【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
感想、ご意見頂ければ幸いです。
新しいわたし ~待ち合わせ~
…とある土曜日の昼過ぎ…場所はUTXの大画面ヴィジョンの前。
待ち合わせ時間より15分も早く来たのは、小泉花陽だった。
午前中の練習を終え、シャワーを浴び、いつもより控え目に昼食を済ませ、ここに駆けつけた。
いくら先輩後輩禁止のμ'sだとは言え、年下である以上、先に来るのが礼儀だと思ったからだ。
9月も終わりだと言うのに、日差しが強い。
練習中は常に動いているからあまり気にならないが、ただ立っているだけだと、逆に暑さが際立つ。
花陽は薄いブルーを基調としたワンピースを纏っていた。
両袖口にある控えめな感じのリボンと、ポケット部分の切り返しの赤がアクセントとして利いている。
足には白のスニーカー。
オフホワイトのサマーカーディガンを手にしてはいるが、この暑さだと今は着る気になれない。
…帽子を被ってくれば良かったかな…
と少し後悔しながら、手にしたペットボトルのミネラルウォーターを口にした。
さっき買ったばかりなのだが、もう温くなっている。
大画面ヴィジョンの中では、A-RISEが歌っていた。
相変わらず、ダンスにキレがある。
通行人も足を止めて、リズムをとっていた。
花陽も画面を見ながら、頭の中でフリを真似ていた。
しばらく、その映像を眺めていると
「早く来過ぎなんやない?」
と、聞き慣れた関西弁(?)を話す女性が声を掛けてきた。
薄い紫のブラウスと真っ白なマキシスカート、そしてミュールを履いて現れたのは…東條希。
花陽の待ち合わせの相手は、彼女だった。
希は格好は、中にタンクトップを着ているが、ブラウスのボタンを何個か外しており、また裾をお腹の辺りで結んでいる為、豊かな胸がより強調されている。
普段そのボリュームを見慣れている花陽でも、一瞬、目のやり場に困った。
そして陽の光りの加減で、時おりスカートから透けて見える脚のラインも大人の女を演出していた。
「ウチ、何かついてるん?」
しばし、ぽぅ…っと見とれていた花陽に希が声を掛けた。
「あ、いえ、なんでもないです…」
少しうろたえて答えた花陽。
「花陽ちゃんのことだから、早く来るんやないかと思って、ウチも早めに出たんやけど…待たせちゃたかな?」
「ご、ごめんなさい。わ、わりと早く準備が…出来ちゃったので…」
いつもより大人っぽく見える希に、ドギマギしながら答える花陽。
「直ぐに謝ったらいかんよ。花陽ちゃんの悪い癖やん」
「は、はい。ごめんなさい…」
「ほら!」
「あっ!!」
花陽が慌てて手で口を押さえる。
その仕草を見て、希が笑った。
…本当に可愛いんやから…
「えっ?」
希が笑ったのを見て、花陽は怪訝そうな顔をする。
希は…なんでもないんよ…と、悪戯っぽくウインクをして見せた。
「じゃあ、少し早いけど…行こうか?」
「は、はい。今日は宜しくお願いします!」
花陽は深々と頭を下げた。
「そんな固くなったらいかんよ。どっちかというと、付き合ってもらうのはウチなんやし」
「そう…なんですけど…」
「緊張してるん?」
「そ、そんなこと…。あ、いや、少しだけ…」
「あるんや?」
「μ'sのメンバーで『凛ちゃん』以外の人と2人きりで出掛けるのって、初めだから…」
「安心しぃや」
「えっ?」
「ウチも『えりち』以外のメンバーと2ショットは初めてや」
「えっ?」
「だからウチも緊張してるんよ。花陽ちゃんをどうエスコートしてあげようか…って」
花陽は希の顔をまじまじと見たが、何処まで本心かわからなかった。
「いいやん。お互い初デートってことやろ?これはこれで貴重やん。折角やから、今日は花陽ちゃんの隅から隅まで調べまくって、より深い仲になるチャンスやね」
…と、言いながら希はいつもの「ワシワシ」をするフリをした。
「ぴぁあ!」
…と、大袈裟に驚く花陽。
「ワシワシは無しですよ」
「う~ん、困った!約束出来ひん…」
「なら、帰ります!」
「冗談やって!冗談!」
…凛ちゃんのセリフやないけど、こういう困り顔の花陽ちゃんを見るのも、嫌いじゃないんよ…
…適度に苛めてみたくなるのも、魅力のひとつやね…
と、希は軽く微笑む。
2人は大画面ヴィジョンの前の階段を降りて、秋葉原駅の改札に向かった。
ここ数年の秋葉原は、外国人観光客がとにかく多い。
もちろん、家電品を買いにくる人が大半なのだろうが、オタク文化の聖地として、人気は未だに衰えを知らない。
駅の構内では、日替わり…或いは週替わりで様々なイベントが催されている。
それは時には地方の物産展であったり、時には最先端タブレットの発売キャンペーンだったりする。
もちろん秋葉原らしく、新作アニメのイベントも行われたりする。
そして今日は…
「スクールアイドル特集?」
花陽が小声で呟いた。
どうやら、にこや花陽が通うアイドルショップが出張販売しているようだった。
一番大きなスペースを確保しているのはA-RISEで、さすがに人だかりも多い。
しかしμ'sのスペースにも、負けじと人が集まっている。
中には明らかに「西洋人」と思われるカップルもいた。
2人は、彼らがμ'sのどのメンバーの、どんなグッズを買っていくんだろう…と、大いに気になった。
そして良く見ていきたいという衝動に駈られたが…結局、素知らぬフリをして、通り過ぎた。
仮にそこに本人が現れたら、パニックになるのでは…と考えたからだ。
「自意識過剰…かな?」
「でも、μ'sのブースにいたのですから、やっぱりファンの人だと…」
「なら、懸命な判断かもしれんね…」
そう言うと2人は中央線・総武線のホームへと足を急がせた…。
~つづく~