し始めた。

 

「かなり深めの眷属にせよ。その状態で再び情報を聞き出して、パンドラズアクターとの情報の整合性と正確性を比べるのだ。またアンデッドになった後も、スレイン法国の尋問防止魔法が効果あるのかどうか知りたいしな」

 

「解りましたでありんす。で、モモンガ様……それらの役は是非ワタシに……」

 

「勿論だともシャルティア。それらをオマエの責任と監修の下に行う事を許そう。楽しむが良い。オマエのペットにした後も屈辱と恥辱を与え続けるが良い。聞き分けがない様なら恐怖公の元に送り、回復力とのバランスを取りながら死ねない体を貪り食わせれば大人しくなるだろう。ああ、無論コレはオマエのオモチャだから好きに遊べば良い。いつも縁の下の力持ちとして頑張ってくれているオマエへの労いの品だと思ってくれ」

 

 主人の言葉を聞いていたシャルティアは途中から気絶をしそうなほどに感激した。

 愛しい方に認められ、頼られ、そして御褒美まで頂けることに。

 

(そばに居られるナーベラルやユリも羨ましいけれど、ワタシがいつも美味しい思いをしている気がするでありんす~)

 

そう思いながらウキウキとゲートを開きモモンガに一礼するとクレマンティーヌと呼ばれていた残骸と供にゲートの奥に消える。

 

 

 ……今回は、『モモン』の名声を一気に高め、地下組織ズーラーノーンと最大の障害だと考えるスレイン法国の2つの情報を手にする事が出来た……そして……とモモンガは自らの手を見る。汚れ無き白い骨だが、今は血塗られた手に見える。いつかはこうなると思っていたし、同時に部下だけに手を汚させている事に対して後ろ暗い気持ちでいた。だから、これで良い。そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 子供達よ……これからは私も一緒だ。共に血塗られた覇道の道を征こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の中から子供のように泣きじゃくる女の子の声が聞こえる。

 前を歩くセバスがそのドアをノックしなければ、モモンガとしては、もう少しこの廊下で心を落ち着かせていたかった。

しかし、ドアは無情にも開かれ、中には女の子用の寝巻きを着たニニャがユリ・アルファの胸に抱かれて泣き続ける。

 

 痛ましい……と素直にモモンガは思った。「シルバープレート」になるまで共に冒険をし、そして自分を庇い死んだ3人の仲間を思うと涙が止まらないのだろう。自分だって、あの40人が同じように死んだら泣くだろう……今なら守護者達が居なくなったとしても悲しみに暮れる気がする。大切なモノが増えたからと云って、昔の大切なモノが消える訳ではない。

 

 モモンガが入室し目配せをすると心得ているユリとセバスは退室し、ニニャと二人きりになる

 

「ニニャ……すまない。」とモモンガは頭を下げる

 

 突然の出来事にニニャが驚いて涙が止まる。

 

「そ、んな……モモンさんが謝ることなんて……むしろペテル達の仇を討ってくれたと聞きました。有り難うございます」

 

「いや 君しか助けられなかった……それが逆に君を苦しめているのでは無いかと思ってね」

 

「……いえ、そんなことは……」と言ってニニャは顔を伏せる

 

「今は良い。今は心も体もゆっくりと休めてほしい。君は一度死にかけたのだから」

そう言うとニニャはクレマンティーヌの非道を思い出したのか恐怖に自分の体を抱きしめて震える

モモンガはわざとニニャが見える位置に手を持って行ってからゆっくりと顔の位置に移動させていき、ニニャの頭を優しく撫でる。

 

「っあ……」

 

「ニニャ 良く頑張ったな、偉いぞ。……ありがとう、生きていてくれて」

 モモンガがそう言いながらニニャの頭を撫で続けるとニニャは「えっうっ……」と嗚咽しながら布団のシーツを握りしめる。

 

「有り難うございます……本当に有り難うございます助けてくれて……。一体どれほどの御恩を頂いたことか……」

 

「良いんだ。気にするな」

 

「でも金貨8枚分もする高級ポーションを沢山使って頂いたとリィジーさんから伺っておりますし……」

 

「あの人も余計なことを……。そうだな ではニニャよ そういう恩を返さないと心苦しいと言うならいくつか提案をしても良いか?」

 

「? は、はい。どんな事でも大丈夫です。恩返しをさせて下さい。」

 

「では、まず1つ。我々にはまだチーム名が無いのは知ってるな?」

 

「はい」

 

「私が敬意を払うに値すると思っているチーム名「漆黒の剣」を頂いても良いかな?」

 

「えっ!?そんな……ただのシルバープレートチームですよ?」

 

「ニニャ……『ただの』では無い」黒騎士は首を振る

 

「…はい…はい…有り難うございます」

 

「ただ『漆黒の剣』だと、やはりそれは君を含めた彼らのチームだという思いが私にも強い、だから『漆黒』の文字をもらっても良いかな?」

 

「はい…きっと彼らも喜びます」

 

「では我々はこの時からチーム『漆黒』だ。次にだが……この後のことはどうするか決まっているのか?」

 

「……そうですね 一応、第二位階のマジックキャスターですから、どこかの冒険者チームに入れてもらえるとは思います……。ただすぐに冒険に出るのはまだ怖いかも知れませんから、一度田舎に帰ろうとも考えています」

 

「そうか それで2つ目の提案だが……チーム『漆黒』に入ってくれないか?」

 

「えっ!? な、な、なにを仰っているんですか?」

 

「そんなに驚くことかな?我々はこの国の事で知らないことが多すぎるし、君は博学で頼りになる。そもそも『漆黒』の名前は『漆黒の剣』からもらうのだから、『漆黒の剣』のメンバーである君が入るのはむしろ自然だと思うが。」

 

「いやでも……私と皆さんでは実力に開きがありすぎます。足手まといにしかなりません」

 

「いや 君が必要なんだよニニャ 私はユグドラシルの情報探索のために、なかなかチームで活動出来ないんだ。うちのチームのマネジメントが出来る人が居てくれると本当に助かるのだ。それに君のお姉さんを捜すにも我々と共に居た方が良いと思う。」

 

「っ 命の恩人にそこまで言って頂いては断るすべを私は知りません‥‥では頑張って足を引っ張らないように精進させて頂きます」とニニャは深々と頭を下げる。

 

「ああ よろしく頼む」

 

「ただ……こんなに身の振り処がトントン拍子で決まってしまうと、なんだかペテル達のことを忘れてしまいそうで怖いです」

 

「いやそれは違うよ。ニニャ。自分の心の中の部屋数が増えるだけで、前にいた住人を追い出す訳じゃないんだ。私たちも君にとっての大切な何かに成りたいとは思っているが、それは彼らを追い出して居座りたい訳じゃないんだ。彼らを大切なままで私たちと過ごしてくれれば良いんだよ」そう言うとモモンガは先程とは違いやや乱暴にガシガシとニニャの頭を撫でて立ち上がり部屋を出て行こうとする。その後姿にニニャが声を上げて留める。

 

「あの‥‥仲間にして頂けるのでしたら、もう後悔したくないので幾つかお話しておきたい事があります。」

 

「‥‥ああ 聞かせてもらおうか」

 

「私が女である事はもうお分かりの通りですが、実は『ニニャ』という名前も本当の名前では有りません」

 

「ほう」

 

「姉の名前が、『ツアレニーニャ・ベイロン』と云うので、そこから名前を捩りました。本当の名前は…セリーシア、セリーシア・ベイロンと言います」

 

「そうか どちらも君で在ることに変わりはない。君は私達の仲間だ。いつか私の秘密も君に話したい」そう告げるとモモンガは立ち上がり部屋を出る。

 

 

ニニャはモモンガが出て行った後も長く、長くその広い背中に頭を下げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、モモンガが宿屋の客室でゲートを出そうとしたとき、不意にユリ・アルファに手を掴まれる。

 

「?」

 

ユリにこうして手を掴まれるのは初めてだ。一体どうしたというのだろう?

ユリは「こちらへ‥‥」とモモンガと手を繋いだ状態で嫋やかに部屋から出て階下の酒場へと階段をモモンガをエスコートして降りてゆく。

 

 どこへ‥‥?と戸惑うモモンガを、ユリはセバスとナーベラルが着座する酒場で一番大きなテーブルへと案内する。

モモンガが来ると、彼らは座ったままで「お疲れ様でした。」と挨拶をした。

 

「モモン様‥‥御席にお着き下さい」

 

「あ、ああ‥‥どうしたんだ?ユリ」

 

「では、遅くなりましたが、只今より『ウチアゲ』を開催させて頂きます!」

 

「セバス‥‥オマエたち‥‥。」

 

その4人だけでは大きすぎる楕円形のテーブルの上には8人分のグラスと皿が置かれていた。

「そうか‥‥彼らの席も用意してくれたのか‥‥。」

 

「モモンガ様も彼らも、お召し上がりになれないのが残念ですが‥‥」

 

 モモンガは静かに首を振りながらも優しい目で自慢の我が子たちを見渡して告げる

 

「ふふふ 良いのだ。知らないのか? 私は宗教上の理由で殺生をした日は断食して悔い改めねばならんのを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

アルベドからの仕事報告で上がってきた地図が完全に俺が歩いたところばかりなのだが‥‥しかもやたら詳しい。

なんだよ アイツは俺のオートマッピング機能か何かか? 

‥‥今まで遊んできたRPGのオートマッピングがゲームの中のヤンデレの神様の仕業だったらどうしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

ボツ案

 

クレマンティーヌ退治の後、約束の酒場にて

 

 

「モモン様‥‥席にお着き下さい」

 

「ん?どうしたんだナーベラル」

 

「では、遅くなりましたが、只今より打ち上げを開催させて頂きます!」

 

「セバス‥‥オマエたち」

 

「さあ ナザリックの誇る料理人の腕を存分に味わって下さい!」

 

「まずはオールオニオンのスープで御座います。」スッ

 

「二皿目はヴィルゾフのフォアグラのポアレで御座います」スッ

 

「三皿目はピアーシングロブスターでございます」スッ

 

「四皿目はメインディッシュのヨトゥンヘイムのフロストドラゴンのステーキで御座います」スッ

 

 

 

「違う これは断じて打ち上げでは無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボツ案 2

 

「あっ ちょっと!魔獣を置いていかないでくださいよっ!恐いですって!食べられちゃいますよ!」

 

「ええっ 拙者を食べるので御座るか?!確かに若い雌肉でござるから柔らかくてジュウシーだとは思うでござるが‥‥」

 

「いや そういう意味じゃないです」

 

「そういう意味じゃ‥‥はっ そんな!集団で多人数のオスに食べられるということで御座るか?薄い本みたいに?!」

 

「性的な意味でもねえよ」

 

 

 

 

 

 

 




 






244様 yelm01様 まりも7007様、knit様、誤字脱字を修正して頂き誠に有難うございます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。