ナザリック地下大墳墓の執務室で、モモンガはスレイン法国の特殊部隊に居たクレマンティーヌから、数々の方法により抽出された報告書を食い入るように読み漁っている。
『六大神』 600年前に異世界より舞い降りた6人の神。その血を引き、能力を覚醒させた人間をスレイン法国では「神人」と呼ぶ。
『八欲王』 500年前に異世界より失墜してきた神。瞬く間に大陸を支配し、仲間割れと竜王との争いによって滅んだ。彼らの拠点が砂漠にある空中都市である。
『十三英雄』 200年前に異世界より来訪してきた神々。
実際は13人以上いる。実は亜人種も含まれているが人間である13人だけが伝説として語り継がれている。
『魔神』 200年前に世界を荒らし回り、十三英雄によって封印された存在。その正体は六大神の死後暴走した彼らの従属神達である。
……ついに、ついに、ユグドラシルのプレイヤーだと思われる者達の情報が入手出来た。
彼らの残したアイテムや魔法、召喚した天使などから、間違いなく彼らはユグドラシルのプレイヤーであり、私と同じようにギルドごと転移して来たのだろう。
オーバーロードも歩けば棒に当たるとは良く言ったものだ。
ただ プレイヤーの存在は過去の歴史として解ったが、プレイヤーに作られた国っぽいのに思ったより情報が少ないのが残念だ。
パンドラズアクターとシャルティアの尋問によると クレマンティーヌは、どうやら漆黒聖典として迎えられてから座学などで一般教養レベルよりも深く、国の秘密なども教えられていたのに、やさぐれていてサボりまくった結果、殆ど歴史学などの事は覚えていないらしい。ちなみに『ユグドラシル』という言葉すら知らなかった。
なるほど……こいつは井の中の蛙を地で行くタイプだったんだな……そりゃあんなに増長するよな。プレイヤーの事など知っていたらあらゆる可能性から、もっと慎重に行動したかも知れないが……。と言っても「漆黒聖典隊長」「番外席次」という『神人』と呼ばれる強者の情報が入ったのは有り難い。
……さて 問題はこのプレイヤー達が、俺と同じように『ユグドラシル』サービス終了に伴い転移させられたのか、それともその前から定期的に転移させられたのか……。100年毎に1ギルドずつ現れるってのが気になるな。今回は俺だけという事なのかな?
そして、プレイヤーを『神』としているわけだから、「従属神」というのはNPCの事だろうか? 俺が居なければナザリックと階層守護者達だけが転移してきて同じように暴走し魔神と呼ばれていたのかも知れないと考えると、自分も転移されたことにホッとする。
その他にもクレマンティーヌのお陰で謎多きスレイン法国の全容が、かなり掴めた事は意味がある。
今までは法国人ならだれでも知ってる一般常識止まりだったのが、史学などに精通してないまでも現在の内部情報がタップリと手に入ったのは有難い。
土、水、火、風、光、闇の巫女達とその役目‥‥最強部隊漆黒聖典の各メンバーとその強さ、装備、戦い方など。そして秘密兵器、番外席次『絶死絶命』と呼ばれる六大神の血を呼び起こした「神人」。
「神人」か……つまり600年前に転生してきたプレイヤーの血族で覚醒せし者。コイツらはもしかしてユグドラシルレベルで100レベルの強さ、もしくはそれ以上の可能性もあるかも知れないな。要注意だ。
スレイン法国は人間種以外を排除していることから当然、『六大神』や『神人』も「ニンゲン」種だと考える所だが、実は「スルシャーナ」とは六大神の一人でありながら、骸骨姿のアンデッドだったらしい。という事は、死なないまま、今も生きているのかな?と期待したものの、
「100年後に現れた八欲王に襲われて何度も何度も殺され続けて死亡した」という説と「追放されて行方知れず」という説が二つあり、後者の「説」を信じる人は現人神としてスルシャーナを信仰する人々も居るらしい。
……「何度も殺された」というのは殺されては復活して、ペナルティによるドレインでレベルが「5」ダウンし、そしてまた殺されて復活して、ペナルティドレインでレベルが「5」ダウンを繰り返して「0」になり消滅した。という事だろうか?……まてよ?これ、普通に考えると「スルシャーナ」の味方側の者が「スルシャーナ」を復活させている……と考えるのが当然だが、例えば「スルシャーナ」を「殺している側」の八欲王が「殺す」のでは無く「完全消滅」を目的として、殺すたびに低位の蘇生魔法で敢えて復活させてレベルドレインを繰り返していたとしたら?
‥‥‥ありうる。
その考えに至った時、モモンガは、そして鈴木悟は反吐が出る思いに全身を震わせて、ゆっくりと輝く我が身を見た。
今更‥‥という思いもあるが、なんだろう、同じリアルの世界を生き、そしてゲームの世界へと移転する様な境遇の仲間じゃないのか?
スルシャーナは「八欲王」と呼ばれる者達が飛来したとき歓んだんじゃないのか?「ああ、自分の本当の世界の仲間が来た」と、人間種をキャラメイクの時に選んだばかりに自分を置いて死んでゆくギルドの仲間たちを見送りながら。
何故なら、自分もそうだから‥‥‥残された‥‥という意味でだが、その気持が解ってしまう。
そして、100年もの月日を経てあらわれたプレイヤーが「八欲王」だ。
こいつらは弱者ばかりの世界で、唯一、自分たちの脅威になりうる「スルシャーナ」を完全に消滅させるまで殺し尽くしたのだ!同じ人間をだ!本当の意味での同族をだ!何故そんなことが出来るんだ!? そして結局、最後はドラゴン族との戦いと、仲間割れで殺しあい滅んだという‥‥‥クズには相応しい最後だな。
‥‥‥いや 待てよ
そもそも「スルシャーナ」という人外の神を崇めていたスレイン法国が何故、今は異形種キラーマシンになっているのだろうか? 六大神の出現から八欲王の登場まで100年‥‥スルシャーナという強く目障りで恐怖でもある存在を法国の一部、例えば、その時の六大神の子孫達が疎み、「八欲王」に協力した‥‥とか?だとすると暴れ放題だった八欲王の後にも「スルシャーナ」を擁して戦ったはずのスレイン法国が存在する理由にはなるな‥‥ふむ。
こうなると前者の「何度も殺された」という具体的な説の方が意味があって正しいんだろうな‥‥。「追放された説」は自分たちの神様が殺されるという屈辱から逃れるための言い訳か、もしくは神殺しに手を貸した事を隠蔽するためか。正直、話の分かるやつなら是非、生きていて欲しい。同じエルダーリッチ系かも知れないから仲良くなれそうだしな。
まあ どっちにしろ「八欲王」はクズ 解ってんだよね
さて ズーラーノーンと邪神教団の関係性なども実に興味深いな。実はここにもスルシャーナが出てくるんだよな。
同じ骸骨なのに大人気だなアイツ。 正直少し羨ましい。
さて‥‥‥これからは私よりも優秀な彼らにある程度『事情』を話して一緒に考えてもらうしかないだろう。
支配者たらんとして虚勢を張り続けて守らなければならない幻影などもう必要ないハズだ。彼らを信頼する。それが彼らの想いに応え、アインズ・ウール・ゴウンが羽ばたくための最も大きな力になるだろう。
モモンガは必要のない深呼吸を二度三度繰り返す
そして 彼らとの交流、彼らの顔を目の前に浮かべると覚悟を決める。
よし、メッセージだ‥‥‥。
『アルベドよ デミウルゴスとパンドラズ・アクターを伴って執務室に来て欲しい。話し合いたい案件がある。』
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いやはやいやはや……なんという凄いお話だったのでしょうか、今回のモモンガ様のお話は。
デミウルゴスは悩ましげに、そして嬉しそうに腕を組みながら第七階層へと続く廊下を歩く。その指には「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」が大事に填められており、本当なら一瞬で自分の守護階層へ戻れるのであるが、主人に呼ばれた時はお待たせしないためにリングを作動させて瞬時に馳せ参じるが、帰りはゆっくりと至高の御方が造って下さったナザリックを味わい踏みしめ、感謝しながら第七階層へ戻るのがデミウルゴスの常であった。
「リアル」という名の世界と「プレイヤー」という存在。 今まで、あやふやなままで認識していた概念を定義づけて下さった。これは本来なら下僕ごときが知るべきではない程の智見である事は確かである。
しかしながらモモンガ様は「これはオマエ達、ナザリックの3首脳だけでも正しく認識しておくべき事である」と仰って下さいました。
まず、元々の世界ユグドラシルには「元々存在したモノ達」、「至高の御方により造られた私たちの様な存在」、そして「プレイヤー」と呼ばれる至高の方々たちの3つで成り立っていた。
「プレイヤー」は元々「リアル」と呼ばれる世界の住人であり、「リアル」と「ユグドラシル」を往き来していた。
しかし「プレイヤー」にとっての本来の住処である「リアル」という世界での戦は至高の御方を以ってしても非常に厳しい物であり、しかも敗北すると復活が出来ない「死」が訪れるため、皆「リアル」での戦いに身を窶すしか無く、「ユグドラシル」へと来ることが出来なくなってしまったというものでした。
思い起こして見れば、我が造物主たる「ウルベルト・アレイン・オードル」様も「リアルでの戦いが辛い……」とモモンガ様に嘆いておられた事が多々ありました。
そんな時でもモモンガ様はウルベルト様の悩み苦しみを穏やかな顔で聞き続け、アドバイスなどを送って下さっておりました。あのころから本当にあの御方は‥‥‥慈悲深き御方で御座います。
そして今回分かったのは、我々と同じように「ユグドラシル」から100年毎に「この世界」へと移転を繰り返す「プレイヤー」が居る。 モモンガ様が仰るには「ギルド」ごとの移転をしている様です。それを伺った瞬間アルベドと目が合いました。きっと彼女も考えたのでしょう。ギルドだけで移転してモモンガ様がおられない状況や、モモンガ様だけが移転して我々がおそばにお仕えできなかったという可能性の恐怖を。
そして、「プレイヤー」の存在こそが我々ナザリックに取っての剣呑な案件であると云うこと。確かに敵対勢力にモモンガ様の様なプレイヤーが複数人居たとしたら……。
我々がどれだけモモンガ様をお助け出来るか……しかし前回の様な1500人という馬鹿げた相手では無いのでオマエ達でも充分対処できるとモモンガ様は仰って下さいましたが……。
そうした時にアルベドが「私にルベドとシャルティア、パンドラズアクターをお貸し下さい。プレイヤーなるものは放置するに危険と見ます。探しだして葬るべきでございます」と提案しましたが、モモンガ様に即時却下されてアルベドは涙目になってました。ですが、モモンガ様より頭を下げられて「それは最後の手段に取っておいてくれないか?全て手を尽くした後にそう判断せざるを得ない時は覚悟を決めよう」と仰られたからには我々守護者としては承服の返答しかございません。
‥‥‥しかし、あの「いと強き至高の御方々」でも命がけで戦い続けになられるとは「リアル」とはどれほどに修羅の世界なのでありましょう。 そしてその修羅の世界をも捻じ伏せた上で、我々の世界「ユグドラシル」にてナザリックを運営し、支配し続けて下さったモモンガ様の手腕たるや!まさしく至高の方々を束ねるに相応しき妙妙たる御方で御座います。
エ・ランテルの墓地 並んで建てた3つの墓。その十字架の真ん中の窪みには漆黒の短剣が埋め込まれている。
同じ漆黒の短剣を腰に差した中性的な女性が長い祈りを終えて立ち上がり、祈りを捧げている間ずっと待っていてくれた相方が話しかける。
「もう‥‥良いので御座るか?」
最近まで『森の賢王』と讃えられていた魔獣は円らな瞳を輝かせながら彼女を待つ。
「ふふ お待たせしました。では行きましょうか」
彼女、ニニャは「エ・ランテル」を旅立つ。
その警護として、モモンに派遣された旅の友がハムスケである。
ハムスケは「よっこらしょ」と言って奇妙な形のバックパックを背負う。この中には水や食料、テントが入っているが、それ以外に大きな役割りを果たす。この旅は割と長くなるため、警護+乗り物としてもハムスケには働いてもらわねば成らないのであるが、「見た目と違って固い毛で座るの辛い、太ももと腕もパンパンになります‥‥」というニニャと「鞍はいやで御座る。拙者は馬では御座らぬゆえ」という2人の意見の衝突の結果、ハムスケにバックパックを背負ってもらい窪みに柔らかいクッションを縫いつけてニニャが座りやすくなるように仕上げた。
実を言うとニニャも譲り合った妥協点の様な現状ではあるが、本当は鞍よりも楽な上に座り心地が良く本来のハムスケの飼い主よりもハムスケに乗るのが好きになっていた。
「ごめんね。ハムスケ。モモンさんしか乗せたくないでしょうに」とハムスケに騎乗したニニャが謝る。
「いやいや、構わないで御座るよ。殿の命でござるし、ニニャ殿の知恵と知識には学ぶべき事が多いで御座る」
「ふふ 有り難うございます。ハムスケは博識で話していると僕も楽しいですよ。」
「それは何よりで御座る……ところでニニャ殿は、これからも男装で行くので御座るか?」
「……そうですね 一人の時は身を守る必要があるし、これから行くのは何と言っても帝国領ですしね。」
そう ニニャはこれからハムスケと供に帝国領に行く。それはニニャがモモンに「チーム『漆黒』のメンバーとして相応しくなるために最低限『第三位階』の魔法詠唱者になりたいです。」とお願いしてナーベラルに弟子入りするも「こう……頭でロックオンしてバチーーンって感じで……」(ライトニングの説明)とか「体の表面にマナを集めてバヒョーンという感じで飛ぶの」(フライの説明)などと擬音語ばかりで全く魔法指南役として不適合者であることが解り、かといって忙しく、冒険家業もセバスさんに預けっぱなしのモモンさんに教えて頂くのも難しい。そんな時にモモンが「帝国にあるという魔法学校に入学できないのか?」と言いだし始めた。
「いや……さすがに敵国であるリ・エスティーゼ王国民は入れないんじゃないですかね?」と伝えると
「でも冒険者組合は『戦争不介入』という事もあって王国の冒険者や帝国の冒険者も普通に依頼や指名とか行き交うと聞いているが……例えば『依頼のために必要な第三位階の魔法がある』とか理由をつけて向こうの冒険者組合から働きかけてもらうとかどうだ?」
と提案してもらったけど、「魔法学園が帝国立でなく、私立であれば行けたかも解りませんが……」と渋い顔をして答えた。
「ふむ……分かった。その件は何とか働きかけてみよう」
そうモモンさんが言った5日後に「入学は無理だが、研修という形で1ヶ月ほど授業に参加出来る様になった」と話してくれた。
「え!?」
「あと教科書や参考書も貰えるように様になったから」
「え!?」
「上位成績者だけが参加出来るフールーダ・パラダインの特別講義にも出られる様になったから」
「え!?な、な、なにがあったんですか?」
帝国魔法学院の長い髭の学院長が、スルシャーナを信仰する邪神教信者で、スルシャーナのフリして毎晩枕元に立って耳元で囁き続けたとかは言わない。
もちろんモモンガとしては魔法を使えない下僕に魔法を教えたら覚えられるのか?など試したいので、ニニャが帝国のちゃんとした魔法の教え方を学んできてくれるのは有り難いのだ。なにせナーベラルがそうであるように、自分も「魔法をどうやって使っているのか具体的に説明せよ」と言われても「始めから使える状態で生まれたから……」としか言えず、ちゃんとしたステップで魔法を学び、尚かつ帝国のように才能はあるが素人同然の状態から「座学」「鍛錬」「実践」という過程により魔法を身につける方法を学んでくれるのであれば非常に有り難いという算段がある。まあ、ついでに帝国の様子を現地人目線で見てきてくれると嬉しい。
モモンガから言うとそんな軽い感じであるが、それらを用意立ててもらったニニャからすれば幸甚の思いで一杯であり、あの命の恩人である英雄が、自分の「第三位階になりたい」という我が儘を聞いて骨を折って整えてくれた環境である。なんとしてでも成し遂げたいという決意を持つのはむしろ自然であった。
「では行くで御座るか」
と帝国領のある方向へ向けて、ニニャを乗せて歩き出そうとするハムスケをニニャは押しとどめる。
「あっ まず始めに僕の田舎によって欲しいのですが」
「そうなのでござるか?」
「うん、モモンさんが僕が帰ってくるまでに〈ロケート・オブジェクト/物体探索〉のスクロールを用意して待っていてくれるって言ってたから、田舎に置いてきた姉さんの手作り人形を取りに寄ってから帝国に向かって欲しいんだ」
「なるほど。了解で御座るよ。では、ニニャ殿?忘れ物はないでござるかな?」
「はい 大丈夫です。着替えに携帯食に水、地図と紹介状と日記に大量の羊皮紙、先ほどモモンさんに頂いた連絡用のスクロール20枚と何冊かの本‥なのかな?手書きっぽいけど……ルソー著『社会契約論』『民主主義概論』?なんだろう‥‥この本?」
「どうしたので御座るか?ニニャ殿」
「いえ 大丈夫です」
そう、きっとモモン様なら、あの『漆黒の英雄』が奨めてくれる本なら何かワタ‥‥ボクにとって意味があるハズだ。
そう考えたニニャは嬉しそうに手書きの本の表紙を撫でる。
ふふ でも世間では『漆黒の英雄』だなんて言われているけど、本当は『光の英雄』なのに。
でも、これは身近なボク達だけの秘密にしておこう。だってモモンさんの事を知らない人達には勿体ないんだもの……。
「じゃ 行こうか!ハムスケ!」
「はいで御座る~」
こうして、ニニャとハムスケの旅が始まった。
おまけ
「まさしくモモンガ様は煌々たる支配者にして凄まじい御方でございます」
「よせよデミウルゴス」
「40人の至高の御方が『リアル』の世界にて生死を賭けて戦っておられる中で、モモンガ様は毎日欠かさず「ユグドラシル」に来られる余裕っぷり」
「え?」
「『リアル』では嘸かし獅子奮迅の御活躍をされていたのでしょうね。」
「ち、ちが……」
「もしやアルベドやシャルティアにつれない素振りなのも『リアル』にて奥様やお子様がおられるのでは?」
「‥‥‥。」
「やはり『リアル』の世界でも『魔法使い』だったのでしょうか?」
「うわあああーーーん」 ボカーッ
「イタッ」
「デミすけのアホー オマエの瞳は百万カラット!」 たたーーっ
「も、モモンガ様……?」
ゆっくりしていきやがれ様 誤字脱字修正有り難う御座います