鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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第八章七編 ホップ・ステップ・玉砕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (……なに? この階、寒いのだけど。嫌がらせ?)

 

 番外席次は凍えていた。そして一階層ごとの大きさに圧倒されていた。自分が知っているギルドの拠点とは規模が違いすぎる。これは私たちの常識の範囲外だと畏れを感じ始めていた。せめて次の階が行き止まりでありますように そう願いながら彼女は歩みを進め、ようやく次の階に降りて行く。

 

 ――――そこは一つの国のようだった。

 

 ひたすら広い草原があり山が遠くに見える。そして山の麓には大きな森が広がっている。

 

 (騙された……)

 

 こんなの地下拠点な訳がないと、クレマンティーヌ達は自分を拠点から連れ出すために何らかのトラップを仕掛けたと考えたのだ。

 

 (自分が気づけなかったなんて、なんと云う巧妙な罠だろうか)

 

 番外席次は前を歩く2人の後ろ姿を睨む。先程まで憐れみすら感じていたが、自分を騙すとは良い度胸……と不快さを感じていた。

 しかし、そんな神人の視線を無視したままクレマンティーヌと第七席次はある方向に向かって歩いていく、すると遠目に巨大な建造物の影が見えた。

 

 (……なにアレ?)

 

 その大規模な建造物に圧倒された番外席次は、しばし呆然としたあと(やはり何らかの罠で転移させられている……)と警戒心を強めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 188メートル×156メートルの楕円形に高さ48メートルの円形闘技場、正式名称「円形劇場アンフィテアトルム」の関係者席とでも云うべき特等席にて、モモンガは傍に控えていたアルベドから「来たようですわ」という報告を受ける。

 

「そうか」

 モモンガは少しだけ緊張を発露させたような声で答える。以前のアルベドなら気づけなかったであろう至高の御方であり、最愛の男の普段と違った雰囲気に不安が過ぎり、

「モモンガ様……」と、哀しげな顔でその名を呼ぶ。

 

「アルベドよ」

 

「はい」

 

「もし私が負けそうに為った場合のことだが……」

 

 アルベドは想像しただけで背骨が軋むような心の疼きに歯を食いしばりながら、主人であり最愛の御方の心を洞察し彼の望むであろう言葉を口にする。

 

「……助けるな。と仰るんでしょう?」

 

「いや 全力で助けろ」

 

「はい?」

 

「ギンヌンガガプも使ってボッコボッコにしろ。良いな。容赦するんじゃないぞ」

 

可愛い顔で、キョトンとしていたアルベドが一瞬頬を限界まで膨らませたあと破顔する。

 

「ぷっ うふふふふふ」

 

「ははははははは」と2人は他の下僕に聞こえない程度に静かに笑い合う。

 

「もう、男の矜持とかそんなことに拘っている段階ではない。大切なのは私のプライドでは無い。お前達とともに在り続けることだ」

 

「きゅん」

 

「それに、ここでスレイン法国に勝たないと人間社会は平穏で窮屈、亜人、異形種は抹殺などと云う、笑えない未来が待っているからな。この世界全ての生きとし生けるもののために私は楽勝してくる」

 

「きゅきゅーん」

 

「……その、『きゅん』とか自分の口で言うのは流行っているのか?」

 

「うふふ 先日頂いた休日に、解放された図書室にて『愛され妻の夫攻略法』という神の本に出逢いまして……」

 

「ほ、ほう」

 

 ……なんでそんな本が図書館に在るんだ? 三人しか居ない女性に既婚者は居なかったハズだが?

 

「僭越ながらモモンガ様を攻略させて頂きますわ」

 

「ハ、ハハ……私はラスボスであるぞ?」

 

 モモンガ(チョロイン)は乾いた声で笑う。 

 

「腕が鳴りますわ」

 アルベドは羽根をバッサバッサとしてから舌なめずりをしながら妖艶に宣言した。

 

「さ、さて……では闘技場に降りるとしよう」

 彼我の戦力差に圧倒されたモモンガは、久々に得体の知れない恐怖を感じながら体を少し輝かせつつ闘技場への階段を強化魔法を唱えながら下りる。

 

「ハッ」

 

 何故か戦う前から疲れた表情を骸骨顔に浮かべたモモンガは、いつもと違う装備を確認しながら階段を降りて行く。ローブを翻しながらゆったりと歩む姿は威厳と貫禄に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 番外席次『絶死絶命』がクレマンティーヌに案内された巨大な建築物の中に入ると、そこは何をするためのものか解らないが闘技場とでも言うべき広場だった。

観客席とでも言うべき場所には数え切れない数のゴーレムらしい者共が微動だにせず座っている。

 その中で一際異彩を放つ存在――黒き闇のオーラに包まれながらローブを靡かせて世の中全ての生き物に死を与えるような存在に目が留まる。しかも体はホンノリと緑の光に包まれている。まさに神々しい存在とは彼の者の事を言うのであろう。

 

 その威圧感。その威厳と風格。そして見る者の心を押し潰す様な圧迫感に番外席次は生まれて初めて「冷や汗という物が背中を流れる」という事を初めて体験した。

 番外席次はフールーダの様に、他者の魔力や強さを計るスキルは所持していない。

 しかし、世界最強として生み出され育てられてきた矜持が悲鳴を上げて軋みを上げる自分に気づく。

 

 

 

 今、彼女は『恐怖』を知った。

 

 

 番外席次は、右手小指の緊急脱出用の指輪をそっと撫でてその存在を確認すると、勇気……まさか自分が「勇気」などという物を必要にする時が来るとは思わなかったが……勇気を出して、一歩二歩と凍り付いていた足を動かす。

 

 伝承通りの白磁のような白き骸骨の姿にして紫がかった黒いローブを体に巻き付……け?あれ? 伝わっている話よりも豪奢なローブに身を包んでいるような……杖もやたらと派手で禍々しい……バージョンアップ?

 

 戸惑いながらも番外席次は声にする。

 

「スルシャーナ……で良いのかな?」

 

「またか……いや 違う……」ウンザリした感じで彼は答えた。

 

「死の神……?」

 

「お、おう」

 

「カッツェ平野の?」

 そう問いかけると彼は少し躊躇し、そして決心したかの様に返答する。

 

「ああ その通り……だ」

 

「本当にスルシャーナじゃない?」

 

「うむ 違うな」

 

「そう 良かった……モモンは何処か教えて……くれる訳ないか」

 

「そうだな そんなに親切なイベントがあるとツマらないだろう?」

 

「? 意味が解らない……」

 

「ああ すまない……えーと、『もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんをやろう』だったかな」

 

「?」

 

「ウルベルトさんに、こういう状況になったら言ってみろと言われてたんだよな……」

 

「半分か……悪くない」

 

「……これは想定外。うんうん……もう一度言うぞ? ちゃんと考えて答えるんだぞ?」

 

 魔王は頭が痛いかの様に眉間に指を当てると、気を取り直して再び問いかける。

 

「よくぞここまで参ったな!勇者よ!」

 

「え? う、うん」

 番外席次は魔王の妙な迫力に圧される。

 

「もし わたしのみかたになれば せかいの はんぶんをやろう!」

 

「実に魅力的……」

 

「おいっ そこはちゃんと断ろうな!? ちゃんとやれと言っただろう! じゃないと延々と『本当ですか? 1.はい 2.いいえ』を繰り返すことになるだろうが!」

 

「ええ……何故怒られた? 魔王は理不尽……」

 

「ふう もう良い。……オマエはスレイン法国の番外席次『絶死絶命』だな?」

 

「そう」

 

「くっ 無口系ヒロインか……オレには荷が重いですよペロさん……」

 

「?」

 

「ここへ何をしに来たのだ」

 

「アナタは確かに強い…でも私も強い」

 

「わあ しかも話通じない系かあ……」

 

「何故憐れみの目で?」

 

「こんな赤い光だけの目なのに良く解るな……」

 

 くふー 私も解りますうー という声が遠くから聞こえる

 

 ……いや むしろ何故聞こえたんだ……そこまで。と目の前の男が怯えた顔で呟く

 

「もし 貴方が私に勝てたらお嫁さんにな…「結構です」

 

「……いや 私が負けるかも知れな…「間に合ってます」

 

「え? だから…「もう 本当にそういうの勘弁して下さい」

 

「……よし 殺そう」

 と言いながら顔に怒筋を浮かべた番外席次は戦鎌をブォンブォンと振り回して構える。

 

 

「え!? もう良いのか? ようやくダンジョンを越えてラスボスに辿りついたのに?」

 

 見せ場だぞ見せ場!とコソッと小声で伝えてくる魔王に番外席次の戸惑いは頂点に達する。

 

「……アナタとは話が通じない。行かせてもらう」

 

「ふむ では《タイム・ストップ/時間停止》!」

 

 突然左指に填めていた指輪に電流のような物が走る

 これは私と元・漆黒聖典隊長に与えられていた、六大神から受け継いだ時間停止魔法防御の指輪!? これが反応したという事は、彼は伝説の時間停止魔法を使ったということ?

 

「ほう 基本である時間対策をしてあるとは流石だな」

 

 基本? 伝説の魔法である時間停止魔法を基本と言った?

 

 彼は危険……早く倒さなくては

 確かに尋常の敵では無い。

 訳の解らない言葉を連発し私の心を乱す心理攻撃。

 そして熱量すら感じる溢れる魔力のオーラ。

 プレイヤーを想定して戦う練習も積んできた。狼狽える必要は無い。

 自分はスピードを生かした前衛型。彼……魔王とは距離を詰めて戦うべき

 体を沈み込ませたと同時にスキルを発動

 『流水加速』『不落要塞』『能力向上』そして、疾走。

 一歩一歩ごとに流れる空気が顔にぶつかるのを感じながら魔王の懐へと突き進む

 魔法職であろう魔王は近接戦闘に慣れていないハズ、一気に急所と思われる腹部で光る赤い玉を狙う。

 それこそ捉えきれないほどの一瞬の刹那に必殺の間合いへと入り込み繰り出した鎌の斬撃。

 

 ガキンッ 

 

 ……信じられない。スタッフの柄で弾かれた!?

 

 魔王は武器捌きにまで長けているというの?

 息を整える。まだ焦る時間じゃない

 それに……あのチャンスは必ず来るはず。そのためにはもっと魔王を焦らさなければ……

 

 信じたくないが事実だ。魔王に単純な攻撃では捌かれてしまう。

 

『疾風走破』『超回避』『能力超向上』……と更に武技を加える。

 後に反動が来るだろうが構わない

 動こうとした瞬間に魔王が叫ぶ

 

「《グラスプ・ハート/心臓掌握》!」

 

 その瞬間 心臓に鈍い痛みが走る。

 そして全身に広がる痺れる様な感覚 魔王が右手で何かを弄ぶ様な、そんな仕草が見える。

 

 まさか 私の心臓を掴んだの!?

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは番外席次が動き出そうとした前段階の仕草に反応して、得意魔法である『グラスプ・ハート/心臓掌握』を咄嗟に繰り出す。

 グラスプハートは対象の心臓を具現化し、写し取った心臓を手で握りつぶすことで対象の心臓に効果を与える即死魔法であり、例え殺せなかったとしてもスタン効果が発生する。モモンガがユグドラシル時代から得意にしていた魔法である。

 

 危なかった……戦士としての経験がこんな所で役に立つとは……

 

 そう モモンガは番外席次が何らかの攻撃をしてくるであろう事を先読みしたのだ。

 先読みなくしては防ぎきれないほどのスピードだった。

 

 ……さっきの攻撃でもギリギリだったからな

《グレーターフルポテンシャル/上位全能力強化》《センサーブースト/感知増幅》《グレーターラック/上位幸運》《マジックブースト/魔力増幅》《グレーターハードニング/上位硬化》などの身体能力向上魔法は階段を下りながら掛けまくったのにギリギリとか……確かに強い。

 

 色々な実験などの関係から殺さずに捕らえた方が良いよな? と部下達には大言壮語をしていたが……これは気を引き締めねば……

 それと同時にモモンガは、同じレベル100同士の戦いはユグドラシル以来であり、この世界で初めてであることに充足感と、少し楽しさを感じてもいた。

 

 

 

 

 

 

「《マキシマイズマジック/魔法最強化》《コール・グレーター・サンダー/万雷の撃滅》!」

 

「ぐぅっ」

 効果範囲が広いサンダー系を繰り出す。グラスプハートのスタン効果で動きが鈍くなっていた番外席次にまともに当たる。

 

 それでも踏みとどまってこちらに向かってくる番外席次の前に《ウォール・オブ・スケルトン/骸骨壁》を出して行く手を阻む。

 それを突破した瞬間に《デス/死》を合わせる…が、無効化される。

 即死効果を無効化にする装備品を持っているのか?

 

 ならば。「《リアリティ・スラッシュ/現断》!」

 

 これは危険な技だ!と判断した番外席次が魔法発動の前に地面を蹴って「魔王!」と叫びながら大振りで戦鎌を横薙に払う。 大振りであるためにモモンガも後ろに身をかわして避ける。しかし番外席次の罠であり、かわされた鎌の重りを軸にして体を回転させ必殺の蹴りを魔王の頭部に入れる。この、武器をフェイントの道具として死角からの回し蹴りは何度も練習試合で漆黒聖典元・隊長を一撃で屠ってきた必殺と言っていい番外席次オリジナルの奥義の一つである。

 

 

 

 

 モモンガは冷静に素早く「《ボディ・オブ・イファルジェントベリル/光輝緑の体》」を唱える。

 第10位階の防御魔法であり、一定時間の殴打ダメージを減少、さらに一度だけ殴打ダメージを完全無効化する。

 全体重とスピードに乗った得意の蹴りが頭部に命中したのに関わらず、それを無視するかの様にダメージを感じさせない動きで、《リアリティ・スラッシュ/現断》を番外席次にロックオンして放つ。

 至近距離で第10位階最高クラス攻撃力を誇り、ワールドチャンピオンの《次元断切/ワールドブレイク》の劣化版であるが、それでも強力すぎる威力の斬撃魔法が番外席次の体を切り裂く。威力が有り過ぎたのか、彼女の持つ宝具の効果か、切り裂かれずに吹き飛んだため何とか致命傷は免れたが、胸骨や肋骨などを数本圧し折られた。

 

「~~~!」痛みに耐えながら歯を食いしばるも崩れ落ちる。 この魔王……どれだけの修羅場を潜ったらこれほど冷静かつ的確に戦えるのか……番外席次は湧き上がってくる恐怖と再び対峙する。

 

 モモンガもまた……コイツ…戦い慣れしていないな。と見抜いていた。 

 そしてそれは正解であった。常に自分よりも弱い者を相手にした模擬戦しか経験がない番外席次はその能力を充分に生かした戦いを出来ていなかった。

 大ダメージを受けた番外席次は仰向けに倒れたまま肩で息をし、モモンガに問いかける。

 

「魔王……あなたはどれ程の戦いを経て、それほどの強さを身につけたの?」

 

「……10年間。毎日、数時間に及ぶ強力な敵との数々の命懸けの死闘を続ければ嫌でもこうなるぞ?」

 ……魔王で決定なんだ……と思いながらモモンガが答えた。

 

「そんな……それで私も強くなれる?」

 自分もいつかそんな強さを手にしたい 10代前半の見た目と変わらない幼く純粋な思いで彼女は尋ねる。

 

「奨めはせぬ。失うもの、犠牲にするモノが多すぎるからな……」 

 主に仕事とか友人とか彼女とか『リアル』のモノの多くがな…… 

 

「さて 勇者よ。終わりにしよう」

 モモンガは《ライフ・エッセンス/生命の精髄》で番外席次の残りHPを確認するとアイテムボックスから砂時計型の課金アイテムを取り出す。

 当てにくい魔法ではあるが、動きの止まった今がチャンスだ。

 

「超位魔法《フォールンダウン/失墜する天空》!」

 

 モモンガがカッツェ平野で使用したイア・シュブニグラスと同じく、魔法の階位でいえば場外に属するこの位階の魔法は、魔法であって魔法ではない。まずMPを消費しないで発動される。その代わり一日で発動できる回数は決められており、70レベルで1回、80レベルで2回、90レベルで3回、100レベルで4回となっており、モモンガは1日4回の使用が可能である。ただし、超位魔法には発動時間までに時間がかかり、更に連続で放てない様にするためのクールタイムが存在していた。

 モモンガを中心に10メートルはあろうかという大きな立体魔法陣が出現した。魔法陣は青白い光を放ちながら複雑な文字が胎動し一瞬足りとも動きを止めることはない。

 

 その時、力尽きていたように仰向けに横たわっていた番外席次の口元が邪悪な獣の様に大きく歪んだ。

 

 この時を……待っていた。

 

 番外席次は寝た状態から不自然な動きで一瞬にして中腰になると武技『疾風走破』を発動する。

 諜報員からカッツェ平野での戦いは何度も聞いている!

 いつか自分が倒すのだと何度もシミュレートして来た!

 今がまさに千載一遇の好機なり!

 

 大魔法の使用時に生じる大きな隙。これを放置するのでは無く、この時こそ必殺の時、我が最大の奥義を以って魔王を滅殺する!

 

 獣欲すら感じる獰猛な笑みを口にたたえたまま、ケダモノの様に荒々しく一歩ごとに加速しながら、魔法陣を起動している魔王に最短距離で飛び込んでいく。

 

 モモンガは、寝ていた敵が、急に自分に猛スピードで一直線に向かってきた事に驚いて「ひぃ?!(ビクゥッ)」となり、握っていた課金アイテムを握りつぶした……人間時代の反射による筋収縮の癖であり、もし彼が完全なるアンデッドであれば起こらなかった悲劇だといえる。

 

 

 あ――ッ というモモンガの小さい声も「奥義っ!超ぅぉおおお何故発動して?!………」と叫んだ番外席次の声も太陽を地表に顕現したかのような白い光に包まれた。

 

 超位魔法フォールンダウンがモモンガと重なるように番外席次を中心に発動した。

 

 光の輝きとともに「ジュッ」という熱した鉄を水に浸けた時の様な音が聞こえたあと静寂が辺りを包む。

 

 あとには、高い魔法抵抗力のお陰でそれなりのダメージしか受けていないモモンガと瀕死の番外席次が鎌を杖代わりにして立っている姿があった。

 

「……さすが魔王…大魔法を自分を巻き添えにしてまで使用するなんて……」

 

「……ふ、ふはは……魔法の耐性能力に大きな差があったからな」

 と言いつつも、魔法職だけに元々のHPが少ないので、実は余裕がある訳でもない。しかし「魔王がミスによる自爆テロで割りと死にそう」などとは口が裂けても言えない。

 

 番外席次は冷静に分析する。

 最大のチャンスと考えていた大魔法の発動の時間は魔王は自在に操れる様だ。すでに勝つ機会は失われた。まだ逃げる体力はある。それに……と右手の小指に填められた指輪に視線を送る。

 私の命は良い。5点の宝具だけは渡すわけには行かない。プライドよりも逃げることを優先。

 悔しさに歯噛みしながら、聞こえないように武技「流水加速」を発動する。

 胸元から取り出した三本の聖なるナイフをモモンガに投げつけると同時にバックステップを踏み、急転し逃走する。

 

 そして右手小指の緊急離脱用の指輪を起動する。

 その瞬間、指輪に込められていた2つの魔法、フライとマジックブーストによる、短時間だけだが高スピードのフライが使えるようになり番外席次はジャンプして宙を舞う。

 モモンガはナイフをスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで弾いたあと、《グレーター・テレポーテーション/上位転移》を唱えて番外席次を追いかけようとするが、彼女が猛スピードで空高くへと舞い上がっていく姿に驚きを隠せなかった。

 

 恥も外聞も捨てて敵に背を向け番外席次は地上に居る魔王を見る。

 せっかく逢えた私よりも強い男が魔王だとか……神様の悪戯にもほどが……これは神様スルシャーナの仕業じゃないの?同族贔屓かよと神を疑った。

 

 モモンガは地上から、おい?! ちょ! おま! やめるんだ?! 止まれ?! と悔しそうに叫んでいる。

 

 番外席次は猛スピードで飛びながら名残惜しそうに振り返り、魔王を見……

 

 ゴインッ という音と共にナザリック地下大墳墓第六階層の天井に頭から突っ込んだ。

 

 番外席次は「いつの間にテレポータートラップを仕掛けて外に連れだされたんだ」と愚痴っていたが、そもそも外になど出ていない。ここはブループラネットが愛した、第六階層、数キロ四方に渡る巨大な自然に囲まれ、そして200メートルの高さを誇る広大な地下六階である。

 

 ボロ雑巾のように降ってくる番外席次『絶死絶命』を、「あーあ だから止めたのに……」と言いながらモモンガが手を出して、ドサッと両腕で受け止める。

 

「うゔう」と呻き声を上げて目が開いた番外席次に

 

「知らなかったのか? 大魔王からは、逃げられない」とモモンガは告げる

 

 番外席次は、何故か体に稲妻のような衝撃が走り心が一気に折れ始めるのを感じた。

 

「すまないな。オマエの持つ法国の秘宝の全てが欲しいのだ」

 

「……それは遠回しのプロポーズと考えるべき?」

 

 秘宝のうち1点は彼女と同化しております。

 

「え?」

 

 モモンガには分かる 観客席でギンヌンガガプを持った悪魔がユラリと立ち上がったことが

 

「え?」

 

「秘宝の一つは私自身でもある。貴方は私が欲しい。私は貴方の妻になりたい。Win-Win ポッ」と言いながら赤く染めた頬を両手で冷やす姿は少しだけ可愛かった。

 

「また、この展開かーーーー?!」

 

 

 ナザリックの王の悲鳴が第六階層に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……ちゃうねん


  




九尾様 代理石様 カド=フックベルグ様 誤字脱字修正を有り難う御座います

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