この世界に来た時と同じように、妙に順応性が高く今の状況を楽しむ能力に長けているモモンガは気づいた時には人間の生活を懐かしみ堪能していた。
彼は久しぶりの食事を心から喜び、睡眠を楽しみ、新妻達と逢瀬を重ねた。
食事ではルームサービスでナザリック自慢の食材を人生で最も気合を入れて調理した料理長の見守る中で口にし、
またハーレム部屋に置かれたベッドは決して行為の為だけのベッドでは無く、その凶悪な寝心地の良さによる『堕落』の2文字にモモンガは溺れた。
夫婦の営みに関してはモモンガ自身の経験がサキュバスであるアルベドとの物だけという特殊な状態であったが、幸いなことにシャルティアが居ないお陰で他の者は非常にノーマルな性癖であり文字通り
また、時折シャルティアがハーレムに現れてはもじもじとしており「っ モモンガ様ぁぁぁぁ くっ ううううう~」と切なそうに一人泣いている事があったので、モモンガがアンデッドに戻るまで仲間ハズレになっているシャルティアが可愛そうだな……と「妻ーず」は同情した。しかし一週間ほど経つと「モモンガ様ぁぁぁ 寂しいでありんすぅぅ……いや これはこれでプレイだと思えば!?……ふひっ」とブツブツ言いながらもぞもぞし出したので、「妻ーず」の面々はシャルティアの事をカワイソウだな……と同情した。
その間のアインズ・ウール・ゴウンの管理はデミウルゴスとパンドラズ・アクターに任されており、モモンガは久しぶり過ぎる休暇と3大欲求を満たすことが義務かのように過ごし楽しんだ。 そしてサキュバスであるアルベドの導きと術により、つつがなくアルベド、アウラ、イビルアイ、番外席次たちはモモンガの子供を身ごもった。するとそれを確認し役目が終えたかの様にモモンガが人間化して30日目に ウィッシュ・アポン・ア・スターの効力が消えたのか再び鈴木悟は骸骨のオーバーロードへと姿を変えた。
いや、戻ったという方が正しいだろう。なぜなら、自らの白磁の指をわきわきと動かし、感慨深げにそれを見つめたモモンガは「良かった……ちゃんと戻れた」と染み染みと呟いたからだ。
100年以上の年月に馴染んだ感覚は、すでに人間の体では無く骸骨の体こそが自らの体であるという実感を鈴木悟にもたらせていたのである。
人間からオーバーロードに戻ったモモンガを見て、イビルアイが不安そうに自分の腹部を撫でる。もし今、自分も変身が解けて吸血姫に、アンデッドに戻ってしまったら、せっかく授かったこの子の運命は……そういう不安が過ぎったからだが、モモンガは3つの願いが2つになった
妻たちの中で一番初めに出産を迎えたのは妊娠期間の短いサキュバスであるアルベドであった。
半年ほどで臨月を迎えて、やはり流石のサキュバスだからか超安産で出産されたモモンガの初子にナザリックでは上へ下へのお祭り騒ぎとなり、実際に翌年からはデミウルゴスの計らいで世界中で祝日と制定された。
ちなみにサキュバスの産んだ子供は殆どがサキュバスとして産まれる。
我が子を抱いたモモンガは「うわあうわあ……」と感嘆し「ああ……先日のニンゲンの間に泣くということもしておけば良かった……泣きたい……泣きたいのだ私は」と震えるほどの感動を表し、ベッドで休み、なぜか眩しそうに目を細める第一夫人を抱きしめた。その時、第一夫人が抱きしめ返した瞬間にモモンガの体が「ビクゥ」と硬直したのは、何らかのトラウマが発動したようである。 第一夫人との嫡子であり、第一子ということもあって、いずれはこの子がナザリックの王、世界の支配者の後継者となるというのがナザリックの皆の考えと期待であった。といってもモモンガが不老不死で死ぬ予定も無いため名目上の後継者に過ぎないが。
母子ともに順調であり幸せな日々が過ぎていく。
世界の支配者モモンガは意外と子煩悩な面を見せて自ら子供をあやすこともあった。ちなみに一番赤ちゃんに受けが良かったのはアルベド、ニグレド、モモンガの順で「いないないバア」を連続して繰り出す生々しいジェットストリームアタックである。アタックされる側からすると段々と保護者の顔が剥がれ落ちて行くという非常に斬新な映像であるが、これが何故か乳児にバカ受けし、モモンガ夫妻による「流石アルベドの子だな。よく似ている」「え!? そ、そうでしょうか」という夫婦の微笑ましいやり取りがなされた。
しばらくすると、番外席次、アウラ、イビルアイの順番で出産が続き、ナザリックは空前のベビーブームが訪れたため、ニグレドとペストーニャはハーレム部屋に付きっきりで世話係になり「毎日幸せすぎて死にそう………わん」と御満悦であった。コキュートスは志願してベビールームと化したハーレム部屋の護衛親兵となり、ハーレム部屋の扉の前で歩哨になった。赤子が部屋を出入りする度に「姫……若……。爺ガ命ヲ賭シテ守リマス。爺ハ強イデスゾ……」と嬉しそうに話しかけており、恐らく職権乱用としてアルベドにキツく叱られて脚を押さえる運命が待っているであろう。
番外席次の子は白い髪に黒髪が交じった赤子であり、この世界では充分すぎるオーラとマナの力が感じられ、生みの母も大層御満悦であろうと、
モモンガは「おお……母の顔だ」と番外席次の変化に驚きと感動を覚えた。唯ひたすらに本能と義務感から強き
アウラとの間に生まれたハーフダークエルフの子は母に似た端正な顔とオッドアイを持ち、アウラは出産後しばらくすると、ハーレム部屋ではなく第六階層の自分の家での子育てを願い出る。アウラは過去にスレイン法国に攻め入った時に大量のエルフを保護しており、その中の十数人を身の回りの世話役として第六階層に住まわせていた。と言っても本来アインズ・ウール・ゴウンでは亜人の管理はマーレが行い、獣人の管理はコキュートス、モンスターの管理をテイマーであるアウラが行っているのであるが、保護されたエルフの中で彼女たちの強い要望による押しかけ女房として第六階層のアウラ宅に入ると、面倒臭がって肉や木の実をそのまま食べていたアウラの御飯を支度したり、嫌がるアウラを無視して毎日無理やり色々な服に着替えさせられたりとアウラ自身にとってはアリガタ迷惑な世話役であり、彼女たちの存在こそがこの100年の間、アウラの女子力が育まれなかった大きな原因であるとも云える。
普段は彼女たちエルフ隊を邪険に扱うアウラであったが、100年間に渡って半ば強制的ではあるが甘えさせられてきた結果、姉や母に対する感情の様に「この子をあの娘たちとも育てたい」という想いに至ったようである。ある意味「餌付けの効用性」の見本とも云える行動であり、子供を連れて帰ったアウラはエルフ集団によって長すぎる胴上げをされるのであった。
しかし、モモンガは増え行く自分の子供という不思議な存在に大き過ぎる喜びと妙な不安を感じて、少し1人で居る時などに思いに耽る事も増えてきた。
そんな中でモモンガが密かに少し感慨をもってその出産を待ち望んだのは、イビルアイ、キーノ・インベルンの子供である。この子は人間の鈴木悟version.2と人間のキーノ・インベルンとの子供であり、純然たるヒトの子であったことがその理由であろう。恐らくモモンガの中に残る鈴木悟の心が、この人間の子への思いをアインズ・ウール・ゴウンの主としてのモモンガとは別のベクトルからの想いで特別な心情を持っていたことは否定出来ない。しかし、ナザリックは本来は人間は存在してはならない規則が在った。もちろんプレイアデスの末妹などの特例も有ればツアレの例もある。今回はギルドマスターと所属吸血姫との子であることから当然特例として認められるであろうし、守護者たちも含めて全ての者達が心より受け入れてくれることをモモンガも解ってはいるのだが、ギルドマスターという最高責任者であり最高権力者が自ら規則を破る。という事に対して根強い嫌悪感と忌避感を拭い去れずにいた。その頑なさは彼の欠点でも在ったが、モモンガを愛する人々に取っては今も昔も変わらない彼の微笑ましく可愛い部分であった。
そんなモモンガの心境を知ってか知らずか、出産ラッシュから10ヶ月ほど経ったある日、イビルアイとの赤子を抱きあやしている時に、イビルアイが「散歩に参りましょう」とモモンガを外に連れ出した。
モモンガはイビルアイと二人で出かける時のサービスとして、在りし日の黒い英雄『モモン』の姿になり、トブの森の中にある丘の上へと散策を楽しんだ。丘の上で子供を心地良い自然の風に当たらせつつイビルアイを見ると、風や森の香りを吸い込んで感じ入ったように俯いた。
「キーノ? どうした、気分でも優れないのか?」
「モモン様」
イビルアイはキュッと口を引き締める。
人間としてもうすぐ二年が経ち美しく成長を続ける金髪の美少女イビルアイの面持ちにモモンガも少し緊張する。
「この子を人間の世界で暮らさせたいんだ」
「…………そうだな」
「良いのか!?」
「ああ それがキーノの願いなら」
「そうか 解ってくれるのだな」
「ああ……私……俺とオマエは元々が人間だものな……解るよ」
「ふふ ただ無条件って訳じゃないぞ? まずはちゃんと2ndナザリックである程度まで育てる。学問も魔法も鍛えまくるぞ! 社会で生き抜かねばならないのだからな!」
「うむ そうだな」
「それで……大きくなったら世界を自分の足で周ってもらいたいな……自分の目で見て歩いてもらう。もちろん私はコソコソと見守るけどな」
「ああ 私も見守ろう」
「それで、それで……ちゃんと判断の出来る大人になった時にどうするか本人に決めてもらう……私と同じ吸血鬼になるのなら吸血し眷属にするし、そしてヒトとして生きていくと云うのならそれで良い。もちろんコソコソと見守るが、私からは卒業だ! 自分の道を人間として全うするだろう……いつか愛する人が出来て子供が出来るかもな……ふふ そうしたら私はお祖母ちゃんだぞ? 孫は可愛いと聞いているぞ! これは是非見守らないとな!」
「そうだな 私もお祖父ちゃんか……スゴイな」
モモンガは笑顔のままでボロボロと涙を流すキーノ・インベルンの頭を優しく撫で続ける。
「そうだよ……スゴイんだよ……人間は。それでその子が誰かと結ばれて子を作れば私は曾祖母だぞ?」
「ああ 私も曽祖父だな」
「私は……望みもしないまま吸血姫になって、独りぼっちで生きてきた。気に入った人間の死をひたすら見送り続けてきた。これからは自分の子らの死を見送ることになるかも知れない」
「ああ……」
「それでもこの子には……」イビルアイは抱いた幼子を一撫でし「人間の世界で人間として生きてほしいなと思う」
「うん それで良いと思う。ただその子は私とオマエから受け継がれた膨大な魔力を秘めているし、この世界ではあまりにも危険な存在かも知れない。そういう意味でもちゃんと見守る必要はあるだろうな。この子のためにも、この世界のためにも、そして私達のためにも」
「ああ」
「そうだ 本当に人間として生きていってもらうなら10歳になった頃くらいから村を作るから、まずそこで暮らしてもらおう。我々の手の入った村だ」
「……ん?」
「まずはそこで社会性を身につけてもらおう。普通に人間の子供たちと村の学校に行ってもらったりしてな」
「……ちょっと待て、何か話が大きくなってないか?」
モモンガはアルベドたちと結ばれることに躊躇していた沢山ある理由の一つを思い出していた。
それはこの世界を自分たちという異物によって作り変えてしまったことによる罪悪感。そして子供などを作り、本当に永遠に君臨してしまうことへの申し訳無さのような引っ掛かりを感じていたからだ。
そもそも、この世界と平和と安定……などという謳い文句の中で「ナザリックの永久の繁栄と安全」を
……『パンとサーカス』
重労働をしなくても誰かが作ってくれる安い食料を消費すれば良いだけの市民。そして科学が発展し辛くなるように程々に便利で大量に供給される家庭用の魔法スクロール。
肉体労働を我々が担当するようになって生まれた余裕で小説や漫画や歌劇などを消費し、消化し、生み出されることで今のこの世界に蔓延する娯楽はルネッサンスと呼んでも良いほどの爆発力で発展し広まっている。彼らは自ら創り出したと思っているサーカスに興じている。不自然な幸せの中にいることに気づかないまま。
……そんな罪深い私が幸せになって良いのか?
結局はそれだ。 またそれだ。 いつもそこで堂々巡りだ。
アルベドたちへの気持ちに応えられない言い訳に溢れていた。
そもそも安定のために世界を固定したのはアインズ・ウール・ゴウンだ。
変化の無さは安定へと繋がる。今の関係でナザリックの中でも安定していた。
変化をするというのは怖いことだ。希望が失望に変わり絶望へと堕ちていくさまなんていくらでもある。人の恋愛だってそうだ。恋が失恋に変わって悲恋となった人間が起こした悲しい事件など、枚挙にいとまがないだろう。
そんな中で……私は妻を持ち、そして子供が生まれた。
希望。未来。夢。そして連綿と受け継がれてゆく連続性のある永遠。
そんな幻を具現化したのが子供という存在であるのに。
「これは夢のようなものだから自分の夢、一代で儚く消えれば良い」とでも言おうか、どこかで「いつか突然、リアルで鈴木悟が目を覚ましての夢オチが待ってるんじゃないか」という不安と諦観にも似た感情。それと相反する子供という、自分を枝葉から幹へと進化させて永久へと繋がる生々しい存在。それらへの無意識での拒絶のようなものがあったのだろう。
そして何よりも……永く続き移りゆく時間の中で、いつまで自分が自分で居られるのか?という想いが、不安と自分自身への疑いが拭い切れない。
モモンガは考える。
人は死んで完成するという
ならば死なない私は?
未完成のままであがき続けねばならないのだ いつかその時が来るまで
そんな永遠の時間が私を狂わせないと誰が言えるだろう?
未完成で未成熟な私が歪まないなんて誰が言えるのだ?
もし そんな自分に疲れたとき、または私はいつか完全に心の隅々までアンデッドと化してしまい生者への憎しみをもったりはしないだろうか?
人間や弱者も玩具のように扱い気分次第で潰したり、今の平和な世界を弄び地獄を地上に顕現させるような、そんな世界の敵に永遠にならないと言い切れるだろうか?
もしも私が歪んで魔王と化したとき私を止めてくれる存在に、人として人の世界へと解き放たれる
ああ……だとしたら安心だ。
今が幸せすぎて、反動で恐怖が増幅されて狼狽えているだけのことだろうというのは分かっている。
本当に……なんて中途半端なアンデッドなんだろうな。
骸骨の顔で穏やかに苦笑した世界の支配者はゆっくりと首を左右に振りながらある事に気づいた。
「うん? 待てよ……そもそも
モモンガは尖った顎に手を当ててしばらく沈思黙考すると何かを思いついたかのようにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させて、一瞬で姿を消した。
パンドラズ・アクターが情報総監として出張り、宝物庫には時々しか入れなくなってしまってからの宝物庫の管理はシズ・デルタが主に行っていた。彼女はナザリックの全てのギミックを知り尽くし、また宝物庫の毒なども効果の無いオートマトンであるから適任であったと云える。
宝物庫の点検を終えて扉の前で記録を点けているシズの後ろに気配がしたと感じた瞬間に主であるモモンガが突如出現した。
シズは慌てず騒がす静かに臣下の礼をとって傅く
「シズよ、いつも宝物庫の管理ご苦労だな」
「とんでも御座いません」
モモンガより与えられた仕事である。名誉と重たい責任の両方を与えられたやり甲斐のある仕事であり、苦労など感じたことはない。
「うむ ところで探し物があるのだが」
「はい」
「そうだな……攻撃レベルが60を超えるくらいの武器はどんなのがあったかな?」
「レベル60を超える程度……ということは70以上は除外という事ですね」
「ああ 60から65くらいで良い。外に持ち出すから強すぎるのは問題になる」
「はい レベル60から65辺りに該当する武器は剣で165振り、槍で112本、斧で137挺、短刀・ナイフ系統で151本、弓系統が228張り、ワンド類ですと233種ほど御座いますが持ってまいりましょうか?」
「いや 量も多いし選別したいので案内してもらっていいか?」
「はい 勿論でございます。ではこちらへ」
シズは突然やってきた主人に自分の仕事ぶりを見てもらうという御褒美に狼狽えながらも恍惚な感情を隠して主人と共に宝物庫の中を進んでいく。
小さなシズに案内されながらモモンガは整理整頓された宝物庫を感慨深げに眺め見る。ああ……あの無駄に大きい盾はレイドボスの炎からパーティを守るためだけに建御雷さんが課金して作り上げたんだよな……あの鎧は着ると周囲のモンスターにブラインドの効力を発揮し続ける奴で、あの洞窟で便利だったんだよ……。懐かしさを味わいながらモモンガは足をすすめる。
元々はある程度のアイテムや装備品は所得者別に分けて管理していたのだが、パンドラズ・アクターからの提案もあって、今はちゃんと種類別、レアリティ別に分けて管理されている。もちろんその方が便利であるからなのだが、彼らの提案をすんなりと受け入れる……もう、ギルメン達はここに来ないのだということを自然に受け入れられるようにいつのまにか自分も変化……変質……成長をしていたのかも知れない。とモモンガは変わりゆく変化に対して怯えることばかりではないのだ。という事を、我が子や妻たちの顔を思い浮かべつつ、納得するかの様に頷きながら、仲間たちと共に築き上げた宝の山の中を進んでいった。
アーグランド評議国。仄暗い洞窟にも似た住処で丸まってジッと巨体を動かさない生き物が居る。いや、生き物などと云うのは些か不敬にあたるかも知れない。かつてはこの星で最も神に近き存在であったのであるから。
住処の主は、昨年までは世界のバランスを変えかねない秘宝を守るためにこの場所から動けないでいた。今はそれらを友人に預けて自由を得た。しかし数百年にわたり、ここを居場所としてきたためか、今も非常に落ち着く場所であることに変わりはない。
そこで寝ていたのか瞑想していたのかは解らないが、聖なる彫像のようにジッと固まっていた神竜ツァインドルクスは何かに気づいたように閉じていた目をパチリと開くと、丸まっていた体を伸ばして、やや面倒臭げに首をもたげて中空を無言で見つめる。
独特のマナの香が鼻についた瞬間、もう見慣れたと言っていい彼の友人が瞬時に姿を現した。
「この星の守り神よ……」
「君がそうやって現れるときは大体やっかいなときなんだよ」
うへあー と苦虫を噛み潰したような顔をした神竜は友人であるモモンガを見た。
彼は何故か、一仕事終えたとでも云うような良い顔をして現れた。
「いやー ツアーにしか頼めないことが色々あってな」
「でた 面倒事だよ……」
「まあ そう言うな友よ」
「しかもこのピカピカ骸骨、友とか言い出したよ」
「そ、そんなにピカピカしてないからなっ」
「光ってる奴は皆そう言うんだ……」
「他に光ってる知り合いが居るのか……なにこの気持ち?嫉妬?」
「大丈夫。そんな変な奴は君だけだよ」
「よし 『黄昏よりも暗き存在(もの)、血の流れより紅き存在、時の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我今ここに闇に誓わん……」
「洞窟内のマナ値が大高騰しているので止めてください」
「ふふふふ 今のはラキュースノートに書かれていた魔法『
「それより用件はなんだい? あ、とても聞きたくないので言わなくても良いのだけれど」
「ツアーさあ 我々で言うところのメッセージの魔法みたいなの使えるよね?」
「まあ 遠くの目標に直接言葉を送る……みたいな奴なら確かに出来るけど? あと何故そんなフレンドリーな感じで?」
「ふむ 会話も出来るのか?」
「いや こちらからの一方通行だよ。あちらが心のなかで念じてくれてもこちらに届かないね。ただ超感覚によって、声にしてくれたら探知は出来るかな?」
「うむ では今日ここに来た理由だが……」
そういうとモモンガはアイテムボックスから次々と武器や防具を取り出す。いろいろな職業に即したものだろうが6組ほどもある武具の一式が現れる。それらをツァインドルクスの前に並べ終えると、まるで市場の行商のような気さくさで説明を始める。
「これは『ドヴァリン』の討伐クエで宝箱から入手した剣で対ドヴァリン時では攻撃力が三倍になるが他のモンスターだとレベル60程度という、もう使いようのない武器でな」
「……いや この世界ではかなりの業物にしか見えないんだが」
「まあ、そうだろうな。この他にも色々と持ってきたんだが……出来ればバラバラに各地の知り合いの強い竜などに預けて宝箱にでも入れておいてくれる様にしてほしいのだが、頼めるだろうか?」
「え?……なんのために?」
「竜を倒した後にキーアイテムが手にはいるのは常識だろう?」
「そんな常識初めて聞いたよ……というか倒されるんだ。私たち……」
「些細なことを気にするな。そんなことだから、いつまでも独り身なのだぞ」
「……。」
ツアーは、「殴りたい殴りたい殴りたい……」と心の中で一秒間に10回唱えて耐えた。
「必要な事なんだ。」
いつになく骸骨が真面目な顔をして言い切ったのを見て、ツアーは「ふう……分かったよ」と諦めたように言った。
モモンガがここまで真顔で頼み事をするなら世界に関わる大事なのだろう。さっきから骸骨顔に対して真顔とか言ってる自分は色々と心配だが解るものは仕方がないとツアーは諦める。恐らくこのことが第一夫人にバレたら怪獣大戦争が起こることをツアーは知らない。
「はぁ 全く……君が何を考えているか分からないよ」
非常に面倒くさそうにため息を着く神竜に気づかないままテンションが高めのモモンガは畳み掛けるように問いかける。
「なあ パーティが全滅した場合のペナルティはどの方式が良いかな」
「無視だよ!?」
「やはりこー ノーペナルティで蘇生して宿屋のベッドに寝かせておくやつかな?」
「え?」
「それとも人気の所持金を半分にしてリーダーだけ蘇生して教会に捨て置いていくべきか……」
「いや だから え?」
「ここは伝統と格式のアイテムと所持金を全没収で全滅地点に放置、パーティだけ生かして返すか……」
「いや 普通
「くはー 一番ハードモードの奴か? ツアーさんパないな!?」
モモンガは「あちゃー」と額に掌をあてがいながらツアーの肩をバシバシと叩きながら呪文のように「ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!」と口にする。
モモンガに取り残されたツアーは訳がわからないまま諦めたように首を振る。
「あ、将来勇者が現れたときのために練習しておくようにな」
そう言ってモモンガは紙で製本されているにしては異常に分厚い本を渡してきた。
とりあえず伝説の竜の有り難みがスゴイ勢いで暴落していくことだけは解る。
「いや! 本当に私はナニをさせられるのか教えてくれないだろうか!? なにこの分厚い台詞集!?」
と、割と必死な顔で抗議する神竜の声をバックにモモンガは穏やかな顔を見せる。
──私は人間として、そしてモモンガとして二度の生を与えられた。
一回目は存在するために、二回目は生きるために。
船は港にいる時が最も安全だ。
だが ナザリックでただ篭っているだけでは得られないものが数多く在った。
現実という恐怖は、直視に耐えられるものでは無かった。
だからこそユグドラシルへと逃げていた。
絶望とは、闘うべき理由を知らずに、しかも、まさに闘わねばならないということでであり「明日は、明日こそは」と、それを先送りにするためになだめてきた。
そして、まさに運命に引きずりこまれるようにこの世界に辿り着いたのだ。
私がこの世界でなした多くのことは悪行として語られるべきことばかりだ。
そこには懺悔の念と 仕方がなかったんだという言い訳しか見当たらない。
きっと悪に弄ばれたのは我々なのだろう。
生存欲と魔と運命と、中途半端なアンデッドにより、中途半端な悪を為した。
結果が今の状況だったのであるから。
そしていつのまにか自分が創り出した状況により自らが創りあげられた。
私もまた
そして何度も何度も探して見つけ出したのは ──永遠
それは終わりの来ない仲間との冒険という嘗ての自分が憧れ求めたもの
毎日海と太陽が重なりあい番うのが当たり前に続くのと同じように。
安全、安心、安定、平和、平穏と引き換えに手に入れた不自然な永遠。
それに一石を投じた。
我が子たちの誕生によって起こる変化。
さあ これから先は何が起こるか分からないぞ?
私は木の幹、木の枝となり、これからは彼、彼女ら『新芽』の物語が始まるだろう。
そして私がずっと怯えていたものであり、待ち焦がれてもいたモノが始まるのだ。
ああ ずっと楽しみだったんだ。
さあ、楽しい楽しい冒険の始まりだ。
ツアーは輝きながら良い顔をしてブツブツ話している友人の骸骨を無視して、渡された「鈍器」とも形容出来そうな『セリフ集』の表紙をめくる。
そして「一体、ナニが書いてあるんだろう?」 と興味深げに読み上げる。
「……きこえますか… きこえますか…… 勇者よ……
私は導きの神竜ツァインドルクス… 今… あなたの……
心に…直接… 呼びかけています………………………」
……ツァインドルクスは、少し光った。
ここまで読んで頂き、本当に有難う御座いました。
今度こそ最終回……そう思っていた所がボクにも在りました。
「仕合わせ」→「幸せ」の誤字報告をして下さる方が多いので、感想の方でお話した事はあるのですが、僭越ながら書かせて頂きます。
「幸せ」ではなく「仕合わせ」ですと「巡り合わせ」「運命」という意味に成ります。
この番外席次の場合ですと「自分がモモンガと出会えて人生が変わったように、子供にも素晴らしい運命、出会いが訪れますように」という願いを込めていると考えて頂けると有り難いです。
九尾様、kuro様 まりも7007 ronjin様 誤字脱字の修正有り難う御座います。