鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第八章一編 その化学反応で作られた劇薬は誰かを殺す

 

 人間は状況によってつくられる

 

    ジャン=ポール・サルトル

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはナザリック地下大墳墓の玉座にてゆっくりと報告書に目を通す。

 

「そうか モモンが無事、リ・エスティーゼ王国の救世主として魔王ヤルダバオトを討滅したか」

 

「はい パンドラズ・アクターとデミウルゴスがうまくやった様です」と久々にモモンガの隣で機嫌よさ気なアルベドが答える。

 機嫌が良いのはアルベドだけでは無い セバスやシャルティア、コキュートスを始めとしてアウラやマーレなど、最近任務により外に出て働いていたものが予定通りの期間で予定通り恙無く任務を終えてモモンガの下で集合出来ている事は守護者各位にとっても嬉しい事なのだ。

 

「うむ」

 もちろん モモンとはパンドラズ・アクターであり、仮面の魔王ヤルダバオトとはデミウルゴスの事である。

 彼らは二人でリ・エスティーゼ王国の人々に感動的で美しい英雄物語を演じてみせた……らしい。そしてリ・エスティーゼ王国は平和裏にエ・ランテルと同じ民権政治へと移行し「リ・エスティーゼ共和国」を建国する手はずとなっている。まずは法整備と選挙による大統領の選抜だが……まあ パンドラズ・アクターとデミウルゴスなら巧くやってくれるだろう 俺なんかよりも優秀だからな アイツらは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男、仮面の悪魔『魔王』ヤルダバオトは「獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)!」と唱えて炎で出来た壁を作る。先程はこの魔法の一撃でガガーランが瞬殺されている。それを黒い剣士の『漆黒の英雄』モモンが剣で「はあっ!」と横殴りに薙ぎ払い炎を消滅させる。

 

 全くもって互角の戦い。

 

 しかし、モモンには頼もしい仲間が居た。

 ヤルダバオトが魔法を唱えた瞬間にその隙を狙ってイビルアイが魔法を放つ ヤルダバオトは肩口に食らうが、かすり傷程度のダメージも与えられていない。

 

「ふふふ なかなかやりますねえ……」

 不敵な仮面の表情通りの不気味さでヤルダバオトがモモン達、ヤルダバオト討伐チームを褒め称えて、パチパチパチパチと乾いた拍手を送る。

 

「ふふ 魔王殿にお褒めに預かり光栄であるな。このまま友誼でも結び語らいたいところであるが残念ながら時間がない……倒れた仲間たちのためにもな」

 

「はい!モモンさん!」と『蒼の薔薇』のラキュースが煤まみれの美しい顔から覇気を覗かせる。

 彼らのチームの後ろにはイビルアイに回収してもらったガガーランやティナとティアの亡骸が横たわっている。後でラキュースにより蘇生するつもりだが、あまり死亡後に時間を掛けたくないのも事実だ。

 

「ふうー 流石に魔王。実に手強い」と王より派遣されたガゼフ・ストロノーフ戦士長が歪んでしまった胸当てを強引に剥ぎ取り捨てる。

 

 魔王ヤルダバオトはまるで友人に目配せをするかのようにモモンにウィンクをすると、空中に出来た穴に手を突っ込み、珠の様な物を取り出すと地面に叩きつける。すると、そこから無数の地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)上位地獄の猟犬(グレーター・ヘル・ハウンド)朱眼の悪魔(ゲイザーデビル)極小悪魔群衆体(デーモン・スウォーム)が現れてモモン達とヤルダバオトの間に立ち塞がる。

 

「うおおおおお!! 六光連斬! 流水加速!」

 と叫んだガゼフがヘル・ハウンドたちを切り飛ばし「もうそろそろ俺は限界だ!行ってくれ!モモン殿!」と叫ぶ。

 

「超技!暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!!」

 ラキュースが叫び魔剣キリネイラムからほとばしる衝撃波でゲイザーデビルたちが吹き飛ぶ。

 

 別に叫ぶ必要のない技だが効果は絶大だ。

 

「モモンさん 早く!雑魚は私たちが!」

 

「うむ! すまない二人とも! 行くぞ! ヤルダバオトォォォォ!」

 

 振り下ろされた黒い剣はガキンッと激しい音をさせてヤルダバオトが爪で防いだ。

 

「貴方が素晴らしい剣士であるのは解っておりましたが、まさかここまで私が追い詰められるとは!」

 

「私だけでは無い!みんなの力でここまで辿り着き、みんなの力が私に進め!と歩む力を与えてくれるのだ!」

 

「モ、モモンさん……」

 

「ちいぃぃっ!キレイ事ですか!ここに来てまで!」

 

「ラキュース殿を庇って絶命したガガーラン殿、オマエに奇襲を仕掛けて時間稼ぎをしてくれたティナ殿。彼女たちを侮辱するような言動は私が許さぬ!」

 

「ももんさま……」

 

「そんな貴方だからこそ、ここまで来れたということですか!」

 

「そうだ!我が拳が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! ばあああああああああくぬぇつぅ……神の指的ナニかあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐぅおおおお!? 拳と言いつつ普通に剣で斬りかかるとはあああ?!」

 

「今のは効いたようだな!魔王!」

 

「……ふははははっ 私も奥義を出す時が来ましたね!」と言うと二本の指を額に当てる。

 

「モモン殿!気をつけろ!」とガゼフが叫んだ

 

「はあっ! 高位悪魔光殺砲!」

 

「ぐうおおおおおおおっ?!」

 

 まるで何かに当たったかの様にモモンが後ろに吹っ飛んで壁に叩きつけられる。自分で凄く頑張って飛んだ様にも見えたが気のせいだ!

 

「ももんさま!?」

 

「ぐぬう……まだこれほどの技を隠し持っていようとは さすがデ…ヤルダバオト!」

 

「ふふふ 悪魔の諸相・豪腕の右腕! 喰らいなさい!」突然右腕を巨大化させたヤルダバオトが倒れるモモンに飛びかかる。

 

「フローティングソーズ! モモンさんを守るのです!」

 

叫ぶ必要のない技だが、ラキュースの背中に浮いていた六枚の羽がヤルダバオトに襲いかかる。ヤルダバオトは巨大な右腕で弾く。そしてその間隙を縫ってイビルアイが呪文を唱える。

 

「魔法抵抗突破最強化・水晶の短剣(ペネトレートマキシマイズマジック・クリスタルダガー)」

相手の魔法抵抗を突破するエレメンタルマジックを放つ。しかしヤルダバオトは避けようともせず魔法を弾く。が、砕け散った魔法の水晶が目眩ましとなった瞬間に立ち上がったモモンが再び剣戟を繰り出す

 

「クッ 何故これほど人間のために戦うのです!」

 

「オマエには分からないのか? 人間の尊い輝きが!」

 

「ハッ 分かりませんね!」

 

「でやあ!」とモモンが突きを繰り出す。

 それを爪で受け止めたヤルダバオトが顔の近くなったモモンに向かって恨みがましく叫ぶ。

 

「貴方は分かると言うのですか? 人間でない貴方が!」

 

 

 一瞬の静寂が辺りを包む。 

 

「え……」と呆然とするラキュースとガゼフ

 

 知っていたからこそ、皆にバラされたモモンの気持ちを考えて哀しんだイビルアイは「黙れ黙れ黙れ!」と絶叫する。

 

「だからなんだと言うのだ? 人間の生き方を愛する異形の者が居ても良いだろう?」

 

 そう言うと、モモンは臆することなる双剣を叩き込む。

 

「くうっ」

 

「愛を知らぬオマエには辿りつけぬ境地だぞ! 魔王!」

 

「ももんさま…」「モモンさん…」と「愛」という言葉に乙女が少しウットリとした。

 ガゼフは「この2人の会話を聞いていると何故か顔が熱くなってくるのだが?」と不思議に思っていた。

 

「ぬぅおおおおお!悪魔の諸相・豪腕の両腕!」

 モモンの2本の剣をヤルダバオトが巨大化した両腕で掴むと黒い剣を「バキッ」と圧し折った。

 

「モモン殿?!」

 

「まだまだぁ!」そう気合を入れたモモンがヤルダバオトに組み付く

 

「くぅ?!な、なにを」

 

「ふふふ 仲良く地獄へ行こうじゃないか」

 

 そう言うとモモンはヤルダバオトの背中に回り魔王を羽交い締めにすると叫ぶ。

 

「ラキューーーース! やれぇ!」

 

「え!? モモンさん! な、何を?」

 

「君の最大奥義、キリネイラムの封印を解いた「街をも破壊する」という奥義を使え!」

 

 魔王ヤルダバオトは焦りの色を隠せない。

 

「な?! そんなことをすれば貴方も私と共に消し飛びますよ?!」

 

「ふふふ 構わぬ 人間の未来が見えたのだ。思い残すことは無い」

 

 ラキュースもナゼか焦りの色を隠せない。

「待って下さい! そんな…使ったことない…というか私の妄想の……」と段々小さくなる声でラキュースは抵抗をする。

 

「ももんさまあ……やめて…独りにしないで……」

 

「キーノ……今の君にはラキュース達が居るじゃないか……いつか独りぼっちになった頃、また逢えるよ」

 

「やだやだやだあ…… ももんさまあああ!」

 

「早くせよ! ラキュース! もうこの体は持たない!」

 

「モモンさん……」

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、私の番でしたか? 失礼。 良いのか!? お前達の英雄モモンも巻き添えになるのだぞ?!」

 

「構わぬ! ラキュース……後を頼んだぞ……」

 

「えうっえうっ モモンさん……解りましたから……」

 泣きながらラキュースは魔剣キリネイラムを振りかぶる。

 

「ここは黙って見ているべきなんだよな?!」とガゼフが懸命に空気を読む。

 

「クヌう~~ ここまで来たのに! もう少しで世界を手中に出来たというものを!」

 

「はははは 魔王よ! あの世で決着を着けようぞ!」

 

 深呼吸を終えたラキュースが自分の全ての魔力をキリネイラムに注ぐ。全部を注ぎすぎたせいで3日間も蘇生魔法を使えずにガガーラン達を腐らせかけたせいで、後で怒られることを知らないラキュースが全ての魔力と気合と愛的な物も注ぐ!

 

 

「超奥義!超暗黒刃超弩級超衝撃波(スーパー・ダークブレード・スーパーメガインバクト)!!!!」

 

「「超」多いな?!」と思わず振り返ってイビルアイが突っ込んだが、魔剣キリネイラムが唸りいつも以上の魔力により巨大な衝撃波が発射される。

 

 衝撃波はモモンとヤルダバオトを包み込み、中の2人から「…ショボ」とボソリと聞こえた気もするが「うわあー」「うわあー」と棒読みっぽい断末魔を上げて空へとまるで仲良く2人でジャンプしたかのように吹っ飛んだ。

 

 そして彼らが消えた彼方の先にまるで打ち上げ花火のように「ドーン」という美しい火花が広がる。

 

「も、ももんさまあーーうわあああーーーーー」

 泣き叫び続けるイビルアイと全てを出し尽くし倒れるラキュース。

 

 ラキュースは這ってイビルアイのもとに行き彼女を抱きしめる。

「……泣かないでイビルアイ。モモンさんが守ったものを今度は私たちが守るの……私、選挙に立候補するわ。モモンさんと約束したもの」

 

 

 こうしてヤルダバオトは討伐された。あまりにも大きな犠牲を伴った戦いだった。

 

 魔王と英雄が消えた彼方で2人は誰もいない地面にそっと降りる。

 そして黙って、頷き合い「上手く行きましたな」とモモン……の姿をしたパンドラズ・アクターが呟く。

「さすがパンドラズ・アクター卿の書かれた脚本は一味違いますね。何も知らないハズの彼らの行動やセリフまで、殆ど脚本通りでしたね」

 

「はははは 何故か分かりませんが、ラキュースという女性の考えていることが我が身の様に伝わって来ましてな 想像通りに動いてくれました」

 

「ふふふふ さすが智謀の王モモンガ様により創造された守護者で御座います」

 

 

 

 知らないほうが良いことは世の中に沢山ある。

 

 

 確信犯の厨二病(に罹っていた時の二人組に作られた)

    +

 無自覚の厨二病(ギルド屈指の重症患者に作られた)

    +

 天然産の厨二病(この世界屈指の不治の病の患者)

 

 による化学変化で生まれた劇的で感動的な茶番劇が、どう語り継がれていくのか

 

 

 

 

 そして、この顛末の詳細な報告書がモモンガのもとに届いた時、「うわあはーーーー」という奇妙な叫び声を上げながら床を高速移動しながら転がる主人を見ることになることも。

 

 

 

 

 

 











おとり先生、誤字脱字の修正を有難うございます。

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