鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第五章二編 竜王国

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『竜王国』という国がある。

 

 バハルス帝国の南にある飛竜騎兵部族の地より更に奥、ナザリック地下大墳墓から見ると南東に位置するその国は元々、七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)によって建国された人間種族を国民に持つ小国である。国の名前が余りにもズバリな名前なため、事情を知らない多くの人には「竜の国」であると誤解をされているが「竜」は七彩の竜王の血を引く王家だけであり、現当主ドラウディロン・オーリウクルス竜王国女王『ブラックスケイル・ドラゴンロード』にもブライトネス・ドラゴンロードの血が8分の1流れている。

 余り知られていないがブライトネス・ドラゴンロードを曾祖父に持つ彼女は多大な犠牲が必要ながら『ツァインドルクス=ヴァイシオン』と同様に「始原の魔法」も使うことが出来るが、その「多大な犠牲」という物の正体が問題で、それは実に100万人もの人間の魂を捧げなければならない。そのために絶えず隣のビーストマン部族に竜王国の国民を餌場として蹂躙され尽くしているのに、それを撃退するためには自国民に莫大な犠牲を支払う必要があるため、何も手を出せない状態が続いているのである。

 それ故、少なくない額をスレイン法国に献上し続けることにより、法国より特殊部隊が派遣されてビーストマン達を削ってくれる事で生きながらえて来たのだが、最近になりピタッと法国からの援軍が来なくなり、催促の手紙を出せど何らかの事情があるのか有耶無耶な返事しか貰えず、穴の空いたバケツの様に、日々国民をビーストマンに襲われて犠牲が増え、しかも彼らにとっての餌が増えたお陰か明らかにビーストマンの個体数が増えつつあり、被害数は鰻登りに増えていくのが現状である。

「始原の魔法」ワイルド・マジックを使える以外は女王は普通の人間としての力しか持たず、小国故に国軍の戦力は大きくないために防戦一方であり、殆ど期待は出来ない。ただ冒険者として小国ながらアダマンタイト級を一チーム抱えており、またワーカーにも有名な「豪炎紅蓮」が所属している。

 ただし彼らにとっても強者揃いのビーストマンに敵対するのは報奨金だけでは割が合わないため今のところは国の要請は緊急時などの時だけであり、色よい返事がもらえて居ないのが実情である。

 

 

「……のう なんでスレイン法国は援軍を送ってくれんのだ」

 幼女の姿の王女ドラウディロンが執務室で傍らに控える宰相に愚痴る。

 宰相であるもののまだ若さを感じさせる壮年の男は、面倒くさそうに、

「そうですな‥‥貢ぎ物が足りない‥‥とかですかね」と、素っ気なく答える。

 

「なんでじゃっ!? 我が国民の血税をどれだけ持って行ってると思っているのだ!」

 

「……報員の話によると、ここ数ヶ月の間スレイン法国では、何らかの事故が続けざまに起こっている様ですな」

 

「事故? 催促の手紙の返事では『忙しい』だの『他の任務で出かけてる』など書いてあったぞ?」

 

「そりゃあの秘密主義の法国ですよ?自国の不利なことを素直にお知らせしてくれるタマですか」

 

「ちっ 陰気くさい奴らじゃ ……待て? それはかなり酷い事故なのか?」

 

「……報告によれば何かが法国に起こっているのは間違いないらしく、普段なら姿をチラホラ見るはずの特殊部隊の者共の姿を全く見なくなったそうです」

 

「はあ?あそこの特殊部隊はこの辺りでも最強クラスのチームだったでは無いか?特に漆黒聖典に来てもらった時なんぞ、ビーストマンどもをバッタバッタと薙ぎ払ってくれたぞ?」

 

「その漆黒聖典ですが隊長を始めとして半数以上が姿を見せていない様ですね。 余程の任務に就いているのか、彼らの身の上に何かがあったのか」

 

「……と、いう事は」

 

「はい 法国が我々に援軍を出す余裕なぞ無い……と云うことです」

 それを聞いたドラウディロンは一瞬顔が青ざめた後、色々と思い出したのか顔を紅潮させて怒り出した。

 

「っ なんじゃそりゃっ!? 何のためにただでさえ貧乏な上にビーストマンに苦しむ国民からの貴重な税金を捧げてきたのだ! 何のために彼奴らが陰でワシの事を『トカゲ姫』とか『ウロコ娘』とか悪口言ってるのを耐えてきたのだ!? ワシにはウロコなぞ無いわ!」

 

「……意外と根に持つタイプですね。結構、以前の報告書の一文ですよね。それ」

 

「法国が頼れないとすれば……どうするのだ? 宰相」

 

「だから前々からバハルス帝国の皇帝との婚姻を奨めていたではありませんか」

 

「ジルクニフかあ~ 見た目は悪くないが腹に一物どころか十物も二十物も抱えすぎじゃろ? あやつ」

 

「まあ 言葉遣いは汚いですが、お腹が真っ白な女王様とは反りが合わないかも知れませんが……いや意外と上手くいくかも知れませんよ? 正反対な気性って」

 

「口が悪いのは身内の前だけじゃろが。ほっとけ」

 

「竜仲間という事で、アーグランド評議国と渡りを付けられると良いのですがね。遠すぎますし」

 

「そもそも、7/8が人間のワシなんて、あやつら竜だとか思っとらんじゃろうしのう」

 

「そうなりますと、頼れるのは冒険者になりますかね」

 

「他国のアダマンタイト辺りにお願いするか?スレイン法国に大金を支払ってしまったから大金は出せんぞ? しかもビーストマンの強さと数を考えると命賭けになるし端金で動く奴らでは無理じゃろう」

 

「何を言っておられるのですか? 我が国にもアダマンタイト級冒険者「クリスタルティア」のセラブレイトが居るではありませんか」

 

「……え――――」女王は非常に渋い顔を見せる。

 

「良いでは有りませんか あれだけ熱い目で女王様を見つめる男なぞ捜してもなかなかおりませんぞ」

 

「確かに、あんな「ねっちょり」とした目で幼女のワシの身体を見てくる変態は捜してもなかなかおらんだろうがのう!?」

 

 竜王国唯一のアダマンタイト級冒険者チーム「クリスタルティア」のリーダー セラブレイトは平たく言えば『ロリコン』だった。平たく言わなくてもロリコンだった。

 

「あやつ……完全に、この魅惑的な「ぼでえ」が目当てじゃからのう……大きい方が色々と気持ち良いと思うのじゃが、こんなペタン胸の何処が良いんじゃ?」

 

「幼女の形態の時に下品な発言は控えて下さい」

 

「形態言うな。オマエ、ワシを何歳だと思っておるんじゃ」

 

「まったく……いい年をしてそんな格好をして恥ずかしくないんですか?」

 

「……オ、オ、オマエが、させとんじゃぁぁああああああっ!?」

 玉座から勢い良く立ち上がった幼女、もとい女王は鬼の形相で宰相に飛びかかる。

 しかし宰相もさるもの、慌てずに杖を投げ捨ててグレコローマンスタイルでガッチリと幼女と組み合い「シャオラッ」と首相撲を始める。 (注・王国の女王と宰相の2人です)

 

「ハァハァ! 仕方ないでしょう!その姿だと部下や外交のウケが良いんですよ!」

 

「はぁはぁ! うるさいわいっ そうやって効率よく言いなりになる人材ばかり集めたせいで閣僚をロリコンばかりで固める事になるんじゃろうが!?」

 

「ハァハァ! それ以外にウチになんの魅力があると?給料も安ければビーストマンの危機に晒されているこの国で有能な人材を集めるために利用出来るものは何でも利用するべきです!」

 

「はぁはぁ! オマエェェェ! 『隊長さん 頑張ってね?どうか無事に帰って来てドラウに元気な姿を見せて下さい(はぁと)』とか云う手紙を酒飲みながら書いてるワシの身にもなれ!手紙にポタポタと落ちてる滲みは情けなくて泣いてるワシの涙じゃぞっ!?しかも大量生産させやがって!あの手紙一枚ごとにウロコが一枚ずつ禿げる想いじゃわ!」

 

「ハァハァ! やはりウロコあるんですね」

 

「はぁはぁ! ね、ねーし!」

 

「隙あり!ていっ!」

 その掛け声と共に幼女の左腕を取り、自身の右手で幼女の左肘の下側から掴んで捻り上げる こうなると幼女は仰向けにひっくり返るしか無く「ぎゃん!?」という情けない声をあげる。しかし宰相は容赦なくその左腕を持ったまま腕ひしぎ十字固めに持っていく ちゃんと肘に捻りを入れる奴だ。 そこには王女と宰相の間に交わされる確かな肉体言語が在った。

 

「ぎ……ぎぶ」

 

「……ふん」 

 

 えうっえうっ、と悔し涙を流す幼女相手に小さくガッツポーズを取る宰相がここに居た。

 

「……で、どうするんじゃ? このまま国民が食べられ続けるのを指を咥えて見てるのか? それとも莫大な犠牲を支払ってワイルドマジックでビーストマン共を滅ぼすか?」

 

「いえ それでは生き残った国民の心は王女から離れるでしょう。それにワイルドマジックと云っても国ごと吹っ飛ばせるわけではないのでしょう? まあだとしたら隣国まで被害が出る可能性は高いですし、我が国や飛竜騎兵部族は元より、バハルス帝国にまで被害が及んだらどうします?あの『鮮血帝』が「いい顔」で損害賠償金を請求して来て骨までしゃぶられますよ?」

 

「……オマエあいつのこと嫌いじゃろ?」

 

「まあ 宰相たるもの有能な敵と無能な味方は嫌いになるのが仕事ですからね」

 

「まったくその通りじゃなー ……待て、『無能な味方』ってワシの事ではないじゃろうな?」

 

「ハハハ。女王様は本当に面白い方ですな」

 

「答えろやっ!?」

 

 宰相は無表情で女王を見た。ジッと見た。女王は目を逸らした。

 

「ワ、ワイルドマジックの威力の話だったのう……まあ都市1つ潰せる程度だと思うが、逆に言うとビーストマンが全滅とまで行かないんじゃよな。そうなると生き残ったビーストマンに本気攻めされると思うとのう……」

 

「ワイルドマジックの使用はリスクのみで得るものが有りませんね」

 

「うむ そうなると……セラブレイトか?」

 

「抱かせてあげれば良いじゃないですか」

 

「王女たる者が娼婦の真似事か……ワシまだ処女(おとめ)なのに」

 

「まあ 国の事を思えば女王の身体の一つや二つ安いもんです」

 

「オマエが言うと冗談に聞こえないからのう……」

 

「まあ 冗談じゃありませんから」と宰相は真顔で返す。

 

「……。」 

 

 げしっ 女王は宰相の脚の脛を蹴った。

 

「イタッ あーあ 暴力ですかそうですか 「パワハラ」って云うんでしたっけ?十三英雄の残した言葉によると」

 

「うっさいわ! オマエが先刻ワシに何をしたか忘れたのか!?」

 口角から泡を飛ばして喚く女王のツバをイヤそうに拭うと宰相は、ふう と一言溜め息をついて話し始める。

 

「まあ……何も手がない訳ではないのですよ……余り、こういう賭けは好きじゃないんですがね」

 

「!? な、なにか手があるのか?」

 

「以前より何度か王国の冒険者から手紙が来ていた事を報告致しましたが覚えておられますか?」

 

「……? ああ……リ・エスティーゼ王国の、黒……なんとかってチームだったか」

 

「『漆黒』です ミスリル級冒険者時代に「何かお困り事があればお申し付け下さい」という売り込みの様な手紙があったんですが」

 

「うむ ミスリルに頼むことなど無いしな。他国の冒険者をわざわざ入国させる必要もないので放っておいたんじゃったな?」

 

「はい まあ一応、好意に対して、謝意を示した返事は送りましたがね。」

 

「ふむ? で、なんでそれが奥の手なのだ?」

 

「ええ 諜報員の連絡とタイムラグがあるので先月か先々月の出来事だと思うのですが、彼ら『漆黒』がアダマンタイト級冒険者になりました。」

 

「ほう? アダマンタイトのう。ということは、知らぬ間にオリハルコンになっていたのか」

 

「いえ オルハリコンは飛ばしてのアダマンタイトへの昇格です」

 

「むう? どんな活躍をしたらそうなる?」

 

「王都に現れた悪魔の群れを打ち払い、悪魔の首魁である魔王『ヤルダバオト』を追い払えばそうなります」

 

「!? あ、あの大事件のかっ!? そりゃ当代の大英雄じゃないか!?」

 

「ええ それで最近再び彼らから手紙が来ましてね。なんでも彼ら『漆黒』というのは集団転移魔法の実験の失敗で元居た国に帰れなくなった集団らしいのです。」

 

「ん? ということは?」

 

「ええ 今でこそ「リ・エスティーゼ王国」所属の冒険者ですが、王国に義理は無い様ですね。まあ王国の敵対国のために働くのは自重している様なのですが、どうも彼らは帰国するために広く情報を集めているらしいのです」

 

「ほう それで古くよりこの世界に身を落とした神秘なる竜の末裔たるワシに話を聞きたいという事じゃな?」

 

「ええ 実はかなりの後期高齢者で、竜の血が1/8だけ入った物知りオバアサンに話を聞きたいと」

 

「……。」

 

ガッガッガッガッ 二人は無言で拳を重ねる。

 

「……それでミスリル時代の以前より、ウチと渡りをつけようとしてくれていたのか!『奇貨おくべし』じゃな」

 

「ええ 丁寧に返事しておいた甲斐がありました」

 

「しかし 祖国の名前とか解らないと正直ワシが彼らに取って有益な情報を持っているのかどうかも解らないのじゃが」

 

「そこまでは掴めておりませんが、彼らは相当、王国でも評判が良いらしいとの諜報員からの報告があります」

 

「ほう そうなのか?」

 

「はい 弱きを助け強きを挫き、貧しい者あらば金を与え、悪を為す者あれば依頼なくとも鉄拳を食らわすとの評判で、今まで王国内で人気を独占していた『黄金』ラナー王女、さがって『蒼の薔薇』のラキュースの2人の中に割って入るほどの人気だと聞きます。」

 

「なるほど 強いだけでなく人望も兼ねるか‥‥来てくれるかのう?役に立てるかどうか解らんが」

 

「アダマンタイトになってからも手紙を送ってくれる義理堅さを考えても大丈夫だと思います」

 

「なるほど それで一体ナニが『賭け』になるのだ」

 

「はい この手紙にこの様な提案がされておりまして……」

 

「むう なんじゃこれは? 詐欺的な物かのう?」

 

「相手の意図が掴め切れませぬゆえ保留していたのですが」

 

「もう そんな事を言ってる場合ではなくなった。と」

 

「ええ あと、別件なのですが、エ・ランテルと云えば気になる書物がバラまかれているらしいのですが」

 

「ほう? 気になる書物のう? 手に入れたか?」

 

「それが政府により発禁指令が出てしまい回収されてしまったそうです。」

 

「ふむ そうか……」

 

「プリンシプルとか哲学系の内容だったという報告ですが」

 

「あー それ系は王国的にアウトじゃろうなあ」

 

「そうですね」

 

「まあ とにかく今は『漆黒』への対応じゃな」

 

「はい 後は本人に来てもらいつつ、ついでにビーストマン退治をお願いする方向で」

 

「分かった。仔細は任せるので頼むぞ」

 

「はい 解りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「おい また執務室から怪しげな息遣いが聞こえてきたらしいぞ?」

 

「また宰相が居る時に……か」

 

「服が乱れた状態で宰相が執務室から出てきた所を見たものも少なくないしな」

 

「俺なんて一度、ノックをしても返事ないから扉を開けて覗いたら、王女と宰相が組んず解れつで~~!くっ」

 

「泣くなよ……」

 

「後で宰相に聞いたら「ぷろれす」をしていただけです。だって!何だよ『ぷろれす』って?!」

 

「知らんがな」

 

「あの人、十三英雄の残した文化とか言葉とか詳しいから調べたんだよ。十三英雄辞典でさ 俺も!あったんだよ ぷろれすって項目」

 

「おおっ なんだったんだ?」

 

「色々べびーふぇいすだの、せめんとだの訳の分からない用語ばかりだったんだけど、使用例の所にさ…… 子供に性行為を見られた時、何をしていたの?という質問に『パパとママはプロレスをしていただけよ』と答えましょう って書いてあったあ!」

 

「うわあ……」

 

「うわあ……」

 

 

 

 

 







すみません ボクの中でドラウ殿下は『化物語』の忍野忍のイメージなのです‥‥‥。

反省はしていない。そして後悔もしていない。






244様 ゆっくりしていきやがれ様、デンスケ様 誤字脱字の修正を有り難う御座います。

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