鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

31 / 57
 



第六章三編 エ・ランテルの乱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数ヶ月前~

  

 

 

 

「ねえ……次にセバス様がカルネ村にお越しになられるのは……」

 

「ですから、知らないですって」

 

「もおー あなたチームメイトなのにー」

 

「修行中の身で御座いますのでー」

 

「いもうとがつめたいいぃぃーー」

 

「姉が色ボケで辛い……」

 

 

 ニニャは帰国後、カルネ村で色ボケしている姉と穏やかな日々を過ごしていた。

 久々の姉との生活は、もっと、こう…「うふふ、いらっしゃい。一緒にお風呂に入りましょう!」とか「見て!アナタのお洋服を作ってみたの!」とかそんな生活を想像していたが現実は非情だった。長年の囚われの生活からの解放感と、セバスさんが居ない脱力感で、日がな一日、陽なたぼっこをする覇気のない姿はさながら老猫……むしろニニャがご飯を作ったりお風呂に入れてあげたり色々と世話というか介護をしている。

 おかしい。色々とおかしい。

 そのくせ、モモンさんが「女の子の家に風呂が無いのは頂けない…」と作ってくれた個人向けには大きなお風呂に一緒に入った時には突然「もきゅー!わたしより大きいーーー?!」と後ろから私の胸を鷲掴みにして「セバス様も大きい方が好きなのかしら?!」と半泣きになるとか……知らんがな。チームメイトの老人の性癖とか知らんがな。と、やさぐれる。 あの厳粛なセバスさんが「やはり巨乳は良い。オッパイは宇宙ですよね……」とか言ってたら、大抵泣く。モモンさんと一緒に泣く。あと…離して…痛い痛い痛い潰れる潰れる。

 

 そんな姉が突然「わたしセバス様の元で働きたい!」と言い出した。

 一瞬、駄目ニート(十三英雄用語)が、ついに働く気になったか?!と感動したが目がハートマークのままだったので、完全にセバスさんの近くに居たいからという不純な動機が見え見えだった。

 最近、カルネ村の駐在員になったルプスレギナさんからモモンさんへと連絡が入り、協議の結果「セバスお付きのメイド練習生」という扱いになったらしい。

 

 モモンさん、女性に甘々な気がする……。

あれだけモテモテなのに、こんなに女の言いなりになってると後々大変な事になるとおもうのだけれども。

 うん モモンさんにはシッカリ者のお嫁さんが必要だな。

 苦労人で……冒険者の仕事に理解があって……マジックキャスターで……。

 ごほんごほん……えーっと姉さんの話しだったかな? 姉さんは、それから週に5回ほど、ナーベラルさんや、ユリさん、ルプスレギナさんの指導の元「メイドへの道」を歩き出し、掃除に洗濯に料理と頑張っているようだ。

 そして今朝食べたミートパイは家庭の味でありながらとても美味しく、「ああ…姉さんの味だ……」と涙が出そうになった。「美味しいです。姉さん……。」と言ったら「セバス様も喜んでくれるかしら!」と返された。違う意味で泣きそうになった。

 

 そんな涙腺が緩みがちな或る日、久々にモモンさんがカルネ村を訪れた。

 これで、以前からモモンさんに聞きたかった事をようやく聞くことが出来る。

 バハルス帝国魔法学校へ行く際に渡された二冊の本についてだ。

 モモンさんは「支配される者と、する者に分かれない新しい政治形態、『民権政治』の概念だ」と言った。

 

 

 

 当時、私は魔法学校に真面目に通いつつ、この本に夢中に成っていく自分に気づいた。大嫌いな無能で傲慢な特権階級。生まれた時からハンデが付けられた田舎の農民という身分。同じ人間なのにどう違うのだ?という疑問は子供の頃から持っていたし、姉が攫われてからは怒りと憎しみを握りしめながら、より強く思った。

 

 モモンさんは言った「書いてみるか?」と「平民だと柵の中に放り込まれた人々に、柵を破る方法を、柵を破った後の生き方を伝えないか?」と

 魔法の勉強と好奇心が強かった関係で、他人よりは読書家だったし日記を付けるなどして文章を書く癖が付いていた自分はこの本に書かれたことを分かりやすくみんなに伝えるのに適した人物だと思えた。

 

 私は「書かせて下さい」と一言だけ言った後、知識層向けの80ページ程の本と、分かりやすく図解説入りで書かれた10枚ほどの冊子を書き上げた。

 モモンさんは私の渾身の作を読み終えると、何か少し悩んでいる様子だったので心配になり聞いてみると、何でもこう云う本には著者名を入れるのが一般的であり、著者としての誉れでも有るのだが、内容が内容だけに『王国』に捕まる可能性もあるため著者名は書かない方が良いけど、どうしよう…と悩んでおられたらしい。相変わらず気配り屋さんだなあと感心したあと、私はハッキリと「『ニニャ』と堂々と書いて下さい。偽名ですけどね!」と言って笑った。

 

 そして、この本を書き上げて憑き物が落ちたようにスッキリとした私は、禁書本の著者であることを隠すためと相まって男装を完全に辞め、本名を名乗り、未来の『漆黒』第三位階のスペルキャスターへの道を歩き始めるのです。えへん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼女の植えたタネは確実に芽を出し伸びてゆく。

 

 城塞都市「エ・ランテル」にて『民権主義へ』著者ニニャという本と『今こそ直接民主制』という冊子がバラ撒かれだしたのは、それから間もなくだった。

 その本や冊子は、始めは巧妙かつ大量に配布された。或るときは街角の道端に積まれるようになり、誰でも手にすることが出来た。

 そして政府に知られて禁書になると、宿屋のBARカウンターや、知識人の家のドアや窓から放り込まれる様になり、いつしか字を読める者の多くがそれらの冊子を読んだことがあるという状態になった。ナザリックにて大量増刷された数は実に「本1000冊」「冊子20000枚」に及び、量産を命じられた司書長の「ティトゥス·アンナエウス·セクンドゥス」を始めとして、アウレリウス、アエリウス、ウルピウス、コッケイウス、フルウィウスのスケルトン・オーバーロードメイジの者達は文字通り骨を折りまくった甲斐あって主の期待に応えた。

 

 エ・ランテルはリ・エスティーゼ王国の中でも、バハルス帝国との度重なる戦争やスレイン法国のちょっかい、そしてトブの森のモンスターやカッツェ平野のアンデッドなどにより、最も苦労させられてきた都市である。元々がそのための最前基地として建設された城塞都市なので当たり前なのではあるが、王都を始めとして大貴族は安全地帯で惰眠を貪っており、「エ・ランテルの損かぶり」である事を当たり前であることと慣れてしまっていた。

 エ・ランテルには危険地帯という事もあり、王都の冒険者以上の数の冒険者が登録されている。冒険者の多くは農家の次男三男であったり、徴兵で兵士になった後のあぶれ者だったりで被支配者階級の者が殆どある。そして冒険者が多いエ・ランテルが抱える多くの冒険者向けの施設、宿屋、酒場、食堂、防具屋、武器屋、娼館、等の第二次産業と第三次産業にとっては、貴族などよりも冒険者とバハルス帝国の商人やスレイン法国の行者の方がより親しみがあり、自分たちの生活と密接に関係している者達である。それなのに国境であり戦場に近いという理由で他の地区よりも手酷い徴兵に遭い、多くの血税を払わされているのが常であった。そういった不満が少ないはずは無い。やり手のパナソレイ市長により懸命に抑えられてきた王国への募り募った不満はいつ爆発してもおかしく無い状態であった。そして、この「ニニャ」による思想の噴霧である。彼らの多くが暴発した際の方向性が定まりつつあった。この状態で訪れたのが「ラナー姫の巡幸」である。

 

 すでに王国政府に見切りをつけて冷ややかな視線を送るものも僅かながら居たが、そこは絶大な人気の『黄金』である。王族と云うよりも「アイドル」的な人気が高く、市民から歓待を受けるが晩餐会での「貴人故の悲しみに喘ぐラナー」を知る。これで王制への擁護的な立場だった者達にも解りやすい王や大貴族達の腐りきった遣り取りを見せつけられる事になった訳であり、ラナーへの同情の思いは強くなった。

 

 そして「ラナー姫の亡命事件」が起こる。

 エ・ランテルの住民はハッキリと「ラナー擁護派」であった。

 ただでさえ王制に対する疑問と不満が頂点に達している所でこの国王の醜態。不満は義憤と結びつき劇的な化学変化を遂げていく。

 そしてラナー姫が亡命した『竜王国』へ送った国王からの返還要求が突っ返されるに至り、王国から竜王国への軍の派遣が決まる。

 ただしこれは突発的に決まったわけではない。そもそも毎年恒例になりつつあるバハルス帝国との会戦の時期が近づいてきており、例年の会戦地であるカッツェ平野に兵を集める必要があったのだ。カッツェ平野の東にあるのが竜王国であり、北にあるのがバハルス帝国である。バハルス帝国が来るよりも先にカッツェ平野に大軍を展開することは小国である『竜王国』への威嚇にもなり、一石二鳥としての軍隊活動と、その徴兵に過ぎない。

 当然、徴兵の命令はエ・ランテルにも届く、いつも通り、エ・ランテルの平民及び、エ・ランテルの周辺の村々より多数の兵を徴兵するべしという指令書である。

 

 ……それに対してエ・ランテルの答えは「徴兵拒否」であった。

 

 パナソレイ市長は良く持ちこたえたし頑張ったと云える。「プヒープヒー」と鼻を鳴らしながら平民だけでなく下級貴族にまで広がる新しい思想を躱しながら抑えていたのだ。ここへ来ての、まるで「ラナー討伐」の様にもとれる出兵にエ・ランテルの市民が納得出来るはずも無く、市長としては市民の感情にこれ以上逆らえば反乱へと繋がる事から「エ・ランテルでの徴兵と出兵は現在困難な状況にあります」と返答せざるを得なかった。

 当然、王国側としてはそれで納得するわけもなく詰問の様な伝令が矢継ぎ早に送られることに成る。しかし、これ以降の使者がエ・ランテルに辿り着くことは無かった。それは何者かに依る妨害があったからだが、それを知らない王国としては「王からの使者を無視するだけでなく殺している」としか判断出来ない状況が続いた。

 

 もともと『竜王国』に対して武力行使することに最も積極的だったのが武闘派であるボウロロープ侯であった。先日の悪魔騒動の時に大損害をうけたランポッサ王とは違い、彼の土地では被害が無く、大軍の準備は出来ていた。彼は直ぐ様、領内の兵を纏めると5万、更にリットン伯爵2万の兵と合流して7万の兵で竜王国への威嚇と、バハルス帝国との会戦に備えてカッツェ平野へと兵を進めるために南下していた。

 そこへ入ってきたのが「城塞都市エ・ランテルに不穏の動きあり」の報である。彼らはまずは反乱軍の鎮圧とばかりに『エ・ランテル』に進軍を開始した。上手く行けば本来、王の直轄地である『エ・ランテル』を大義名分の上で支配し、領土を拡張出来ると嬉々として動き始めたのである。『エ・ランテル』をおさえることはこれからの選択肢の一つである内戦などで非常に大きなアドバンテージになるからだ。

 

「ボウロロープ侯の7万の軍隊が攻めて来た!」その一報が街に広まるとあれだけ徴兵を忌避していた平民たちが率先して守備兵として志願してきた。彼らの中では自らの街は責任を持って自らで守るべきだという考えがあり、確かに民権政治としての基礎が芽吹いていたのである。

 パナソレイは度重なる停戦要請を送ったが、それらも初めの一通を除いて何者かの妨害によってボウロロープ侯に届くことはなく、ボウロロープ侯は『エ・ランテル』に到達した時、彼ら城兵がヤル気満々で防御を固めていることを知る。

 

「パナソレイめ!なにが「誤解か何かです」だ!案の定、戦闘準備が終わっておるではないか!」とボウロロープ侯が気を吐く

 

「全くですな‥‥奴が市民を唆した結果が、この反乱ではないでしょうか?」とリットン伯が追従する

 

「おい伝令!王に至急伝えよ!エ・ランテルは反乱せり。パナソレイが主導している可能性もアリ。我々はこれからエ・ランテルの制圧を開始すると!」

 

「もうすでに降伏勧告も何通も出しているのにも関わらず無視ですしな」

 

 そう、何人も出した使者は一人目以降誰も帰って来ていないのだ。

 

「うむ 王からの使者も全部斬り捨てられていると聞くしな……よし、エ・ランテルを包囲する!攻城戦の用意を急げ!」

 

 こうして世に名高い『エ・ランテルの戦い』は始まった。

 

 傲慢な貴族が、強欲な死神に抱かれながら底なし沼に沈みゆくように。

 

 

 

 

 城塞都市の名前は伊達ではない。特に初めの頃は市民兵の意気の高さが尋常ではなく、ボウロロープ軍の攻撃を何度も跳ね返した。

 ただボウロロープ軍も何故か無理攻めはせずに自軍の損耗を少なくするような戦いをしていた。

 しかし2日目には勝手が違いだした。ボウロロープ軍は城壁から顔を出す弓兵などを集中して狙いだし、時間と共に多くの城兵弓隊が犠牲になった。市民兵の多くは徴兵の際には一兵卒であり槍隊である。しかし弓兵は技術職なのだ。それゆえ本来の弓兵が討ち取られて市民兵に交代したとしても、ヤル気があるだけの市民兵では弓を撃っても当たる訳でもなく、むしろボウロロープ軍の弓隊に狙われて矢の的になるだけであり、次第に跳ね返す力が弱くなっていった。

 そして、城壁からの攻撃の手が少なくなれば攻城兵器の出番である。

 当初の予定通りにバハルス帝国への会戦だけなら必要なかったが、エ・ランテルに攻めこむ可能性が出てきた時からトブの森の木を利用して現地で作製していたのだ。 木製の三角形のテントの様な形をしており、中にはお寺の鐘付き棒の様に後ろに振りかぶって丸太を打ち付ける構造……『破城槌』である。破城槌は幾種類かの工夫された方法で自走し、攻撃者は比較的安全に防壁または壕に到達することができた。そして中に装備してある丸太を城壁に打ち付け続けて壁を破壊するのである。これが5機もエ・ランテルの壁に取り付いたのだ。

ドーン ドーン という重い音と共に震える壁に、中の市民は耳を押さえて目を瞑り怯えるしか無かった。

 

 そしてその日、ついに冒険者が立ち上がった。冒険者には戦争時不参加不介入の原則がある。そうでなければ非常に強い戦力を有する組織に冒険者組合がなってしまい国から危険視されて解散命令が出るためだ。ただでさえ冒険者には素性の知れないものも多く軽犯罪に関わることもあって行政機関から睨まれているので、国の政争などに関わらないように冒険者組合が組合員を律するのは当然と言えた。

 しかし、この日、攻城兵器が現れることによって『エ・ランテル』が堕ちる危機に多くの冒険者が冒険者組合からの脱退と戦闘参加を申し出たのだ。冒険者組合としてはたとえ今、組合から脱したとしても戦闘に加われば彼らを養ってきた組合が何らかの処罰を受けるのは免れず、断固反対したのだが、退会自体は本人の自由であり、また退会後に彼らを縛るものも無い。そして300人ほどの元・冒険者が城兵として志願した。

 そしてこの出来事によって、エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザックの懸念が現実の物となり、後に王都リ・エスティーゼでは「蒼の薔薇の件と云いエ・ランテルの反乱の件と云い、冒険者組合はテロリストの養成所なのか!」という声があがり、リ・エスティーゼ冒険者組合の閉鎖に繋がるのであり、アダマンタイトチーム『朱の雫』のリーダーでありラキュースの叔父であるアズスが頭を抱えて「ラキュゥゥゥゥゥゥゥゥス!?」と叫ぶことになる。

 

 

 冒険者達は寡兵である事を理由に夜襲を選択した。『エ・ランテル』は三重の外壁によって守られており、一枚目が破られる前に動くべきだという案が通ったためだ。

 夜陰に紛れて城から抜けるとマジックキャスターの炎系の魔法で破城槌を燃やすのを合図にボウロロープ侯の本陣を潜伏能力があるレンジャーなどで襲いかかったのである。しかしこれは重厚な彼の陣を破ることは叶わず失敗に終わった。こうして冒険者達による襲撃は80人の被害と引き換えに全ての破城槌の破壊に成功した。

 これに肝を冷やしたボウロロープ侯は自陣を後方へと配置し、再び破城槌の作製に取り掛からなければならず、エ・ランテルは数日間の猶予を得た。

 夜襲を恐れたボウロロープ侯は夜のエ・ランテル包囲兵を増員したが結果としてこれは兵の疲れを招き士気の低下に繋がった。

 そして一度目の冒険者襲撃から2日めの夜、突如エ・ランテルより散発的ながら魔法や壊れた城壁のレンガなどによる反撃が始まったのだ。

 当然、ボウロロープ軍もこれに応戦する。その時であった。前線に集まる主戦力と後方に引きこもった本陣、その伸びきった戦線を狙いすましたかの様に森から這い出てボウロロープ本陣へと駆け寄る影があった。エ・ランテル冒険者組合が誇る3つのミスリル級冒険者チーム「クラルグラ」「天狼」「虹」と他チームからの選り抜きの精鋭を合わせた30名の強襲チームであった。

 前回の一回目の冒険者に依る夜襲の際に敵陣を突破して森に入り込み2日間潜伏してこの機会を待っていたのだ。ここまでが普段から実戦を重ねてきた冒険者チームの作戦だったのだ。

 森の中での潜伏進行は「フォレストストーカー」の異名を持つ「クラルグラ」のリーダー・イグヴァルジのお家芸であった。彼らはトブの森の中を2日掛けて北上し、見事にボウロロープ侯の本陣の背後へと回り込み、仲間が兵をエ・ランテルに誘き寄せてくれたと同時に本陣を強襲したのである。

 乾坤一擲の作戦だったが敵陣にもミスリル級に匹敵する強者が護衛として多数配属されていたため惜しくもボウロロープ侯に手傷を負わせるのが精一杯であり、彼らはその場で討ち死にするか捕らえられるかで失敗に終わった。

 

 そして翌朝、彼らミスリルチームを含む30名の冒険者の骸は磔(はりつけ)にされてエ・ランテルに向けて良く見えるように晒されたのである。

 

 これは自らの命に危険が迫った恐怖からくるボウロロープ侯の怒りであり、もうすぐランポッサ王が到着するであろう焦りからくる行動だった。もちろん「これ以上逆らうとお前達もこうなるぞ」という見せしめであったが、これはエ・ランテル市民にとっては逆効果と言える悪手であった。

 なぜなら、現在のエ・ランテルでは冒険者組合長のアインザックと市長パナソレイ、魔術師協会長テオ・ラケシル、下級貴族代表のマクベイン、エ・ランテル地神司祭長ギグナル・エルシャイによる図らずも合議制に近い形により動いていた。

 パナソレイとギグナルは「とにかく書状によって誤解を解いて停戦すべき」という考えであり、若い下級貴族マクベインは新思想である民権政治に傾倒しており「エ・ランテルの独立と民主政府による自治を」という過激論者であり、アインザックとラケシルは現実主義の苦労性であり、「こちらからは攻撃せずに防御を固めていれば、もうすぐ帝国軍がカッツェ平野に来るために王国軍もそちらに行かねばならないはず。その時に背後を衝いたりしない事を旨に不戦条約を結ぶ」という意見だ。保守派2、革命派1、中立派2というバランスであり、ボウロロープへの怒りはともかく『リ・エスティーゼ王国』への帰属心は失われていなかったのである。

 

 しかしこの虎の子のミスリルチームが磔にされるに至って「これが国民に対してすることか!もう我々はリ・エスティーゼの民では無いという事か!」と彼らの上司とも云える冒険者組合長のアインザックは怒りに身を任せて石壁を蹴った。自分の弟子や後輩が冒険者チームに派遣されているラケシルにとってもこれは同様で、各種相談に乗ったり結婚式に出た事もある協会所属のマジックキャスターの変わり果てた姿は彼の心を決するに余りある光景だったのだ。これよりパナソレイとギグナル以外は「反王国」という状態になりエ・ランテルの首脳陣は強硬派が占めることとなった。

 

 そして「降伏はしない!国王が出てきた時にボウロロープ侯の暴虐を訴え、エ・ランテルに罪を問うならば反乱独立する」という方針に落ち着いた。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
歴史小説かっ!? ←自分で突っ込んだ



ツアレ ニート → セバスのストーカー
ニニャ 介護士 → 禁書本の著者

エ・ランテル → 色んな要素が何故か偶然起きて反乱へ 不思議ですね







紅蓮一様、244様、桜雁咲夜様、ゆっくりしていきやがれ様、誤字修正を有り難う御座います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。