鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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終章二編 開き直るとはこういう事さ (最終話)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 澄み渡った清々しい空。

 広がる原風景はどこまでも続いており、緑の香と青の澄んだ空気が鼻孔を(くすぐ)る。

 数百年ぶりに空を舞うツァインドルクスは気持ちよさそうに風を切る。

 衝撃的な出会いから100年が経ち、彼(彼女?)は100周年記念祝賀祭が開かれる2ndナザリックに向かっている。

 

 トブの森の上空を進み岩山の壁に掘られた扉が見える。

 白銀の騎士に意識を飛ばした状態では何度も見た光景だが、自分の生の目で見るのは初めてだ。

 いつもの二人の護衛に驚かれつつ扉を抜けると豪華な大理石に囲まれた2ndナザリックが広がる。ドワーフ族により施された貴金属細工や、モモンガと思われる骸骨の彫像などは素晴らしく、贅を尽くした邸内となっている。

 

 なにか天井から「祝・100周年」とユグドラシル語で書かれた布のような物が下げられている。「オウダンマクだったかな?」と首を傾げつつツァインドルクスは歩みを進める。

 

 実を言うと、あれからモモンガとはかなり仲良くしている。

 出会って色々と言われて落ち込んでいる私の棲家に、突如一人で現れたモモンガは「忘れ物だ」と言って、2ndナザリックの玄関に転がっていた白銀の鎧を持ってきてくれた上に「先日は調子に乗って色々とヒドイことを言ってゴメンね?」と謝罪してきたのだ。

 申し訳無さそうな彼にはあの時のようなオーラは無く、スルシャーナをより優しくした様な、恐らく彼の本来の姿がそこにはあった。

 そして人間や、亜人、モンスターをなるべく共存させながら平和に暮らしたいし、暮らさせてあげたいと言った。それは良心からだけで来るものではなく、私や他のプレイヤーへの供覧の意味もあるのだと云う。

「つまりは打算だ」

 そんな風に恥ずかしそうに言い訳がましく骸骨(モモンガ)は語った。

 当然、彼に嘘をついている気配は無く、他にも色々な相談を受けたりした。それからは月に一度くらいのペースで食料を持ってきてくれたりして良い話し相手になってくれた。いつしかツァインドルクスは、次のプレイヤーもこんな風に話の分かる奴なら良いのにと思うようになっていた。

 

 その後、十数年後には彼らはこの星の国の殆どを『ギルド:アインズ・ウール・ゴウン加盟国』として繋ぎ合わせて、事実上の世界征服と言っていい状態になった。今回の100周年とはその事で、モモンガがこちらに来てからは110年ほどが経過している……そして私の超感覚にもアインズ・ウール・ゴウンの諜報網にもプレイヤーらしき影は見つからなかった。

 モモンガは寂しそうに「やはり我らが最後の移転者か……」と呟いていた。なんでも移転元のユグドラシルの世界が崩壊した瞬間に移転してきたのがアインズ・ウール・ゴウンであり、「自分たちが最後かも」という仮説を立てていたらしい。新しいプレイヤーが来訪しないという事実にモモンガはとてもとても落ち込んでいた。

 ある意味、この100周年記念祝賀祭というお祭りは彼を愛してやまない彼の部下たちが彼を慰めるための催しだろう。誘われた時に棲家を訪れた羊の角に黒い羽を生やした悪魔が「まあ 流石に竜相手に浮気はしないはず くふー」などと意味不明な事を言っていた。こういう部下に囲まれて友人と言っていいモモンガは苦労しているんだろうなあと思った。

 

 部下といえば何年か前に、突然棲家に丸眼鏡を掛けた悪魔が訪れて「人口爆発が起きそうなので人間の抵抗力が少ない老人や子供を効果的に死に追いやれるような、この星の疫病を知りませんか?」と物騒なことを良い笑顔で聞かれたこともある。やはりモモンガは苦労している。そんな自信を得た。

 

 そう言えばダークエルフの姉弟が訪れて私を見ながら「テイムできるかなー?」「竜族の人たちってみんな洞窟や火口に住んでいるんだね。地殻変動魔法で皆殺しにしやすいよぉ お姉ちゃん」と恐ろしいことを呟いて帰った。モモンガは苦労している。それは確信に変わった。

 あと あの子ら気軽に『プラチナムドラゴンロード』のところに来すぎだから。伝説のドラゴンだから。一応。

 

 2ndナザリックの大広間とも言える『世界樹の間』の奥にあるのが玉座の間である。まずは『世界樹の間』に集まるモモンガの見知った部下達に挨拶回りをする。

ついでに聞いてみたかった事があったのだ。それは明らかに地位を超えた敬愛を捧げているが、君たちにとってモモンガとはどういう人物なのか?という質問だ。

 

「美の結晶。まさにこの世界で最も美しいお方でありんす。その白きお体と比べれば、宝石すらも見劣りしてしまいます。もうすぐ第二夫人になる予定でありんす」

 

「守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト」

 

「慈悲深く、深い配慮に優れたお方です。もうすぐ第三夫人になる予定です」

 

「す、凄く優しい方だと思います」

 

「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方、まさに端倪すべからざるという言葉が相応しきお方です」

 

「至高のお方の統括に就任されていたお方。そして最後まで私達を見放さず残っていただけた慈悲深きお方です」

 

「至高の御方の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しいお方です。ウチの主人がいつもお世話になっております」

 

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……。

 

 解りたくないけど竜だから解る……コイツら……マジだ。

 

「どうされましたか? おや、今日は伝説のプラチナムドラゴンロードのお姿での来訪とは!」

 

 むう 危険な奴が来た……とツァインドルクスは埴輪顔の軍服姿を目に留める。

 彼には……聞かないで良いだろう。何せモモンガが手ずから創造したNPCだからね。

 というか 長くなるのが解っているので聞きたくない……。

 

「先程……皆様にマイマスター・モモンガ様の人となりについてお尋ねになっておられた様ですが……」

 

 聞かれてた!? ツァインドルクスの鋭すぎる知覚能力が危険を知らせる

 

「申し訳ありません。とても私には一言で表すことが出来ません……一週間ほどお時間を頂けるのでしたら何とか半分は語り尽くせるやも知れませぬ」

「もう、祝賀会が始まるからそれは難しいね。うん。 またの機会にしよう」

「わかり申した! では今度、ツァインドルクス殿のお宅に訪問させて頂きます」

「……来る前に絶対に訪問日時を知らせてね」

 

 その日までに……旅に出ようと固く誓う伝説の竜が居た。

 

 む 同族の臭いが……竜王国の王女ドラウディロンか

「うおお!? なんじゃプラチナムドラゴンロード! おぬしの棲家以外では初めて竜の姿で相まみえるのう」

「ドラウ……今日は幼女の姿じゃないんだね」

「ふふん どうじゃ? いつもの幼女体では無く少女バージョンは? これでセバス殿を墜とせると良いのじゃが」

 

 セバス殿が、実は竜人と知った時は不思議な感覚に納得がいったものだ。

 それを知った竜王国の小娘が本気で彼を狙っているらしい……とは耳にしていたが……。

「……背は高くなったけどそんなに大きくなってないね」

「ほう……どこを見て言っておるのか聞かせてもらおうか」

 シャーッ と髪を逆立てながら第一次戦闘態勢に入るドラウを無視して話を続ける

「あれ? セバス殿って妻帯者じゃなかった?」

 するとドラウディロンは寂しそうな顔になり

「……ああ、『だった』じゃな……もう100年が経つのじゃぞ? 白銀の竜よ 彼女は人間として生き人として死んだ。もうおらぬのじゃ。気骨のある良い娘だったよ」

「人とは儚く脆いものだね」

「うむ だからこそ、その短い人生の一瞬の煌めきに目を奪われることもある」

そう言ったドラウディロンは寂しげなままではあるが羨ましそうでもあった。

 

 遠くから見知ったマスクを被った少女がマスクを外しながら、こちらに向かって歩いてくる

「ツアー」

「インベルンのお嬢ちゃんじゃないか」

「ふん それはリグリットの呼び方だな。懐かしい」

「もう 10年ほどになるかな? 彼女が亡くなってから」

「そうか……お互い昔馴染みだったからな。特に親しかったオマエは寂しかったろう」

「まあね ただ、その頃くらいからナザリックの守護者達が……ん? ああ そうか……」

 モモンガの守護者達が代わる代わる我が家を訪れる様になったのはリグリットが逝ってしまってからだ。モモンガが気を回してくれたんだな……恐らく彼らは本来の役目を果たしてないが

「どうしたんだ?」

「いや……100年経っても成長してないなと思って」

「ほう……どこを見て言ったのか教えてもらおうじゃないか」

 

 

 

 不思議な男だ……彼は

 ツァインドルクスはモモンガとの会話を思い出す。

「いつまで平和な世の中が続くのだろうね」

「ふむ……もう100年経つがプレイヤーが現れないみたいだし次の100年は何とか持たせたいな。我々は独裁して力ずくで抑えている訳ではない。人間の本能が闘争とともにあるのならば、所詮は仮初(かりそめ)の平和だ」

「えー 仮初の平和のためにあれだけ苦労したの?」

「仮初の平和がどれだけの命を育むのか知らないのか? ツアー、この星の人間の平均寿命は40年だぞ? 仮初の平和が200年続けば10世代もの間、戦を知らない子どもたちが生まれるんだ」

「問題を先送りにしてでも?」

「してでもだ。悪いが私の理想を勝手に押し売りさせてもらうよ。すまないなツアー。この星の守り神よ。私は非常に我儘なんだよ」

「うーん 根本的な解決をしないままというのは……」

「その考え方は長命種の考え方だぞツアー」

アンデッド(不老不死)に諭された……」

 

 

 

 

「ああ……それは確かにモモン…モモンガ様らしい考えだな」

 話を聞いたイビルアイはツアーの話に納得した顔で頷く。

「あの方はアンデッドだというのにいつまでも考え方の軸がニンゲンなのだ」

「この星の影の支配者みたいなモノなのに感覚が庶民なんだよ」

「うむ まさしく。家出した私も暖かく迎え入れてくれたしな」

「え!? ナザリックから家出していたの?」

 

 近年、イビルアイ……キーノ・インベルンはナザリックに迎え入れられ、吸血鬼であるシャルティアの妹分という扱いになっていたハズだけど?

 

「シャル姉様が……凄いセクハラをしてくるのだ……」

「シャル姉様って呼んでいるんだ……」

「しかも、お風呂を借りようと奴の部屋に入ったら……その……クレマンティーヌと「すごいぷれい」をしていてな……」

「わあ……」

「思わず、『シャル姉のアホバカ変態!不潔だーーー!!』と言って家(ナザリック)を飛び出していたのだ」

「それは妥当」

「うむ だがモモ……ンガ様からメッセージが来てな 『シャルティアはアホの子だから許してやって欲しい。心配だから顔だけでも出して欲しい』と」

「なるほど」

「結構遠くまで旅立っていたが、今回の祝賀祭に間に合うように帰ってきたのだ」

 

 

 

 ツァインドルクスは甘さすら感じる骸骨の言葉を思い出す。

 

 

「未だに私のことを「この星の守り神」だとか言うのは恥ずかしいので止めて欲しい。それはモモンガの事だよ」

「ツアー、オマエは人間に期待していないのだな」

「君はまだ人間に期待しているのかい? アンデッドなのに」

「……そうだな。人間がこの世界で誕生して何年かは知らないが、人は古来より鶏を食べ、羊の肉を食べ、毛皮は洋服にする。海では魚を捕り、森を荒らし木を切り倒し紙にする。生産性、利便性を追求し限りない欲求の赴くままにだ。しかしそうやって進化し続ける事による人間の業というのは同時に人間の美徳でもある。」

「満足を知らないことがかい?」

「そうだよ ツアー。 私を倒す者があるとすれば、ビーストマンでもなく、竜族でもなく、モンスターでもない。それは『人間』だと私は思っている」

「そうなの? なのに人間を繁栄させ、放っておくの?」

「ああ、何も気づかないまま、安穏とした暮らしの中で平和な世の中を楽しんでも良い。いつか勇者となり自分を倒しに来てくれても良い……人間にはそれだけの価値と希望があるんだよ。ツアー」

「うーん ワタシもそれなりに長く人間のことは観察してきたつもりだけどねえ……」

「観察しているだけじゃ気づけないかもな……まあ、観察に徹することができるからこそ、ツアーは守り神であり、俺との差異だと思うんだ」

「そうかな?」

「ツアーにだってあるはずだぞ?六大神の記憶や十三英雄との思い出が」

「まあ それは否定出来ないけど」

「ふふ。私は私を倒しに来るものを、勇者を仲間達と共に楽しみに待っているよ。このナザリックで」

「え?楽しみなの? 君を倒しに来る者達が現れることが?」

「……そうだな……楽しみだ。 そう、楽しかったんだ。あの時も今も、楽しかったんだよ」

「モモンガ?」

「私は、いつまでも誰かが来てくれるのを待ち侘びているのだ。ナザリックの皆と楽しみにしながらな」

 

 

 

 ツァインドルクスはあの時のモモンガの言葉と表情を思い出すと切なくなる。

 全てを覚悟し、全てを受け入れた姿に、本当の神の姿を見たような気さえするのだ。

 神様というのは孤独なのだろう。

 ツァインドルクスはモモンガと長く接して、そう考えるようになった。

 

 そんな風に思考の海を揺蕩っていると、突然 空気がピリリッとしだした。

 守護者統括のアルベドが玉座の近くの所定の位置に移動する。

 それに伴い各守護者たちも整列をする。ピンクの生き物であり第八階層守護者のヴィクティムも居る。モモンガが初めてツアーの元を訪れた時にさり気なくアルベドが抱えていた守護者だ。あとでヴィクティムの能力を聞いて鳥肌が立ったよ。竜なのに。

ナザリックに所属しつつも守護者ではないイビルアイはその後ろに並び、そのまた後ろにはゲストとして訪れているドラウディロンやツァインドルクスが並ぶ。

 

 そして、相変わらず濃厚で圧倒的な存在感を纏った彼は、瞬時に玉座の前に現れる。

 

 

 

   守護者統括アルベドが凛とした声で宣言する。

 

 

 

 

 

   「では皆、至高の御方に忠誠の儀を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「ツアー……その姿で……来てくれたのか」

 

「八欲王の秘宝を持ってきたよ。預かってくれるのだろう? だとしたら私は自由だ」

 

 無造作に渡されるワールドアイテムの数々にツアーからの信頼を感じたモモンガは感動し、本来は涙ぐむ所で少し体を輝かせる

 

「ふふ 今日も体は素直だね」

 

「え?」

 

「よく輝いているよ」

 

「え?」

 

「心が動くと輝くんでしょ?」

 

「…………光っているの見えてたの?」

 

「当然でしょ?」

 

「それはツアーが竜だからだよな? な?!」

 

「いえ 皆、見えていましたが?」と自称第一夫人が不思議そうに声を上げる

 

「え?」

 

「はい いつも、そして今日も輝いておられますわ」

 

「……100年間 見えていたのか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 モモンガはゆっくりと両手を頭に当てながら俯き、声に成らない悲鳴を全身からの光に変えて 100年間で一番の輝きを見せた。

 

 

 

 ツァインドルクスは輝きに包まれた友人を微笑ましく、そして眩しそうに見つめた。

 

 

 ……おめでとう モモンガ

 

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 ooal

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 始まりの「1」 特別な「1」

 

 世界は海で繋がっており、平和の中で「(ひとつ)」となる

 

 

 今、まさに君はアインズ・ウール・ゴウンとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 

 
 

 

ここまで読んで下さった、寛容なる皆様に 感謝を


拙い文章を、想像力で全て補って下さった皆様に 祝福を

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