鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第八章四編 D&D

 

 

 

 

 ゆっくりと馬に乗った黒い鎧の騎士が草原を抜けて森の中へと馬を進める。

 

 本来は馬では移動しにくい森ではあるが、よく注視すると木々の生え方に人為的な工作が見られ、不規則なジグザグ移動によりスムーズに人や物の移動が可能になっている事に気づくだろう。そんなトブの森の中を黒の騎士は進む。

 すると岩山の一部を繰り抜いたような空間があり、中に入ると奥に扉が見える。扉に手を添えると、添えた箇所から魔法認証の様な光が手の平を包み、同時に扉の上に填め込まれている水色の水晶から周辺への魔法サーチが行われて黒騎士以外の不審者が居ないことが解ると静かに扉が開く……ハズだった。

 水晶は静かに「ウィウィウィウィ」と低く鳴りながら赤色に変色する。それを確認した黒騎士は「17回目でやっとですか……」と、ヤレヤレと呟くと軽く規則性に則ったリズムで扉をノックする。 すると扉が小さく人一人分がギリギリ通れる程度に開き、黒い騎士はそこに体を滑りこませる。そして彼は主にメッセージを送る。

 

『ようやく釣れました。はい、恐らくはトカゲの方だと思われます。では予定通りに』

 

 黒い騎士は中に入ると、削りだしの大理石の床で出来ている通路を歩き続ける。100mほど進むとホールに出る。

 そこには超希少金属で作られたゴーレムが7体が設置されており、自分では突破不可能なゴーレムの群れを一瞥して黒騎士は腕を顔の前で一振りすると、一瞬にして軍服を身にまとった埴輪の様な姿に変身する。

 ナザリック情報総監パンドラズ・アクターはようやく大物を釣れて……といっても釣るのはパンドラズ・アクターでは無い。自分はあくまで撒き餌として誘き寄せただけである。それでも大役を果たせたことに満足気にアゴを指でさすりながら、右から2つ目の扉から中に入り長い石廊下を歩き続け鉄の扉を開き、ゲートの部屋に出る。ゲートの両脇にはゲートの護衛としてシャルティアの眷属であるクレマンティーヌとセーラー服を着た第七席次が立っており、パンドラズ・アクターに対して丁寧にお辞儀をする。パンドラズ・アクターは彼女たちに独特の敬礼で返すとゲートを潜りナザリックの第一階層に到着する。ヴァンパイアブライドに迎えられて彼女たちにも機嫌よく「御役目ご苦労様です!」と敬礼するとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させて瞬時に玉座の間の扉の前へと瞬間移動する。

 扉をノックし「パンドラズ・アクター、帰還いたしました。」と告げると中からいつもの守護者統括では無く第七階層守護者デミウルゴスの声で「入り給え」と返答がある。

 

 玉座の間にはモモンガと第一~三階層守護者シャルティア 第五階層守護者コキュートス 第六階層守護者のアウラとマーレ 第七階層守護者のデミウルゴス そしてパンドラズ・アクターにとっては初見である第八階層守護者ヴィクティムが勢揃いしていた。

 

「ご苦労さまです。やはりカッツェ平野での事で動き出し、ついに『漆黒』へと辿り着いたと云う所ですか……想定内の知覚能力と想定以下の探査能力ですね」

 

「文献を調べるに六大神との関わり方や八欲王との関係、十三英雄との冒険などから考察するに、この星の守り神と言える存在の割には……という事か?」

 

「はい、カッツェ平野でイア・シュブニグラスを使っていただいた数多くの理由の一つに超位魔法という大きな魔法の発動と、一瞬にして莫大な生命エネルギーが失われる事によって起こる反応と変化をこの世界の理に解りやすく突きつけてみるという思惑があったのですが、そこで反応して頂くのは当然として、探査に関しては割と地道な作業のようですね」

 

「ただプレイヤーと多く関わっているドラゴンだけにワールドアイテムを所持している可能性も高いからな」

 

 そう言いながらモモンガは考える。 むしろ彼らがユグドラシルのプレイヤーをこの世界へと召喚したという考え方も出来るのでは無いだろうか? 始原の魔法の一つにそういう物があってもおかしくない。記録に残る六大神は600年前にこの世界に現れて混沌とした世界から人間を救済したと言われている。ドラゴンが彼らを秩序を取り戻すための『力』として召喚する。六大神が活躍し平和になる。再び世が荒れて召喚するが、召喚された八欲王はクズだったためにドラゴンと争い、仲間割れもあって討伐する。何かあって六大神のNPC達が魔神化して世が荒れて再び召喚し十三英雄が現れて‥‥いや ないな 初めの六大神を召喚してゲートの様な物が開いてしまった影響とかならまだ考えられるが……。

 

 まあ 後は本人に聞けば良い事だな

 

『モモンガ様 白銀の騎士への紐付けが完了いたしました。また彼を監視する眼も確認できました』

 

 タイミング良くアルベドからメッセージが入る

 

『うむ ではアルベドは予定通りの装備で来てくれ』

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ツァインドルクス・ヴァイシオン 別名『プラチナム・ドラゴンロード』は大きな力の発動を感じて、それまでスレイン法国などを彷徨わせていた白銀の戦士をエ・ランテル周辺に移動させていた。スレイン法国の危険性からリグリットなどにも依頼して色々と調べていた所にあのエネルギー爆発と生命の飛散。100年単位で現れるプレイヤーが来た可能性が高いと考えるべきだろう……。六大神にしても八欲王にしても十三英雄にしても、ユグドラシルから転移してきた彼らは大体大きな問題を起こすのだ。元の世界での力と、この世界での力の違いに気づかず大きすぎる魔法を使ってしまったり、心が暗黒面に落ちて狂ってしまったりと様々な理由で。

 大きな力を持っているというだけでプレイヤーは普通の人間と変わらない。 一人一人は教養も高く優しい者が多いが、群れると妙に強気になったり排他的になる傾向がある気がする。 恐らくこの世界でもっともプレイヤーと付き合いがあったツァインドルクスだからこその考察であろう。

 

 元々、そろそろ100年周期のプレイヤー来訪期であり世間の動きに注意していた。そんな時にエ・ランテルでの民権運動騒ぎからのリ・エスティーゼ王国の魔王ヤルダバオト、そして王国から共和国へと生まれ変わるという大変動があった。この時に妙に働いたのがモモンという謎の人物であり、彼を調べたが魔力はさしたる物も無く、剣士としての力も英雄級の域を出ない人物であり、とてもプレイヤーであるとは考えられなかった。しかし十三英雄にも始めは弱者だったに関わらず驚異的な成長を遂げた者も居た。完全には否定出来ないので監視を続けていた。

 そして、彼のチームである『漆黒』のメンバーであるセバスという人物が『竜王国』で暴れているというリグリットからの情報があり、何度が監視した結果この世界とは隔絶した強さを持っており、どうやらプレイヤーか、従属神か、神人の可能性が出てきたのだ。

 また、セバスという男はどうやら王国ではかなり評判の良い人物であるため、話の分かる人間では無いかと期待はしている。 しかし、となると彼のチームリーダーであるモモン氏とは一体何者なのか? セバス氏が神出鬼没なのに対してモモン氏はエ・ランテルにて執務を執っている事が多く、もうすぐ臨時政府の仮代表から降りる時期という事で、最近は郊外地にあるという『漆黒』の別荘に帰宅しているという情報を掴んだので何度か後をつけてみたのだけれども、彼は慎重な性格らしく探知魔法などを使って探索を行うことが多く、ツァインドルクスの操り人形である白銀の騎士を近づけることが出来ないでいた。

 

 しかし、今日はリグリットの力も借りて二重に探知魔法から身を隠す魔法を施して、ついにモモン氏のストーキングに成功した。しかし、やっかいな事にスレイン法国の諜報員にも見られている。

 

 今日決めるしか無い……な

 

 そう考えて白銀の戦士は扉の前に立つ。

例え、ここに罠を張られていても、これは仮初の体で何の問題は無い。そう考えて先ほどモモン氏がやっていた様に扉に手を添えた瞬間…… 

 

 

 

 ……ー ァー ッァー ッアー ツアー! と云うリグリットの悲鳴がツァインドルクスの脳裏に届いた。

 

 瞬時に白銀の戦士から精神を切り離して意識を本体である竜の自分に戻す。

 暗闇に沈んだ意識から静かに瞼を開く、一瞬だけ外光の眩しさを感じるがすぐに収まる。収まると同時に眼前に広がったのは初めての感覚。 宇宙にあるというブラックホールの様に光すら吸い尽くすほどの暗黒の坑(あな)の様な「黒よりも黒く、闇よりも深い存在」があった。 もちろんツァインドルクスはブラックホールという存在を知らない。 だが彼(彼女)にブラックホールを説明する際に、この時の光景を示せばすぐに理解出来るだろう。

 

 

 そこには『死』が存在した。

 

 

 不老不死に等しいツァインドルクスが初めて感じた明確な「死」というイメージであり、「死」の顕現であった。

 

 ツァインドルクスの棲家に突然何の前触れもなく「ソレ」は現れた。

 

 リグリットがツァインドルクスの皮膚を必死で叩き続けたのであろう、その手は一部から血が出ており、ツァインドルクスの皮膚にも彼女のらしい血が付いていた。

 

 う…あ……? 自分の持つ超知覚能力が働いていなかった? なぜ? どうして? この者達はそもそも何者で、どうやってココを知り、ココに辿り着いたのか?

 

 空中に浮いたまま胡座をかいた中心の人物は骸骨の顔に黒いローブ、そして手には豪奢な杖を持っている。

 

 右前方に立つ人物は黒い鎧に身を包んで妙な杖を持ち、小脇に奇妙なピンク色の生き物を抱えている戦士

 左前方に立っているのは小柄ながら圧倒的なオーラに包まれた赤い鎧に包まれた戦乙女

 

 真ん中の人物を見てツァインドルクスは思わず声が出る。

 

「スルシャーナ?! 復活したのかい?」

 

 すると真ん中の骸骨は苦笑いを隠せないという雰囲気で口を開く。

 

「なんだ…スルシャーナはここでも人気者だな」

 

「……違うのか」と言いつつツァインドルクスは中心の人物から漂う雰囲気の圧倒的な濃度に少し気分が悪くなる。 鋭すぎる自分の知覚能力のせいで弊害が出ている? スルシャーナ相手でも八欲王相手でもこんな風になった事は無い。直視すると目眩や頭痛すら感じる……なんなんだろうか? この吐き気をもよおすほどの威圧感は? 先程から重力すら感じている自分の心が悲鳴をあげている。

 

 このバケモノは何をしにココへ来たのか?

 プレイヤーかスレイン法国の秘密兵器が自分を殺しに来のだろうか?

 ツァインドルクスは静かに身構えようとする。

 しかしバケモノが発した言葉は意外なモノだった。

 

 

「ツァインドルクスよ。 話をしに来たぞ」

 

 

 

 気勢を削がれたツァインドルクスは踏みとどまって会話を始める。

「どんな話で君は一体何者なんだい?」

 

「私はモモンガ。 君と友好的に話をしにきたのだよ」

 

「……プレイヤーかい?」

 

「ふふ やはり知っているのだな? 六大神と親交を持ち、八欲王と殺し合い、十三英雄とは共闘したツァインドルクス殿なら当然だろうな」

 

「……一体 本当に何者なんだい? 今までの『彼ら』とは違いすぎるんだよ」

 

「ハハハハハ 我々アインズ・ウール・ゴウンを今まで君の前に現れた者達程度の存在だと思ってもらわれては困るぞ?」

 

「……『アインズ・ウール・ゴウン』……それが君たちのギルド名だね?」

 

「その通りだとも、この世界の守り神よ。 話が早くて助かる」

 

「守り神のつもりなんてないけどね」

 

「そして人間の守護者でも無い」

 

「……皮肉かな?」

 

「ふふふ 何故異形種である私が、実は『人間だけを守っている』わけでは無いツァインドルクス殿に対して皮肉らねばならないのかな?」

 

「不気味にも程がある……では、一体何の話だろう?」

 

「例えば、そうだな ツァインドルクス殿や竜族はプレイヤーが嫌いだよな?」

 

「……嫌いだなどと言った事はないけど」

 

「特に八欲王は魔法のシステムを捻じ曲げたらしいからな、それによって一番被害を受けたのは、それまでの始原の魔法使いである竜族だと聞いている」

 

「まあ、それは否定出来ないね」

 

「ワイルドマジックの大爆発魔法。術者の意見によると都市を滅ぼせるほどの魔法だとか」

 

「……誰に聞いたの?」

 

「そのワイルドマジックも八欲王の仕業でユグドラシルの魔法システムに無理やり組み込まれた結果、威力に応じて『超位魔法』とされ、使うとペナルティが発生する様になってしまったのでは無かったかな? レベルドレインという」

 

?! 何故モモンガと名乗るバケモノは全てを知っているのか?

 

「ツァインドルクス殿の様にレベルカンストの強者がレベルドレインになると大変だよな…… 下がった5レベルを戻すのに必死だっただろうね。 もしかして十三英雄と共に戦った魔神討伐にはレベル上げの意味もあったのかな?」

 

 ……彼の言っている言葉の意味がわからない。

 分からないが全てを見透かされている様な感じがする。

 リグリットも凍えた様に縮こまっている。

 

「まあ それは良いんだ。今日の話は、私はツァインドルクス殿の「守り神気取り」に怯えて暮らしているので、もう止めて欲しいという交渉だ。」

 

「え?」

 

「つまり、我々や、この世界にこれ以上、エゴを振りかざして干渉するのを控えて欲しいという事だ」

 

「なにを言って……?」

 

「ああ 良いよ? 怒ったりしないから我々の力を感じ取って見ては?」

 

 突然彼は何を出すんだろう?

 しかし 大いに調べたかったことではある。そばに居るリグリットと頷き合うと、二人でモモンガ達から感じる圧力をスキル、魔法の両方で計測してみる。

 彼らの持つエネルギーの様な物、凝縮されつくした力の存在を感じ、読み取っていく。

 

「ぎゃわあ?!」とリグリットから悲鳴が上がった。

 

 当然だ……なんだろうか……これは?

 

 モモンガから知覚できる強さはその『圧』から想像するに恐らく私やプレイヤーを遥かに凌駕している! 勿論、強力な装備などを所持しているとその分、上乗せされるのだが、八欲王のリーダーが秘宝を所持していた時に感じたプレッシャーよりも数段以上、もしくは数倍も上だ! 両脇の護衛の戦士でも、八欲王や十三英雄と互角かそれ以上の圧力を感じる。これでは竜族の総力を挙げてもこの三人に勝つチャンスは、かなり低いと思わねばならない……。

 

「うん いい顔になったな? ツァインドルクス殿。今までのギルドと一緒にしない方が良いと言っただろう?」

 

「……なんなんだろう君たちは」

 

「我々はアインズ・ウール・ゴウン。 『ユグドラシル』で、たった41人で世界の第九位にランクされた『最恐』にして『最凶』の『DQNギルド』だよ」

 

「ドキュ?え?」

 

「ああ そうだな。強さを解りやすく言うと……君の知ってる「プレイヤー」達、1500人を41人で蹴散らしている。」

 

「ふぁ?!」

 

「君たちは相手の嘘を見抜けると聞いている。私が本当のことしか言ってないと解っているんじゃないかな?」

 

「……まあね」 そうだからこそ体の芯に寒さの様な恐怖を感じる。

 

 確かに嘘を見抜ける。

ただし、相手が人間などの自分より低位の種族に対してでなければ精度が下がるし、このモモンガという男の場合は密度の濃すぎるオーラで何もかもが麻痺してしまい、実はシッカリと知覚は出来ていない状況だ。両脇の二人なら声さえ出してくれれば声紋からも判断は出来るだろう。だが嘘は見抜けるという事にしておいたが良いだろう。本当の事だけを本人が話してくれる訳だし。しかし……この言動からも彼らがとんでも無い者達だと云うことは理解出来る。彼らは嘘をつく必要すら無いのだ!

 

「今まで君がこの世界で出会ったプレイヤーのギルドたちは我々の遥か格下であった事は分かったと思う。その私が言うのだ。『我々に関わらないで欲しい』と」

 

「こっちとしても君たちのような存在とは関わりたくないんだよ」

 

「ならそれで良い……ところで、ツァインドルクス殿。竜族の末裔である竜王国の人々がビーストマンに苦しめられているのに無視したのは何故か聞いても良いかな?」

 

「ツアーで良いよ……無視してたわけじゃないけど、同胞の末裔だからと言って、運命に逆らうことも出来ずに滅ぶのなら、それも天命だろうと考えていたんだ」

 

「そう、それだ」

 

「?」

 

「それが守り神気取りだと言ったんだ。例えば我々がこの世界に来て好き勝手に振る舞いこの星の在り方を変えてしまう存在ならば、八欲王や魔神の時のように懸命に立ち向かったんじゃないのか?」

 

「……そう、かも知れないね」

 

「うん。そうなるとワイルドマジックの大爆発魔法とかを使う訳だよな」

 

「かも知れないね……でも、少なくとも アナタ達3人はそれで倒せる様な存在じゃないけど?」

 

「一撃二撃では無理だろうな。でもそれで死ぬ仲間も居るのだ。もう一度言うが我々『ユグドラシル』でもトップクラスのギルドであるアインズ・ウール・ゴウンには、どれだけの下僕(しもべ)が所属していると思う? 君が訪れたのは我々のギルドの本拠地の入り口だが、君がワイルドマジックを使う事により、その中には君の爆発魔法で死ぬ者も居るのだ……大切な仲間の命が奪われる。しかも君の身勝手な判断でだ。そういう事があったら我々は、君はもちろん全ての竜を殺し尽くすことになるだろうな」

 

「下僕って魔神になった六大神の従属神のこと?」

 

「ああ そうだ。この二人も従属神、NPCだ」

 

「そうそう『エヌ・ピー・シー』って言ってたな……彼らも」

 

「ちょっと待ってくれ! 待って待って待って……」

 突然静かにしていたリグリットが手を挙げて眼を見開きながら叫びだす。

 

「そこのお二人が従属神ですと!? 十三英雄よりも強い従属神じゃと?! そ、その従属神が、そちらのギルドには如何ほどおられるのか!」

 

「ふむ……アルベドよ。ナザリックには今、何人の下僕が居る?」

 

 モモンガが後ろの黒い騎士に振り返って聞きただす。それはスグに把握できない数のNPCが彼らのギルドに存在していることを示す。すると想像外に珠が転がる様な美しい声で黒い鎧の騎士が応える。

 

 

 

 

 

「そうですわね……新しく加入した者共も含めてでしたら……2万ほどでしょうか?」

 

 

 リグリットは泣きそうな顔で、ツアーを見る。

 ツアーは「彼女は嘘を言っていない」と呟き、首をゆっくりと振ると、静かに強く眼を閉じる。

 

 

 

「では、ツアーよ 和平交渉と行こうか?」

 

 表情のないハズの骸骨顔がツアーには、にこやかな笑顔に見えた。

 

 

 

 

 そして話し合いと云う名の恫喝は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう と必要のないため息をついてからモモンガは玉座で待っていてくれた守護者たちに語り始める。

 

「とりあえず 無事話し合いは終わった。ワイルドマジックなぞナザリックに放たれたら、ギルドメンバーと苦労して作った物が台無しになるし、オマエたちにも大きな被害が出たであろうからな……予定通りで非常に喜ばしい限りだ」

 

「まさしく全てはモモンガ様の掌の中で御座います」とデミウルゴスが恭しく賛辞を送る。

 

「いやいや お前たちの立案通りだ」

 

「‥‥あ、あのーモモンガ様?」おずおずとマーレが手を挙げる

 

「どうした?マーレ」

 

「ほ、本当にモモンガ様自ら敵地に飛び込む必要があったのでしょうか?」

 

「マーレ。私は竜と話し合いに行くだけだったし、何かあった時に少ない人数の方が逃げやすいからそうしただけだ」

 

「で、でも、話し合いならモモンガ様が態々出向かなくても良いんじゃないでしょうか」

 

「ふふ 話し合いではあるがツアーに理解してもらう必要があったからな。我々と戦う事が無謀であると云う事をな」

 

「殺してしまえば良いじゃないですかー!」とアウラが加わる

 

「アウラ! 至高なる御身の考えに不満を投げかけるの?」

 

「ソレハ不敬ダ!アウラ!」

 

「いや、良いんだ。お前達も疑問や不満はちゃんと伝えて欲しい。上から一方的に命令だけ伝えるとかどこのブラック企……悪い組織の見本だと私は考える。 さて、アウラ、彼らは始原の魔法が使える。 例えばツアーと戦っている間に他の竜が何らかの方法でナザリックを探知しワイルドマジックを使ったらどうする? フル装備のお前たちならともかく一般メイドや、プランテーションのために作成したアンデッドたちも全滅することになるぞ? それは我々が成し遂げようとする事の大きな妨げになるのだ」

 

「あっ……そうですよね。申し訳ありません」

 

「まあ 今回の話し合いでタップリ脅してやったから大丈夫だろう ツアーの他に始原の魔法を使える竜が居るのか聞いたら黙秘したので、とりあえず『始原の魔法=ツアーが犯人』という事にしとくって言ったら「ヒドイ!?」って泣いてたぞアイツ」

 

「ハハハハハ 実際のツァインドルクスの強さはどんな感じでしたか?」

 

「ふむ…… 例えばフル装備のシャルティアよりは弱く、非装備で裸のシャルティアよりは強いという感じかな? つまり何も持たない裸の私で互角と言ったところか」

 

「ふひっ 裸の私と裸のモモンガ様……」

 

「御前で無礼だわ! シャルティア!」

 

「統括殿……そういう事はヨダレを拭いてから言うと良かったんじゃないかな……」

 

「ん、うん! とりあえずツアーが我々の強さを『圧』から感知し、嘘を見抜けると予想して『山河社稷図』や『幾億の刃』をも装備してデータ量を増やしまくってバグらせてやった」とモモンガは愉快そうに笑う。

 

「アルベドは『ギンヌンガガプ』を持っていたし、シャルティアには『強欲と無欲』を装備させていたからアイツら、「従属神でもこの強さ?!」って泡を吹いてたぞ」

 

「知覚能力ガ 優レ過ギテイル事ガ 裏目ニ出マシタナ」

 

「うむ アルベドがうまく合わせてくれたので、彼らはシャルティアやアルベドみたいなのが2万も居ると誤解してくれたしな」

 

「うふふ お褒めに預かり光栄ですわ 夫婦の間で息が合うのは当然の事で御座います」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「アルベドォ!」

 

「何よシャルティア! 別に良いじゃない! もうすぐ色々とケリが着くのだからモモンガ様も私たちの想いに応えて下さるハズだわ!」

 

 え?

 

「そ、そうなのでありんすか?!」

 

「そ、そうなんですか?!」

 

 何故か敬語で驚くモモンガを無視して二人の会話が続く

 

「シャルティア! 先日話し合ったわよねえ? それで私が第一夫人でアナタが第二夫人に決まったはずよ」

 

「あ、あれが話し合いでありんすか! 無理やり奇襲を仕掛けておいて!」

 

「待って下さい! アナタ達、守護者同士で争ったのですか?!」とデミウルゴスが口を挟む

 

「『モモンガ様の好きな所を代わりばんこに言って尽きた方が負け』という恐ろしい勝負だったわ……三日三晩かかったものね」

 

「なんと?! なぜ声をかけてくれないのですか! 私も混ぜて欲しく思います!」

 

 

 デミウルゴス オマエには失望したぞ

 

 

「お前らこんな忙しい時にそんな事して遊んでいたのか……。」

 

「「遊びではございません!(ありんす!)」」

 

「あ、はい」

 

 部下に気圧されてコクコクと頷くオーバーロードがココに居た。(*注 10分前に世界の守り神をねじ伏せた人です)

 

「あの‥‥」

 

 と珍しくおずおずと言った感じで顔をほんのり赤く染めたアウラが手を挙げる

 

「第三夫人で良いので立候補しても良いでしょうか‥‥?」

 

「えっ!」

 

「えっ!」

 

「えっ!」

 

 さっきから俺、「えっ」としか言ってないな……とモモンガが悲しくなってきた。

 

 ん? って?! うおおおいちょっと待ったぁ?! まとうな な

 何かに気づいたモモンガは、この会話を終えるために早口で話しだす。

 

「お前たち 私を慕ってくれる気持ちは嬉しいが、今はまだオマエ達の想いに応えてやれる段階では無い。」

 

「そ、そんな?!」

 

「いつになれば応えてくれるのでありんすか?」

 

「‥‥‥100年、100年待って欲しい」

 

 ひゃくねんて…子供か俺は……頭の悪そうな答えだわー

 

「ひゃ ひゃくねん?!」とアウラが叫ぶ

 

「‥‥それは次のプレイヤーが現れるとしたら100年後、その時に現れた彼らの審判を仰ぎ、雌雄を決する必要も出てくるからでしょうか?」

 

「う、うむ さすがアルベド、話が早いな」

 

「有難うございます。このアルベド、失礼ながらモモンガ様の御心の洞察については多少なりとも自信が御座います」

 

 ええ?! ダウト!ダウト!ダウト!って叫びたい気分なのだが

 「はい『UNO』って言ってなーい!」と燥ぐ金髪の大統領夫人みたいに言いたいのだが……だって、本当にそうならこんな事になって無いよね?!

 

「100年という期間は決して時間稼ぎでは無い。決して時間稼ぎで適当に言った訳ではないのです。 それだけあれば丸く収まらないかなーとか、他に好きな人作ってくれないかなーとか、そういう希望が決してある訳ではなく、不死である私やオマエ達なら一瞬の出来事であるし、その……アウラも100年後なら大人になっていて、ちゃんとした判断が出来るハズだしな」

 

「私のことも考えて下さって有難うございますモモンガ様!」とアウラが元気に頭を下げる

 

「当然だぞアウラ。オマエ達は我が子同然である。『わが娘』同然だからな? ここ大事だからな? ではこの話は未来に取っておいてくれ」

 

「はっ」

 

 ふう とモモンガは溜息をつく

 

 先ほど、モモンガは視界の端っこでマーレまで、おずおずと手を挙げようとしているのに気づいたのだ。

 

 あぶなかった‥‥‥ さすがに男の娘は‥‥ねえ?

 

 第四腐人とか勘弁して欲しい。なぜか凄く嬉しそうな『茶釜』さんが脳裏に浮かぶのは何故だ?

 

 100年待ってほしい それはプレイヤーが来訪する可能性が高いからという事だけでなく、何よりも自分の覚悟ができている状態ではないからだ

 

 あと、何だその『第三夫人』とか云う凶悪な名詞は?まだ『第一夫人』すら認めておらぬというのに。

 

 モモンガの悩みは尽きないが「100年後の俺……ガンバレ!」と未来の自分にエールを送った。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ツァインドルクスは先程のモモンガの言葉を思い起こす

 

『ツアーよ オマエは今、我々を恐れて動きを止めただけで、本当は自分が『守り神』であると考えるが故に、自分の描いた秩序のために今まさに出来つつある秩序を破壊しようとしただろう? この世界はオマエのオモチャでは無いのだぞ? 生きているのだ。モンスターも人間もプレイヤーもNPCもな

 知っているか? 昔々、RPGの原点となったテーブルトークゲームの「D&D」ではキャラクターシートでアライメント(属性)を決める際にローフルとニュートラルとカオティックで分けた。ローフルとは「Lawful」であり『秩序』を意味する。カオティックは「Chaotic」であり『混沌』を意味する。

 

 オマエはローフル それで良い 

 

 俺はカオティック それで良い

 

 でもオマエが我々と敵対するという事は、偽物の秩序は要らないと この世界で生きる全ての人々を否定して混沌の世を作ろうとする事と同じなのだ。

 私とナザリックの皆が「混沌」の鍋をひたすらかき混ぜて創りだした秩序をだ。

 もし今から作られる世界の全てを否定し、破壊するというならば、それはただの破壊神であり、『悪』そのものだと私は考える。流れた血の意味も価値も解らなくて、なにが世界を守る竜だ。だとしたらオマエは神様のダイスにすらケチを付ける傲慢なトカゲでしか無い。自分のエゴを振りかざし世界を混乱に陥らせようとする行為は止めよ。そんな奴に私は負けない。私たちは、この星の住人として全力を持って戦うだろう。まあ、まずは100年ほど見守るが良い。気に入らなければ100年後に現れるかも知れないプレイヤーと手を組み掛かってくれば良い。負けないけどな』

 

 ツァインドルクスは落ち込んでいた。

 

「いつの間にか、すっごい悪者にされていたんだけど……」

 

 今まで自分がやってきたことは間違いだったのだろうか?

 モモンガの前では否定していたが、自分がこの星の守り神を気取っていたのは間違いない。

 ツァインドルクスはプレイヤーという異世界人が嫌いだった。

 

 この星の摂理を捻じ曲げて、物理的にも、思想的にも、歴史を歪ませて本来あるべきでは無い不自然な状態を生み出す彼らが嫌いだった。

 

 強く正しい六大神とは盟約を結ぶことで最低限の被害で終えることが出来た。

 

 強欲な八欲王とは死闘を繰り広げた。

 

 六大神の従属神が魔神となり世界を混乱に陥れた時は十三英雄が現れて共闘した。

 

 では今回のアインズ・ウール・ゴウンは? 2万の従属神と戦うことなど無意味だ

 

 彼らは正しいだろうか? 分からない。 

 彼らは平和で人々が幸せに暮らす社会を目指すという……それを壊す事はやはり『悪』だろうか?

 しかも 彼らは独裁国家を作るどころか、リ・エスティーゼの民権国家を主導した。そして彼らはどこかの国を支配するでなく、食料や治安維持のサポートに全力を尽くすという……これを強大な力を持つからといって『悪』と呼ぶことなど出来るのか?

 

 もし 100年後、再びプレイヤーが現れて、アインズ・ウール・ゴウンが作ろうとしている「平和で幸せな社会」を新しいプレイヤーが破壊する者だったとしたら彼らこそ『悪』ということになるだろう。

 しかも 私が八欲王の秘宝を守るためにここから離れることが出来ない事を知っていて「ああ じゃあ私が預かっておこうか? どこにも行けないなんて不便だろう? ん? 秘宝を狙ってる? んなわけない」と笑い 「アインズ・ウール・ゴウンは秘宝、ワールドアイテムを二桁所有しているから今更、八欲王の秘宝など宝物庫に放り込んで管理するだけだが……返して欲しい時に返却するぞ? たとえその理由が我々と戦うためだったとしても」

 

 と余裕しゃくしゃくに言われたのだ。駄目だな。彼らのほうが何枚も役者が上だ

 

 リグリットが落ち込む私の肌を手で撫でてくれる。ああ友達とは有り難いものだな

 

「ふう 大丈夫だよリグリット。心配しないでおくれ。重荷から解き放たれた様な気分でもあるんだ」

 

「そうかい?でも自分を責めるのはお止しよ。あんたは間違ってなかったよ」

 

 ツアーは思う 100年間 のんびりと彼らを見届けよう。彼らは異形種で人間ばかりを優遇しないだろうし、それに気遣いの人?であるモモンガが作った世界に興味もある。そして彼らが本当に安心出来る奴らだったら八欲王の秘宝も預かってもらっても良い 

 

「大丈夫だよ それに楽しみも出来た」

 

「楽しみって?」

 

「数百年ぶりに自分の体で大空を飛べる日が来る。そんな予感がするんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「良いのですか?本当にツアーやアーグランド評議国の竜たちを殺さなくて」

 

「ん?ああ 良い良い。 何かあって超位魔法を使ってレベルドレインした時に経験値を稼ぐ用の良い生簀(いけす)だと思ってる」

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「100年で立派なレディになります! モモンガ様!」

「ああ アウラ、無理するんじゃないぞ。そのままのアウラでも可愛いのだからな。条例的な意味じゃなくて」

「じょうれい?」

 

「100年経っても変わらぬ美貌と愛をお約束致しますわ!モモンガ様」

「オマエは今もこれからもズッと美しいぞ アルベド それより『ほどほど』という言葉の意味を知ってほしい」

「まあ! モモンガ様ったら!」

 

「100年後に向けて成長し、ボインボインになるでありんす!」

 モモンガはシャルティアの両肩をガシッと掴んで首をふるふるふるふると振った

 

「ボ、ボクも頑張りま‥‥」

 モモンガはマーレが挙げようとした腕を掴んでゆっくりと下ろそうとした。

 マーレは初めてモモンガに歯向かった。

 レベル100でガチビルドのドルイドのパワーはモモンガより強く、ギリギリとモモンガが必死に下ろそうとする手を無視して挙げていく

 

 そこには男の戦いがあった。

 ただし「抱かれる抱かれない」という悲壮な戦いだったが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







代理石様、ゆっくりしていきやがれ様、まりも7007様、誤字脱字の修正を有難うございます

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