もう一度 探し出したぞ!
──何を? ──永遠を。
それは、太陽と番った 海だ。
ランボー
その後、スレイン法国はスルシャーナの奇跡の降臨により、国是を改めクアイエッセを神官長と定めた。クアイエッセが神官長になった理由は彼よりも上の階級の者が根こそぎ身を隠したためだ。スルシャーナの天罰を恐れて逃げ出したとか、スルシャーナが連れ去ったと法国では噂されている。
元々クアイエッセはテイマーという事でモンスター達と深く関わりがあったため、改正に関しては滞り無く進み、宗教国家であるのはそのままに、亜人やモンスターへの無闇な虐待は取りやめ、数多くあった国家絡みの秘密組織や特殊部隊も解体され、国防に関してはギルド:アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結んだ。
スルシャーナの熱狂的なシンパであったクアイエッセは「我が子、クアイエッセよ……私たちの健気で可愛く脆い民のことをくれぐれも頼むぞ……」との神託を直々に受けて感激し、全てのマジックアイテムを献上した後、不惜身命の覚悟でやり遂げると誓った。
千人を超える指導部の失踪という痛みは伴ったが、もともと質朴な暮らしで過ごしてきたスレイン法国の未来は決して暗いものではないはずだ。
バハルス帝国は『カッツェ平野での神罰祭』に参加した主力の精鋭の多くが兵士を辞めたものの、アインズ・ウール・ゴウンとの盟約を利用して他国から身を守ることには成功していた。一方で急激で強引な独裁政権への移行のシワ寄せか、ジルクニフの軍事力自体が落ちたことで地方の大領主などが反発するなど一悶着あった。
しかしながら『鮮血帝』の渾名は伊達ではなく、寡兵でもって彼ら不平貴族を平らげて皇帝直轄地を増やして着実に力をつけて東国へと出兵。これは侵略戦争であり自力での戦いであったが勝利を積み重ね領地を増やした。
「竜王国」では小国である事を利用して宰相による国産物改革が行われた。アインズ・ウール・ゴウンからの格安穀物と争うのではなく、国の特産品である「鉄鉱石」などの鉱物資源の採取とアインズ・ウール・ゴウン盟約国による共栄圏での積極的な貿易政策に乗り出したのだ。アインズ・ウール・ゴウンへの国家予算から3%の支払いも鉄鉱石によって支払われている。これらは他の盟約国にとっても良い指標となった。
また、アダマンタイト級冒険者のセラブレイトは正式に女王陛下にフラれた。理由は「他に好きな人が居る」という女学生のような物であるが「その好きな人」と言うのが、宰相の事なのかどうかで世論が真っ二つに分かれている。あと宰相が奥さんに物理的に真っ二つにされかけたらしい。
「リ・エスティーゼ共和国」では下馬評通り、『悲劇の花嫁』ラキュースが大統領に選出される。この新しい異名で呼ばれる度に大統領とボディガードの小さい仮面の少女は怒ったように顔を赤らめて「違います!」と否定するのだが、これは彼女流の照れ隠しであるというのが政府広報部の公式見解であり、民衆の統一見解である。
そもそも『悲劇』とされた張本人である『漆黒の英雄』モモンは死んだと思われていたのに彼女の選挙とともに姿を現した。そして大統領選挙でラキュースが当選し政府高官の選出が終わった頃に姿を消した。「ヤルダバオトとの戦いでの傷による後遺症が酷くて死んだ」という説や「遂に帰る祖国を発見して帰国した」という説、しかし一番流布されているのは「愛するラキュースが心配で、彼女の当選を見守って天国に昇った」説であり、つまり「英雄モモンはヤルダバオト戦でラキュースの剣により命を落としており、その後は恋人を見守る霊魂として存在していた」というオカルティックな説であるが、
また魔法不毛の地と言われていたリ・エスティーゼであったが、エ・ランテルで小さな魔法学校を開いていたベイロン女史が第四位階に到達して王国屈指のスペルキャスターとして話題になった。彼女は戦闘よりも、生活に便利な魔法を沢山開発し、家庭で使える魔法も多くて女子生徒にも人気を得ていたという。またこの頃には彼女が英雄モモンとチームメイトであり、アダマンタイトチーム『漆黒』のメンバーであった事が判明し、彼女こそが「リ・エスティーゼ王国」を共和国へと導いた市民の意識改革の基礎となった『民権主義へ』と『今こそ直接民主制』の著者だと解ると、「聖書の次のベストセラー」と言われた本を今まで勝手に作成して販売していた書物屋が「印税」というものを支払ったため思いがけぬ大金を手にした。そして国立魔法学院を設立した共和国政府の招きで教授として首都リ・エスティーゼに招聘されラキュース大統領に拝謁した時には、懇願して大統領の佩刀する黒き魔剣キリネイラムを許可を得て手にすると、剣を何度も撫でながら涙を流したといわれている。
ガゼフ元・戦士長はランポッサ3世が王位を退いた後も「不逞の輩への警護」として隠居屋敷にもついて行き傍に仕えたが、ランポッサ3世が没した後はブレイン・アングラウスという剣士とコンビを組んで、復活した冒険者ギルドにてアダマンタイト冒険者として生き生きとモンスター退治等に励んでいるらしい。
ラナー姫は、廃嫡後も変わらず市民にはラナー姫と呼ばれる稀有な存在であり、親友のラキュースが首都リ・エスティーゼに呼び寄せたものの何度も「竜王国の暮らしが気に入っている」「別に王都に思い入れはない」「政治とかどうでも良い」「というか、クライムとイチャイチャする邪魔すんな」と云う返答であったと『リ・エスティーゼ耳聞録』という情報紙には書かれていたが、あの美しい姫がそのような事を言うとは考えられず、信憑性にかける噂話である。その後はラキュース大統領が直々に「竜王国」に迎えに行き渋々と鎖に繋がれた少年を伴って帰国し、大統領の相談役と政府の人気を上げる事に貢献しているとされている。
ゴブリンを従えてモンスターを退治し、スレイン法国の特殊部隊をも蹴散らしたことで有名な「覇王炎莉将軍」ことカルネ村のエンリ・エモットはンフィーレア・バレアレとの関係は順調であるとのこと。
モモンガは執務室で自分と関わった人々や国々の調査書に感慨深げに目を通す。
番外席次『絶死絶命』との死闘……? むしろあの後に番外席次を庇いながらギンヌンガガプを振るうアルベドとの戦いのほうが余程死闘だったが……あれから数年が経っている。
これらの情報はあくまで彼の国の者たちから見た物語や外聞であり、我々の関与については殆ど触れられていないことにホッとする。
勿論、彼・彼女達に何かあれば陰から助け船を出すだろうし、機会があれば声をかけることもやぶさかではない、しかし……これ以上の接触によりナザリックに引き込む必要はない。防衛上の問題でも機密上の問題でもなく、彼の者達には『人の世』で幸せになってもらいたい。そう願っているのだ。セバスが確かツアレにも同じことを言っていたが、ツアレは何故かすでにナザリックでメイドとして働いている……セバスめ……。
スレイン法国の瓦解、指導部の集団失踪という不思議な事件から数年が経っており、色々と状況は想定内で進んでくれている。誰も手付かずの荒れ地でのアンデッドとゴーレムによる灌漑事業と大規模プランテーションは無事に実を結び膨大な穀物を各国へ売りさばき、余った穀物や売って得た収入をエクスチェンジボックスに大量投入すると、凄まじい金額のユグドラシル金貨が手に入った。これに各国から入る『思いやり予算』とでも言うべき物が送られてくれば、ナザリックとしては大きすぎる蓄財が出来る。新しいモンスターを生産、配置する。トラップを増やすなどはもちろん守護者が死んでしまった時もユグドラシル金貨は必要になるのだ。
それに……この世界の金貨を使用して、この世界で調達出来る高級なスクロールなどを買い占めてしまえば、ある意味一石二鳥でもある。我々は羊を放牧しなくても良いし、人間たちが強大な魔法の貯蔵や元となりうるスクロールが気軽に出回ることを少なくする効果もある。
まあ これらはただの杞憂に終わっている。現時点では人間は人間で上手くやっているし、我々は我々で仲良くやっている。世界は広く、まだまだ我々が裏から介入し計画的にギルド:アインズ・ウール・ゴウンに加盟させていく必要もあるから、デミウルゴス達は相変わらず生き生きと働いている。アウラとマーレは2ndナザリックを広げて巨大かつ豪盛に仕上げているのが工作に夢中になる子供を見ているようで愛らしい。愛らしいのに時々、妙にウットリした瞳で見てくるようになった気がする。怖い。
番外席次は5点のマジックアイテムのうち4点をシャルティアとアルベドに剥ぎ取られ「ナザリック非所属の人は出て行ってください」と事務的にニコリと笑みを見せた二人に追い出された。一度スレイン法国に帰った後は「強い奴に会いに行く」と修行の旅に出たと聞いている。真っ直ぐこっちに向かって来そうで怖いのだが……。
我々は永遠の時を生きる者。だからと言って、この星の終わりまで生き抜く覚悟がある訳ではない。
まずは100年後に現れるかも知れないプレイヤー。彼らの来訪が楽しみだ。スルシャーナも同じ気持ちだったのだろうか?
おまけ
「アルベド、一般メイドをこれへ」
「はい 今日のお付きのシクススで宜しいですか?」
「うむ 少し聞きたいことがあってな」
「はっ」
シクススが、何かミスでも?と不安げにおずおずと入ってくる
「不安にならなくても良いぞ シクスス実は尋ねたいことがあってな」
「は、はい」
「最近、出かけた後など、良い匂いが私の布団からするのだが……あの匂いは何の香りかな?」
「えっ 香りで御座いますか?」
「うむ リラックス出来るし好きな香りだが何の香りだろうか?」
「申し訳ございません、私では分かりかねますので、リネンの係の者に聞いてきます」
「うむ 頼むぞ あれは良い。無いと落ち着けない夜もある」
「はい 必ず調べて……ア、アルベド様?!」
「えっ?」
モモンガが振り返ると、後ろで変な笑顔のままビクンビクンッと失神するアルベドが居た。
「ア、アルベド?!どうした! ペ、ペ『ペストーニャ?!アルベドが大変だ?!すぐ来てくれないか?! え ほっとけわん? ペ、ペスゥーーー?!』」
ラディカル様 yelm01様、代理石様、244様、ゆっくりしていきやがれ様、誤字脱字修正を有難うございます