【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
ことり編は一旦、完結です。
最後のチームのパフォーマンスが終わった。
期せずして起きるアンコールの声と手拍子。
それは会場中を包み込んだ。
ステージ上では想定外の出来事に慌てふためくスタッフが、右往左往している。
その頃、大会運営本部の事務所では…
「委員長、どうしましょう?確かに優勝チームには、もう一回パフォーマンスを披露してもらうことになっていましたが…」
委員長と呼ばれた中年の男は
「どうも、こうも…これで、やらなかったら大ブーイングじゃないですか」
と穏やかな口調でそう言った。
「いや、しかし…優勝チーム発表の前に、それは…」
「まぁ、ちょっとデキレースっぽく見えちゃいますけどね」
「そうですよ」
「でも会場もわかってるんじゃないですか?…どのチームが優勝したのか…は」
「委員長…」
「たまたま、そのチームの出演順が最後だった…というだけで」
「はぁ…」
「他の出演チームも、理解してくれると思いますよ」
「だといいのですが…」
「私が言うのもなんですが、それだけの実力差がありました。…あなたはどう思います?」
「…異論はありません…」
「彼女たちに伝えてください。今すぐ『アンコール』の準備をしてくださいと」
「は、はい!わかりました!」
大会委員長に指示された男は、部屋を出て優勝チームのもとへと向かった。
「いかがでしたか?水谷さん」
と、委員長は室内にいた別の男に問い掛ける。
「さすがにこれだけの長丁場ですからね…中弛みした感は否めませんが…」
「そうですね。次回は半数くらいに絞った方が良いですかね?」
「個人的にはそう思いますが。それと…やはりA-RISEが観られなかったのは残念です」
「えぇ、まぁ、それについては…。ここだけの話、A-RISEが予選で敗退することは想定外でしたので…」
「しかし、それに替わるチームがちゃんと出てきた…と…」
「はい、嬉しい誤算です…で、他にスポンサーとしてのご意見は?」
「ははは…まだ『なる』と決めたわけではありませんよ」
「では『なる』ことを前提に…ご意見を頂けないですか?」
「そうですね…もし次回、本当にアキバドームでやるのであれば、それだけの集客をしなければならないと思います…が…正直、今のままでは厳しいと思いますよ」
「…キャパはここの10倍近くになりますからね」
「…で、あるなら…A-RISEや彼女たちに協力してもらう必要があるでしょうね」
「…といいますと?」
「まぁ、具体的なプランは何も考えていませんが…大々的な宣伝活動は必要でしょう」
「そうですね」
「…とは言え…今の世の中、世界的な著名人がSNSやフェイスブックで評価をすれば、それが全世界に広まる訳ですから、宣伝自体はそんなに難しいことではないですよ」
「なるほど」
「…そうさせたいが為に、私に声をかけたのではないですか?…」
「その通りです」
委員長は、表情を崩して頷いた。
「まぁ、私も興味がなければ、ここまで来たりしませんが」
と、水谷もつられるように笑う。
「私はクールジャパンを世界に売り出すコンテンツとして、このスクールアイドルというのは、非常に有用だと思ってるんですよ。ゆくゆくは世界大会を開きたい…それだけの可能性を秘めてると思ってます」
委員長は静かに、だが力強く語った。
「コスプレの要素も過分に含んでいますからね」
「さすが、わかってらっしゃる」
「ただし、旬の時期は短いですよ?」
「それもわかってます。ですが、やるなら今しかないので」
「…どこかの予備校のCMみたいですね…。ふむ…わかりました。まぁ、私も彼女たちとは『浅からぬ縁』がありますので…」
「例の?」
「そう、敢えて言うなら『同じ釜の飯を食った仲』ってとこですかね…。なので前向きに検討させて頂きますよ」
「ありがとうございます」
彼らの商談がまとまったところに、先ほど部屋を出ていった男が帰ってきた。
「アンコール、準備OKです!」
「ご苦労様。では水谷さん、彼女たちのパフォーマンスをもう一回観させてもらいましょう」
「ええ…」
ステージの上に、先ほどとは別の衣装に着替えた、9人の少女たちが戻ってきた。
4千人強の観客席が、スタンディングオベーションで出迎える。
その中には…A-RISEの3人もいた。
周りの雰囲気に流されて、拍手をしていた訳ではない。
心から祝福したい…そう思っていた。
…心技体って言うけど、どれも完璧だった…
…まさに圧勝!…
…知名度、会場、出演順…この大会はすべてがμ'sに味方したことは間違いない…
…でも、それをプレッシャーとせず、あれだけのパフォーマンスをしたということに、拍手を贈りたい!…
…おめでとう、μ's!…
…おめでとう、高坂穂乃果さん!…
…同じステージに立てなかったのが心残りだが…
…もう、あなたたちとは闘えないのか…
…小泉さん…待ってるぞ…いつか私たちの世界にくることを!…
…彼女たちがどういう選択をしたとしても、あの娘たちはA-RISEのライバルだよ…
…永遠に…
…今日観たパフォーマンスは、私たちの心の中で生き続けるの…
…メロディも詩もダンスも…9人の表情も…
音ノ木坂のスクールアイドルがアンコールのパフォーマンスを終えると、ツバサは席を離れ、会場を後にした。
「表彰式、観なくていいの?」
あんじゅが、その背中に問う。
「観るだけムダよ。優勝チームはわかってるし…悔しさが増幅されるだけだわ」
「まぁ、そうだな…」
英玲奈は頷いた。
「彼女たち、どうするんだろうね?」
「あんじゅは…どう思う?」
「そうねぇ…スッパリ辞めちゃうんじゃないかしら」
「私もそんな気がするのだが…」
「そうか…そうだね…」
「ツバサ…」
「スクールアイドルも辞めてしまうのだろうか…」
「それは…」
「どうだろう…」
自分たちは同学年の3人で活動しており『卒業=スクールアイドルでなくなる』ことに抵抗はない。
だが、彼女たちの立場となった時…どうしたらよいのかということは、やはり簡単には答えが出せないだろう…と感じていた。
「私たちが心配しても、どうにもならないんだけどね…」
ツバサはポツリと呟いた。
「あんじゅ!英玲奈!」
「なぁに?」
「どうした?」
「私は…私は…残念ながら高坂穂乃果にはなれない!」
「?」
「?」
「綺羅ツバサは綺羅ツバサだ。高坂穂乃果ではない。彼女のように明るく、真っ直ぐにチームを引っ張ることはできない!…だけど…だけど…こんな私に着いてきてくれるか?」
「…うふふ…今更ぁ?」
「あははは…なにを言い出すかと思えば…」
「笑わないでよ!こっちは真面目に話してるんだから」
「大丈夫!私たちは私たち。高坂さんとツバサを較べたりなんかしないよ」
「ツバサがああいうキャラになっても困るしな」
「英玲奈の言う通り!」
「…うん、ありがとう…ありがとう…」
「よしてよ…」
「バカバカしい」
「これから先は、相当な覚悟がなければやっていけない世界だけど…」
「そうね」
「わかってる」
あんじゅが…英玲奈が…ツバサの目を見る。
するとツバサは、それを避けるかのように視線を逸らした。
「バカ…そんな顔でこっちを見ないでよ…」
「もう、あと何日かで…」
「卒業…するんだな…」
「そう。スクールアイドルとしてのA-RISEはもう終わり。これからは『ただの』A-RISEになる…」
「…ただのA-RISEねぇ…」
「…ただのA-RISEか…」
あんじゅも、英玲奈も…そしてツバサも…高校を卒業して社会人になる…いや芸能界入りすることに、戸惑いを隠せないでいた。
それが夢であったにもかかわらず…。
心のメロディ
~完~
なんだかんだで、ちょうど100話となりました。
アニメでは、このあと最終回となるわけですが…後日談(劇場版)までは、もう少し書こうかな…と思ってます。