エ・ランテル暫定合議政府の決断と意思が強固になったもののボウロロープ軍の攻めは苛烈を極めた。彼らは再び用意された『破城槌』7機を以って数箇所同時に壁を壊し始めた。
こうなると穿かれた7つの穴から兵が一気に押し寄せてくることが考えられて城内を一層不安にさせた。
となれば門から一気に兵を繰り出すしか方法はなくなるが、城門の前には死地を設けてボウロロープ軍が待ち受けており、どうにも出来ない状態であり、いっその事バハルス帝国かスレイン法国に救援を依頼しては?という声もあがった。
切り札的な冒険者達の多くを失ったエ・ランテル市民は失望と絶望を味わいながら揺れる城壁を見つめることしかできなかった。
「それ」に初めに気づいたのは東門の城兵だった。
彼らは東の空に黒点を見た。それは徐々に大きくなり門兵は騒いだが、黒点が大きくなるにつれて、それがアダマンタイトチーム『漆黒』のマジックキャスター・ナーベラルにぶら下がる「漆黒の英雄」モモンと、そして見知らぬ黒い鎧に身を包んだ女性であることが判ると、騒ぎはもっと大きくなった。
モモン達はエ・ランテルの城壁の上に着陸すると、何故か全て知っているかの様に仮の合議所に向かって歩き出す。その間も周りの兵も市民も歓喜の声を上げながらモモンを歓待する。
モモンは軽く手を振りながら歓声に応え「もう大丈夫だ。安心してくれ」と民衆に告げると政務所に入っていった。
驚き喜ぶ5人のエ・ランテル首脳に助けに来た旨を伝えて打ち合わせをすると、市民を集めて演説をしたいので、夜に塔の前に集めて欲しい旨を伝える。「その黒い鎧の女性はどなたでしょうか?」と聞かれたので「アインズ・ウール・ゴウンというギルドから借りてきた助っ人だ」と伝えて部屋から出るとエ・ランテルを見渡せる塔に昇っていった。
「……アルベドよ。あまりそうイライラするで無い」
「はっ、申し訳ありません。どうしても人間ごとき脆弱で愚かな者共が至高なる王を無遠慮に見てくる事に耐えられませんでした」
「解ります。 ムカデにすら劣るノミがモモンガ様のお手を煩わせている事に我慢がなりません」とナーベラルまで不満顔で意見する。
「オマエらなあ……ダブルスで息のあったプレイを見せるなよ……というかアルベド。お前がどうしてもと聞かないから連れてきたのだぞ?」
「申し訳御座いません しかしこれからの事を考えるとどうしても防御型の護衛をモモンガ様のお傍に御付けしておきたく……そ、それを冷静に、私心無く熟考した結果、これは私が最も適任だと!判断致しました。決して私利私欲ではありません決して私利私欲では無いのです。モモンガ様ぁ」
「わかったわかった。早口で2回も言わなくて良い」
「それで……モモンガ様。これからの事ですが」
「うむ 予定通り執り行おう。我々が来たタイミングも良かったみたいだったしな」
「はい モモンガ様の構想とパンドラズアクターの情報網、そしてデミウルゴスの洞察力は完璧で御座います」
「ははは……私はオマエ達を信頼し、この作戦を実行するだけだ ……さて、ちょっと練習するから聞いていてくれ。パンドラズアクターが演説中の身振り手振りの仕方に煩くてな」
「「はっ」」
・・・・・・・・・・・・
実に三時間もの演説練習を終えたモモンガはドアを出て塔から下を見ると暗くなった街の中で、塔に群がる数万の人々が見える。
鈴木悟時代にお偉いさん相手にプレゼンを繰り返してきたといっても、これだけの圧の中で何かを喋る事は容易では無い。モモンガは自分が例え中途半端だとしてもアンデッドである事に感謝した。さっきから光りっぱなしだが、お陰で声を出すことは出来そうだ。
窓の手すりに身を乗り出すと集まった観衆による「モモンさまああーーー!」の止むことのない歓声が上がる。
その余りの迫力と緊張にモモンガはジットリと汗が全身を流れるような感覚に浸る。
聴衆には夜の暗闇の中で緑色の光に包まれた漆黒の騎士がどう見えただろうか?
……えーと、初めは手をかざして聴衆が静かになるまで待つんだっけ?パンドラズアクターが口煩く、そう言っていたな。
モモンガは右手を低くかざして、ジッと小さく頷きながら待つ。
その右手を見て歓声は更に大きくなったが、英雄モモンの言葉を聞くために、やがて、ざわついていた声が小さくなり、ついには染み入る様な静寂が訪れる。
そして英雄は静かに民衆に語りかける。
「我らは次のことを当たり前の真理であると考える。すべての人間は平等につくられている。神によって、生存、自由そして幸福の追求を含む侵すべからざる権利を与えられていること。これらの権利を確保する為に、人は政府という機関をつくり、その正当な権力は被支配者の同意に基づいていなければならないこと。もし、どんな形であれ政府がこれらの目的を破壊するものとなった時には、それを改め、または廃止し、新たな政府を設立し、人民にとってその安全と幸福をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方で、新しい政府を設けることは人民の権利である。」
民衆は叫びたい気持ちを抑えるのに必死になる。今まさに我々の英雄が口にしたのは夢にすら見ることの無かった平民という奴隷主義からの解放宣言であった。歓喜の雄叫びを挙げたい!しかしまだ我らの英雄は言葉を紡ごうとしている!その言葉を聞きたい!これほどの熱量を持つ静寂がかつて存在しただろうか。
英雄はゆったりと拳を握ると時に強く、時に優雅な身振りで民衆に語りかける。
「今われわれは、一大内戦のさなかにあり、戦うことにより、自由の精神を育み、自由の心と命が捧げられたこのエ・ランテルが、或いは、このようなあらゆる思想が存続出来るという事に挑んでいるのである。我々はそのような大きな意味のある戦争に一大激戦の地で、相会している。
我々はこのエ・ランテルを守るために、ここで生命を捧げた人々の最後の安息の場所として、この戦場を捧げるためにやって来た。我々がそうすることは、当然であり喜ぶべきことである。
世界は、我々がここで述べることに、さして注意を払わず、長く記憶にとどめることもないだろう。しかし、彼らがここで成した事を決して忘れ去ることはできない。
ここで戦った人々が気高くもここまで勇敢に推し進めてきた未完の事業に捧げるべきは、むしろ生きている我々なのである。――それは、あの非道な磔という辱めを受けた30人だけで無く名誉ある全ての戦死者たちが、最後の全力を尽くして身命をささげた偉大な大義に対して、彼らの後を受け継いで、われわれが一層の献身を決意することであり、これらの戦死者の死を決して無駄にしないために、この国に神の下で『民主主義』の新しい誕生を迎えさせるために、そして、人民の人民による人民のための政治を実現するために、我々はここに固く決意することである」
「私は明日の朝、出撃する。強欲で傲慢な貴族を打ち払いエ・ランテルに平和を取り戻し自由と平等を得よう。それは私の勝利では無い。君たちと君たちのために戦い死んだ全ての者達の勝利であり、そして民主主義の勝利なのだ!」
モモンガが一気に演説を終えて観衆に一礼すると、一瞬静まり返った聴衆から爆発するかのような感情と歓声が広がった。
彼らは自らが虐げられていた王制という物をどこかで諦めながら生きてきた。常に力のあるものは貴族であり、王制の守護者だ
今まで革命やクーデターの話が全くなかった訳ではないが、実現不可能な夢物語としてその熱はスグに冷めてきた。
しかし今回、あの冊子や本で瞬く間に広がった民権主義思想は熱い内に防衛戦争という槌で打ち付けられ鋼と化した。そしてその鋼で出来た『剣』に英雄モモンが、今 刃を刻み込んだのだ。
「熱狂的」を意味するマニアの語源はギリシャ語のマニアーであり、狂気(madness)から来ている。これは元々、古代のギリシャで夜に隠れ家に集まって酒を飲み、狂おしく騒ぎ立てる状態の事を表していたと云う。そういう意味でも正しく今の彼らは熱狂的に英雄の言葉に酔いしれた。広場や建物の窓から彼らは酒を交わし口々に「明日はモモン様と一緒に戦うぞ!」「民主主義万歳!!」「漆黒の英雄に勝利あれ!」「光の御子に栄光あれ!」と叫び続けるのであった。
演説を終えたモモンガは塔から身体を引っ込めると壁に持たれるように「ふう」と一息つく。何故か心身ともに非常に疲れたのだ。アンデッドで在りながら。
今、「ミンシュシュギ万歳!」と大声をはりあげている者の殆どは、その意味を理解していないだろう。それはすでに死んだ民主主義の中で生きてきたリアルの自分であっても一緒だ。……共に作ろうと言えれば格好良いが、俺はアンデッドでありナザリックの支配者だ。あとはお前達が頑張らなければならない。
見せてくれよ 人間の可能性という物を
アルベドとナーベラルが「「お疲れ様で御座いました。」」と口をそろえて言うと一礼する。
「うむ」と一言返して外に広がる民衆の熱を感じる。
……こんなに上手く行くとはなあ。
……図書館にあったトマス・ジェファーソンの『アメリカ独立宣言』とリンカーンの『ゲティスバーグの演説』を丸パクリしただけなのにな……。
翌朝 モモンガは逸る市民を抑えて三人で城壁に昇る。そして『漆黒の英雄モモン』を知る敵兵達が悲鳴を上げる中で彼らを睥睨すると魔法を使ったのか大きく轟く大音量で「退けい暴君ボウロロープの兵達よ!罪なき一般市民である君たちは私たちの仲間であり、家族であり、友人だ。手向かわなければ傷つけない」という恫喝とも哀れみとも取れる言葉を投げかけた。
モモンを知っている者達は動揺した。知らない者にとっても得体が知れないが、妙な迫力を持った人物であることぐらいは感じた。たじろぐ兵の動きに焦ったかの様に後ろに下がっていたボウロロープ侯と、その取り巻き達が騎乗して兵の間を廻り「落ち着け馬鹿者共が!敵は3人だぞ?!」と兵を宥めながらもモモンに近づかないように距離を保っている。
「オマエがボウロロープか‥‥‥ 今 そっちに行くぞ」
そう告げた瞬間にモモンは城壁から一気に飛び降り、アルベドとナーベラルも続く。
一斉にモモンの周囲から距離をとる兵たち。それはまるで「十戒」のモーゼが海を切り開くが如くの映像だった。 モモンはボウロロープの陣を指さして、「あそこまでの道を開けなさい。邪魔すれば死ぬ」と言い放つと、まるで無人の荒野がごとくゆっくりと歩み出した。遠くから弓矢や弩で攻撃する者も居るのだが、どういう仕組みになっているのかモモンの身体に当たる前に粉々になったりして彼の身体に届くことは無い。またモモンを守るかのように前を歩く女性だと思われるハルバードを持った黒い鎧の戦士に攻撃をした者は飛び道具だったとしても、そのハルバードにより正確に攻撃手の元に弾き返されて死んでいった。そして5メートル程空中を浮きながら殿を務めるナーベラルには強力なマジックバリアーが張られており、そのバリアーを突き抜ける攻撃手段はボウロロープ軍には無かった。つまり、ボウロロープの兵たちは彼らを害する手段を何一つ持たず、ただ蹂躙されるだけだった。モモン達は無傷のままゆっくりとボウロロープ侯の居る本陣へと突き進むのである。時折、勇気か自棄で突っ込んでくる兵士も一刀のもとに切り捨てられた。
そう 彼らは7万の兵の海を当たり前のような軽やかさで真っ直ぐ直線で突き進んだのだ。
途中で突き立てられた槍衾も黒い女性騎士の一振りで数十人が宙を舞った。ボウロロープ侯の本陣から駆けつけてきたミスリル級の衛兵たちも一合の元に切り捨てられていく。誰も彼らを止められなかった。
城壁の上からモモンの姿を見ていた城兵が叫ぶ
「これは我々の戦いだとモモン様は言った! そう我々の戦いなのだ! 我々は何のために居る? 英雄の劇を特等席で楽しむためか? 違う! 行くぞ! 漢なら武器を持て! 城門を開け! モモン様に続けええええ!!!」
その声に激発した市民は槍や刀を手に城門から一気に飛び出す。モモンに身も心も支配下におかれて魅とれていた敵兵にとっては奇襲であり、ボウロロープ軍は為す術もなく市民軍に討たれていった。心を完全にモモンの支配下に置かれた敵兵達にとって、城兵からの攻撃は無為の暴力であり、完全にこの瞬間 戦の趨勢は決した。
ボウロロープ侯の本陣までモモンガと市民軍が100mほどの距離になった頃、「ボウロロープ侯が撤退! ボウロロープ侯が撤退なり!」という敵兵の悲鳴が聞こえた。それを聞いてモモンガは胸を撫で下ろした。捕まえるのも殺すのも簡単だったが、無駄に貴族達の恨みを買わないまま、畏れを抱いた大貴族が尻尾を巻いて逃げ出したという結果こそ望ましかったのだ。
モモンガ達は剣を納めて周りの敵兵に「これ以上、ボウロロープに義理立てする必要はないだろう? 彼が置いて逃げた兵糧や軍費、武具などを賃金代わりに分け合って国に帰るが良い」と優しく告げ、味方の兵には「彼らは君たちと同じ平民である。仲間であり、友人である。戦いは終わった! 武器を納めよ! 我々の勝利だ!」と告げて、市民軍による虐殺を押しとどめた。
残されたボウロロープの5万の兵はモモンの言葉に肯くとエ・ランテルから退却を開始した。そしてエ・ランテル市民の歓喜の雄叫びが空一杯に轟いたのだった。
捕らえられる事こそなかったが、ボウロロープ全軍は大将の敵前逃亡により大きく後退を余儀なくされた。しかも平民軍はそれぞれ補給物資を我が物として散り散りに退散してしまい、残る兵は数千程で帰国する以外に方法はなかった。
敵の撤退でエ・ランテル内は沸き返ったがボウロロープが去りゆく草原に交代するかのように現れたのは国王ランポッサ3世とレエブン侯の率いるリ・エスティーゼ王国軍の本隊5万5千の大軍であった。もともとカッツェ平野の会戦に向けて準備している時に不穏な動きのあるエ・ランテルをボウロロープ侯が攻撃を開始したと聞いて準備を急いで進軍してきたのだ。ボウロロープがこれを機にエ・ランテルを接収しようと企んでいることは誰の目にも明らかであったからだ。
しかし、それが思いもよらぬ顛末を迎えている。ボウロロープの兵は疲れきり士気も最低で逃亡兵も日に日に増えている状態であり、とてもこれからカッツェ平野にてバハルス帝国の精鋭と戦える状態ではなかった。
ランポッサ三世は側近やレエブン侯と急遽話し合う。
エ・ランテルが堕ちる前に到着して、エ・ランテルをボウロロープ侯の好きにはさせない様に急いで来たのに、エ・ランテルはボウロロープ侯を追い払い自主独立を声高に叫んでいる。これは完全に想定外の出来事であった。
エ・ランテルはバハルス帝国とスレイン法国の国境にある要衝中の要衝であり、兵の強さや練度でリ・エスティーゼ王国が両国に劣るものの広大な土地を維持し、その国土を生かした大きな国力を生かして何とか国体を保てたのはエ・ランテルがあったからだと言えるのだ。
もちろん直ぐにでも取り返したいのが本音ではあるがボウロロープの大軍を追い返せる程の戦力が有るのならば55,000の軍で囲んだからといって早々に堕ちる物ではないだろう。そうなれば包囲戦をしている間にカッツェ平野に兵を集結しつつあるバハルス帝国に後背を突かれる事になるだろう。そもそも無理攻めをすればエ・ランテルがバハルス帝国やスレイン法国と同盟し連携して挟撃される可能性もあるのだ。ヘタには動けない……。逆の発想として、もしエ・ランテルが自主独立を保ち、バハルス帝国とも同盟を結ばないというならば、バハルス帝国はエ・ランテルを攻めるしかなく、そうなればバハルス帝国の後背をリ・エスティーゼ軍が襲うことも可能だ。もちろんバハルス帝国の賢帝がそんな愚を犯すとも思えない。つまりエ・ランテルが独立国として頑なにエ・ランテルを守ってくれるのならばバハルス帝国、スレイン法国に対する緩衝地帯として役に立つという見方も出来る。短期的に見れば……だが。
長期戦略的に見れば、エ・ランテルとその周辺地を失えば国力が落ちる。特にあの辺りは王の直轄地であり、国内の王族派のダメージは大きい。ただでさえ悪魔たちに国庫を襲われて息も絶え絶えなのにである。そういう内々の見方をすれば貴族派の首魁であるボウロロープ侯が大敗したのは有り難かった。ここはまず、毎年恒例のカッツェ平野での帝国軍の睨み合いを早々に終了させたあと、一挙に貴族派を打ち払い国内を刷新したのち、エ・ランテルと相対するべきであろう。幸い周辺の村々と街道や補給路を抑えればエ・ランテルは干上がるしかなく、抱える市民が多いだけに援軍なしの持久戦に強い城塞では無いのだ。
そこまで話し合った時点でランポッサ三世は軍の方針を決定しエ・ランテルに使者を送った。
今までの殺されてしまった使者では無く、とびっきりの使者を。
エ・ランテルに向かってくる20騎ほどの集団に注視していた城兵達は、彼らが「使者」の旗を持っていることで安心し、一息ついて上層部に伝令を送った。
使者は城門が少し開けられた隙間から中に通されると、現在のエ・ランテルの暫定政府とも言えるべき政務室に連れて行かれる。
中に入ると見知った顔であるエ・ランテル市長のパナソレイと四人の男が座っており、更に奥の机にやはり見知った漆黒の鎧の男「モモン」が座っていた。
「使者とはガゼフ殿の事だったのか……」とモモンが言う
そう、今までの使者は切り捨てられているのか彼らに届いている気配は無かったために王は戦士長のガゼフを使者として派遣することにしたのだ。
「久しぶりだな モモン殿‥‥その席に座られていると云うことは、エ・ランテルの王はモモン殿という事で良いのかな?」と動揺を隠して問いかける。
「いや そうでは無い。そもそもこのエ・ランテルに『王』は存在しない。これからもな」
「ほう?」
「民が代表を選び、選ばれた代表者が民に代わって市政を行うのだ。説明すると長くなるのでこの冊子を読んでくれないか?」
ガゼフはモモンから妙に慣れた手付きで渡された冊子に目を通す。数分ほど流し読みをしつつ「うむう」と唸りを上げる
自分が一平民だった頃なら夢見た社会かも知れないが、今の自分には自分を信頼してくれ、そして自分が敬愛する王が居る。
……もう色んなしがらみから抜け出せない自分とは別世界の話だな。そう考えてガゼフはため息をつく
「分かった。つまりモモン殿はこの『大統領』という奴なのだな?」
若く身なりの良い青年が「そうだ! 市民がモモン殿を圧倒的に支持したのだ」と答える。
だが、モモンはイヤイヤと軽く手を振った。
「確かに市民は私に「大統領」に成って欲しいと支持してくれたが、それでは駄目なのだ。異国人だしな。私は半年間だけの間、暫定政府の取りまとめ役として本当の大統領と政府のための選挙制度などの法整備に携わり、新政府の骨格を作り上げた後は御役目御免と降りるつもりだ」
「そんな!?」
「民は英雄の貴方の元でこそ結集出来るのに!?」
と冒険者組合長と魔術師協会長だという男達がモモン殿に詰め寄る。
「それがいけないのだ。その『英雄』という奴がな。良いかね? 『英雄』なんてのは劇薬なんだ。使うのは国が危機に陥った時だけにすべきで、常時の投薬は身体に毒だ。いつか英雄は国を腐らせる毒になる」
ガゼフは柳眉を開いて驚愕してモモンという英雄を見た。一介の剣士では無いと思っていたが、ここまでの見識の持ち主だったのか‥‥と
「しかし エ・ランテルの危機は未だに去っていないように思うが?」とガゼフが問いかける
「ふふ そのためにガゼフ殿が来てくれたのだろう?ランポッサ王は何と?」
「うむ、陛下は、『降伏してくれるのが一番だが、そうも行かないだろう。エ・ランテルが自主独立を固持し続けバハルス帝国やスレイン法国の軍門に降らないと言うのであれば今回は兵を引くし、今、カッツェ平野に居るバハルス帝国がエ・ランテルに攻めてくる様なら後背を突き、エ・ランテル軍と協力してバハルス帝国を挟撃しても良い。但し、バハルス軍にエ・ランテルの門を開くというなら軍を進めてエ・ランテルを攻め取る』との仰せだ」
「ふふふ そんなことをすれば王軍がバハルスとエ・ランテルとの挟撃に遭うのにか?まあ良い。大丈夫だ。エ・ランテルはバハルスにもスレインにも膝を屈しない。王には安心して兵を引いて頂きたいと伝えて欲しい」
「……それは有難いが、王国軍が兵を引きカッツェ平野に向かわない場合は帝国軍がエ・ランテルまで攻めてくる可能性は高いと思うのだが……どうやってココを守るつもりなのだ?」
「うむ それについては、すでに手は打ってある。今、エ・ランテルは市民による政治に沸き立っている。本当は君のような市井の勇者にこそ、我々と共に戦って欲しいのだがな」
「モモン殿のような人にそう言って頂けるのは誉れではあるが、我が身はリ・エスティーゼ王国と陛下に捧げた身なれば」
「ああ そういう君だからこそ私は貴方を尊敬し、憧れているのだ」
「な!? ……いや 過ぎた言葉が何とも面映い……今回はモモン殿と敵にならずに済みそうで安心している。いつでも援軍の件は引き受けるので宜しく頼む」
「うむ ではなガゼフ殿。 息災で」
「ああ モモン殿こそ」
二人は立ち上がり両手で固く握手をした。
これがモモンとガゼフの最後の邂逅であった。
「‥‥大丈夫なのか? モモン君。そのアインズ・ウール・ゴウンというギルドは?」
ガゼフが去った後、アインザックが心配そうにモモンガに問いかける
「大丈夫かというのは戦力の事かな?組合長」
「ああ」
「なら大丈夫だ。セバスもナーベラルもユリも、元々アインズ・ウール・ゴウンからの助っ人だったのだ。そして私も彼らAOGと志を共にする者である。彼らの強さは良く知っているのだろう?」
「それは知りすぎているくらい知っているが……。」
「うむ 安心したまえ 心配なら竜王国に使いを出して調べれば良い。あそこは我々よりも先にギルド・アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結び、ビーストマンの脅威から身を守る事が出来ているのだから。さあ我々はやるべき事をやろう。新しい国作りだ」
こうして『エ・ランテル独立戦争』は終結した。様々な思惑と、新たな火種とともに
おまけ
「ところで聞きたい事があるのだが」
「なんでしょうモモンガ様」
「モモンのアダ名の中で『光の御子』という物があるんだが、なぜそんなアダ名が?」
「えっ」
模海月様、代理石様 LV.23様、244様、誤字脱字修正有り難う御座います