モモンガはセバスからのメッセージを聞きながら片手で羊皮紙にメモをとりだす。「ふむ」「ほう」などと相づちを打ちながら書き終えた後、メモを見ながら一考の後、アルベドに羊皮紙を渡す。
アルベドは「失礼致します」と受け取り羊皮紙に目を通す。
否、これはセバスからの報告書であり、そしてただの報告書では無く訴状に近い。
自身の油断によるミスと、それにつけ込まれた事による現在の窮状。そして主に助けを請う内容である。
それに気づいたアルベドは守護者統括として耐え難い怒りと、守護者格による無様な状況の情けなさに「愚か者めがっ」と口にして羊皮紙を破り裂きたいのを我慢する。これはモモンガ直筆の羊皮紙である。持って帰って部屋に飾らなければ……。
(しかし、この報告書は何でしょうか! モモンガ様がお優しいからと言って、何故、最も大切な事を忘れて自分の趣味、嗜好を重要な任務に降りかけるのか! もし、この様な無様な失態がモモンガ様に我々が愛想を尽かされる切っ掛けとなったら何とするのか!)
先程まで目薬を持っていたサキュバスとは思えないほど厳しい顔で羊皮紙を睨む。
「さて アルベド では行ってくるぞ」
そう、アッサリとアルベドに告げると、モモンガは《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》を唱えて黒騎士のモモンに変身しようとしていた。アルベドは御方の腰の軽さに驚きつつ、慌てて引き留めて訴える。
「御身に自ら出向いて頂く程の事では御座いません! どうぞ、下僕に処置をお任せ下さいませ!」
妙に必死目のアルベドの発言を受けて、少しだけ考えた後にモモンガは話す。
「……いや 駄目だ。セバスが苦しんでいるのは『創造主への忠節と自分の信念』、それと『ナザリックへの忠義と私への信義』の板挟みになっていることなのだ。この二つは彼を構成する大切な要因であり、どちらも疎かにしては為らない。私は『たっち・みー』さんの残してくれた彼を愛するし、今、こうして私と共に歩んでくれている彼を信頼し、心頼している。……セバスを助けたいのだ。それでは駄目か? アルベド」
「はうっ くっ 大好き……モモンガ様からの下僕への有難き想いは、然と聞き届けました……しかしせめてパンドラズアクターなどをお送りになられては如何ですか?」
「(よし……聞こえなかった事にしよう)アイツは情報総監として寝る間を惜しんで働き続けているからな。今、情報待ち報告待ちの私が出向いても構わないと思うのだが」
「いえ 安全面を考えますと、せめてパンドラズアクターにモモンガ様へと変身させた上でセバスへの下知を伝えるというやり方ではいけないでしょうか? 正直セバスの行動にはモモンガ様の意向を逸脱した行動と感情が見受けられます。どうか慎重に対処して頂きたいのです」
「ふむ……いや、ダメだな。以前に私がオマエへのイタズ……オマエ達の能力を試すためにパンドラズアクターにタブラさんに変身させて対面させた事があったろ」
「……はい 御座いました」
「あの時、オマエ……パンドラを本気で殺しにいったよな……」
「はい……造物主様を私たち守護者が見間違えるはずが御座いません」
「うん……それと殺そうとするのは違うと思うが……私はセバスの造物主ではないが、セバスが派遣された『贋モモンガ』をパンドラズアクターと気づく可能性もあると云うことなのだろ?」
「はい……その可能性は否定できませんが……」
「もし、守護者にとって敬愛すべき至高の御方が自分を疑い、不信感で警戒してそんなマネをしたと気づいた時のショックはいかなるものだろうか?」
「それは……」
「オマエ達を信じないという考えは私の中に無い。それを彼に知らしめるためにも、私が行かねばならないのだ。今こそな」
「はうっ やっぱり愛してる……解りました。でしたら私も御一緒させて頂きます。」
「えっ」
「えっ」
「ええ‥‥」
「御迷惑‥‥でしょうか?」
「ええ‥‥‥」
「御迷惑‥‥‥でしょうか?」
「う、うむ 許そう。ただしセバスの助けた女との接触も考えているので、ヘルメス・トリスメギストスを装着し、人間種に見えるように擬装せよ。」
「ハッ 御同行をお許し下さり有難うございます。急いで準備をしてきます!」
「いや よい。セバスの所に赴くのは5時間後にする。その間にニグレドにセバスの宿の周辺の探知や、色々と調べたり手配する事を思いついたので、これからパンドラズアクターやデミウルゴスに相談するので、オマエも自分の仕事に戻るが良い。では5時間後に執務室に来てくれ。」
「はい 解りました。‥‥‥うふふ 2人で時間を合わせて待ち合わせなんて、これはもうデートと言ってよろしいですわね。」
「えっ」
「えっ」
「し、仕事であるぞ、アルベドよ‥‥可愛いことを言うでないわ」
「うふふ 失礼致しましたモモンガ様。」
執務室より退室するアルベドを見送るとモモンガは机の引き出しから本を取り出しページをペラペラと捲る。
本には「経営学入門・人事編~部下から愛される経営者を目指して~」と書かれている。
ふう‥‥私よりも優秀な子たちばかりだから楽出来ると思っていたけど、こんなに大変だとは思わなかったなあ‥‥でも、現場の人間はもっと大変なんだってことは身を以って知ってるしな‥‥うん、頑張れ俺!
モモンガは気になったところを数点読み終え、口の中で復唱すると本をパタンと閉じて「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を起動させる。
「よし、まずはパンドラズアクターの所で愚痴ろう!」と妙に良い顔で執務室から姿を掻き消した。
・・・・・・・・・・・・・・・
セバスはパンやミルクを入れたカゴを抱えて歩いている。
その姿は背筋が伸びており、優雅さと気品さを感じさせるのに移動速度は妙に速かった。街中を歩いているとセバスを知っている人々が「あっ セバスさん!」などと声を掛けてくれるので、その度に律儀に立ち止まり一礼し、一言二言交わしてから立ち去る。
セバス達が王都に来て、まだ一月経って居ないのだが、『親切で優しいナイスミドルのセバスさん』は街に浸透しつつあった。
主人にスクロールで報告書を送ったものの、忙しい御身のためか返事もないまま数時間が経過したため目を覚ましたツアレの為に食料の買い出しに出かけたのだ。 そう、セバスが助けた女性はツアレと名乗った。ソリュシャンが綺麗に治癒した結果、見違えるほどに艶を取り戻した彼女は美人であり可愛げのあるタレ目を持つ蜂蜜色の髪の娘であった。本人に確かめてはいないが年の頃は20歳行っているかいないかという所であろう。ただ、ソリュシャンが治療後に「心の傷は治せません」と言ったように若い娘特有の溌剌さは失せており、沈んだ瞳と沈んだ顔を固まらせて、会話も殆ど出来ない状態だった。
しかしセバスの献身的な介護と温かいスープに癒やされたのか少しずつ身の上を語り、少しだけ笑い、そしてホッとし気が緩んだのか再び眠りについた。
食料の買い出しに行く時に、そばに自分がついていてあげたいという思いも強かったが、あの『八本指』という裏組織がユリやナーベラル、ソリュシャン達に手を伸ばす確率は高いためセバス自らが買い出しに出ることになった。無論、彼女たちならあの程度の人間の10や20集まった所で一瞬で片付けられるのであるが、問題は八本指が『リ・エスティーゼ王国』の権力者側と根強く癒着していることにある。
この辺りは情報総監からの定期報告書による情報であるが、彼ら『八本指』の者が街で女性に狼藉を働こうとしたのを止めるために『八本指』を棒で追い払った女性の婚約者が後日、傷害事件を起こした主犯となり逮捕拘禁され、その女性も共犯者として逮捕され、男性が半年後に釈放されて婚約者を探した時には八本指の娼館でボロボロになった婚約者女性を発見した。などという非道な話が無数にある。問題は『八本指』の畜生さでは無い。そんな暴虐を許させる権力者側の問題は根深い。
パンドラズ・アクターの覚え書きで「リ・エスティーゼ王国は既に腐りきった林檎の様なものです。食むのは虫だけであり、烏に突かれた瞬間に落ちて潰れるでしょう」と書かれていたが、その通りだとセバスは思った。
つまり、ユリやナーベラルが襲われて正当防衛で叩きのめしたとしても「傷害事件」として処理され、モモンガ様と共に成し遂げてきた『漆黒』の名も地に落ちて「冒険者としてのアンダーカバーを作る」という当初の目的も履行不能に成る。それだけは阻止せねばならない。そう思いながら歩いていると、やはり何人かの暗い顔の人間たちがあちこちから自分を見張っているのが解る。やはり自分が買い出しに出て良かった様だ。
そう思いながら一軒まるまる宿屋として借りている豪奢な館に到着する。メッセージで ナーベラルに帰ってきた旨を告げると「カチャカチャッ」と鍵の開く音が聞こえて開かれたドアから滑りこむように玄関ホールの中に体を潜り込ませる。
「ふう……やはり八本指の者共が見張っております……ね?」
「お帰りなさいませ。セバス様」
セバスは出迎えてくれた3人の部下に違和感を覚える。正確には、それは正しいことなのだが、この場においては異常な事態である。違和感が無いことが違和感なのだ。なぜ、何故に彼女たちは3人共ナザリックのメイド服に身を包んでいるのか?
その時、階段上のドアを開けて黒い鎧『ヘルメス・トリスメギストス』を着た人物が
「お帰りなさい。セバス」と言いながら優雅に階段を降りてくる。
この鎧を着ている人物は守護者統括の『アルベド』に間違いない。
何故、彼女は完全武装でここに居るのか? セバスの脳裏に「粛清」の文字が浮かぶ。
なぜならアルベドはセバスにとって最も戦闘の相性が悪い戦士なのである。彼女が差し向けられたという事は……私の行いがナザリックに不利益をもたらした……そういう事ではないだろうか?
「ア、アルベド様……どうしてこちらに?」
心の内が噴出するかのように吃りながらセバスは守護者統括に問いかける。
アルベドはセバスの問いを無視して「娘は?」とだけ質問する。
セバスは二階の最も奥の部屋を示すとアルベドはツアレの部屋のドアを確認すると「モモン様が御用がお有りのようです。こちらの部屋にお越し下さい」と『漆黒』のセバスとしての扱いに切り替えた。恐らく部屋の中でツアレが起きていること、さらには聞き耳を立てている事などを感づいたのだろう。
「はい 有難うございます。」
守護者統括が気を使ってくれたのに自分が畏れを抱いて不自然に振る舞う事は出来ない。セバスは食料をユリに預けると覚悟を決めて階段を登っていった。
セバスがノックの後、ドアを開けると主人は黒い鎧の戦士「モモン」に擬態しておられて即席の玉座のようにドアから最も離れた位置にソファーを置き、その間に机を置いて書類のような物をお読みになっておられた様です。
臣下の礼を取ると「すまないなセバス、突然来訪して」と書類に目をやったままでお答になられる。
「いえ とんでも御座いません。それよりも非才なる私めのために御身自ら御足労頂き、誠に申し訳御座いません」
「はははは 何を言うセバス。今回はオマエの裁量権を越えてしまったがために起きたアクシデントであって決してオマエがミスを犯した訳ではないだろう」
とモモンガ様が朗らかに労って下さると同時に、アルベドより強い叱咤が飛ぶ。
「そもそもセバス。これは、あなたに与えられた裁量内に納める事が出来た案件では無くて?『漆黒』の名を高めることと裏組織に狙われることは決してイコールで結ばれる物ではないわ?脇が甘かった……その事が『至高の御方』自らに御出馬頂くことに至った責任を感じなさい!」
「ハッ 全くその通りで御座います。彼らに対する初手を間違えました。」
決して女を助けなければ良かった。と言わない所がセバスらしい所である。
「まあ その辺にしておけアルベド。公衆の面前だけでの良い行いではいつかボロが出たかも知れぬ。裏でも当たり前のように人助けを出来るセバスだからこそ、短期間で王都にて『漆黒』の讃談が広まったのであるしな。さてこれからの処置であるが……」
「『八本指』を壊滅させますか?」
アルベドが無感情に虫でも潰す些事であるかの様に伺う。
「ふむ……まだ彼の者たちの実態が掴みきれていないからな……頭目の幹部を潰すだけなら簡単だが、少しリスクとリターンが割に合わないな」
セバスは黙って跪いたまま話の成り行きを見守る。
「その女を引き渡して終わり……には成りませんわよね?今からでは」
「もともと捨てた女だったらしいからな、それが拾われた事で価値を見出したのだろう……卑しい者共だ」
「色々な方法があるとは思いますが……どう対処いたしますか?」
「うむ 今回は撤退だな。一旦、ゲートを使って八本指の見張りの者達の前から消えて、『漆黒』は身を隠すか」
「そ、そんな……私のせいで任務を中断されるなど」
穏便に済ませるためとは云え、自身が至らぬせいで至高の御方の計画が狂うなど申し開きも出来ないセバスは苦悶の表情を見せる。
「中断と言ってもするべき事はしたしな。実はここに来る前にガゼフに面会して事の次第を話してはみたのだが、ボディガード代わりに自分たち戦士団が少しの期間なら付く事はできるが、八本指自体には大貴族も絡んでいるので何も出来ないと悔しがっていた。我々としては彼らに纏わり付かれるのも非常に面倒な身の上だし丁重にお断りしたが」と言ってモモンガは笑った。
「ただ娘はガゼフの方で預かって信頼置ける貴族の領内で暮らせるように出来るとの事だった。ガゼフと一緒に居た若い騎士が「自分の主人なら間違いなく力を貸してくれます」と言っていたしな」
「そうだったのですか……何から何まで有難う御座います」
主人が自分のため、娘のために骨をおってくれた事に溢れるほどの感謝をするセバスであったが、自分に懐いてくれつつあった娘との別れに一抹の寂しさも感じた。
「ただ せっかくオマエが助けた娘だ。我々でカルネ村辺りに逃してやっても良いだろう。あそこは今、村人募集中だし、ンフィーレアが上手くやってくれるだろう。どうせニニャの留学がもうすぐ終わるから『漆黒』としてあの村で待っていてやるのも良いだろう。帝国領から近いしな」
「確かにそろそろで御座いますね」
「まあ どうしたいのか本人に確かめたいのだが……会わせてもらっても良いか?」
鈴木悟はリアルの魔法使いである。基本的に女性には気後れする質であった。
セバスからすれば、御方が「心身ともに傷ついている娘」を気遣っての問いかけであり、しかも相手はただのニンゲンである。慈悲深き御方への忠誠度の目盛りはグルグルと回転していく、それはもう目盛りでは無い何かだが。
「はい ではお連れ致します」
ようやく表情から硬さの取れたセバスが主に尋ねる。
「いや まだ病床の身なのだろう?私が部屋に行くが……」
「モモンガ様!流石に人間に対してそこまでの懇情を授けられるのは宜しく有りません!」と娘に優しすぎることに少し嫉妬したアルベドに咎められる
「アルベド様の仰る通りです。もう怪我も治っておりますし連れてまいりますので少々お待ちください」
そう言うとセバスは一礼し退室した。
(良かった。一番の疾苦は「その娘を殺せ」という命令が出たらどうしようと言うものだった。しかし慈悲成る御身は、一切そう言ったことはお考えになっておられなかったようです)
セバスはツアレの部屋をノックすると、聞き耳を立てていたのであろうツアレが慌ててベッドに飛び込む音を聞いて、悪戯っ子の可愛い娘を持つ親のように目を細めつつ苦笑いをした。
・・・・・・・・・・・・
ドアを開けて入室してきた娘を見てモモンガは「んん?」と既視感を覚える。
「ツアレで御座います」とセバスが娘の隣で一礼をし、娘も慌てて一礼をする。
モモンガは慌ててセバスとアルベドに『モモンとして応対せよ』とメッセージを送り、受け取ったセバスは小さく頷く。
先ほどからモモンガに対して恐縮し続けていたためセバスの応対が旅仲間としては不自然だったからだ。
そしてそれ以上にモモンガは驚いていた。
(ツアレ……だと?)
「このたびはセバス様に命を助けて頂き……」とツアレが御礼の言葉を続けようとした瞬間、モモンガはそれを制して
「ツアレ……それは本名か?」と尋ねた。
「え……あ……?」ツアレが突然の指摘に戸惑う。
「すまないが正式な本名を教えてほしいのだが」
「……。」
ツアレは戸惑った様にセバスを見る。セバスも妙な展開にツアレを見て、
「大丈夫です。お答えなさい」と優しくツアレに伝える。
「はい……あの、ツアレニーニャと申します。」
モモンガの体に電撃が走った。こんな偶然があるのか?というかセバスはまだボケッとしているが顔だけで気づくくらい似ているぞ?!
ナーベラルも「名前と顔が全く覚えられないです‥‥‥」と悩んでいたが、日本人が外国人の顔の区別が難しい以上に、異形種には人間の顔の区別が難しいのか?元人間で良かった!と思いながらも余りの驚きに少し体を光らせた。
ちなみに光った瞬間。
あら、お光りになられたわ。
また、輝きになられましたな。
何この人!?光ってる!怖い!
と三者三様の心の中の反応があったが、ちなみにモモンガは自分の光は他人には感知されていないと思っている。
「ツアレニーニャ、ツアレニーニャ・ベイロンか?」と声を大きくして問いかける。
「は、はい ツアレニーニャ・ベイロンです……あの、なぜそれを?」
「セバスでかしたな!この娘、ニニャのお姉さんだぞ!」
「はい?」とセバスは得心がいっていない。
「いえ、私にそんな名前の妹は居ませんが」と妙に冷静に否定するツアレ。
そう 実はセバスはニニャが冒険者になった理由も姉が居ることも、ニニャの本当の名前も知らないのだ。モモンガが「個人情報だしな……」と妙なフェミニストぶりを発揮してしまい、報告を上げていなかったためである。
「ああっ もう 解っている。オマエの妹の名前は‥‥‥‥‥‥‥‥」
「そうでしたか……あの子が私を救うためにマジックキャスターになり冒険者になっていたなんて……」
と、ツアレは静かに涙を流す。モモンガはその涙を美しいと思った。
どこぞの目薬とは違うな……とジト目でアルベドを見た。アルベドは兜の中で顔を赤らめ「まあ モモンガ様ったら人前でイケませんわ」とモジモジしながら顔を朱に染めた。何も通じていなかった。
「うむ そして今は我々の仲間だ。なあセバス」
「はい 非常に才能に恵まれた優しい妹さんですよ」
「今は帝国の魔法学校に留学に出かけて居ませんが、ちょうど帰ってくる時期です。ニニャには手紙を送り知らせておきましょう。喜ぶでしょう」
「まあ……本当に何からなにまで有難うございます!」
「それで、この先の身の処遇なのですが……この国のガゼフ戦士長に話は通しておりますので、彼の紹介してくれた貴族の領内で暮らすという物と、我々の知己の開拓村があるので、そちらで暮らすという物がありますが……どうされますか?」
「その……助けて頂いた立場で我が儘を言うのは申し訳ないのですが……貴族は、貴族だけはイヤで御座います……申し訳ありません」と俯いて言いつつ片手で自らの身体を抱きしめる。
(ですよねー。ニニャ以上に貴族とか嫌いに決まってますよね……)とモモンガは心のなかで、うんうんと頷いた。
「では……カルネ村へ行かれるという事で宜しいですか?妹さんとも合流できますし」
「あの……カルネ村へ行けば、セバス様と一緒に居られるのでしょうか?」
……ん?
モモンガは「オマエ……」という目をしてセバスを見る。セバスは慌てて首を振る。
「えーと、そうですね……では、一旦カルネ村に行きましょうか。そこでニニャが帰ってくるのを待ちましょう。では部屋にお戻り下さい」
そこにはリア充の二人への心の距離を取り始め、ちょっと営業口調の
「はい……本当に、本当にありがとうございます……」とツアレは限界まで腰を折り、深く頭を下げて退室した。
‥‥‥‥
ツアレが戻った後、ユリとナーベラルを入れて状況の説明が行われる。
「では、私とアルベドはナザリックでデミウルゴスと協議に入る。ユリとナーベラル、ソリュシャンは屋敷を引き払い、ナザリックへ帰還する準備をせよ。ゲートで私と共に帰るぞ」
「「はい!」」
ユリ、ナーベラル、ソリュシャンは敬愛する主人と共に我が家への帰還することに子犬のように心を躍らせて返事をした。
「うむ。セバスとツアレは、
「はい ここを引き払うのであれば大家さんなどにお金を持って行かねばなりませんね」
「そうか ……ガゼフへの事情説明も頼んで良いか?心配性だからな。彼は」
「はい 承知致しました」
「では皆の者、準備に取り掛かりなさい」とアルベドが号令すると、ユリとナーベラルとソリュシャンは久しぶりのナザリックに思いを馳せてウキウキと帰り支度をする。
「モモンガ様の下で働ける充足感は素晴らしいけど、やはりナザリックに帰れるというのは嬉しいものですね。ユリ姉さん」
「ええ、でもモモンガ様と御一緒出来たのは数日でしたが、外での活動というのは中々貴重な体験でした」
「2人は良いわよね。私なんて色んな冒険者を護衛に雇いながら色々と調査しつつ金持ちや貴族への挨拶回りばかりでしたわよ?」とソリュシャンが少し愚痴りながらも、テキパキと準備を済ませていった。
こんな和気藹々とした会話の後でモモンガが激怒する事件が待っていた事を予想することなど誰にも出来るはずがなかった。
おまけ
「アルベド殿!放しなされ!これはモモンガ様直筆の報告書であり、情報局の物ですぞ!」
「いやよ!せっかくこそっと手に入れたのに!内容だけメモして保存しなさいよ!」
「え?いや‥‥しかし‥私も欲しいというか‥‥」
「だと思ったわよ‥‥」
「隙アリ!」
「あっ!?」
「‥‥‥アルベド殿‥‥この最後の『モモンガ』の署名の隣に『あるべど』と書いてあり、略式の傘の様な記号が書き込まれているのですが……」
「ふんっ!」
「げぼあっ」
ふふふふふふ 私とモモンガ様の間を裂く物は、たとえモモンガ様の創造物だとしても許さないわ
「非道、まさに外道……」
「安心しなさい……峰打ちよ」
「拳に峰が!?なるほどゴリラの拳には不思議な物があるので…」
「ふんっ!死ねえ!」
「同じ所を寸分違わず!?」
「ふ あなたはモモンガ様の創造物。決して殺したりはしないわ」
「さっき 「死ねえ!」と叫んだ人がおられますが‥‥」
題名を見た誰かの「こいつ開き直りおった!?」という声が聞こえます
矢沢様、ゆっくりしていきやがれ様 ronjin様 誤字脱字の修正有り難う御座います。