鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第七章二編 降臨し蹂躙し君臨す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪」とは何か?

 

 

『ユグドラシル』時代は悪ノリの延長線上と、異形種への迫害の被害者として、彼ら人間種を選択し「善」なるプレイヤーぶってイベントを楽しむ奴らに対してロールプレイとして「悪」らしくあろうとしていたように思う。

 悪のロールプレイに徹しながらも41人で最盛期にはギルドランキング第9位に名を連ねたのだから、本当に素晴らしい仲間たちだった。それは何も無かった『虚無』の俺の人生の中で確かに輝かしく誇らしい時間で……だからこそ執着し、妄執し、固執したのかな。

今のアンデッドの身だからこそ、あの頃の自分を冷静に、客観的に、そして同情と憐憫をもって見れるのだ。

「ウルベルト・アレイン・オードル」 ウルベルトさんは「ゲームの中でくらい世界征服をしようぜ!」と良く言っていた。現実世界でオレと同じように、小卒の貧困層であり、両親は既に他界しており、ウルベルトさんは「あんな危険な場所で働かされて、ろくでもない死に方をし、死んでも骨も戻ってこず、剰え見舞金は雀の涙以下だった」と怒っていた。それが切っ掛けで二極化している現代社会そのものを憎悪しているとも。

 デミウルゴスは設定がしっかりしていたからセバスほどには創造主の影響は受けていないと思うが……今回のことは彼らにやらせるべきでは無い。オレが背負うべき業なのだ。

 

 オレはウルベルトさんが実社会でどのような活動をしていたのかなんて知らない。誰かが持ち込んだ図書館の発禁本の犯人も知らない。ただ、『悪』であることを望んだ彼はちゃんとした『悪』だから目先のことではなく巨悪を見つめて『悪』という手段をもってしてもと鬱屈した気持ちを抱えたのかも知れないし、同時に彼とケンカばかりしていた、たっちさんもまた、ちゃんとした正義だから、目の前の事で起こる不正を許せないまま、その背後、自分たちの上に存在する巨悪に鬱屈した気持ちを抱えていたのだろう。 

 手段や考え方の違いはあれども『正義』と『悪』は高いところでは結ばれているのかも知れない あの2人を見ていてそう思ったんだ。

 

 

 

 ……今から、今からオレがすることを、彼ら二人はどう思うのだろうか。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 荒れた草原の中、踏みしめられて出来た道とでもいうべき轍を、六万の軍隊が整然と、一匹の獣のように進んでいる。カッツェ平野を越えてリ・エスティーゼ領土に侵入し、エ・ランテルへの道を突き進むバハルス帝国の精鋭である。

 

『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』

 この、世界でトップクラスの頭脳を持つ皇帝は馬車の中で師父であるフールーダ・パラダインや秘書のロウネ・ヴァミリネン、帝国四騎士リーダー「雷光」バジウッド・ペシュメルと共に揺られながら地図と諜報員からの報告書を見ている。

 

「で、今は『蒼の薔薇』とボウロロープ軍を追い払った『漆黒』は魔物退治で王都リ・エスティーゼに居るのだな?」

 秘書官が汗を拭きながら「は、はい、間違いありません」と答える。

 この秘書官は能力主義の皇帝に見出される程に有能であったが、有能であるが故に皇帝の方が自分よりも優れていることを理解しており、そのために皇帝に相対するときは常に緊張を強いられている。

 

「『漆黒』か……どうなんでしょうね? そこまで陛下が気にされる程の強さなんですか?」とバジウッドが面白く無さそうに愚痴る。

 

「まあ、チームにはナーベラルという第五位階の魔法を使えるマジックキャスターが居るらしいですからな」とフールーダが興味深そうに話す。

 

「ああ 冒険者が本格的に戦闘に参加しだした「エ・ランテルの戦い」以降にリ・エスティーゼ王国のアダマンタイト級冒険者は全部調べているのだが、『漆黒』は凄く謎が多いチームでな。 そもそもアダマンタイトになった瞬間から、まるでアダマンタイトに成ることが目的だったかの様にピタッと表舞台で働かなくなったのだ。しかも事件解決以外では雲隠れしてしまい諜報員もお手上げでな」

 

「そもそも冒険者が愛国者というのも変な話ですよ アダマンタイトになるほどの実力者なら普通に軍隊の中でも出世し放題ですよ?」

 

「ほう? バジウッドよ。彼らが愛国者だと考えた理由は何だ?」

 ジルクニフは意地悪な笑みを浮かべて帝国最強の戦士に問いかける。

 

「へ? そりゃ 一回目の魔王討伐や今回の悪魔討伐でも命を投げ打って国のために戦っているじゃないですか?」

 

「ふふふ そもそも愛国者ならリ・エスティーゼを捨てエ・ランテルの味方になどならぬだろう」

 

「そうすると……誠の『民の守護者』って奴ですか?」

 

「……そうとしか思えない動きをしているのが逆に胡散臭いと疑っている」

 そう言い捨てながら報告書をパンッと指で弾いてみせる。

 

「ふむ。ジルは彼らの動きが綺麗すぎるというのですな?」とフールーダが興味深そうに反応する。

 

「ああ。まるで、どうすれば一番人々から賞賛されるかを解っていて行動しているようではないか?」

 

「……『漆黒』が名誉欲の塊だとすれば、確かに今回の動きも理解できますね。みすみす手に入れたエ・ランテルを見捨てる様な物ですよ。今回の悪魔騒動での彼らの行動は」

 

「まあな。ただ私は奴らはただの名誉欲での動きでは無くエ・ランテルより大きな物を狙っているのでは無いかとも考えている」

 

「大きな物……? まさか!」

 

「ああ リ・エスティーゼ王国だ。奴らの民権政治では平民をも含めた投票により一番偉い者を選出すると聞いた。そして今回の行動……。なあ、今 リ・エスティーゼ王国で選挙とやらが行われたとしたら誰がその地位に着くと思う?」

 

 馬車の中の全員が顔を見合わせて「ふう」と溜め息をつく。

 

 しかしジルクニフは尚も思考する。もしも彼がリ・エスティーゼ王国の王になるとして、だとしたらエ・ランテルという要所を捨ててしまえばどうなるか? それは、リ・エスティーゼ王国の国力の衰退への引き金に成らざるを得ない上に最重要防衛ラインを自ら手放すという事になるのに?

 疑念は残る。しかし何よりもジルクニフにとって、皇帝という絶対君主にとって「民主政権」という政治形態は絶対に存在を許してはならないものだった。エ・ランテルという美味しすぎる餌に一抹の不安を得ようとも、エ・ランテルで芽生えた「民権政治」を可及的速やかに叩き潰すことは絶対君主制の『皇帝』として命題とも言える行動だったと云える。

 

 

 

 そして その君主としての業が呼び寄せたモノは濃密な『不吉』そのものだった。

 

 

 ジルクニフは時折見せる過激な行動からは想像付かない者も多いが、慎重に慎重を重ねる性格でもあった。彼は幾重にも連なる斥候部隊を持ち、当然今の進軍中も先遣隊として動いている。

 

 それらの先遣隊が無反応のまま突然消えた。まるで神隠しにでも遭ったかの様にスクロールによるメッセージでも反応は無い。全員が、である。

 

 その報告を受けた若き皇帝は不可思議さに一瞬戸惑いながらも全軍に進軍の停止を告げるように連絡兵に命じる。そして「どよどよ」とした喧騒が馬車の外から聞こえてくると同時に、全身に怖気が走った。突然に。あまりに突然にソレは訪れた。

 バジウッドが急停車した馬車の窓から外の様子を窺うと「陛下……オカシイです。今は昼のハズなのに辺りが暗いですぜ」とゴクリと喉を鳴らしながらジルクニフに注進する。

 しかし彼は四騎士のリーダーであり、皇帝の優秀な護衛官でもある。

「外を……見てきても、良いですか?」

 と普段からは想像もつかない真剣かつ沈んだ眼で尊敬すべき皇帝に発言をする。

「……ああ 頼む」

 バジウッドが恐る恐る下車すると、進軍している隊列の先頭から、前方100mほど先に巨大な黒い渦の様な物が空にいくつか浮いており、そこからノソリノソリと黒い影が這い出て来たのが見える。

 

 そして地に降り立つ1つの影。

 まるで「凶」という存在を熟成しつくした様な影に軍の進軍先を阻まれていた。あれは我々の敵対勢力か何かであり、ただ事ではないと判断したバジウッドは帝国四騎士の一人「激風」ニンブル・アーク・デイル・アノックに偵察を頼むと「不動」の名を持つナザミ・エネックを呼び寄せて皇帝の馬車の守備を指示する。

 さらには四騎士の中で紅一点のレイナース・ロックブルズに小さな声で「いざと云う時の退路を確保しておいてくれ」と指示して隊列の後方の方を指さす

 バジウッドは皇帝の馬車のドアを開けると「魔法かナニかで前方を阻まれております。フールーダ卿に見てもらいたいんですが」と普段の陽気で軽妙な様子とは打って変わって、深刻な顔で報告した。

 

「ほう」と興味深そうに髭と皺にまみれた顔からギラリとした眼を輝かせると、フールーダは見かけ以上に身軽に馬車から降りる。ジルクニフも彼の後に続いて下車し前方の様子を窺う。

 

 そこには陽炎のように暗闇が渦巻いた空を背景に「ゆらり」とした影を作る人型の存在が居た。

 

「んん……?なんだアレは?爺」

 ジルクニフは返事のない師父フールーダの顔を振り返り見ると驚愕に満ちたフールーダの顔がそこにはあった。

 

「……どうした爺? マズイ物かアレは」

 ゆっくりと開けたままの口を閉じてジルクニフを見たフールーダは泣いた様な目と歪んだ笑顔で答える。

 

「っくはははぁ! それが判らないのですよ皇帝陛下! 250年間で初めて見るモノなのです! アレが魔法なのか自然現象なのか悪魔的なモノなのか、何もかも爺には解らないのです!」

 

「爺にも解らないか……まあ 味方以外の何かの可能性が高いよな。爺のタレントの魔力感知で見るとあの影はどう見えるんだ?」

 

「殆ど魔法反応はありません。ただ『恐ろしい』……アレが恐ろしい何かである事は解ります」

 

「同意見だな。魔法力を感じないという事は悪魔や天使の様なナニかでは無くモンスターであり、物理攻撃タイプか? よし、軍を展開し戦闘態勢に入れ!また、先頭に対アンデッド用の装備をした特殊工作兵を動かすのだ。その後、話の通じる相手なら交渉と行こうじゃないか」

 

 皇帝ジルクニフは全軍の指揮官であるナテル・イニエム・デイル・カーベイン将軍に指令を出す。

 名将と名高いカーベイン将軍は自身の第二軍とベリベラッド第三軍を先頭にした右翼と左翼を形成する重厚な布陣を布くと、後衛を務めていた第六軍のグレガン将軍には皇帝陛下の退路の確保を命じる。 職業軍人として鍛えぬかれたバハルス帝国の兵6万は澱みなく指揮官の指示を実行し得体の知れない状況の中で能く動いた。

 

「まるで我々の準備を待っているみたいだな……」とジルクニフは呟く。

 バジウッドは偵察に出ていたニンブルよりアレが黒いローブを身にまとったエルダーリッチだと告げられる。

 

「エルダーリッチだと!?」とバジウッドが驚く。

 

「エルダーリッチか……カッツェ平野には死体やアンデッドが多いからな……合体して強化されたか」

 

「恐らくは……しかし魔法力が殆ど無いエルダーリッチというのも何とも面妖な」

 

「普通、魔法詠唱者だよな? エルダーリッチは」

 

「そうですね。ベースとなったモノの魂や遺体が戦士ですと格闘系のエルダーリッチが生まれる事もあると聞いております。ただ、そのへんのアンデッドなら兎も角、エルダーリッチであるなら魔力反応が無いのは解せませんな」

 

「ふうむ……まあ 安心はした。エルダーリッチなら爺の敵では無いしな。あれだけの超常現象を起こしていたので魔王か何かだと警戒したが」

 

「交渉いたしますか?」

 

「……そうだな エ・ランテルを攻める前に無駄に消耗するのも馬鹿らしい話だからな」

 

「では伝令を送り要求などを聞いてみましょう」

 

 その時、空から。聞き間違いなく空からジルクニフを含めて全軍に声が響き渡る。

 

 

『その 必要は無い』

 

 ジルクニフ達はあまりの出来事に全身を固まらせる。

 

『我は「死の神」なり。アインズ・ウール・ゴウンの盟約により、ここから先は通せぬ。今すぐ逃げ帰るならば見逃そう』

 

(なんだこれは? 天空から聞こえる声は、まるで本当の神のようだ。しかしあのエルダーリッチの仕業である事は間違いない。よくも自分のことを「死の神」だ、などと抜け抜けと言ったものだ!しかも、わざと兵の前で「逃げる」などという言葉を使って本当に逃げることを防ぐとは忌々しい奴め)

 ジルクニフは、そんな心の中の苛立ちを隠しながら余裕を持った顔で空ではなく前方のリッチに向かって気軽に声をかける。

 

「別に貴方と戦うつもりは無い。 通してくれるだけで良いんだがな?」

 

『……』

 

(なぜ無反応なんだ?)と再び苛立ちながらも平静を装って再び話しかける。

 

「要求があるなら聞くが?エ・ランテルに少し用事があるので転進はちょっと困るが。それに自分のことを「死の神」などと言っていたが、すると貴方はスルシャーナという事なのかな?」

 

『スルシャーナなどという私より格下の相手を引き合いに出すのはやめてもらおうか……今、逃げれば追わぬ』

 

 何を、とち狂っているんだこのリッチは? バジウッドと目を合わせると「話になりませんな」と呟く。

 エルダー・リッチの分際で、六大神の一人であるスルシャーナを格下の存在であるとか……脳味噌も魂も腐りきって話の通じる相手では無いな……。しかし、無理に戦わずに遣り過ごせたなら一番良いのだが。

 

「ほう それほど凄い御方だとは知らずにご無礼を致しました。どうだろう?我々の仲間になり共に戦ってくれると云うのは? どんな供物も御捧げ致しますが」

 

 

『……はあ もういい』

 

 今までの威厳のある言葉から突然、拗ねた子供の様な口調にジルクニフ一同は驚いた。

 

『どうせ 予定では1回はしなきゃイケないことなんだ……』

 

(何を 何を言っているのだ!このエルダーリッチは!?)

 

『何度も言ったぞ……逃げろと、逃げてくれと』

 

 (なんだ…この背骨が凍りつく様な恐怖は!これがただのエルダー・リッチ?)

 

 

『昔から死の神への供物など決まっている……お前達の命を捧げよ』

 

 

「死の神」が腕を一振りする。それに合わせるように突如としてその「死の神」を名乗るリッチを中心に、10メートルにもなろうかという巨大なドーム状の魔法陣が展開された。そのあまりにも幻想的な光景は驚きの種だった。

魔法陣は蒼白い光を放つ、半透明の文字とも記号ともいえるようなものを浮かべている。それがめまぐるしく姿を変え、一瞬たりとも同じ文字を浮かべていないようだった。

 帝国兵から驚きの声が上がる。それは見事な見世物をみたときに上げるような、緊張感の全く無いものだ。

 しかし、そのジルクニフと側近達は、その巨大な魔法陣に言い知れない不安を感じていた。

 

 

 いないな。

 

 死の神――モモンガは魔法陣を展開しながら、そう判断した。

 帝国の軍の中にもプレイヤーはいないと。

 

 ユグドラシルというゲームの中での超位魔法は強大である。しかしその反面、発動までに時間がかかるというペナルティがある。強ければ強いほど時間がかかるようなシステムとなっていた。それも自軍に属するものが使えば使うほど、追加時間ペナルティが掛かることによって一層の時間がかかるようになっていた。これは超位魔法の連射だけでギルド戦争が終わらないようにするための、製作会社の抑止の手段としてだ。

 つまり逆に言い換えればそれほど強いと言うこと。

そのため大規模戦の際は、超位魔法を発動しようとする者を最初に潰すべく行動するのは基本だ。転移魔法による突貫、出の早い超位魔法による絨毯爆撃。超遠距離からのピンポイントショット。それら無数の手段を使ってでも、妨害に出るのが基本中の基本だ。

 

 しかし、今回、モモンガにはそういった攻撃は1つも飛んでこない。それは逆に言えばユグドラシルプレイヤーの存在の不在を証明するもの。

 

 モモンガは1つ溜め息を()く。

 

 (ああ 上手くいかないもんだな。結局は作戦通り、予定通りか)

 

 骸骨であるモモンガの顔には、寂しそうな笑顔が浮かんでいるように思えた。

 

「もはや、囮になる必要もなしか」

 

 それだけ呟くと、モモンガは純白の小手に包まれた、己の手を開く。そこには小さな砂時計が握られていた。

 

「かきんあいてむー」

 

 昔に大流行した青のネコ型ロボットのような口調でモモンガは呟く。そして握りつぶそうと力を入れた瞬間。モモンガの――いや鈴木悟の昼食2回分の金額が飛んでいく光景が脳裏に浮かんだ。

 

 ……いや わざわざ使う必要なくないか? よし勿体無い勿体無い やめやめと課金アイテムをボックスにしまい込む。

 

 ドーム状の魔法陣をバハルス帝国の兵士たちは不安の中で見守り続け、モモンガも ……ああ、発動してしまうな と云う思いで哀しげに見守った。

 

 そして――超位魔法は発動する。

 

 

《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》

 

 

黒いものが帝国軍右翼の陣地を吹き抜けた。

いや吹き抜けたといっても、実際に風のように動いたわけではない。事実、平野に生えた雑草も、そこにいた帝国の兵たちの髪がゆれるといったことも無い。

 

 ただし、そこにいた帝国軍右翼1万5千。

 

 その命は即座に全て――奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 














模海月様、酔いどれ狼様、代理石様、yelm01様、紅蓮一様 ゆっくりしていきやがれ様、ゴンタ様 誤字脱字修正をして頂きまして有り難う御座います
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