鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第七章三編 Don't go my goat

 

 

 

 

 

 何が起こったのか。それを理解することは不可能だった。

 特に、今倒れた者達には永遠に。そして今、倒れなかった者達でも、右翼を形成していた全ての帝国兵は突然、ぷっつりと糸が切れた人形の様に大地に転がったのだ。

 生き残った運の良い兵士達が、目の前で起こった出来事に呆然とした面持ちで息をするのも忘れたまま口を開けた状態で固まる。

 

「死の神」と名乗るエルダー・リッチが魔法陣を構成していた段階で、もちろん何かの魔法を使うのだろうという予測はしていた。しかし、それがこんなにも凄まじいものだと、1万5千人もの命を瞬時に奪いつくす、想像を絶する魔法だと考えたものは誰もいなかった。もちろん皇帝やフールーダもである。

 

「わははははははっ!なんだコレは!?なんという大魔法なのだ!素晴らしい!素晴らしい!」

 

 ジルクニフのすぐそばに控えていたフールーダが周囲の者をドン引きさせるテンションで悦びの声を挙げる。

 これほどの強大な魔法を味方に被害が出たとは云え目の前で見ることが出来た!触れることが出来た!後から後から歓喜の念が押し寄せてくる。言葉には出来ないような感情をフールーダに味わわせてくれたのだ。ゾクゾクと背筋に震えるものが走る。王国のアダマンタイト級冒険者なら「生きてきた中で一番幸せえぇ!」と叫んだかも知れない。いや、別に彼はそんなことを叫んではいないのだが、何故かそういうことになっている。

 

 そんなフールーダに、「死の神」は体を巨大なオーラの様な輝きで包みながら言葉を投げかけた。

 

『業深き逸脱者よ……私の魔法はまだ終わってはいない。もう一度告げる。逃げよ』

 

 皇帝を初めとして、帝国兵は一瞬思考するのを忘れた。このエルダーリッチは何を言っているのだろうか? 今、まさに一万五千の兵の命を一瞬で奪ったばかりではないか? 終わっていない? 何が? 魔法が? 何故?

 

 エルダーリッチ以外の全ての人間が、その言葉の意味を理解出来ないと云った表情を浮かべて、お互い顔を見合わせた。その頭上に不気味に膨れあがる熟れた果実に気づかないままに――。

 

 

 そしてカッツェ平野に2度目の地獄が現れた。

 

 

 

 

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『メェェェェェエエエエエエエ!!』

 

 山羊の鳴き声にしか聞こえない黒く悍ましい触手を持つ3匹の怪物は荒れ狂う。

 彼らは足で、触手で帝国兵を蹂躙していく。

 

 帝国兵達は他国と違い徴兵で連れてこられた者達では無い。

 彼らは戦うための専門職として傭われ訓練を受けてきた、軍隊としては近隣国最強の軍隊である。事実、リ・エスティーゼ王国は彼らの鋭撃に耐えるために、常に倍以上の兵を揃える必要があった。知謀と冷酷さから「鮮血帝」と渾名される皇帝ジルクニフがその様子を見て、リ・エスティーゼ王国への窮乏作戦を思いつき、実施し、成功しつつあったのは、まさにバハルス帝国が誇る精強な兵のなせる業だと云える。

 

 その、精鋭達が三匹の怪物の為すがままに(あるいは、精鋭達は何も為さぬがままに)蹂躙されてゆく。

 戦いに挑む者は死んだ

 逃げられない者は死んだ

 逃げる者も、また死んだ

 死んだ。死んだ。みんな死んで行く。

 

 どこかで騎兵隊長が叫ぶ。

「ランスを構えよ! 我々が突破されれば皇帝陛下の身が危ない!ランスを構えるんだ!チャージをかけるぞ!」

 

 よく訓令された騎兵達はその言葉に弾かれるように、ランスを一斉に構え、横一列の隊列を形成する。

 モンスターまでの距離が、あと60メートルほどになった瞬間に騎兵隊長が叫ぶ「突撃ぃぃぃぃぃ!」

 

 そして突撃という名の自殺が敢行される。彼らは怪物に触れる前に足とおぼしき触角の一払いで体を不自然に歪ませながら宙を舞った。

 ランスを構えていた兵士たちですら、命が失われる瞬間。それが当たり前のような光景にも思えていた。

 

 帝国の兵士たちの中に、黒い仔山羊たちの巨体が乗り込む。

 

 兵士達から絶叫が上がり、悲鳴が上がる。そしてすぐに静かになる。

 瞬く間に動く者は居なくなる。これほどの恐怖を具現化した怪物が御伽話の中でなく存在するなどと誰が想像することが出来ただろうか。

 

 黒い仔山羊たちは獲物を襲い殺戮する事こそが本能だと云わんばかりに帝国兵の中を走る。

 

「ぎゃぁああああぁぁ!」

「うおぼぉおお!」

「いやあああぁぁぁ!」

 

 そんな絶叫が上がる中でモモンガは必死に山羊をコントロールしていた。

 

 やめろそっちに行くな?! そこには兵士の群れが居る!

 こらっ オマエは走るスピードを落とせ!

 勝手に敵の中心部に突っ込もうとするな!

 

 ジルクニフと帝国兵に圧倒的な恐怖と絶望を味わわせる。

 それは今回の目的の一つである。

 軍事力という意味ではバハルス帝国が近隣では最強の国であり、アインズ・ウール・ゴウンに加盟することで、バハルス帝国ですら一蹴する防衛力で保護される。これほど大きな宣伝は無い。そして何よりもバハルス帝国の心を圧し折る必要がある。

 

 それはモモンガも解っている。

 

 天才的なナザリック三首脳によって立案された計画の一部である。超位魔法フォールンダウンで威嚇することも考えたが、《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》には初めに綺麗な死体が大量に生産出来るという、これからのアインズ・ウール・ゴウンの屋台骨となる巨大なプランテーションで使役するための重要なアンデッドの材料を手に入れることが出来るという利点があった。

 そして、それらが静かに万単位の兵が命を落とし、その後、モンスターに蹂躙されるというのは彼らに恐怖心を植え付けるにはちょうど良いという理由もある。

 

 そして何よりも、山羊たちはモモンガがある程度コントロール出来るのだ。

 守護者たちには内緒だが、モモンガは山羊を必死に操って、派手に暴れながらも実質の被害は少なく抑えていた。それでもすでに三匹の山羊による1000名を越す死者が出ていた。

 

 逃げろ

 逃げろ

 逃げろ

 逃げろ!

 逃げろ!逃げろ!

 逃げろおおおおおおお!

 

 モモンガの中の鈴木悟の残滓が悲鳴をあげながら帝国兵に叫ぶ。

 

 途中から 空からの声としてそれらはバハルス帝国全軍に響き渡った。

 

 

 

 

 

「撤退!! 撤退だ!!」

 

 第三軍のベリベラッド将軍は絶叫を上げる。

 もはやあんなものを相手にどうにかすることが出来るはずが無い。

 あれは人間では太刀打ちできない相手だ。もしあれがどうにかなったとして、あのエルダーリッチを倒すことなど不可能だろう。

 ベリベラッド将軍の言葉を聞き、周囲の兵士たちが慌てて逃げ出す。職業軍人としての誇りである武器も防具もを放り出して

 

「まさか「死の神」とは本当のことだったのか……」

 

 侮っていた。こんなに桁が違うとは想像もしていなかった。

 そして何よりもあの空からの絶叫!神は我々に生きてみせよと叱咤しておられるのか!?

 ベリベラッド将軍は暴れる化け物を見ながら、周囲の兵士たちに続けて叫ぶ。

 

「撤退しろ! とにかく逃げるんだ! 敵の居ない方へひたすら走れ!逃走しろ!」

「将軍!」馬に乗った皇帝との伝令兵の1人が、ヘルムをはずしながら叫ぶ「陛下は! 陛下にはなんとお伝えしますか!」

「守るとか時間稼ぎとかそういうことの出来る状態ではないのだ!陛下には、すぐさま退却をと!!恥も外聞も関係ない!とにかく生きてアーウィンタールにてお目見え出来ますように!そうお伝えしてくれ!」

 

 

 

 本陣から見れば先ほどよりも黒い仔山羊の姿は大きい。徐々にこちらに迫って接近してきている。皇帝は馬に跨がり、呆けているフールーダと馬に乗れない秘書官をバジウッドが馬車に突っ込んで退却を開始する。さすがのバジウッドも、この黒い山羊が自分の手に負える物では無いことを知っている。

 

「化け物め! あのエルダーリッチめ! 本物の「神」だと云うのか!?」

 そう叫びながら初めてジルクニフは泣きそうになっている自分に気づいた。怖いのではない。哀しいのでは無い。自分が信じる自分が、今まで全てを費やして夢見たことの多くが、得体の知れない「ナニか」に土足で踏みにじられている今の不条理さが許せないのだ。そういう悔し涙に似た涙が数滴、目の端からこぼれる。普段の彼を知る女性が見たならば、そのギャップに胸を打たれただろう。しかしここに居るのは死せる者と死にゆく者だけだった。皇帝ですらその運命から逃れる術はない様に思えた。

 

『メェェェェェエエエエエエエ!!』

 

 仔山羊の鳴き声が響く。

 馬車とともに併走していたジルクニフは馬にムチを入れて馬車を追い越すと後ろを振り返る。

 ジルクニフは目を見開く、思った以上に近く、想像していたより大きな黒く醜悪な山羊が馬車を無視して自分を追いかけていたのだ。

 まだ死ぬわけには行かない。漸く帝国が自分の思い通りに動かせるように成り、リ・エスティーゼ王国への窮乏作戦もあとひと押しという所まで来ているのだ。

 

 皇帝は必死に馬を走らせるが、ついに仔山羊に追いつかれる。ジルクニフはこの時ほど絶望を感じたことは無いと後年呟いた。

 

 ジルクニフに追いついた1頭?の仔山羊はジルクニフと側近達を左脇から追い越して走り抜けると逃げ道を塞ぐように立ちはだかる。

 

「くそっ なんだこれは!なんなのだ一体!」

 馬術にも優れた皇帝は馬を操り急ターンをかける。しかしまた新しい仔山羊が皇帝の周りに立ち塞がる。

 

 気づいた時には周囲の帝国兵は壊滅し、皇帝と側近を中心とした百メートルの円形の周りを3頭の黒山羊がグルグルと帝国兵の残党を踏み潰しながら歩き回っていた。もう逃げ道は無い。

 

「フールーダ卿!フライです!早く陛下をお連れになって逃げて下さい!」

フールーダは明らかに「勿体ない、せっかくの大魔法なのに」という顔を隠しもせず、やれやれと馬車から這い出ると、ジルクニフの手を掴む。

 

 ……しかし そこから何も起こらなかった。フールーダは驚いた顔のまま、もう一度試行する。魔力は自分の中に感じられる。しかし放出が出来ない。まさか魔封じのスキルか!? サイレントなら解るのだ。周辺の空気の波動を乱し音を歪めて、マジックキャスターの呪法を封じるサイレントなら。しかし魔封じのスキルは相手の魔法起動そのものに影響を与えるスキルであり、自分と相手とのレベル差があってこそ発動する魔法でありスキルだ。自分もリ・エスティーゼの第三位階のマジックキャスター相手に使用し驚かれた事があるが……まさかこの世界に自分の魔法を無効化するような魔法の神が現れるとは!

 フールーダが魔法を使えないことに気づいた側近たちは焦り、陛下を中心に方円陣を組んで一縷の望みを繋ぐ。先ほど四騎士の一人「両盾」のナザミ・エネックが仔山羊の前に立ち塞がり、一瞬で踏み潰され轢死した。帝国でも最硬の騎士が為す術もなく死んだのだ。それらの仔山羊に囲まれた今、陛下を助ける方法は誰にも思い浮かべることは出来なかった。

 

 遠くのエルダーリッチ……「死の神」が宙に浮いた状態で仔山羊が楽しそうに暴れるその光景を無表情で眺めていた。

 

 

 

 

 『悪』 嗚呼…… これは『悪』だな。

 

 そう呟くとモモンガはアイテムボックスから黒いガントレットを取り出す。

 

「さて、出番だ」

 

 モモンガはその黒い小手を嵌めた手を、地獄へと変わり、崩壊しつつある帝国の軍勢に突き出した。

 

「さあ起きるんだ、強欲。そしてその身に喰らうがいい。大切にな」

 

 モモンガの行動に答えるように、無数の青い透けるような光の塊が帝国兵の残骸から尾を引きながら飛んで来る。その小さな――握りこぶしよりも小さな光の塊は、モモンガの黒い小手に吸い込まれるように消えていった。

 

 2万近い光の玉が吸い込まれていく様は、まるで幻想のようにも見えた。

 

 モモンガの嵌めた小手は、ユグドラシルで200しかないワールドアイテムの1つであり、その名を『強欲と無欲』とよばれるものだ。

 強欲の名を付けられた小手は、着用者が本来であれば手に入れることが出来た経験値を、着用者の代わりに貯蔵するという能力を持つ。そして無欲の名を付けられた小手は、強欲が溜め込んだ分を吐き出して、経験値の消費を必要とする様々なときに、代わりとなってくれるという代物だ。

 青い光はその経験値回収のエフェクトにしか過ぎない。

 モモンガは既に100レベルを超えた余剰経験値まで溜まっており、これ以上入る余裕は無い。そうなれば当然、経験値は無駄に消えるということになる。ただ、それではあまりに勿体無さ過ぎる。

 超位魔法『ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを』に代表される経験値を消費する魔法やスキル、特殊能力は幾つかもあり、そういったものは得てして同程度のものと比べれば、当然強いものだ。そして何よりモモンガが保有するワールドアイテムの究極の能力は、5レベルドレインに匹敵するだけの経験値を消費する。

 些少ならまだしも、かなりの量の経験値を無駄にすることは、プレイヤーとして絶対に許せるものではない。そのためにプレイヤーがいるかもという可能性を考えながらもワールドアイテムを持ち出して、現在強欲に吸わせているのだ。

 

 まぁ、モモンガとしてもゲームの世界と同じように、実際にこのように経験値を回収できたというのは、驚きだったりするのだが。

 

 ただ、その光景を遠巻きに見ているものからすれば、それはどのような光景に映るか。

経験値ではなく、「死の神」が集めているものはたった1つにしか見えなかった。

 

 それが何か。

 

 それは――魂である。

 

 今目の前で残酷に死んでいった帝国の兵士達の魂を「死の神」が回収している。そうとしか見えない光景だったのだ。

 その余りにも壮絶で恐ろしい光景に皇帝を初めとして、全ての者が声を無くした。

 

 

 

 

 ……うわあ なんだか魂を吸ってるみたいだな コレ。

 

 ちょっと、あの、ビジュアル的に怖いんですけど……呪われたりしませんよね?

 

 当の本人も同じ事を思っていた。あと何故か敬語だった。

 

 

 

 

「――神……まごうことなき『死の神』か」

 

 ポツリとバジウッドが呟く。

 その言葉は近くの者たちの心にすっと入り込んだ。何故なら、それ以上に6万もの兵士達を蹂躙する魔法を使うマジックキャスター、そして魂を収穫する存在を的確に表している言葉は無かったから。

 あの地獄のような光景。そして耳に残るような断末魔の悲鳴。空から聞こえた「逃げろ」という叫び

 それらを踏まえた上で、それ以上に相応しい呼び名はあるだろうか?

 

 すると「死の神」はこちらをクルリと向くと ああ 終わったのか と言わんばかりにゆっくりとこちらに移動を開始する。

 

『もうよいぞ 還るが良い』

 

 死神王がそう話しかけると、あれだけの権勢を誇っていた仔山羊たちは「すうーーっ」と光の粒子に消えてゆく まるで全てが悪夢だったかの様だ。 深紅に染め上げられたカッツェ平野に目を向けなければそう信じることも出来ただろう。

 

『すまないな待たせて……話を聞く準備は出来ている様だな』

 

 六万の兵を蹴散らした者のセリフか? とジルクニフの心が歪むが、必死に抑える。

 するとフールーダが震えながら口を開く

「すみません‥‥神よ 貴方が偉大なる魔術師であることは身に沁みて良く理解致しました。私は見た者の相手の魔力を測るタレントを持っているのですが‥‥一体どこにアレほどの魔力を隠されていたのですか?」

 

『ふむ これのせいだな』

 そう言うと死の神は無造作にガントレットを脱ぐと、白い骨で出来た指から1つの指輪を外す。 外した瞬間、魔力を測る能力のないジルクニフやバジウッドですらまるで生暖かい暴風が吹き荒れるようなマナの流れを感じ気分が悪くなる。そしてタレント持ちのフールーダは……「おええええっ」と泣きながら地面を転げ回り吐瀉物を撒き散らしていた。

 

『わっ ごめっ!?』

 と慌てたように言うと死の神は再び指輪を填める。

 

『……強すぎる魔力を、か弱き人間が浴び続けると身体の毒になるぞ?』

 

 ……この『死の神』気遣いとかしてやがる。とバジウッドは蹌踉めいた。

 

「おおおおおおおお 神よ……魔法の深遠を覗かせていただき有難うございます どうかどうか私を弟子の端くれに……」

 

「!? 爺っ 何を言い出すのだ!」

 

「ジルよ。すまぬ。爺は自分に嘘がつけぬ……どうしても更なる魔法の探究をしたいのだ」

 

「爺よ! お前は帝国には無くてはならぬ存在なのだぞ!」

 

「すまぬ しかし儂は……どうしても」

 

「爺!」

 

『……あの ちょっと待ってくれないか? 2人で盛り上がるの、ヤメような?』

 

「「あ…はい」」

 

『そもそも弟子とか要らないのだが……』

 

「そんな!? 師よ! どうかそこを寛大なお心で!」

 

「爺っ諦めよ! 神がそう言っているのだ!」

 

「陛下 どうか私に暇を出して下さいませ」

 

「爺ーー!?」

 

『だから二人で盛り上がらないで下さい……とりあえず これを読んでもらいたいのだが』

 

 そう云って「死の神」は、ピッと指先で紙を飛ばす。その紙は魔法の力か、すうっとジルクニフの元にやってくる。

 手にとって広げて降伏勧告だと思って読んだジルクニフは「なっ!?」と声に出して驚愕してしまう。

 

 内容はシンプルだった。

 

1.貴国はギルド:アインズ・ウール・ゴウンの盟約国に攻撃したので迎撃致しました。

2.更に、不法侵入による退去勧告に従わなかったために、やむなく排除致しました。

3.貴国もギルド・アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結ぶことをご提案致します。

 

 わけが解らない……ジルクニフの背中に大量の汗が流れる。

 

 これは一体なんなのだ? 一方的に我々を虐殺しながら何を言っているのだ?

 

「神よ すまない……どうしても解らない部分があるのですが」

 

『何か?』

 

「いえ あの空からじゃなくて普通に話してくれて良いですから」

 

「ん? そうか?」

 

 こいつ普通にしゃべった! と帝国の側近達は思った。

 

「すまないが、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンとは何のことだろうか?」

 

「………。」

 

 神は黙って羊皮紙を取り出しジルクニフに渡す。

 そこには『初めてのアインズ・ウール・ゴウン~バハルス帝国編~』と書かれており、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結ぶ事を提案した内容であり、他国による領土侵犯の際の迎撃やモンスター退治など、武力が必要な場面で肩代わりしてくれる代わりに国家予算の5%を差し出すことや、格安での農作物の関税10%による帝国内での販売権を要求してきている。そのほかには未開拓地を開墾する権利などだ。

 ジルクニフは眉間に寄り掛けたシワを皇帝としての意地で伸ばして澄ました顔を繕うと

 

「AOG加盟国には攻めるなと書いてあるが、加盟してない国には自由に攻めて良いのかな?」

 

「もちろん」

 ジルクニフは自分をバハルス帝国の支配者だけで終わらせる気はない。領土的野心を考えれば重要なポイントである。

 

「他国による領土侵犯に対応してくれるということは、我々が防衛をせずともギルド:アインズ・ウール・ゴウンが領土を守ってくれると云うことですね?」

 

「もちろん」

 

「内政干渉などはされないと考えて宜しいのですか?」

 

「もちろん。というか我々は連邦政府の様な物を作って、その一員としてバハルス帝国

を参入させる訳ではない。今までどおり自由にやり給え。内外問わずな」

 

「我々を傘下に組み入れる訳ではないと?」

 

「うむ それは的外れな考えだ」

 

「これに入るのは強制でしょうか」

 

「いや 全く強制ではない。好きにして良い」

 

「確かにデメリットが殆どなくメリットが多い。というか多すぎて不敬ながら神を疑ってしまう事をお許し下さい」

 

「疑うのは自由だが……個人的には入ったほうが良いのではないかと思うぞ?」

 

「それは何故でしょうか?」

 

「良く読んでほしいのだが『正当な理由で他国へと攻め入る際はAOGが助勢します』とあるだろう?」

 

「……はい 書かれております」

 

「今回、バハルス帝国は一方的にエ・ランテルの領土侵犯をした。エ・ランテルが報復にバハルス帝国を攻めるというのであれば立派に正当な理由であり、我々はエ・ランテルに助勢しバハルス帝国に攻め入る事になるだろう」

 

 ジルクニフは全身の血が凍ったような感覚に陥る。

 そして振り返る。緋色に染まったカッツェ平野を

 

 6万の精鋭を蹴散らされ、今、どこか他国に攻められればあっという間にバハルス帝国は瓦解するだろう。しかも攻め込んで来る者に『神』が加わるのであれば尚更だ。そもそもが「力」によって覇道を成したのである。子飼いの精鋭を失った現在、帝国内での立場も微妙になるだろう。

 AOGに加盟すれば加盟国同士は戦争しない事という条文によりエ・ランテルが攻めて来ることも無いし、バハルス帝国が攻められた場合は神が迎撃してくれるというなら、国を守るためには、もうジルクニフには加盟する以外の道が見あたらなかった。

 

 そこには智者の想定外の圧倒的な暴力が確かに存在していたのだ。

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスよ。今回 私はもっと高位の魔法を使えるのに敢えてこの魔法を使った。賢いお前ならその意味が分かるな?」

 

「……はっ」

 

「帝都アーウィンタールに瞬間移動して帝国民を生贄にして、先ほどの数倍の数の黒山羊を召喚しても良かったのに、あえて職業軍人たる兵士だけを誘き寄せて滅殺した理由も分かるな?」

 

「…………!」

 

「お前には期待しているぞ……ジルクニフ」

 

 モモンガはカッツェ平野の死体は放っておくとアンデッド化して危険なので、こちらで掃除する旨を告げて「持ち帰りたい遺体があるならそうしたまえ」と言って瞬間移動で消えた。

 

 後に残ったジルクニフと側近たちは高位の貴族の親族の中で、比較的まともな状態の遺骸を重い足取りの中で持ち帰った。

 

 フールーダやバジウッド達と馬車に乗って帰路につく間、若き皇帝ジルクニフは一言も言葉を発しようとはしなかった。 ただの一言として。

 

 自分たちの全ての常識を覆す想像外の存在 それを擁するアインズ・ウール・ゴウン。

 ただ、翻弄され食い尽くされた。自分の夢や野望とともに。

 

 

 世に言う『カッツェ平野の神罰祭』はこうして終わった。

 

 2万近い人間の命が一刻の間に儚く消えて、天に召されること無く、死の神への贄となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 




かもっっ様 ゆっくりしていきやがれ様、ルイフェ様、bomb様 誤字修正を有り難う御座います。

綿半纏様 文章の修正を有り難う御座いました。
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