【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「穂乃果…あなたのいい加減さには、ほとほと愛想が尽きました…」
そう言ってホテルのベッドに横たわり、泣き崩れているのは…海未。
彼女がそうなったのには、理由がある。
μ'sのメンバー9人を乗せた飛行機は、無事にニューヨークに到着。
3台のタクシーに分乗し、ホテルを目指したのだが…
海未、ことり、凛の3人は『穂乃果が誤って書いたメモ』のせいで、いわゆる『ハーレム街のホテル』に、その身を送られてしまう。
ニューヨークの…都会的なイメージとは程遠い、廃墟のようなホテルを前にして立ち尽くす3人。
当然、そこにメンバーの姿はなく…渡米早々、仲間とはぐれる。
「本当にここなのですか?なぜ、みんなはいないのですか?私たちはこのあとどうなるのですか!あぁ、神様仏様…」
海未の思考能力は完全に停止した。
しかし、この状況で意外と冷静だったのは、凛。
穂乃果が書いたメモと、聴いていた宿泊先のホテル名が違うことに気付く。
誤りを認識した3人は再びタクシーに乗り、30分程遅れて、ようやくメンバーの待つホテルへと辿り着いた。
そして海未の怒りの矛先は、穂乃果に向けられ…冒頭のセリフとなったわけである。
「いやぁ、ちゃんと書き写したハズだったんだけど…」
穂乃果は、敢えて明るい声で振る舞った。
ここで暗い顔をして「ごめん…」などと言おうものなら、楽しい旅の始まりも、テンションがだだ下がりになってしまう。
だが、それは今の海未には通じるハズもなく
「笑って誤魔化さないでください!今日という今日は許しません!あなたのその雑で、おおざっぱで、お気楽な性格が、どれだけの迷惑と混乱を引き起こしてると思っているのです!?凛が、正しいホテル名を覚えていたから助かりましたが…そうでなければ今頃私たちの命は…」
「大袈裟にゃ…」
「大袈裟ではありません!」
「ひゃっ!」
海未の鬼のような形相に、思わず凛は…それこそ猫みたいに、飛び上がって後ろに下がった。
「でも海未ちゃん…無事にホテルに着いたんだし…」
一緒に遭難しそうになったことりが、海未を慰める。
「そうやね!旅先で迷うことなんか、よくあることやん!」
「嫌です!そんな慰めは聴きたくありません!」
「いい加減にしなさいよ!少なくともメモの内容を確認していなかったのは、海未のミスでしょ?凛はちゃんと覚えてたわけだから、穂乃果のせいだけにするのは、違うんじゃないの?初めての海外で不安があったりするのはわかるけど…ちょっと、怯え過ぎ」
ピシャリと言ったのは、真姫。
「…」
そう指摘された海未は、反論できず言葉を失ない、枕に顔を埋めてしまった。
…さて、どうしたものか…
部屋の中は、海未のシクシクと泣く声だけが響く。
「…海未ちゃん、みんなの部屋見に行かない?」
「ホテルのロビーもすごかったわよ…」
「じゃあ近くのカフェに…」
ことりが、絵里が、穂乃果が…次々と声を掛けるが、海未からの返答はない。
お手上げ…と、それぞれが顔を見合わせる。
そんな淀んだ空気を変えたのは
「あの…取り敢えず、お茶しませんか?穂むらのお饅頭持ってきたので…」
という花陽の一言だった。
一瞬、海未の嗚咽が止まる。
「なんでニューヨークまで来て、お饅頭なのよ!」
「そもそもどうして持ってるのよ!」
にこと真姫が、素早く反応した。
「こっちのスタッフの人用に、日本からの手土産として持ってきたんだけど…和のモノって、喜ばれるでしょ?」
「さすが花陽ちゃん、気が利くやん!」
「えへへ…でも1箱くらいは、みんなで食べてもいいかな…なんて」
「そうね。一旦、落ち着きましょうか」
「そうやね。ウチも丁度お腹が空いてたんよ!」
希が絵里に話を合わせる。
「じゃあ、それを食べたら明日からの予定を決めちゃいましょ」
「だから、絵里!それを仕切るのはアタシなんだってば!」
「どうするん?えりちたちの部屋が一番広いから、あっちに行くけど…」
…だきま…
海未が蚊の鳴くような声で呟いた。
「えっ?」
「海未ちゃん、今、なにか言った?」
「…折角なので…いただきます…」
…食べるんかい!…
…食べるんだ…
にこと真姫の心の声。
…花陽ちゃん、ファインプレーや…
…花陽、ハラショーです!…
これは、希と絵里。
…ふふふ…海未ちゃん、本当に穂むらのお饅頭大好きだね…
…花陽ちゃん、ナイスフォロー!助かったよ…
ことりと穂乃果。
…さすが、かよちん!…とても、真似できないにゃ…
凛は尊敬の眼差しで、花陽を見ていた。
「でも、ここに日本茶は…」
「大丈夫です、穂乃果ちゃん!花陽、持って来ましたよ!…ティーバッグですけどね…。だって、ご飯のあとは、やっぱり日本茶じゃないですか!」
「ぬ、抜け目ないね…」
穂乃果は用意周到な花陽に、あはは…と笑った。
「ふぅ…そもそも、なぜニューヨークなのですか?ライブなら日本で十分じゃありませんか…」
穂むらの饅頭を食べ終わり、少しホッとしたのか、海未の顔に生気が戻ってきた。
「またその話?」
と明らかに面倒くさそうな真姫。
「海未ちゃん、お母さんが言ってたでしょ?こっちのテレビ局から、スクールアイドルを紹介したいから…って、μ'sにオファーが…」
「本当にすごいことにゃ~!」
「それは何度も聴きました」
「海未ちゃん、よく聴いてください。次回の開催を検討しているアキバドームの収容人数は、今回、私たちが歌った会場のおよそ10倍です!ラブライブの認知度が高まったとはいえ、まだまだ一部のネットユーザーを中心としたもの。今の実績だけでは会場を抑えることは難しいんです」
花陽が一気に捲し立てた。
「そこで、このライブ中継でさらに火を点けてて」
「ドーム大会実現への実績を作ろうというわけやね」
絵里と希が言葉を引き継ぐ。
「それで本当に効果は出るのでしょうか?」
「どうやろね…。でも今回の中継はネットだけやなく、TVでも放送されるみたいやし、グッと認知度が高まることは、間違いないと思うんやけどね」
「…もしドーム大会が実現したら、μ'sはゲストとして呼ばれるわよね?」
「…わからないけど…可能性はあるんじゃない…」
にこの発言を右から左に流す真姫。
「うふっ!にこのためにドームに詰めかける何万もの観衆!きゃ~!ス・テ・キ!」
「…気持ち悪い…」
「な…」
にこは真姫から痛恨の一撃をくらった…。
「私、あの鉛筆みたいなビル登りた~い!」
「エンパイア・ステート・ビルやね?」
「あ、それは凛も知ってるにゃ!確か…ゴジラが登ったとこだよね」
「違うよ、凛ちゃん…キングゴングだよ」
「そっか!さすが、かよちん!」
「ことりはミッドタウンでショッピングしたいな!」
「やっぱり自由の女神は外せないにゃ」
「アタシは、時間があったらブロードウェイミュージカルを観たみたい」
「私は何回か来てるから…メトロポリタン美術館…もしくは近代美術館」
「ん?嫌味?」
「あなたたちは、ここに何しに来たと思ってるんですか?」
「なんだっけ?」
「観光?」
「ライブです!!」
「いや、海未ちゃん…そんな真顔で突っ込まなくても…」
「お約束のボケにゃ…」
「大切なライブがあるのです!観光などしている暇はありません!幸い、ホテルのジムにはスタジオも併設されているようです そこで練習しましょう。外には出ずに!!」
「ええっ!?」
「わざわざ来たのに?合宿やないんやから」
「合宿だって、遊んでばかりだったじゃないですか!」
「いやいや、海未ちゃん…そうは言ってもニューヨークやん!少しくらいは…」
「ダメです!また迷子になるのはゴメンです!」
…よっぽど怖かったんやね…
「大丈夫、大丈夫!街の人、みんな優しそうだっ…」
「穂乃果の言うことは一切信じません!」
「たははは…まいったね、これは…」
「海未…」
「はい、なんでしょう?」
「確かに、ラブライブ優勝者としても、このライブ中継は疎かに出来ないわ」
「絵里…その通りです」
「でも、歌う場所と内容に関しては、私たちからも希望を出してくれ…って言われているの。だから、この街のどこで歌えばμ'sらしく見えるのか…街を周って、考えてみる必要があるんじゃないかしら…。それとも、スタジオからライブをやるつもり?」
「え…いやそれは…」
「そうだよ、そうだよぅ!絵里ちゃんの言う通り!」
「穂乃果は調子に乗らないの!」
「はい…すみません…」
「だから朝はちゃんと早起きして、そのあと練習。それが終わってから、歌いたい場所を探しに出かけるというのはどう?」
「私はそれでいいと思う!」
「ことり?…」
「だって海未ちゃん、やっぱり、もったいないよ。折角ニューヨークまで来たんだから、楽しまなきゃ損だよ」
「絵里の意見に賛成の人…」
にこが挙手を募る。
結果は…言わずもがな。
海未以外は賛成だった。
「決まりやね」
「よ~し!そうと決まったらご飯にしよう!」
穂乃果が両の腕を突き上げて叫ぶ。
対照的に海未は、深く大きな溜め息を吐くと、その場にへたりこんだ…。
~つづく~