鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第六章二編 重い旗を無自覚に立てる

 

 

 

 

 

 体調不良の馬と慣れない馬の組み合わせである追っ手側と、馬車との追いかけっこであるが、段々とエ・ランテルから離れるにつれて、道が舗装されておらず荒れ地になってくると途端に馬車のスピードが落ちた。車輪で荒れ地は非常に負荷がかかるためであり、追いつかれるのも時間の問題であった。ラキュースとしてはイビルアイが言っていた様に亡命先の『竜王国』にラナー共々自分も逃げ込んだ上で、リ・エスティーゼ王国に「蒼の薔薇」は無関係で巻き込んだだけですとでも表明してもらわなければ自分たちはもちろん、国にいる父親たちにまで「王族誘拐犯」として害される事が確実である。だから逃げ切れれば一番良い。捕まればラナーを売って助かるかラナーを助けるために自分たちと家族が重犯罪者になるか……。しかし可哀想なラナーを売るなんて出来ないし……かと言ってここでリ・エスティーゼの護衛隊達に攻撃を加えたら即・反乱者だし……。最悪だ。暗い未来しか見えないわ……。『蒼の薔薇』の馬車の中で「うっきゃああ~~!」と頭を抱えながら苦しみ、のた打ち回るラキュースを『可哀想な娘』を見るような目でティナが見ながら馬に鞭を下ろす。

 

 しかしすでに馬車を牽く馬は息も絶え絶えであり、もう歩くのが精一杯という感じになりつつある。ラナー姫の馬車は2人乗り2頭引きなためまだ走れそうだが、蒼の薔薇は5人乗り2頭引きであり、防具などの荷物も多かった。

 

 もう、これは駄目か……最悪、ラナーだけでも逃がして亡命先で急いで声明文でも出してもらおう……それまでに捕らえられた私たちは拷問とかに遭うのかな……イヤだなー。と死んだ魚の様な目に成っていた矢先、自分たちが向かっている悪路の先に黒い人影が見えた。ラキュースが驚いて遠目で、その人影を見ていると黒い影は黒い鎧であり、自分たちの知っている人物だということに気づく。

 

「も、ももんさまだあー!?」というイビルアイの燥ぐ声が聞こえる。そう、何故ここに居るのか分からないが、先日の『ヤルダバオト事件』での大活躍とエ・ランテルでのアンデッド『1000人斬り』で、リ・エスティーゼ王国の英雄と言っても良いアダマンタイトチーム『漆黒』のリーダー・モモンさんに間違い無い。

 その彼が、独りで道に立ち塞がる姿にラキュースは戦慄する。恋する乙女は馬鹿になるから仕方ないが、イビルアイの様に喜ぶ気には成れなかった。どう考えてもモモンさんがラナー姫を誘拐犯から救うためにやって来たのは間違いなく、この場合の誘拐犯は自分たちであり、つまり大英雄モモンと刃を合わせるのは我々だと云うことになる。

 

 最悪だ。

 

 そう考えてラキュースは青ざめた。

 しかし近づき大きくなっていくモモンは威厳のある声で「行きなさい。ここは私に任せたまえ」と告げたのだ。

 

「し、しかしそれではモモンさんが国に仇なす犯罪者となってしまいます!」と驚いたラキュースが問いただすと「構わない。たった独りの娘の涙を止める事も出来なくて何が騎士か」と言い放つと、無骨なガントレットを振って蒼の薔薇に「行け」と逃げることを促す。その格好良さに後ろの席から「くふんっ」というイビルアイの気絶した声が聞こえてきたが、なに気にラキュースも心がキュンキュンしまくっていた。

 

「有難うございます!本当に本当に!」と先に行ったラナーの分も深く礼をしながら馬車を再び進める。すれ違いざまガガーランから「漢だねえ~」という言葉と共に「ぴゅう♪」と口笛が聞こえた。まったく本当に良い漢だ。やめて欲しい。横恋慕してしまうでは無いか。

 

 道に立ち塞がるモモンさんを見ながら進むと突然、気絶から復活したらしいイビルアイが騒ぎ出した。

「ま、待ってくれ!ももん様を一人で戦わせるなんて出来ない!私も残る!残らせてくれ!」

 いや……それだとモモンさんが我々を行かせてくれた意味が無くなるのでは?

 

「私ならフライや転移魔法でみんなに追いつけるし、いざとなったら単独行動で姿を消して竜王国に入ることも出来る。それに草陰からの援護魔法に徹して、決して『蒼の薔薇』のイビルアイも敵に回ったとバレない様にするから頼む!頼む!」と必死にラキュースにしがみついてくる。恋する乙女の気迫に敗けたラキュースは「分かったわ……モモンさんを助けてあげて。本当に見つからないようにしてね」とイビルアイの懇願を許すしか無かった。

 

「すまない!ラキュース!恩に着る!」

 そう言うとイビルアイは馬車から飛び出して、転げるようにイビルアイがモモンの元に辿り着くと事の次第を告げる。

 モモンは「一人で大丈夫だから行きなさい。君までもが王国の反乱者になる必要は無い」と説得するもイビルアイは頑として聞かない。実はモモン……モモンガは追手に関しては絶望のオーラⅣを使用してサクッと全滅させてゲートでナザリック送りにしようと思っていたので結構イビルアイの事を「気持ちは嬉しいけど邪魔だなあ……」と感じていた。

 そしてイビルアイはあくまで自分のことを気遣ってくれているモモンに惚れなおした。

 

「あの…その……ももんさまぁ」

 突然のイビルアイの甘えたような言葉にドキッとしたが「どうした?イビルアイ」と素気無く聞き返す。

 

「その‥‥2人の時は‥‥キーノと呼んで欲しいの…だ」とイビルアイは訴えた。

 

「キーノ?」

 

「ああ、キーノ・ファスリス・インベルン。それが私の本当の名前だ」

 

「……そうか。私などに教えても良いのか?秘密にしていたのだろう?」

 

「うん、モモン様には知っていて欲しいと思ったのだ」

 

「ふむ、分かった……。おっとイビルアイ、隠れなさい。護衛隊が来たぞ」

 

「むう」と拗ねたような声を出してイビルアイはこそこそと草かげに隠れる。この辺りの道端の草は1メートル以上あるので、小柄なイビルアイにとってはたやすく隠れることが出来た。

 

 護衛隊は怪しい人影が近づくにつれ、その影が『漆黒の英雄』モモンである事に気づいた。

 

「モ、モモン殿!?なぜこんな所に? この道を先ほど2台の馬車が通ったと思うのだが」

 

「ああ 通ったな」

 

「その馬車にはラナー姫が御乗車しておわす!どうか我々と共に姫を助けだしてくれませんか?」

 

「‥‥‥先に謝っておくが、すまない。 それは出来ない」

 

「なんですと!?」

 

「私は姫の憂いを帯びた涙に心を打たれた者だ。君たちも騎士ならば姫を思って追撃をやめてやって欲しい」

 

「そ、それは出来ません!おめおめと国に帰れば我々がどれほど罰せられるでしょうや!?」

 

「ふむ、仕方ない。ではその罪を私が被ろう。君たちが手も足も出ない相手に阻まれて姫を断念せざるを得なくなったという事になるな……。さて、かかって来たまえ。なるべく怪我をさせないよう努力してみる」

 

「我々は王兵です!それは国家反逆罪になりますぞ!」

 

「是非もなし」

そう言うとモモンは二振り一対の剣を抜いて二刀流となり護衛隊の前に立ちはだかる。

 

 隊長が「クッ、か、かかれえーーーーー」と叫び自ら突進するが、モモンは彼のヘルムを剣の側面で「バシンッ」と叩いて一撃で気絶させる。

 二人目の勇者も一撃で「ゴインッ」とヘルムを上から叩かれて「はうっ」と気絶する。

 更に何故か中段の騎士たちがパタパタと傷もないまま倒れたりフラフラになっていく。

 もちろんこれはイビルアイによる魔法「低位スリープ」だ。彼女はエレメンタルマジックに特化しているものの最低位階の魔法くらいは何とか使えるのである。

 

 流石モモン様だ‥‥‥。とイビルアイは感心した。

 

 ここに居る者達は姫の護衛隊に選ばれた「リ・エスティーゼ」の精鋭である。それらの兵を傷つけることなくバッタバッタと気絶させて行くなど、そうそう出来る芸当では無い。しかも二刀流でだ。

 しかし、護衛兵から見れば「あっ モモンさんに襲いかかっても殺されないぞ」という訳で、まるで稽古をつけてもらう弟子かの様にワラワラとモモン様に飛びかかっていくのだ。むむ、こいつらズルイ奴らだ!

 

 そんな訳で草陰に隠れながら護衛兵の群れに低位スリープをかけていく。エレメンタル系以外の魔法は苦手ではあるが不意打ちのお陰でかなり効果が出た。

 結局半刻ほどで2人で全員を戦闘不能にする事に成功した。

 

 イビルアイは愛しのモモン様に誉めてもらおうと、トテテーと小走りに倒れる護衛兵の元でしゃがみ込んで様子を見ているモモンの元に背後から近づき、何をしているのかな?と覗き込む。すると突然モモンが「ふう 大丈夫っと」と呟いて立ち上がった。

 

 それにより、モモンの鎧の肩の部分がイビルアイの顎にヒットする事になり、「あうっ」という悲鳴と共に「カランカラーン」とイビルアイの仮面が外れて転がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠されていた私の顔を見たモモン様は、一瞬狼狽えた様な雰囲気を鎧から出して体を輝かせると「あれ?」と小声で呟き「ちょっと失礼する」とイビルアイの手を掴むと指輪を眺めて「……なるほど」と呟いた。

 

 ……あう あう あう……

 

 見られてしまった。

 赤い瞳を。

 唇から覗く牙を。

 私が吸血鬼である事を!

 知られてしまった!

 一番知られたくない人に!

 

「イビルアイ……君は吸血鬼だったのか……?」

 

 ああ…そうだ。罵倒するが良い「バケモノ」だと。

 

 軽蔑するが良い「嘘つき」と。

 

 昔話の『国堕とし』とは私の事だ。

 沢山の人を殺してきたのはこの私だ。

 あなたや皆を騙してきたのはこの私だ。

 

 あなたに……う、う゛うう、あなたに……恋していたのは吸血鬼だ……。

 

 私は何も言えないまま力なく地面に倒れ伏し、うつむき続ける。

 

「そうか……大変だったな」

 

 ……大変?

 

「ラキュースたち、仲間達は、この事を?」

 

「……もちろん 知っている……。」

 

「そうか。良かった。ちゃんとした居場所がオマエにはあるんだな」

 

 ……え?

 

「イビルアイ……いや、キーノ」

 

 ……それは先ほど2人だけの時に呼んで欲しいとせがんだ私の本当の名前だ。

 ここでその名前で呼ぶのか。ワタシを。

 

「いつか何かがあって、その居場所が無くなる日が来たのなら」

 

 確かにラキュースたちは寿命のある人間であってアンデッドの私とは違う。寂しくない日々もいつかは終わるだろう。孤独な、独りぼっちの日々が再び訪れるだろう。

 

「私のもとに来るがいい」

 

「ふぇ?」

 

 するとモモン様は私の傍に来て手を取ると私を自分の体に引き寄せた。それはまるでいつか見た童話の倒れる姫を抱き起こす王子様の様で……。

 

 そして私の耳元で 囁いた。

 

「大丈夫だよ。私も不老不死だから。 いつかキーノが居場所を失くしたのなら、私の元に来ると良い。私達なら、ずっと一緒に居てあげられるから」

 

「ずっと……?」

 

「ああ、飽きるくらいの時を過ごそう。ふふ、ラキュース達には内緒だぞ?」

 

 そう言うとモモン様は口元に人差し指を当てて悪戯っ子の様に「しー」と言うジェスチャーをした。

 

 その時、確かに私の心臓が250年ぶりに トクンッ と強く、私の心をノックしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ……イビルアイの様子がオカシイ

 

それは『蒼の薔薇』の誰の目にも明らかだった。

『竜王国』にふらふらとやって来て「無事だったのね!」と抱きしめたら「うふふふふふ」 にへら、と笑い

「モモンさんはその後どうされたの?」と聞けば

「ももんたまぁ……(ウットリ)」にへらと笑う。

 と云う感じで常に、にへらにへらと、ニヤニヤしているのだ。ガガーランは「奴さん(モモン)となんかあったな……」と何故か男前な表情で断言していたがそうなのだろうか?見た目は10~13歳の少女であるこの子と?

 

 もちろん殿方の中にそういう性癖の方も居るのは知っているが、あれだけの美人を侍らせて「姉妹丼」?だっけ?までしていると噂のモモンさんが?

 

もしかして……彼女(イビルアイ)が成長し大きくなるのを待っていてくれるのかしら? だとしたら彼女は不老不死で無駄な事になるのだけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 そうか……あの子はヴァンパイアだったのか……蒼の薔薇が亜人の保護をしている理由はそれかな?

 まあ、吸血鬼はモンスターだけどな分類的には。

 

 人間の世界で独りぼっちで辛かっただろうに……独りぼっちの辛さ苦しさは俺も知っているからな。

 

 シャルティアの妹分にちょうど良いし喜ぶだろう。

 アウラは創造主の関係が如実に出ていて、むしろお姉さんっぽいしな。

 この世界のことを沢山知っているだろうし、貴重な人材だな。

 ナザリックにも馴染むだろう。新しい世界の新しい仲間か……ふふふ。

 ……まあ ペロさんが居たら何らかの事案が発生してそうだが。

 

 あと、パンドラズアクターの考えたセリフが恥ずかしすぎたので、一言文句を言おう。恥ずかしさで俺を殺す気がアイツ。

 

 

 

 

 

 

おまけ2

 

 

 セバス殿に「可哀想なラナー姫をどうか救ってあげて下さい」と言われるまま迎え入れたが大丈夫かのう……。

 でも「何があっても必ず我々が守ってみせます」と言い切ったセバス殿は格好良かったのう……でへへ。

 宰相は「これでAOGの実力が解るのですから良い機会では?AOGがリ・エスティーゼ軍を追い払えば良し、追い払えなければ彼らとの契約を打ち切りラナー姫を帰せば良し」などと腹黒い事を言っておったが……。

 しかし最近ビーストマンの動きが活発で怖いのう……その代わりセバス殿が居ずっぱりじゃから嬉しいのじゃが。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ3

 

 

そうですか、コキュートスはもうすぐビーストマン部族を支配下に置けますか……それは何よりです。参謀として連れて行ったリザードマンのザリュースという男が、なかなか役に立っているようで……。ああ、適度に『竜王国』の方に奴らを追い込んであげて下さいね。セバスが暇してますから。

彼女たちも「ギルド・アインズ・ウール・ゴウンに入ってて良かった!」と感じてくれることでしょう。実に素晴らしいことで御座います。

 

 

 

 

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