鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

33 / 57
第七章一編 帰還

 

 

 

 現在は一瞬のうちに過去となり

 誰もがいつかは死に

 運命は人知を超えて荒れ狂う

 それが当然といわんばかりに

 運命が人智を超越し人の仔をもてあそぶが理なら

 人の仔が魔をもって運命に対峙するは因果

 悪とは

 生存欲に基づく能動的意志の一面である

 生命の中にのみ悪の因子は存在する

 魔とは

 悪に基づき悪を求める生命の力の組織化である

 魔とは熱情の一種である

             ディスティ・ノヴァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国軍はエ・ランテルからは兵を引いたが、バハルス軍の動きを見るために、エ・ペスペルにて軍を駐留させていた。

 そして今後の対応を相談していた時に本国よりの伝令が走り込んできた。この時点で彼はなにも気づいていないが、この伝令から歴史は唸りを上げて回転力を増していく。

 

 王都を始めとして各地の大都市などに、悪魔とおぼしきモンスターが多数現れたと云う報告が王の元に届けられたのだ。

 リ・エスティーゼ軍を率いたランポッサ3世はレエブン侯と兵を分けて自分の管轄地の悪魔討伐に向かうことになる。

 間もなくそれは以前、王都に現れたのと同じ悪魔の群れであり、そして仮面の悪魔「ヤルダバオト」の再臨だと判明した。

 ヤルダバオトは魔法により空に巨大な仮面を被った自分の映像を映すと街の全てに、こう要求したのである。

 

「愚かなる人間共よ。儀式のために必要な『高貴な血』を差し出すが良い。さすれば民に被害は及ぼさない」と

 

 平民の血ならいざ知らず、自分たちの血など絶対に流したくない貴族は大反発したが、悪魔たちは平民にも或る程度の被害は与えたものの、徹底的に貴族を狙って攻撃を始めた。どうやって調べたのか貴族の家をピンポイントで襲いかかり、次々と攫っては抱えて空を飛び北の空へと消えた。当然大貴族になると軍隊を所持しており、守りを固めたが、一兵卒、つまり平民から言えば「散々威張り散らしてきた貴様らがその太った身を差し出せば俺たちは助かるのに、なんでオマエら貴族を助けるために平民であり、本来は悪魔に襲われないハズの我々が死に続けなければならないのか!」と云う不満とともに彼らを護衛することを放棄する兵は日増しに増えていった。この彼らの貴族離れの理由の一つとしては最近になって街に出回っている「ニニャ」という著者が書いた禁書も一つの要因となっていた。彼らは貴族という長年に渡る搾取者に辟易しており、『エ・ランテル』が独立し、本に書かれてあった民主政治という物を始めるというニュースに興奮する者も居たのである。

 

 ただし貴族の中にも当然、統治される側にとって良い支配者である貴族も居た訳であり、そういう者は民兵も必死で護衛するために助かる場合が多く、日頃の行いが如実に現れる結果となった。

 

 ランポッサ3世が王都に駆けつけた頃には1000を超す悪魔が王都を荒らしまわっており、「最も高貴な血」の登場に、悪魔たちはランポッサ王に遮二無二襲いかかってくるかと思いきや意外とそういう事もなく、貴族は全員が万遍なく襲われて命を散らせていった。平民にとっては悪魔についでの様に殺されるのは巻き添えのような死に方であり、貴族への不満は高まりに高まった。いっそエ・ランテルの様に俺たちも王も貴族も追い出そうという街の声も日に日に大きくなっていった。

 ガゼフならば、群れをなす悪魔は何とかなっても『ヤルダバオト』には勝てないことは本人にも分かっており、かと言って、前回ヤルダバオトを打ち払ったモモンは今は味方という存在ではなく、またバハルス帝国が狙っているであろうエ・ランテルを留守にすることになるため救援を求めても無駄であり、ランポッサ3世は頭を悩ませた。

 そんな時に「ボウロロープ侯、討ち死」の報が王やレエブン侯のもとに届けられた。城に立て篭もるも度重なる悪魔の襲撃に疲れきった兵士が平民と協力して、裏口から市民を招き入れてボウロロープ侯の家族を撲殺。 最後まで抵抗して剣を振り回していたボウロロープ侯は彼の自慢の南国より輸入した高級なカーテンを手にした市民達に囲まれて、そのカーテンで包みこまれて生きたまま城の窓から外へ投げ棄てられて墜落死したと云うものだった。

 権力争いをしていた相手とは云え、大貴族の陰惨な最期に王と閣僚たちは息を呑んだ。このまま悪魔を一旦、追い払いながら居城に戻ったとしても、自分達も市民に殺される可能性があるのでは無いか? そう考えると何のために頑張っているのかを見失い日に日に王の覇気は失われていった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 エ・ランテルには引っ切り無しにリ・エスティーゼの各街から救助要請の使者が舞い込んできた。

 領主からの物もあったが、その多くは市民からの悲鳴のような使者だった。

 そして「英雄であるモモンでなければヤルダバオトは倒せず、どうか立ち上がって欲しい。」「我々もミンケン政治の子となりたい」「どうか助けて下さい」という物が多くを占めた。

 しかし、バハルス帝国の軍がカッツェ平野に集結しつつある今、傷が残るエ・ランテルを放置してヤルダバオト討伐に向かうなど夢物語である。実際、エ・ランテル首脳部の多くは元・故国である「リ・エスティーゼ王国」の人々を助けたいという気持ちが強かったが、エ・ランテルが堕ちれば「民権政治」の火が消えることも分かっており、どうしようもない気持ちで過ごしていた。

 

 そんなある日、モモンが各地の大貴族へ手紙を書いた。

 

 内容は、

「貴国の市民から多数の救援要請が来ているので助けに行っても良いだろうか? 助ける条件は3つ 

 1.街の住民が望んだ場合、我々と同じ民権政治へと移行し、王を含めて貴族の命や土地財宝は保証するので軍隊を解散し権力者の地位から降りること。またその場合、一時的に街はエ・ランテルの指導下に入ること。

 2.アダマンタイト冒険者『蒼の薔薇』にも手伝ってもらうので彼女たちとラナー姫の罪を帳消しにすること

 3.レエブン侯は新政権で働いてもらうこと」というものだった。 

 

 アインザック達は内容にも驚いたが、エ・ランテルを留守にして助けに行こうとするモモンにも驚いた。

 彼らの疑問に対してのモモンの返事は「大丈夫だ。ギルド・アインズ・ウール・ゴウンとの盟約を結んであり、すでに、バハルス帝国からエ・ランテルを守ってくれる話がついている。それでも危ないなら急いで帰ってくるから心配しなくても良い」という物だった。

 

 ただ、要求が要求であり、貴族が権力者階級から降りるとはとうてい思えなかった。

しかし、各地からの返事は驚くべきもので、ほぼ全部が「命と財の保証をしてくれるなら言うとおりにする」という物だった。エ・ランテル首脳陣が考えていた以上に事態は深刻であり、ヤルダバオトと悪魔達が去った後に一番恐ろしいのは貴族への不満と怒りに燃えている市民であり、到底事件終了後に無事に再び彼らを治めることなど出来そうにも無い状態だったのだ。それ故、各地の領主は命と資産が保証され、尚かつ新政府の重鎮に信頼出来るレエブン侯が就いてくれるなら旧貴族に対して無体な仕打ちは避けられるであろうことなどの考えからモモンの提案を喜んで呑んだし、市民も貴族への怒りは募るが「民権政治」へとスムーズに移行するなら是非もなしという返事だった。数少ない渋い返事はレエブン侯の物であり「支配者の地位は喜んで譲るが、これからは息子と共にのんびり生きたい。新政府で働くのは勘弁して欲しい」という泣き言の手紙だったのでモモンは破り捨てて見なかった事にした。

 

 こうしてモモンはヤルダバオト討伐に動き出した。

 

 まずはゲートを使いラキュース達『蒼の薔薇』を迎えに『竜王国』に迎えに行った。突然現れた訪問者に「も、ももんさまぁ!」とイビルアイが飛びついてきてモモンの首からぶら下がった。モモンはイビルアイのことはブラ下げたまま無視して、何も無かったかのようにラキュースに事情を話した。彼女たちも故国の惨状に心を痛めていたが、罪人の身ゆえに諦めていた所、自分たちの罪が消え、自ら人々を助けに行く事が出来ると聞いて興奮したラキュースに「有難うございます!」とイビルアイの上から抱きつかれた。イビルアイは二人の胸に挟まれたまま、可愛く「むー」と唸り声を上げた。

 『蒼の薔薇』をゲートに送るために彼女たちに与えられた館から出ると、妙な視線を背中に感じた。モモンガが振り返ると、建物の窓から顔を半分だけ出したラナーが睨んでいた。思わず「こわっ!?」と言って身体を輝かせた。蒼の薔薇はラナー姫と宰相に事の次第を告げてゲートにてエ・ランテルにやって来た。

 

「ところで……」とモモンが「蒼の薔薇」に問いかける。

 

「ラナー姫の部屋の中に居た少年の首に首輪と鎖が繋がれていたのだが……あれは一体?」

 

蒼の薔薇は一斉にモモンから顔を背け、感情と抑揚の無い声で「なんでもないですヨ?」と声を揃えて答えた。

 

「いや……でも、なんか少年、スゴく…やつれていたんだが」と食い下がると、ラキュースは遠くを見るような眼で「彼女は本懐を遂げたのです……」と呟いた。 

 

 良く分からないが、ラナーは幸せらしかった。

 

 

 

 

 

 机の上にリ・エスティーゼ王国の地図を広げて『蒼の薔薇』と作戦会議をした結果、悪魔に襲われている都市の中で一番近い『エ・ペスペル』『エ・レエブル』の悪魔を追い払って後に王都に向かうことになった。ヤルダバオトが何処に潜んでいるのかも判明していない事とランポッサ3世は大軍で王都の悪魔と戦っているはずなので、エ・ペスペルからと云う判断になったのだ。

 そしてモモンがアインズ・ウール・ゴウンからの助っ人という事でお馴染みのマジックキャスター「ナーベラル・ガンマ」と神官である「ルプスレギナ・ベータ」を紹介した。ナーベラルはいつも通りの無愛想な顔で「よろしく」とだけ言い、逆に褐色で健康的なルプスレギナは「初めまして!よろしくお願いするっすよー!私に任せればスグにビンビンですよー!」と軽い感じの挨拶をした。蒼の薔薇的には彼女の持つ「そりゃ一体なんだ?」という巨大な十字架の様な武器が気になった。

 打ち合わせが終わった後、おもむろに『蒼の薔薇』のラキュースが

 

「しかし……民権政治とはモモン様も思い切ったことをなされましたね」と言い出した。

「私は貴族という特権階級に疑問を持ち家を出ましたが、こんな全てを引っ繰り返すような制度がリ・エスティーゼでも実現されつつある日が来るとは夢にも思いませんでした。」

 

「私は本当ならラナー姫のような聡明な人にリ・エスティーゼの代表として就いてもらおうと考えていたんだけどね……ただ王族が引き続き最高権力者に就くのでは民権政治の意味が無くなるとも考えたんだ」とモモンが語りだす。

「今は、こうして無実の罪で国を追われながらもリ・エスティーゼの危機に帰ってきて悪魔を退治する英雄……ラキュース大統領か。悪くないな」

 

「うええ!?」と目を見開き驚愕するラキュース

 

「先ほど自分で言ったように、民衆は君が貴族を棄てて冒険者に成った経緯を知っているしね」

 

「……そんな! 政治など私に出来る訳ありませんよ! モモンさんがやれば良いじゃありませんか!?」

 

「私は異国人だし『英雄』になりすぎてしまったから駄目だよ。私が大統領になったら『モモン王国』が出来るだけの話だ。それゆえ選挙に立候補するつもりも無い」

 

「……ま、まさか そのために私たちを呼び寄せたんじゃないです……よね?」

 

「今なら面倒臭い事を全部任せられる凄腕の政治家も付いてくるよ?」

 

「それでレエブン侯を!?」

 

「彼は有能だからねえ。それに罪を許されたラナー姫という相談役も居るよ?」

 

「モ、モモンさん……あなたという人は一体……貴族をある程度新政府に残した理由も悩む貴族が新政府への不安を減らすためでもあるのですか?」

 

「ふふ ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラの最大の冒険が始まるな。まあ立候補は本当に考えておいてくれ。最後に選ぶのは民だが、民に君を選ぶチャンスを与えるのは君しか居ないんだからね」

 

 

 

 モモン一行と蒼の薔薇はエ・ペスペルに攻め込む。

 と言っても市民には熱狂的な歓迎を受けると同時に悪魔数百体にも出迎えられるが「蒼の薔薇」の奮闘もあり、悪魔退治は捗った。この調子なら恐らく数日で解決の目処がつくだろう。ラキュースは以前の悪魔達より悪魔が弱いことに気づいた……何故だろうか?さくさくと気持ちよく倒せるのだ。自分たちが強くなった?いや あれから冒険らしいことはしておらず自分自身を鍛え上げた記憶も無い。バッサバッサと悪魔を切り捨てる私たちに砦や家から見守っている市民達から歓声が挙がる。……まさか……いや……まさかね……。とラキュースはブツブツ呟き、それを聞いたティナには「病気が悪化している……どうしてこんなになるまで放っておいたんだ?!」とイビルアイに詰め寄ったがイビルアイも違う病気にかかっており、意味は無かった。

 

 エ・ペスペルを悪魔から解放すると次はエ・レエブルに向かう。馬での移動で街に近づくと郊外にレエブン侯の3万の軍が駐留しており、見張りの兵に伝えて本陣のレエブン侯の元に案内される。

 

 レエブン侯が複雑な顔で出迎えてくれる。

「来てくれたか……ありがたい、ところで……」

 

「まあ、まずは状況を教えてくれないか?」とモモンがレエブン侯の口を塞ぐ。

 

 しかしレエブン侯は名君であらせられるのだなあ‥‥一兵卒に至るまでレエブン侯を守るために士気が衰えていない。

 彼が善政を布いている証であろう。平民である彼らが奮闘しているという事は。

 

「でだ。もちろん助けに来てくれたのは有難いのだが、出来れば新政府に仕えるというのは無しにしてもらっても良いかな?余生は愛息とノンビリ暮らしたいのだ」

 

「ちょっと待って下さい」と突然レエブン侯の部下が割り込んでくる。

 

「私は平民の出で騎兵隊長をやっておりますウェイン・イエーガーと申しますが、約束状の項目には「市民が望む場合は民権政治に移行」と書かれておりました。我々市民は民権政治への移行ではなく、続けてレエブン侯に『エ・レエブル』を治めて頂きたく思っております」

 

「ふむ それはレエブン侯が名君だからだね?」

 

「はい レエブン侯こそ、けだし名君で御座います」

 

「うん、確かにレエブン侯は素晴らしい名君だ」

 

「ええ そうですともレエブン侯は最高です」

 

「やめてくれないか?本人を前にして……とても恥ずかしいんだが」

 全く……何かの罰ゲームなのか?と顔を赤くしたレエブン侯がボヤく。

 

「私もレエブン侯は名君だと思う。君たちや一兵卒までもがレエブン侯を守り、エ・レエブルを救うために一丸となっている時点でな」

 

「はい」

 

「でも だからこそリ・エスティーゼの全ての民のために彼の政治能力を使って欲しいと思うのは駄目かな?」

 

「それは……。」

 

「それに今は良い。レエブン侯は名君だからな。しかし、レエブン侯の孫は?曾孫は?玄孫は?彼らが暗君だった場合に苦しむのは君の孫であり曾孫であり、玄孫なのだ。」

 

「……。」

 

「私の前で、私の子々孫々の悪口を言うのは程々にしてもらえないかな‥‥まあ モモン君の言いたい事は解る」

 

「はい、封建制とはそういう物です。人間としての権利が全て君主に委ねられている。良いかい?ウェイン君。君たちが幸せに成ることも不幸に成ることも、それらは全て、君たち自身に責任が無ければならないのだ。甘えるな。リ・エスティーゼ王国が腐っているというのは支配者側だけの事ではない、それに甘んじて責任を上に擦り付けるしかない状況に飼い慣らされている被支配者階級の君達の事も含めてなのだ」

 

 騎兵隊長は返す言葉もなく項垂れた。

 モモンは可哀想に思ったのか優しい声で「厳しいことを言ったな?詳しくはコレを読んでください」と優しい声と妙に手慣れた手つきで冊子をウェインとレエブンに渡した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ナザリックの第5階層「氷河」に存在する館「氷結牢獄」の主が片手にキャリオンベイビー(腐肉赤子)を抱き締めながら妹にメッセージを送る。

 

『アルベド。ようやく動き出したわよ』

 

『本当? 姉さん、エ・ランテルへの到着予定日は?』

 

『このスピードだと……早いわね。最速で4日後。軍隊行動としては異例のスピードね。情報部からの報告通り、皇帝は有能らしいわ』

 

『うふふ 監視ご苦労様 では早速モモンガ様にお知らせするわ』

 

 全くあの娘ったらモモンガ様が大好きなくせに業務報告しかお声をお聞きできないからって嬉しそうにしちゃって。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『ラキュース日記』

 

 

 モモンさんと私達がエ・レエブルの悪魔を一掃し、城で休んで歓談していた頃、突然モモンさんが立ち上がり「今日はもう失礼して部屋に戻ります。」と言って立ち去ろうとする。そしてドアから出ようとした瞬間にクルリと振り向いて『蒼の薔薇』一行を見渡すと、「あのー その、明日からの私はちょっとテンションが高いかも知れないが気にしないでくれたまえ。では失礼する」と言って去っていった。私たち「蒼の薔薇」の面々は顔を合わせて「何のことだろう?」と訝しんだ。

 

 しかし、翌日、果たして彼の言葉は真実であったと痛感させられる。

 モモンさんはいつも以上に美辞麗句に包まれた言葉で他者を褒め称え、特にイビルアイには逢った瞬間に軽く抱き寄せると「今日も愛くるしい顔(かんばせ)をしておられる」などと歯の浮くようなセリフを言い放った。イビルアイは身体を硬直させつつ、「今日は張り切って口紅の色を変えたのだ」と返した。 後ろでガガーランが「いや お前マスクしてんじゃねーか」と突っ込んだので彼女の腹筋にラキュースが肘鉄を食らわせたが痛いのは自分の肘だった。モモンさんが「なるほど鮮やかで君に良く似合うルージュですね」と誉めた。後ろでガガーランが「だからなんでマスクしてるのに解るんだよ!」と突っ込んだ。

 

 嗚呼……でも、マスクをしていても解る。

 今、確かにイビルアイは顔を真っ赤にして少女の様に幸せそうな顔をしている。

 それは私にとって確かに嬉しいことなのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 モモンガがゲートを繋いで移動をするとそこはいつものナザリックでは無かった。岩山の一部を繰り抜かれたような玄関があり、中に入るとナザリックの荘厳な雰囲気とは違い荒目の石を敷き詰められた壁と、削りだしの大理石の床で出来ている空間があり、それは通路でもあった。高さ4m、幅5mの石の廊下は100mほど続くと、一つの屋敷がスッポリと入るほどの広いホールに出て、そこから各部屋の階段が伸びている。この中にはモモンとしてのアンダーカバーのために作られた部屋もある。

 ここはアウラとマーレのダークエルフの姉弟により、とある場所に作成された、もう1つのナザリック「2ndナザリック」とでも言うべき場所である。

 ここにはナザリックの地下10層のレメゲトンに設置してあった超希少金属のゴーレム67体のうち7体が移設されており、恐らく殆どのパーティを楽に死滅させる事が出来る防衛力を持っている。

 その中の右から2つ目の扉から中に入り長い石廊下を歩いていくと大きく重い鉄の扉があり、その中にはナザリック第一階層へと続くゲートが設置されている。ゲートの両脇を警護としてシャルティアの眷属になったクレマンティーヌとセーラー服を着た第七席次が立っており、モモンガが来ると丁寧にお辞儀をした。

 

 

 

 

 ……さて出番か……気乗りはしないがな。

 

 と思いつつ歩きながらモモンガは魔法で作られた防具を消してゲートを潜り、ナザリックの王は彼が本来あるべき場所へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ 

 

 

~王都奪還後~

 

「おお 久しぶりだのう アインドラの姫よ」

 

「お久しゅう御座います。ランポッサ王」

 

「ところで 娘、ラナーの様子はどうだろうか?元気でやっておるかの?」

 

「‥‥‥‥‥はい とても元気にやっております。」

 

言えない‥‥あなたの娘さんは夜な夜な「お姫様とお呼び!」ぴしぴし というプレイに乗じているとなんて言えない。

 

「しかし……なぜ娘は出奔を?」

 

「はい……ボウロロープ侯の御子息との婚姻が嫌だったと聞いておりますが」

 

「ボウロロープの小倅との縁談?……初耳なのだが」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「…………らぁなぁああああああああああ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ2

 

 

 

 

モモンガはパンドラズアクターに良く言い聞かせた。

 

「イビルアイはヴァンパイアであり我らと同じ異形種である事は報告に上げたから知っているな?」

 

「はい あの時、鏡の間から統括殿の「近い近い近い近い近い!!」と云う絶叫が聞こえていた件ですな」

 

「……そうなのか?」

 

「ええ ご安心ください ユリ殿はセバス殿と共に竜王国に出掛けておりましたので御覧になっておりません」

 

「まて、なぜそこでユリの名前が出てくる」

 

「はははは これはしたり」

 

「……まあ イビルアイ本人も我々に対して好感触であったし、いずれナザリックに迎えるつもりだから丁重にな」

 

「我々に?モモンガ様に対しての間違いでは?」

 

「なにを言っているんだ? とにかくヨロシク頼むぞ」

 

「はっ 我が神の仰せであれば!」

 

 パンドラズアクターは理解した。

 

「英雄色を好む」我が主はナザリック以外でも妾をお作りになられ、その妾にも気を使ってやってくれとの仰せで御座いますな! おまかせ下さい。このパンドラズアクター。全身全霊で格好良いモモンを演じつつ、イビルアイ殿の御心を離さないように致しますぞ。

 

 

 

 

 

 










代理石様、244様 ゆっくりしていきやがれ様、いつも本当に誤字脱字修正を有難うございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。