【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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ことり編は一旦、完結です。






心のメロディ その19 ~アンコール~

 

 

 

最後のチームのパフォーマンスが終わった。

 

 

 

期せずして起きるアンコールの声と手拍子。

それは会場中を包み込んだ。

 

ステージ上では想定外の出来事に慌てふためくスタッフが、右往左往している。

 

 

 

その頃、大会運営本部の事務所では…

 

 

 

「委員長、どうしましょう?確かに優勝チームには、もう一回パフォーマンスを披露してもらうことになっていましたが…」

委員長と呼ばれた中年の男は

「どうも、こうも…これで、やらなかったら大ブーイングじゃないですか」

と穏やかな口調でそう言った。

「いや、しかし…優勝チーム発表の前に、それは…」

「まぁ、ちょっとデキレースっぽく見えちゃいますけどね」

「そうですよ」

「でも会場もわかってるんじゃないですか?…どのチームが優勝したのか…は」

「委員長…」

「たまたま、そのチームの出演順が最後だった…というだけで」

「はぁ…」

「他の出演チームも、理解してくれると思いますよ」

「だといいのですが…」

「私が言うのもなんですが、それだけの実力差がありました。…あなたはどう思います?」

「…異論はありません…」

「彼女たちに伝えてください。今すぐ『アンコール』の準備をしてくださいと」

「は、はい!わかりました!」

 

大会委員長に指示された男は、部屋を出て優勝チームのもとへと向かった。

 

「いかがでしたか?水谷さん」

と、委員長は室内にいた別の男に問い掛ける。

「さすがにこれだけの長丁場ですからね…中弛みした感は否めませんが…」

「そうですね。次回は半数くらいに絞った方が良いですかね?」

「個人的にはそう思いますが。それと…やはりA-RISEが観られなかったのは残念です」

「えぇ、まぁ、それについては…。ここだけの話、A-RISEが予選で敗退することは想定外でしたので…」

「しかし、それに替わるチームがちゃんと出てきた…と…」

「はい、嬉しい誤算です…で、他にスポンサーとしてのご意見は?」

「ははは…まだ『なる』と決めたわけではありませんよ」

「では『なる』ことを前提に…ご意見を頂けないですか?」

「そうですね…もし次回、本当にアキバドームでやるのであれば、それだけの集客をしなければならないと思います…が…正直、今のままでは厳しいと思いますよ」

「…キャパはここの10倍近くになりますからね」

「…で、あるなら…A-RISEや彼女たちに協力してもらう必要があるでしょうね」

「…といいますと?」

「まぁ、具体的なプランは何も考えていませんが…大々的な宣伝活動は必要でしょう」

「そうですね」

「…とは言え…今の世の中、世界的な著名人がSNSやフェイスブックで評価をすれば、それが全世界に広まる訳ですから、宣伝自体はそんなに難しいことではないですよ」

「なるほど」

「…そうさせたいが為に、私に声をかけたのではないですか?…」

「その通りです」

委員長は、表情を崩して頷いた。

「まぁ、私も興味がなければ、ここまで来たりしませんが」

と、水谷もつられるように笑う。

 

「私はクールジャパンを世界に売り出すコンテンツとして、このスクールアイドルというのは、非常に有用だと思ってるんですよ。ゆくゆくは世界大会を開きたい…それだけの可能性を秘めてると思ってます」

委員長は静かに、だが力強く語った。

「コスプレの要素も過分に含んでいますからね」

「さすが、わかってらっしゃる」

「ただし、旬の時期は短いですよ?」

「それもわかってます。ですが、やるなら今しかないので」

「…どこかの予備校のCMみたいですね…。ふむ…わかりました。まぁ、私も彼女たちとは『浅からぬ縁』がありますので…」

「例の?」

「そう、敢えて言うなら『同じ釜の飯を食った仲』ってとこですかね…。なので前向きに検討させて頂きますよ」

「ありがとうございます」

 

彼らの商談がまとまったところに、先ほど部屋を出ていった男が帰ってきた。

「アンコール、準備OKです!」

「ご苦労様。では水谷さん、彼女たちのパフォーマンスをもう一回観させてもらいましょう」

「ええ…」

 

 

 

 

ステージの上に、先ほどとは別の衣装に着替えた、9人の少女たちが戻ってきた。

 

4千人強の観客席が、スタンディングオベーションで出迎える。

 

その中には…A-RISEの3人もいた。

 

周りの雰囲気に流されて、拍手をしていた訳ではない。

心から祝福したい…そう思っていた。

 

 

 

…心技体って言うけど、どれも完璧だった…

…まさに圧勝!…

…知名度、会場、出演順…この大会はすべてがμ'sに味方したことは間違いない…

…でも、それをプレッシャーとせず、あれだけのパフォーマンスをしたということに、拍手を贈りたい!…

…おめでとう、μ's!…

…おめでとう、高坂穂乃果さん!…

 

…同じステージに立てなかったのが心残りだが…

…もう、あなたたちとは闘えないのか…

…小泉さん…待ってるぞ…いつか私たちの世界にくることを!…

 

…彼女たちがどういう選択をしたとしても、あの娘たちはA-RISEのライバルだよ…

…永遠に…

…今日観たパフォーマンスは、私たちの心の中で生き続けるの…

…メロディも詩もダンスも…9人の表情も…

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂のスクールアイドルがアンコールのパフォーマンスを終えると、ツバサは席を離れ、会場を後にした。

「表彰式、観なくていいの?」

あんじゅが、その背中に問う。

「観るだけムダよ。優勝チームはわかってるし…悔しさが増幅されるだけだわ」

「まぁ、そうだな…」

英玲奈は頷いた。

「彼女たち、どうするんだろうね?」

「あんじゅは…どう思う?」

「そうねぇ…スッパリ辞めちゃうんじゃないかしら」

「私もそんな気がするのだが…」

「そうか…そうだね…」

「ツバサ…」

「スクールアイドルも辞めてしまうのだろうか…」

「それは…」

「どうだろう…」

 

自分たちは同学年の3人で活動しており『卒業=スクールアイドルでなくなる』ことに抵抗はない。

 

だが、彼女たちの立場となった時…どうしたらよいのかということは、やはり簡単には答えが出せないだろう…と感じていた。

 

「私たちが心配しても、どうにもならないんだけどね…」

ツバサはポツリと呟いた。

 

「あんじゅ!英玲奈!」

「なぁに?」

「どうした?」

「私は…私は…残念ながら高坂穂乃果にはなれない!」

「?」

「?」

「綺羅ツバサは綺羅ツバサだ。高坂穂乃果ではない。彼女のように明るく、真っ直ぐにチームを引っ張ることはできない!…だけど…だけど…こんな私に着いてきてくれるか?」

「…うふふ…今更ぁ?」

「あははは…なにを言い出すかと思えば…」

「笑わないでよ!こっちは真面目に話してるんだから」

「大丈夫!私たちは私たち。高坂さんとツバサを較べたりなんかしないよ」

「ツバサがああいうキャラになっても困るしな」

「英玲奈の言う通り!」

「…うん、ありがとう…ありがとう…」

「よしてよ…」

「バカバカしい」

「これから先は、相当な覚悟がなければやっていけない世界だけど…」

「そうね」

「わかってる」

あんじゅが…英玲奈が…ツバサの目を見る。

するとツバサは、それを避けるかのように視線を逸らした。

「バカ…そんな顔でこっちを見ないでよ…」

「もう、あと何日かで…」

「卒業…するんだな…」

「そう。スクールアイドルとしてのA-RISEはもう終わり。これからは『ただの』A-RISEになる…」

「…ただのA-RISEねぇ…」

「…ただのA-RISEか…」

 

あんじゅも、英玲奈も…そしてツバサも…高校を卒業して社会人になる…いや芸能界入りすることに、戸惑いを隠せないでいた。

 

それが夢であったにもかかわらず…。

 

 

 

 

 

心のメロディ

~完~






なんだかんだで、ちょうど100話となりました。
アニメでは、このあと最終回となるわけですが…後日談(劇場版)までは、もう少し書こうかな…と思ってます。

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