【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

103 / 121
やりたいことは その3 ~甘い誘惑~

 

 

 

 

 

「穂乃果…あなたのいい加減さには、ほとほと愛想が尽きました…」

そう言ってホテルのベッドに横たわり、泣き崩れているのは…海未。

 

彼女がそうなったのには、理由がある。

 

μ'sのメンバー9人を乗せた飛行機は、無事にニューヨークに到着。

 

3台のタクシーに分乗し、ホテルを目指したのだが…

 

海未、ことり、凛の3人は『穂乃果が誤って書いたメモ』のせいで、いわゆる『ハーレム街のホテル』に、その身を送られてしまう。

 

ニューヨークの…都会的なイメージとは程遠い、廃墟のようなホテルを前にして立ち尽くす3人。

当然、そこにメンバーの姿はなく…渡米早々、仲間とはぐれる。

 

「本当にここなのですか?なぜ、みんなはいないのですか?私たちはこのあとどうなるのですか!あぁ、神様仏様…」

海未の思考能力は完全に停止した。

 

しかし、この状況で意外と冷静だったのは、凛。

穂乃果が書いたメモと、聴いていた宿泊先のホテル名が違うことに気付く。

 

誤りを認識した3人は再びタクシーに乗り、30分程遅れて、ようやくメンバーの待つホテルへと辿り着いた。

 

 

 

そして海未の怒りの矛先は、穂乃果に向けられ…冒頭のセリフとなったわけである。

 

 

 

「いやぁ、ちゃんと書き写したハズだったんだけど…」

穂乃果は、敢えて明るい声で振る舞った。

ここで暗い顔をして「ごめん…」などと言おうものなら、楽しい旅の始まりも、テンションがだだ下がりになってしまう。

 

だが、それは今の海未には通じるハズもなく

「笑って誤魔化さないでください!今日という今日は許しません!あなたのその雑で、おおざっぱで、お気楽な性格が、どれだけの迷惑と混乱を引き起こしてると思っているのです!?凛が、正しいホテル名を覚えていたから助かりましたが…そうでなければ今頃私たちの命は…」

「大袈裟にゃ…」

「大袈裟ではありません!」

「ひゃっ!」

海未の鬼のような形相に、思わず凛は…それこそ猫みたいに、飛び上がって後ろに下がった。

「でも海未ちゃん…無事にホテルに着いたんだし…」

一緒に遭難しそうになったことりが、海未を慰める。

「そうやね!旅先で迷うことなんか、よくあることやん!」

「嫌です!そんな慰めは聴きたくありません!」

「いい加減にしなさいよ!少なくともメモの内容を確認していなかったのは、海未のミスでしょ?凛はちゃんと覚えてたわけだから、穂乃果のせいだけにするのは、違うんじゃないの?初めての海外で不安があったりするのはわかるけど…ちょっと、怯え過ぎ」

ピシャリと言ったのは、真姫。

「…」

そう指摘された海未は、反論できず言葉を失ない、枕に顔を埋めてしまった。

 

 

 

…さて、どうしたものか…

 

 

 

部屋の中は、海未のシクシクと泣く声だけが響く。

 

 

 

「…海未ちゃん、みんなの部屋見に行かない?」

「ホテルのロビーもすごかったわよ…」

「じゃあ近くのカフェに…」

ことりが、絵里が、穂乃果が…次々と声を掛けるが、海未からの返答はない。

お手上げ…と、それぞれが顔を見合わせる。

 

 

 

そんな淀んだ空気を変えたのは

「あの…取り敢えず、お茶しませんか?穂むらのお饅頭持ってきたので…」

という花陽の一言だった。

 

 

 

一瞬、海未の嗚咽が止まる。

 

 

 

「なんでニューヨークまで来て、お饅頭なのよ!」

「そもそもどうして持ってるのよ!」

にこと真姫が、素早く反応した。

「こっちのスタッフの人用に、日本からの手土産として持ってきたんだけど…和のモノって、喜ばれるでしょ?」

「さすが花陽ちゃん、気が利くやん!」

「えへへ…でも1箱くらいは、みんなで食べてもいいかな…なんて」

「そうね。一旦、落ち着きましょうか」

「そうやね。ウチも丁度お腹が空いてたんよ!」

希が絵里に話を合わせる。

「じゃあ、それを食べたら明日からの予定を決めちゃいましょ」

「だから、絵里!それを仕切るのはアタシなんだってば!」

「どうするん?えりちたちの部屋が一番広いから、あっちに行くけど…」

 

…だきま…

海未が蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「えっ?」

「海未ちゃん、今、なにか言った?」

 

「…折角なので…いただきます…」

 

 

 

…食べるんかい!…

…食べるんだ…

 

にこと真姫の心の声。

 

 

 

…花陽ちゃん、ファインプレーや…

…花陽、ハラショーです!…

 

これは、希と絵里。

 

 

 

…ふふふ…海未ちゃん、本当に穂むらのお饅頭大好きだね…

…花陽ちゃん、ナイスフォロー!助かったよ…

 

ことりと穂乃果。

 

 

 

…さすが、かよちん!…とても、真似できないにゃ…

 

凛は尊敬の眼差しで、花陽を見ていた。

 

 

 

「でも、ここに日本茶は…」

「大丈夫です、穂乃果ちゃん!花陽、持って来ましたよ!…ティーバッグですけどね…。だって、ご飯のあとは、やっぱり日本茶じゃないですか!」

「ぬ、抜け目ないね…」

穂乃果は用意周到な花陽に、あはは…と笑った。

 

 

 

 

 

「ふぅ…そもそも、なぜニューヨークなのですか?ライブなら日本で十分じゃありませんか…」

穂むらの饅頭を食べ終わり、少しホッとしたのか、海未の顔に生気が戻ってきた。

「またその話?」

と明らかに面倒くさそうな真姫。

「海未ちゃん、お母さんが言ってたでしょ?こっちのテレビ局から、スクールアイドルを紹介したいから…って、μ'sにオファーが…」

「本当にすごいことにゃ~!」

「それは何度も聴きました」

「海未ちゃん、よく聴いてください。次回の開催を検討しているアキバドームの収容人数は、今回、私たちが歌った会場のおよそ10倍です!ラブライブの認知度が高まったとはいえ、まだまだ一部のネットユーザーを中心としたもの。今の実績だけでは会場を抑えることは難しいんです」

花陽が一気に捲し立てた。

「そこで、このライブ中継でさらに火を点けてて」

「ドーム大会実現への実績を作ろうというわけやね」

絵里と希が言葉を引き継ぐ。

「それで本当に効果は出るのでしょうか?」

「どうやろね…。でも今回の中継はネットだけやなく、TVでも放送されるみたいやし、グッと認知度が高まることは、間違いないと思うんやけどね」

「…もしドーム大会が実現したら、μ'sはゲストとして呼ばれるわよね?」

「…わからないけど…可能性はあるんじゃない…」

にこの発言を右から左に流す真姫。

「うふっ!にこのためにドームに詰めかける何万もの観衆!きゃ~!ス・テ・キ!」

 

「…気持ち悪い…」

 

「な…」

 

にこは真姫から痛恨の一撃をくらった…。

 

 

 

 

 

 

「私、あの鉛筆みたいなビル登りた~い!」

「エンパイア・ステート・ビルやね?」

「あ、それは凛も知ってるにゃ!確か…ゴジラが登ったとこだよね」

「違うよ、凛ちゃん…キングゴングだよ」

「そっか!さすが、かよちん!」

「ことりはミッドタウンでショッピングしたいな!」

「やっぱり自由の女神は外せないにゃ」

「アタシは、時間があったらブロードウェイミュージカルを観たみたい」

「私は何回か来てるから…メトロポリタン美術館…もしくは近代美術館」

「ん?嫌味?」

「あなたたちは、ここに何しに来たと思ってるんですか?」

「なんだっけ?」

「観光?」

「ライブです!!」

「いや、海未ちゃん…そんな真顔で突っ込まなくても…」

「お約束のボケにゃ…」

「大切なライブがあるのです!観光などしている暇はありません!幸い、ホテルのジムにはスタジオも併設されているようです そこで練習しましょう。外には出ずに!!」

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

「わざわざ来たのに?合宿やないんやから」

「合宿だって、遊んでばかりだったじゃないですか!」

「いやいや、海未ちゃん…そうは言ってもニューヨークやん!少しくらいは…」

「ダメです!また迷子になるのはゴメンです!」

 

 

 

…よっぽど怖かったんやね…

 

 

 

「大丈夫、大丈夫!街の人、みんな優しそうだっ…」

「穂乃果の言うことは一切信じません!」

「たははは…まいったね、これは…」

「海未…」

「はい、なんでしょう?」

「確かに、ラブライブ優勝者としても、このライブ中継は疎かに出来ないわ」

「絵里…その通りです」

「でも、歌う場所と内容に関しては、私たちからも希望を出してくれ…って言われているの。だから、この街のどこで歌えばμ'sらしく見えるのか…街を周って、考えてみる必要があるんじゃないかしら…。それとも、スタジオからライブをやるつもり?」

「え…いやそれは…」

「そうだよ、そうだよぅ!絵里ちゃんの言う通り!」

「穂乃果は調子に乗らないの!」

「はい…すみません…」

「だから朝はちゃんと早起きして、そのあと練習。それが終わってから、歌いたい場所を探しに出かけるというのはどう?」

「私はそれでいいと思う!」

「ことり?…」

「だって海未ちゃん、やっぱり、もったいないよ。折角ニューヨークまで来たんだから、楽しまなきゃ損だよ」

「絵里の意見に賛成の人…」

にこが挙手を募る。

 

結果は…言わずもがな。

海未以外は賛成だった。

 

「決まりやね」

「よ~し!そうと決まったらご飯にしよう!」

穂乃果が両の腕を突き上げて叫ぶ。

 

対照的に海未は、深く大きな溜め息を吐くと、その場にへたりこんだ…。

 

 

 

 

 

~つづく~


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。