鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第八章六編 純粋と邪気とバグ(嫌な事件だったね……)

 

 暗く静謐さを感じる通路を番外席次『絶死絶命』は歩き慣れた道を散歩するかの様に歩く。

 

 自分を案内し、前を歩くのはクレマンティーヌと第七席次。かつては同僚であり、スレイン法国で特殊部隊『漆黒聖典』として働いていた彼女たちは、今はココの拠点の主に仕える身となっているようだった。先程見えた赤い瞳に唇から覗いた牙。彼女たちには吸血鬼化が施されていると思われる。ということは前・漆黒聖典の隊長は吸血鬼であるクレマンティーヌに殺された? いや、たとえクレマンティーヌが吸血鬼化して身体能力が上がったとは云え、神人である隊長には敵わないハズだ。

 異形の身と変わり果てた彼女たちに、普通の法国の隊員なら怒りや不快感を抱いたかも知れないが、幸いにも番外席次自身が「人の身ではない」存在だった。

 不快感では無く憐れみ…そして、死してなお、彼女たちを侮辱し続ける「敵」の行為に苛立ちを覚える。

 

 それにしても長い……。

 

 洞窟の奥に居た嘗ての仲間である彼女たちに会って、魔法のトンネルの様なものを潜り抜け「このあたりは私たちの庭の様な物なんですよ?」などと話しかけられてからどれくらい経つだろう? 恐らく今は地下3階だと思うのだが、一階一階がとても大きく、天井や石の壁が見えるから地下だと判断できるが、通路にしても壁の柱にしても恐ろしく豪奢な作りであり、どれだけの権力を握ればこれだけの細工を施した館城を手にする事が出来るのかを考えると、今から自分が案内された先に居るであろう人物に興味も湧く。それはモモンなのか、それとも……

 

 しかし、もうそろそろカルネ村に陽光聖典が襲いかかっている頃だと思うのだが、この地の静まり様を考えると未だに連絡は入っていないのだろうか? セバスという者が強者である事は解っているが、クアイエッセなら時間を稼ぎながら戦えるはずだ。

 

 クアイエッセ……か。 

 番外席次はクアイエッセに話せなかったことについて思いを馳せる。

 何の事はない。先ほど「ふらぐ」などと言って彼に告げた「伝えたい事がある」というセリフは本当の事だったのだ。 などと言ってもそれは色恋沙汰などという艶話では無い。そもそも彼女はクアイエッセなどという自分より弱い人間に対して男性としての魅力を感じることは無い。あくまで「自分を倒す存在が現れたら結婚をして子作りをしたい、人間以外だって問題ない」と常日頃から言っている通り、自分よりも強くなければ異性としての興味を持つ事などありえないのである。

 だからと言ってクアイエッセに関しては、純粋過ぎる面もあるが良い子であり、エリートとして国の機関で育てられたため、子供の頃から知っているので親戚のオバちゃんのような感じである。誰がオバちゃんか。

 彼に話しそびれたのは、むしろスレイン法国の政治的な話に関わる陰の部分の話である。

 

 法国のバハルス帝国に送っていた諜報部の一人……彼は騎兵として、あの「カッツェ平野の虐殺」に参加しており、運良く生き延びた彼は一兵卒ということもあり、最後に行われた異形の敵と皇帝の会話の内容こそ掴めていないが、謎の異形種の情報を事細かに詳しく法国に送ってきたのだ。

 それで分かったこと……それは敵はギルド・アインズ・ウール・ゴウンという組織であり、そして本人は『死の神』と名乗っていたが、強大な魔法使いであり黒いローブに白磁の骸骨姿は、まさしく伝承通りの『スルシャーナ』の姿に間違いないとの報告であった。

 

 嗚呼、スルシャーナ! 我々スレイン法国の興国の神である六大神の一人である異形の神。

 人格者であり、能力も優れていた彼の最後は「八欲王に殺された」という説と「法国を追放された」という2つの説が流れている。 ただ、彼が居なくなって六大神を崇める法国六柱が五柱になっている事から、不浄な行いにより追放されたという説が一般的であり、法国の教育機関では国民にそう教えているはずだ。

 

 しかし、それでもなおスルシャーナの業績は高く評価されており、純粋な国民ほど、スルシャーナに傾倒し崇拝する者は多いらしく、表立ってはいないものの隠れスルシャーナの教徒は少なくない。

 

 ……そしてクアイエッセもまた敬虔なるスルシャーナ信者の一人である。

 

 だから言えなかった。

 

 自分の向かう先に復活したスルシャーナが居て「ちょっと殺してくる」などとは。

 

 もちろん本物かどうかは分からないが、表立っていない説の一つに「スルシャーナを疎んだ法国上層部が八欲王と組んでスルシャーナを追い出した」という物がある。

 だとすればスルシャーナが100年ごとに現れるプレイヤー(モモン)と組んでスレイン法国に恨みを晴らそうとしていても不思議ではない。もしくは今回のプレイヤー(モモン)がスルシャーナを復活させて仲間に引き入れたか……。

 

 スルシャーナ信者の熱狂的なことは他国にも知れ渡っている。「あれは教徒ではなく狂徒だ」と上層部には唾棄する者も存在している。クアイエッセにスルシャーナかも知れない者を殺しに行くなどと告げたら、即座に法国を裏切り、自分の神の元に走る可能性は少なくない。これから重大な作戦という時に告げるべきでは無いと判断した。

 

 

「モモンだけなら私が五点の秘宝の装備を許されて国外に出るなど許される訳ないのにね……」

 

 

 

  番外席次は歩いて行く。長く闇へと繋がる道を。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

『……もうお終いですか?』

 

 ユリ・アルファはフライを使って高高度を飛び敵を観察する妹・ナーベラルにメッセージを送る。

 

『……もうお終いのようです。姉さん』

 

 ナーベラルはユリとセバスによって子供の粘土遊びの様になった法国の兵士を一瞥する。今回は初めから本気を出していいとモモンガ様より告げられており、第八位階の範囲魔法でかなり敵を灰にすることに成功していた。数で言えば自分がいちばん働くことが出来たように思う。

もしかしてモモンガ様に誉められてしまうかも知れません……無表情な自分の顔が「にま~」と半月に歪むのを懸命に耐えた。

 

 頬を両手で押さえながらニヤニヤしている残念な妹の姿を見たユリ・アルファは「はあ…」と溜め息をついた。

 

 

 陽光聖典と隠密兵200の部隊はカルネ村に入ることも許されずに絶命した。

 逃げた兵は、打ち捨てられたが、シズ・デルタがスナイパーライフルで支援攻撃をしていたため、何故自分が死ぬのか?も解らないままその命を散らした者も多く、彼ら200名は完全に壊滅した。

 ゴブリン達と共に防衛態勢を取っていたエンリ・エモットなど村の自警団は肩透かしを喰らったようにあっけない幕切れにポカーンとした。カルネ村に法国が攻めてくるという知らせをルプスレギナから受けて子ども達や老人を逃し、村を守るために決死の覚悟で塹壕を掘って立て籠もっていたのに拘らず戦闘が開始され、半時も経たないうちに全て片付いたのだ。

 しかし、彼女は気づいていない。

 この戦いが何故か「覇王炎莉」の名を高めてしまうことに。

 

「ふむ……困りましたねえ」

 とセバスが背後からツアレに抱きしめられながら呟く。

 

「どうされましたか? セバス様」とユリがツアレを無視して聞く。

 

「いえ こんなに脆いという考えに至らず少し我々の予定とはズレてしまいました。すみませんがプランCに変更して、シャルティア様にナザリックの蓋をしてもらいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 デミウルゴスが半壊したスレイン法国の首都の空を飛びながら戦況を調べていると、マーレ・ベロ・フィオーレが人間の髪を無造作に掴んだまま、ずるずると引きずりながら歩いている姿が見えた。

 デミウルゴスは地面に降り立つと、「マーレ、君の地面操作魔法と範囲拡大スキルの合わせ技は素晴らしいですね」と話しかけた。

 

「あっ デミウルゴスさん! やはり地割れで効率よく人間の逃げ道を奪いながら追い込むと、一度に大量に罠に掛かってくれるので有り難いです!」

 

「ふむ なるほど。君は自分の能力を能く使いこなせているのですね。流石で御座います」

 

「い、いえ! そんな、大したことなんてないです!」

 

「ただ 余り市民を巻き添えにしてはいけないですよ? 君が口にしていた通り、彼らはある意味、我々の栄養分でもあるのですから」

 

「は、はい。気をつけます」

 

「謙虚で慎重な所は君の美点ですね。ところでその左手に掴んでいるモノは?」

 

「あ、はい。さっきお姉ちゃんと戦ってた人間なんですけど」

 

「ふむ」

 

「なんか、その、この人もテイマーらしくって、お姉ちゃんに次々とモンスターをけしかけて来たんですけど……」

 

「ほう」

 

「お姉ちゃんが、その子達を片っ端から自分の支配下においちゃって……この人、泣きそうになりながらギガントバジリスクでお姉ちゃんを襲わせたんですけど……お姉ちゃんに触れる直前にギガントバジリスクが自ら引っくり返ってお腹を見せながらキューキューと甘え鳴きをしだした瞬間に失神しちゃったみたいで……」

 

「それはご愁傷様だね。ふむ、法国のテイマーでユグドラシルレベル30のモンスターまで支配下に置けるという事は……」

 

「はい 漆黒聖典の隊長さんだと思ったので、色んな事を聞くために確保した方が良いのかな……と思って引きずってきました」

 

「なるほど で、元凶であるアウラはどうしたのかね?」

 

「お姉ちゃんはボクにこの人を押し付けて行っちゃいました」

 

「まったく……ではその方は私のほうでお預かり致しましょう。君は……彼の警護をしながら神殿の方へ向かってください」

 

「は、はい! 分かりました!」

 デミウルゴスが「彼」と言った先にはゴーレムが担ぐ神輿に乗る骸骨の男が居た。

 

『我はスルシャーナなり……我が子たちよ……教えを歪め、神を追い出し、欲にまみれ権力を貪る神官共に騙されるのは、もうやめよ』

 

 その声は天から響いてくる。それは、まさに天啓のようにスレイン法国の市民には感じられた。

 

『私は彼ら、無垢なる我が子らを誤った道へと導き、八欲王と手を組んで我を殺した神官長ら法国を牛耳る政府に天罰を下しに地獄の底から甦った! 罪なき国民も衛兵も道を開けるが良い。罰せられるのは彼らだけで充分なのだ!』

 

 スレイン法国の市民はどよめく。スルシャーナは政府の教義に背いて信仰する隠れ信者が多く、信者でなくとも彼に哀憫の思いを抱く者は少なくなかったのだ。その600年前の興国の英雄にして悲劇の神である彼が復活してゴーレムの神輿に担がれて、大きく身振り手振りで懸命に市民に語りかけるのである。

 しかも声は空から響き渡るのだ。これで心を動かされない者がこの国に居る訳がない。

 そうしたのは宗教国家として国民を教義の名の下に洗脳に近い教育をしてきた法国自身であった。

 始め、逃げまどっていた民衆や、立ち塞がっていた衛士は、次第に足を止めてスルシャーナの進む先を邪魔しないように道を開ける。それに合わせるように魔物使いのダークエルフの子供や、虫使いの少女は攻撃を止めて、スルシャーナに付き従うように歩み出す。

 彼の者達は神スルシャーナの使いの者達であったのか……彼の者達は異形の者達であり、法国では存在自体が『悪』とされて来た。そんな異形の者を異形の神が連れて、長年に渡り神を冒涜し続けてきた法国首脳部が犯した許さざる罪を問いに来た。それは彼らによって騙されていた可哀想な我々を救うためでもあるのだ。そう、市民達は理解した。

 

『我が子達よ、安心するが良い。オマエ達の罪を責めはせぬ。六大神であるのに五柱しか認めず、この世界に溢れる異形の者を虐待し虐殺を厭わぬ愚かな指導部。そのくせに法を破り禁断の罪の下に生体兵器をも作り出す……この罪は万死に値する』

 

 デミウルゴスがメッセージで『……調子に乗りすぎです』と注意を促す。

 モモンガの姿に変身し、昔のこの国の黒いローブやアクセサリーに身を包んだパンドラズ・アクターが『そうですか? かなり抑えているのですが?』と返す。

 

 ノリノリ過ぎる同僚に隠れて溜め息をついたデミウルゴスは、政庁府でひたすらに震えて居るであろうこの国の指導者の姿を想像すると身震いをする。

 震えるほど楽しくなっている自分に気づいたのだ。

 

「まあ アナタ達が全てに関わっている訳ではないのでしょうが……それでも我が主はアナタ達のやり方が不快であらせられるのですよ……それこそ万死に値する罪で御座います。ああ、ご安心下さい。決して死なせてしまうなどという事は御座いませんから……たとえ貴方達が望んだとしても。我がトーチャーとプルチネッラは優秀で御座いますゆえ」

 

 そう呟くとデミウルゴスは、その笑顔を見ると誰もが楽しくなるような、心から楽しく幸せで一杯であるという満面の笑みを見せた。

 

 

 

 最純度の邪気は、無邪気に通じるのかも知れない。

 

 国が数刻で滅びゆくさまを、悪魔(デミウルゴス)は子供のような笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







テルメン様、九尾様、カド=フックベルグ様 誤字脱字修正有り難う御座います。

文字修正の際にバグってしまい、誠に申し訳ありませんでした。
気づくことの出来ないまま朝に大量のご指摘メールと感想を頂き驚きました。まさか人生で「炎上」という物を体験するとは……(笑)
同じ文章が延々と繰り返されていたり、かなり不気味な文章だったらしく、楽しみにして頂いて読んで頂いた方には本当に申し訳ないです。本当にすみませんでした。

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