鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

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「この小説は100% 皆様の妄想と作者の悪ノリで書かれています」


注意
・二人のオリキャラが軸になっております。
・視点が二人の間を行き来して読み辛いです。

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後日奇譚 RPG『モモンガとの遭遇』……(ボクは嘘つきです)

 

 

 

 

 

 

 

 ハァハァハァハァッ

 

 

 ……これは……勝てない。

 

 ――そんな……最後の最後、ようやく辿り着いたダンジョンなのに。

 

 よりによってここで、今までの苦労が水泡に帰すのだろうか?

 思わず、地面に倒れそうになったが、毅然とモンスターに立ち向かっているリーダーを見て何とか食いしばり立ち続ける。

 

 

 私は数年前まで、リ・エスティーゼで暮らす世間知らずのお嬢様だった。

 

 しかし、ある日 運命の出会いが待っていた。

 地図にも載っていないような村から「この封印の書を解読して欲しい」と突然来訪した冒険者はぶっきらぼうに言い放った。

 何故ウチに来たのか不思議だったが、冒険者が見せてくれた高級な紙で出来た書物の表紙を見て得心がいった。

 

 そこには『ラキュースノート』と書かれていたのだ。

 

 それは私の一族の英雄の名前だった。

 といっても直接の御先祖様という訳ではない。「建国の母」とも「悲恋の涙姫」とも言われる『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』は私の先祖である『アズス・アインドラ』の姪にあたる偉人だ。

 彼女は『救国の英雄』『漆黒の英雄』と語り継がれる『モモン』の恋人として悪魔から国を救い、そして悪魔ヤルダバオトと相討ちした亡きモモンの意志を継いでリ・エスティーゼ共和国の初代大統領となった。だが彼女はモモンへの想いを貫き通して生涯を独身で終えているため直系の血族は残っておらず、また彼女自身は実家のアインドラ家と絶縁した身であったため、私の祖先のアズス・アインドラから繋がる一族が彼女の遺品の管理や研究を行っている。私自身も彼女の愛刀『魔剣キリネイラム』の研究を行っているチームの一人だ。彼女の友人イビルアイから「キリネイラムは危険だ」と彼女の死後に私の祖先に忠告されたため、ずっと封印されていたが、私のたっての希望でキリネイラムの研究を始めたばかりだ。

 

 しかし……「ラキュースノート」 まさか本当に存在するなんて……

 

 当時の彼女のチームメイトである双子の忍者から「なんか鬼ボス ニヤニヤしながら日記つけてた」という証言が残っており、その日記が見つかれば『偉人ラキュース』の研究が大躍進するということもあって、古来より各所を大捜索しているのだが、どうしても見つからないため「幻の書」という扱いをされてきた。その書物がまさに目の前に!

 

「ちょ、ちょっとだけ見せてください!?」

 興奮のあまり息が止まっていた私は、ようやく呼吸をすると脳を再起動して冒険者から書物を引ったくるようにしてペラペラと捲る。

 

 スゴイ! 間違いない! 本物だ!

 大統領として数多くの書類が残っており、彼女の字は良く知っているが間違いなく直筆の書物だ!

 

「こ、これを何処で!? これは確かに ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラが残した禁断の書です!」

「うん……その反応で解るよ。これはボクの一族に代々伝わる封印の書なんだ。意味が解らない所が多くてね……表紙に書かれているラキュースって、リ・エスティーゼでは有名な名前だし関係あるのであれば、その子孫なら何か解るんじゃないかと思って」

 

 そう言いながら冒険者は目深に被っていたフードを捲り、顔があらわになる。

 予想外に、私と同じ黄金色の髪を短めに揃えた清潔感のある整った美しい顔と意志の強い目が現れた。年齢は私と同じくらいで17、8歳といったところだろう。

 何故か胸の動悸が速くなり顔が熱くなるのを感じながら、私は「とにかく中へ!」と自分の研究部屋に招き入れた。

 

 冒険者は沢山の話しをしてくれた。

 この世界の違和感のこと。

 自分に備わっている不思議な力のこと。

 骸骨が出てくる夢のこと。

 そして直接、脳に語りかけてくる導きの声。

 

 私は冒険者の話に夢中になった。

 もしかして夢中になったのは「話」ではなく「冒険者」にかも知れないけれど

 2人で夢中になって話込んで随分時間がたったあと、冒険者は「君も一緒に行かないか? 世界を冒険し不思議と謎を突き止めようよ」と言ってくれた。

 私は無意識のうちに冒険者の手を握りしめて「行きたい!」と告げた。

 

「良かった! 君と一緒に行けたらなと思ったんだ。そういえば名前を教えてくれないかな?」

 と、ようやくその質問をしてくれた。

「私の名前はラキュース。ラキュース・アインドラよ」

「え!? ラキュース?」

 そう言うと冒険者は視線を、自分のノートの表紙に書かれた名前と私との顔を何度も往復させる。

「……アインドラ家の長女で15歳の能力試験において好成績を記録した者は『ラキュース』の名を受け継ぐのよ。まあ名前負けだけどね」

「スゴイじゃないか! 能力試験で認められて偉大な祖先の名前を受け継ぐことが出来るなんて!」

「ふふ 有難う。 ではそろそろアナタの名前を教えてくれないかしら? リーダー?」

 

 

 

 

 

 そうして私たちは旅に出た。

 途中でリーダーを独りで行かせるのは心配だとリーダーの村から3人の男女が合流した。

 彼らは非常に強かった。

 私の強さは冒険者で云うところの最高クラスである「アダマンタイト級」であり、自信もあったのだが、彼らは私よりも遥かに強い人間ばかりだった。

 どんな修羅の国なんだ……手加減一発岩をも砕く村人や、麺棒で魔族を叩きのめす姉とか居たりするのかも知れない。

 そして世界を駆けずり回った。

 まずは冒険者となり資金を貯めつつ、昔と違って強すぎて危険なモンスター退治の依頼がなくなった理由を調べた。

 

 導きの声に従って城に潜り込み、宝箱から伝説の防具を手に入れた。

 導きの声に従ってダンジョンに潜り竜を倒して伝説の兜を得た。

 導きの声に従って人の家に入りタンスからレアアイテムを手に入れた。

 導きの声に……導きの声便利だな!? 

 というか最後のは犯罪じゃないのか……何故かリーダーが堂々としてたら気づかなかった。

 いや 竜も自分の家で寝ていただけと考えたら強盗致死罪で犯罪だが……アレ? そもそも城に潜り込んだりしてるのって……アレー!?

 

 そんな冒険……冒険の中で私たちのパーティは何度か全滅の憂き目にあった。

 普通パーティが全滅したら死体を速やかに回収して高位の神官に蘇生させてもらうのが普通だが、我々は特別だった。

 初めて強敵に出会って全滅したとき、不思議なことに絶望の記憶が残る中で、次に目を開けた時は最後に宿泊した宿屋のベッドであり、怪我も綺麗に治っているし所持品も無事だが、何故か所持金が半分に減らされていた。

 

 やはり神に選ばれしパーティということだろうか……この血に流れる宿命(さだめ)という奴かも知れません

 

 一度、メンバーの一人であるモンクが仮死状態になった状態でパーティが全滅した時に、自分たちを宿屋に運び高位蘇生魔法を唱える犬の姿を見たと言いだした。前々からリーダーに馴れ馴れしかったり色々と痛い人だと思っていたが、一体どんな頭の打ち方をすればそんなカワイソウなことを言い出すのだろう? それからの私は彼に少しやさしく接するようになった。ちなみに彼の証言から、パーティはこの不思議な現象を「犬神様のしわざ」と命名した。

 

 そうやって何度も挫折を繰り返しながら遂に導きの声の主である神竜に逢うことが出来た。

 

 というか、アーグランド評議国のツァインドルクス評議長だった。

 超有名()だった。

 知()だった。

 

 

「……なに してんですか?」と低い声で問い詰めた私たちに気まずそうにしながら

 

「いや うん…………………えーと、良くここまで来ましたね。勇者よ……この剣を授けましょう」

 

 神竜は、まるで台本でもあって台詞を読んでいるかの様に棒読みで、そう告げると恐らく世界最強と言っても良い『勇者の剣』を授けられた。 うん でもあの竜なにしてんだ。

 

 そうして遂にココに辿り着いた。

 トブの森に隠された岩壁の扉から広がる最後のダンジョン。

 初めて勇者と出会ってから数年が経っており、あの頃は10代だった私達も、もう結婚適齢期だ。リーダーは早く私を嫁にもらうべき。

 早く世界の謎を解いて冒険が終わり、リーダーと結婚しようと思っていたのに……なぜ最後にこんな突然強い敵が待っているんだ。

 私はいつもは天然で鈍感で優しくて鈍感で頼りなくて鈍感なリーダーを心配そうに見つめた。

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 ――見えないっ

 

 冒険者チームのリーダーは薄暗闇の中、自分という世界屈指の強者に育った ―― ハズだと思っていた ―― 人間を弄ぶ存在に恐怖していた。

姿が見えたと思ったときにはすでにそこに敵の影はなく、気づいた時には背後に回られている。

 

 ――屈辱

 

 今まで味わったことのない悔しさに胸を焦がす。

 

「そ、そんな……高速飛行まで可能だなんて……」

 頼りになる仲間たちも、すでに倒されてラキュースしか生き残っていない。そのラキュースも敵の規格外のスピードに攻撃も防御もままならずに右往左往している。

 

 このダンジョンが途中から途方も無い巨大さである事に驚かされたが、まだ序盤なのにこんな強い階層ボスが居るなんて……

 確かに始めの階の支配者(ボス)であろうヴァンパイアからして今までの冒険では出会ったことのない強者だった。

 そして先ほどの階層ボスと思われる二人のヴァンパイア。一人は悪趣味なプレートメイルを着こみ、もう独りは可愛い服を来たゴーレム使い。

 これは更に強かったけど、仲間の力を合わせて撃退した……しかし三階層のボスと思われるコイツは何だ? あまりにも圧倒的だ。

 

「クッ」

 

 神竜に与えられた伝説の剣をもう一度構える。

 震える脚に気合を入れる。頭よりも本能が「アレには勝てない」と諦めているのだろうか?

 遂に到達した世界の陰の支配者の住まうダンジョン。ここまで来てこの醜態はなんだ! こんな事ではご先祖様に顔向け出来ないぞ!

 

 ふうっ と短く息を吐いて丹田に力を入れる。

 

 武技。『流水加速』『不落要塞』『能力向上』

 

 更に、「《フルポテンシャル/全能力強化》、《センサーブースト/感知増幅》、《ハードニング/硬化》」

と得意の3つの強化魔法を自身にかける。こういう時、魔法剣士である自分は得だと思う。

 

「準備は出来たでありんすか?」

 

 冷たさを感じる美しい顔が見える。

 しかしその頬には愉悦の熱にうなされたように先ほどより赤みが差している。

 そして艶めかしさを感じる潤んだ瞳と唇を舐める赤い舌。その瞬間に覗く犬歯が強敵である彼女をヴァンパイアだと認識させてくれる。

 

 その瞬間、ラキュースが「超技・暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!」と叫んで彼女の必殺技を繰り出す。技名を叫ぶ必要は無いがスゴイ威力だ。だが雑に放たれたそれが素早い敵に当たるわけもなく、敵は「名前だけはスゴイのねえ……」と呟きながらヒョイと避ける。

 

 ああ 彼女は良く分かっている。ボクが大技を繰り出すための隙を作ってくれたのだ。まったく頼れる相棒だ。

 

「ッッッ」

 声もなく「当てること」に重点を置いた鋭い突きを一直線に敵に向かって繰り出す。

 ラキュースの技を避けた瞬間を狙ったため数瞬こちらの攻撃に気づくのが遅れた敵は少し慌てる。

 

 しかし 銀髪のモンスターは渾身の一撃を「スッ」と紙一重で交わすと再び私の背後へと回りこむ。

 

 そして「ふにゃあ!?」 ボクの首筋を舐める。

「やっやっ」

「ふふふふふふふ 良い味でありんす!」

「や、めやめてっ」

「ふふん どれどれぇ~」

 

 さらにボクを後ろから羽交い絞めにすると胸当ての脇から手を入れてきて……

「ふわっ やめてっ 痛い!?」

「ふふーん なかなかの揉み心地でありんすなあー 75点といったところ……そっちの金髪はボリューミィでジューシィだったので好みはそっちだけど……」

 

 もみもみもみもみもみもみもみ

 

「ボクの胸をこれ以上好きにするのはやめろぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 化物は嬉しそうに「ニマァ~」と笑う。

 

「このボクっ娘ってのが良いわよねえ~」

 

「リーダー!? やめなさい! 化物め! リーダーから離れろおおおおおお!!」

 

 仲間思いのラキュースが叫びながら掴みかかってくる。ボクに密着しているので剣が使えないのが申し訳ない。

 

「ふん おまえは後で相手してあげるわよ」

「私だってまだ揉んだことないのにいいいいいいいいいいい!」

 

 ……なぜラキュースは血の涙を流しているのだろう。

 

「リーダーから離れろ!」

 敵は飛びかかるラキュースを避けて背後を取ると、今度はラキュースの胸を後ろから激しく揉みしだく。

「いやっ やめてっ この胸はリーダーのものなのっ!」

 

 えっ そうなの?

 

「やはりこの揉み心地は堪らないでありんすぅ~ もっちもちで……くふふふ、あひんっ!?」

 

 突然、背後に現れた黒い影に頭をボコッと叩かれた銀髪の化物は頭を抑えてうずくまる。

 

「……いい加減にしなさいよね アンタ」

 

 特徴的な長い耳に浅黒い肌。凄まじく端正な顔立ち。人間で言うと20歳行っているかどうか……だがこの人物は間違いなくダークエルフだ。

そのダークエルフが銀髪の吸血鬼をはっ倒したのだ。

 

「なっなにをするでありんすかっ?! お楽しみ……モモンガ様の命令通りに程々にあしらっていた所を!」モミモミ

「なにが「程々に」よ。ミラーでみんなで見てるのよ? キーノは青ざめた顔で『シャル助殺す……』と呟いてるし、モモンガ様は『今日も変態(シャルティア)馬鹿(絶好調)だなあ……』って怒筋をお立てになられるし……もう!」

「そ、そんな……も、ももんがさまあ~」モミモミ

「いつまで揉んでるのよ……ほら、あなた達も早く下の階層に降りなさい」

 

 そういうと ダークエルフは、しっしっと犬でも追い払うかのような仕草で私達を奥へと促す。

 

「えっ いえ、あの、仲間も死んでいるので一度地上に戻ろうかと……」

「ああ……大丈夫、生き返らせてエ・ランテルの宿屋にでも突っ込んでおくから」

「でも、ここでもこんなに強いのに二人でこの先に行くのは……」

「良いから早く行って ね?」

 

 怖い 笑顔が怖い

 

「は、はい ラキュース 行こ?」

 

 胸を抑えてうずくまるラキュースの手をとって奥へと歩き出す。

 

「ううう 私…汚されちゃった穢されちゃったよお……」

「いや 大丈夫だから…ね?」

「責任……」

「え?」

「リーダー 責任取ってお嫁さんにもらってね?」

 

 昔、一族の英雄が言ったことのある言葉を口にする。これが血のなせる業か。

 

「いや あの 女の子同士だよ? ボクたち」

「それがどうした!!」

「……ラキュースさあ 普段ボクのこと天然だのなんだの言うけど、ラキュースもそうとうアレだよね……」

「……それはお似合いってことで良いでしょうか」

「断じて違う」

 

 しばらく進むと下層へと続く通路を渡り切る。

 

「さて……ここからはダンジョンとしては第四層ね」

「三層のボスがアレだったし……もう帰りたい……」

「でも帰るとアレと怖いダークエルフが居るよ?」

「ううう……」

 

 しばらく進むと立て看板が立っている。

書いてある文字を読むと「第四階層守護者休眠中 第五階層へどうぞ」と書かれている。

「………」

「………」

「……ねえ ラキュース」

「なにも言わないで……歩く気力がなくなるから」

 

 ボクは黙って広い第四回層を歩き続ける。ダンジョンの中とは思えない大きさの池……湖がある。もしかして第四階層守護者(ボス)は水棲生物だったのかな? だとしたらボクは泳げないので助かったかも知れない。

 

 しばらく歩むと再び下層へと繋がる通路に入る。第五層。

 

「「さむっ」」

五層に入って驚いたのは氷の世界だったことだ。さっきの階でも呆然としていたが、このダンジョンは一体どうなっているんだろう?

 

「ううう リーダー 寒い時は二人で抱き合わないとダメよ」

「えっ そ、そうだね」

 

 そう言うとラキュースを抱き寄せて外套に包まる。

 

 なんだろう……このラキュースから漂う邪な空気は?

 

「うう 寒い……ダメよリーダー ちゃんと裸になって抱き合いましょう。そっちの方が暖まるわ!」

「えっ 裸?! ……それはちょっと……身の危険を感じるというか」

「よいではないかよいではないか」

「待って待って! えーとね うん ファイヤーエレメンタル!」

 

 そう唱えると拳ほどの大きさの火の塊が現れる。これはいつのまにか使えるようになっていたエレメンタルマジックだ。

 

「ほら! 暖かいよ! ラキュース!」

「ちっ」

「ええ……」

「イフリートとか死ねば良いのに」

「火精霊王の悪口言うの、やめたげてよっ!?」

「ほら 早く行きましょ こんな所でジッとしていても何も起こらないと理解したわ」

「なにを起こす気だったのかな……というか寒くて動けなかったんじゃなかったの?」

「はいはい 行くわよ」

「ええ……無視」

 

 ボクたちは立ち上がり外套に包まりながら歩き出した。

 この階層もかなり広いみたいだ。

 よく見ると所々に建物のような歪な建造物や、不自然な扉などが点在しており、ときおり生き物の気配が建物内から聞こえてくる。不気味……だが、今はそれらを探索する気になれない。そんな余裕は今のボクたちには無かった。

 むしろ誰かに見られないように壁伝いにコソコソと歩き続ける。すると後ろを振り返ったラキュースが小さく震える声で「……リーダー先に行って」と囁いた。

「え?」とマヌケな声を出したボクも振り返りラキュースの見ている方向を見ると、そこには女性型らしき白いモンスターがゆっくりと両手から雪煙を立ち昇らせながら、私達に向かって歩を進めて来るのが見えた。

 

「……なにアレ」

 独り言の様にボクは呟く

 

「アレは伝承に残る雪女郎(フロストヴァージン)……まさか本当に居るだなんて」

「勝てそう?」

「私達のパーティが全員揃って万全の体勢なら何とかなるかも……二人じゃ分が悪いわね。私が時間を稼ぐから逃げて」

「仲間を逃がすのはリーダーの役目だよ」

「駄目よ。この先も潜り続けるなら、今ココで強いほうが犠牲になるなんて愚策だわ」

「だったら二人で戦おう。負けて全滅しても犬神様が何とかしてくれるよ」

「わん」

「そうなるとエ・ランテルの宿屋に巻き戻りよ? もう一度あの変態吸血鬼と対峙したいの?」

「それはヤダなあ」

「それに……今、所持金が凄いから全滅して半分取られるのイヤなのよ」

「生々しい……分かった。二人で全力で一撃ぶっ放して、相手が怯んだ隙に二人で離脱しよう」

「はあ……了解したわ。リーダー」

「ああ 二人で頑張り二人とも生きるんだ。今までそうしてきたじゃないか」

 

 途中で何かの鳴き声が聞こえたような気がしたが、でも、そうだ。諦めちゃ駄目だ。

 ラキュースと一緒にもう一度、敵を確認する。

 敵は50メートル先。 雪女郎(フロストヴァージン)が3匹。

 増えてた。

 

「よし 逃げよう」

 良い笑顔でラキュースに宣言すると、ラキュースはすでに脱兎のごとく駈け出していた。

 

「ちょちょちょ?!」

 ボクは必死でラキュースを追いかける。

「無理無理無理無理無理」

「親友を置いていくんだ……ちょっとショック」

「アナタを友達だなんて思ったことないわ」

「えっ!」 なにそれ超ショック

「ずっと恋愛対象としてしか見てないもの」

「知りたくなかった。友人の秘密」

 

 そんな軽口を交わしながら全力疾走をするボクたちの前に巨大な建物?が現れる。まるで蜂の巣を逆さにしたかの様な形は自然物なのか人工物なのかの区別もつけられなかった。

 

「……あそこから入れそうだけど……入る?」

「入りましょう! これ以上事態が悪くなることなんて無いわ!」

「よし!」

 

 ラキュースに促されて二人で建物の隙間から中へと飛び込む。

 中に入るとドーム状になっていて、とてつもなく広い空間が広がっている。

 

 問題はその広い空間の真ん中だ。

 

「……これ以上、事態が悪くなることは無いんだっけ?」

「想定というのは超えるためにあると思うの」

 

 そこには氷の魔神が居た。

 

 水色透明とでも言えばいいのか透き通る様な水色と銀色を合わせたような硬質な質感。

 四本の腕を体の前で組み、直立不動の姿勢で佇んでいる。眼……と言っていいのか複眼の様な眼を六つほど携えた頭部は昆虫のソレを連想させる大顎を蓄えており逞しく厳つい雰囲気を醸し出している。

 そして何よりも全身から立ち昇る圧倒的強者のオーラ。

 サーチの魔法を使わなくても解る。これは強い。

 恐らくラスボスという奴だろう……私はラキュースの顔を見て頷く。

 

「あれが世界を陰で操る魔王……『腕が四本ある奴はラスボス』というのはラキュースノートにも書いてあったし間違いないわね」

「つまり……逃げるわけには行かないって事だね」

「そうね……えっ?」

「『魔王からは逃げられない』……それは世界の鉄則!」

「いや ちょっと待って!?」

 

 ボクは大きく息を吸うと精神を集中する。

 武技『疾風走破』『超回避』『能力超向上』

 

「アナタ、魔王に会って聞きたいことや知りたいことがあるんだって言ってたじゃない!? 何故戦闘モードに!?」

 

 四本腕の魔王は勇者をゆっくりと見つめると満足そうに頷く。

 

「マズハ剣ヲ交エヨウ トハ ヨキ心懸ケナリ。ワレハ、コキュートス イザ参ラレイ」

 

 そう告げると二本の剣をゆったりと構える。

 

 ――いや 隙の欠片もないぞアレは……しかし放っておけば彼女は死ぬだろう。犬神様もラスボスまで面倒みてくれるかは解らない……ええい!

 

「第4代目ラキュース・アインドラも参る! ゆくぞ魔王!」

 

 ラキュースも勇者を死なせまいと無謀な戦いに身を投じる。

 

 コキュートスは2人の勇士の心情に胸を打たれつつ「魔王?」と不思議に思った。

 敬愛する主の子孫が人間離れしたスピードで捨て身の剣を放ってくる。

 ラキュースと名乗った従者が、主の捨て身の剣を「捨て身」にならぬ様に自らの体を、より捨て身として剣を潜り込ませてくる。

 

 ――ゾクゾクするではないか。

 

 コキュートスは今まで自分が生を受けて以来、一番の多幸感に包まれた。

 

 昔、ナザリックに攻め込んできた1500の敵兵は、ただコキュートスを障害物として排除した。

 リザードマンは素晴らしい戦士だったが技量不足だった。

 ビーストマンは少しは手応えがあったがタダの獣だった。

 何よりもココ(・・)で 自分が守るべく生まれし第五階層では無かった。

 

 しかし、今は違う。

 

 素晴らしい才能に恵まれた戦士が弛まぬ鍛錬と何よりも心の強さで第五階層を守護する私に全身全霊で立ち向かってくる! これが仕合わせと言わず何と言おうか!

 

 この仕合わせを与えて下さった我が主になお一層の忠誠と我が全てを捧げようと誓う。

 

 若い獅子は苛烈な攻撃をコキュートスに繰り出し続ける。

 コキュートスは余裕で受け流しながら相手の強さを観察する。

 (勇者ハ ユグドラシルレベル デ 65……従者ハ32程度カ……)

 その数字はコキュートスにとっては一蹴出来る程度の強度だった。だがコキュートスは知っている。以前 「遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)」で確認した時は今よりも2人とも6レベル程は低かったはずだ。彼女たちの弛まぬ努力により練り上げられた剣技を誰が軽んじられようか?

 

「フフフフ」

 

 突然嬉しそうに笑い出した銀色の魔神に2人は戸惑う

 

「姫 大キクナリマシタナ……」

「えっ 会ったことないけど!?」

「ハハハ オ忘レデスカナ」

「こんな人 会ったら忘れようがないと思う」

「ムッ イケマセン 追手ガ迫ッテオリマス」

 

 振り返ると 雪女郎(フロストヴァージン)が次々とドームの中に入ってくるのが見えた。

 

「いや アレはアナタの仲間なのでは!?」

「サア 早ク! ココハ爺ニオマカセ下サイ」

「もう なにがなにやら……」

「爺だったんだ……」

 

 すると氷の魔神は満足そうに頷くと

「姫、此処ハ爺ニ任セテ先ニ行クノデス。私ハ時間ヲ稼ギマス……ゴ武運ヲ……」

 と凄く嬉しそうに言った。

 

「爺……」

「えっ!? リーダー?」

「姫……」

「続けるの!?」

「爺……死ぬなよ」

「大抵 あの三人が惨殺されると思うけど! というか仲間だと思うんだけど!」

「ハイ……姫モ御無事デ」

「あれ? 私、邪魔!?」

 

 二人は氷の魔神を名残惜しそうに振り返りながら次の階層へと繋がる通路へと向かって歩いて行く。

 そして何かに気づいたように顔を見合わせると

 

「「あの人 ラスボスじゃなかったの!?」」と同時に叫んだ。

 

「くあー ボク『魔王!』とか叫んじゃったよ!」

 

「そこ!? この下にアレより強いラスボスが居ることを恐れましょうよ!」

 

 二人で姦しく通路を下っていく。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 その姿を玉座の間で見守る者達が居る。このナザリックの王にして世界の支配者とその配下達。

いつになく不機嫌そうに玉座に座った彼らの王が口を開く

 

「……コキュートスが全部美味しいところを持って行った件について」

 

「ついに『爺』とまで呼ばせましたね」

 片隅に控えるアルベドが仲間の罪を加速させる。

「……まあ 彼の積年の夢でしたしね……ここは大目にみても宜しいのではないかと」

 コキュートスの友人であるデミウルゴスが庇う。

 

「ようやく第六階層か……第八階層のアレやヴィクティムは使うわけにはいかないし、第七階層のギミックも突破は厳しいだろうなあ」

 

「そうですね……かなり初心者向けに調節したつもりなのですが、何らかの罠にかかってしまう可能性は高いかと」

 

「その場合、恐怖公行きか?」

 

「いえ 御指示通りにハードな物は外してあります」

 

「ふむ……彼女たちのダメージも大きそうだ。ここは前倒しにして第六階層のコロッセウムで対面といこう」

 

「はっ」

 

「では キーノ。 我々の子孫に会いに行こう」

 

「ああ では行くとしよう」

 

 イビルアイは上機嫌で歩きだす。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 広々とした草原。あたりを見渡せば山も空もあるというダンジョンの第六層としては在り得ない光景の中を呆けたように二人は歩み続ける。

「もう何が起こっても驚けない……」

「むちゃくちゃだよ……このダンジョン」

 

 そもそもダンジョンなのだろうか?という疑問すら抱き始めた二人の前に遠くからこちらに向かってくる影が見える。

 

「人?」

 二人は戦闘態勢を取ろうと身構えると近づいてくる影は一人の男性であることが解った。

「あれ? アナタ……三階層で変態吸血鬼から私達を助けてくれたダークエルフの人に似ている?」

「えーと……君たちを助けたのは双子の姉のアウラ。ボクはマーレ。この第六階層の守護者です」

「えっ という事は……この階層のボス?」

「そういうことになる……のかな?」

「くっ 私たちは先へ進まないと行けないの! 立ち塞がるのなら……」

 

 そう言ってラキュースは剣を構える。

「待って! ラキュース!」

「どいてリーダー そいつ殺せない!」

「……力では全てを解決出来ないわ」

「えっ!? いつも『悪・即・斬』を地で行くリーダーが!? モンスターの間で『ドラ(ゴンも)()け(て通る)』の悪名を持つリーダーが!?」

「ワタシを何だと思っているの? もう……ええとお マーレさん。ワタシ、冒険をやってい……」

「リーダーが自分のこと『ワタシ』って言ったあ!?」

「う、うるさい ボクにだってそういう時があるの!」

「色ボケた!? リーダー色ボケた!? なに! こーゆーのがタイプなの? そりゃ浅黒くて顔も整ってるけどっ」

「まあ ダークエルフだからね……」とマーレが突っ込んだ。

「とても精悍な感じがして良いと思います。男らしくって。洗練されていて」

 とリーダーがべた褒めをする。

 

 

 

「確かに子供の頃ずっと女装していたようには見えないわよねー」

「ひっ」

 

 突然横から会話に割って入った闖入者に二人は驚く。

 

「姉さん……あれはぶくぶく茶釜様にそうあれと……」

 マーレが顔を赤くしてモゴモゴと抵抗をする。

 

「あっ 三階層で助けて頂いた……アウラさん」

「ええ ちょっと会わせたい人が居るの……本当はアナタだけの予定だったのだけれど……キーノのたっての希望で、」

 アウラはラキュースを見て「あなたも来てくれる?」と告げる。

 

 有無を言わさぬ迫力に二人は黙って歩き出したダークエルフの姉弟について歩く。すると間もなく遠くに巨大な建造物が視界に入ってきた。

 

「あの……もう色々あり過ぎて驚く気力もないんですが……アレは一体?」

「あれはコロッセウム あそこで君たちを待っている人が居るの」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ もうすぐだな」

 

「そうですわね モモンガ様」

 

「あっ まずはワタシが露払いをするぞ。いきなりは驚くからな」

 

「ああ 頼むぞ キーノ」

 

 

 入場通路からオドオドした二人が特別観覧席に居たモモンガ達からも見える。

「おおっ」という歓声が見守っていた守護者やプレアデスの面々から上がる。

彼らからすれば自分達の敬愛する支配者の御子の中で、唯一成長を見守れなかった子が数百年の時を経てナザリックへと帰還したのだ。

待ち焦がれた瞬間であり、彼らの感動は当然のものであった。

 

 アウラとマーレによって闘技場の中に入った二人は「ここで待ってて」というアウラの声に従い、身を固まらせる。

 すると間もなく忽然と宙にフワリと一人の少女が現れると、二人の前に着陸する。

 少女は冒険者のように外套を着こみ、腰に短剣を差していた。

 異様だったのはその顔に取り付けられている仮面。それが異質な空気を生みだす。

 そんな中で脳天気な声で勇者が口を開く

 

「あれ? 守り神様?」

「え? リーダー知ってる人なの?」

「うん ボクの村の守り神様で村に何か困ったことがあるとフラリと降臨されては解決していってくれるんだ」

「それは親切な人ね でもなぜ守り神?」

「だって 数百年前からずっとだもの」

「えっ」

「ボクも魔法とか習ったんだよー」

「ふっ 久しいのう……あんまり魔法は得意そうじゃなかったがな」

 と守り神が喋り出す。ラキュースが思っていたよりも随分可愛い声だ。

 

「まあねー イビルアイさんも変わらずお元気そうで何よりです」

「うむ オマエも息災でなりよりだ。……で、オマエがラキュースの子孫か」

「え? は え?! ちょっと待って?! 今なんか色々と大事なことが流れた!」

「はい?」

「まずは守り神さんのお名前は……」

「? イビルアイさんだよ?」

「イビルアイ!? あの初代ラキュース・アインドラの盟友の!? あっ 私と一緒で後継者?」

「……いや 本人だぞ」

「っっっ あの! 不老不死だという噂は本当だったのですね!」

「え はい」

「やった! 色々と聞きたいことがあるんです?! ラキュースノートだけじゃ分からないことがあって?!」

 

 

  ――ブー という吹き出す音が遠くから聞こえた。

 

 

「む ラキュースノート……あれは封印の書として我が子に託したハズだが……」

「子? これはボクの一族に代々伝わってきたものなのですが」

「ああ うん……」

 イビルアイはコホンと咳をして声を整える。

 そして仮面を取ると美しい金髪と赤い目で勇者を見据える。

 

「私がオマエの母だ……じゃなくて先祖だ」

 

 

  ――ッアー オレのセリフを盗ったぁー

 

 

 先ほどから時々、遠くから何か悲鳴のような声が聞こえるが、二人にとってはそれどころではない。

 

「そうだったんですか!? それであんなに色々と助けてくれたんですね!」

「あ、ああ」

「いつも見守ってくれて有難うございます!」

 ラキュースは衝撃の事実をすんなりと受け入れる勇者に引きながらもイビルアイに恭しく片膝を突く。

「初めまして。私、ラキュース・アインドラと申します。リーダーとは結婚を前提とした清く(ただ)れた交際をさせて頂いております」

「うん あのな小娘。夜、うちの子のベッドで寝顔を見ながらフーッフーッやるのは止めた方が良いぞ。お祖母ちゃんドン引きだからな」

「見られてたっ!? あうちっ」

「あうちっ じゃないよ!? なにしてるのラキュース!?」

 勇者はラキュースの襟を掴んで頭をガクンガクンと揺さぶる。

「えらく四代目は面白いラキュースに仕上がっているなあ……さて、勇者よ。オマエに会いたいのは私だけでは無い」

「え?」

「母が居るなら父も居る。まあ先祖だがな」

「ということは……」

「うむ オマエの祖先であり我が夫だ……」

「わあ……!」

「……」

「……」

「……」

「……?」

「……『拗ねてないで、早く出てきて下さい……』」

 

 

 

 

 二人の前に黒いモヤが現れる。

 

 

 そのモヤは一瞬にして収縮されて突然辺りが暗闇に包まれたような感覚になる。

 

 

 

 

 そしてナニかが現れた。

 

 

 

 

 

 「フハハハハハ! よくぞ参った勇者よ! さあ、我が腕に抱かれるが良い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ―― ぎにゃゃゃああああああああああああああああ!? 」

 

 

 

 そして、今日一番の悲鳴がコロッセウムに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガさんは「あんなに怯えなくても良いじゃない……」とグレて3日ほど不貞寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 




 
前話をトゥルーエンドという事で綺麗に終わったつもりだったのですが、皆様の面白い感想(妄想?)からインスパイアされて、ノリノリで一気に書き上げてしまいました。

あくまで「後日奇譚」という事で「起こりえるかも知れない未来」という「if物語」だと軽い気持ちで御笑納頂ければ幸いです。

ちなみに第一話(第一章一編)の冒頭部分の続きになります。






ディオ・マックスウェル様、ティーダ様、244様 まりも7007様 誤字脱字修正を有り難う御座います



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