【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
一般的なマンションのバスルーム。
それほど広いわけではない。
中に入ってきた希が、一歩進んだだけで、花陽と密着するほどの距離となる。
普段はふたつに分け、シュシュで結ばれている希の長い髪…。
しかし、今はそれがほどかれ、器用にタオルで巻かれている。
それ以外は何も身に付けていない。
希の乱入に、髪を洗っていた花陽は驚きのあまり、立ち上がったまま動けない。
希に背を向けて、固まっている。
「花陽ちゃん…」
さっきのテンションとは打って変わって、穏やかな…しかし、寂しげな声。
「の、希ちゃん…?」
希は背後に密着し、花陽の腰からお腹へと自分の両腕を回した。
「ぴゃあ!」
今日、何回目かの花陽の悲鳴。
希の豊かな胸が、花陽の背中に押し付けられる。
…うわっ、うわっ、希ちゃんの胸が…
焦る花陽。
「ワ、ワシワシはなしですよ!」
今日3回目の警告。
「約束出来ひん…って言ったやん…」
「き、聴いてません!」
その刹那…
希は両腕をうまく使って、花陽の身体を「クルッ」と反転させると、その勢いのまま抱きしめた。
「きゃあ!」
花陽が、小さく叫ぶ。
希の顔は花陽の肩口にあり、彼女からはその表情を伺い知ることはできない。
ひんやりとした希の真っ白な肌と、少し上気して火照った花陽の肌が触れ合う。
花陽にとっては、生まれて初めて裸のままの胸と胸とが密着するという、艶かしいシチュエーション。
いつもの彼女なら、きっとすぐに卒倒しているだろう。
それでも、少しだけ冷静になれたのは、希の『異変』がそれを上回っていたからだ。
「希ちゃん…今日、なんか、変です…」
「うん、そやね…。ウチもわかってる」
「なにか…あったんですか…」
「…ごめん、色々迷惑やね…」
「迷惑とか、そんなんじゃ…」
「ウチなぁ…」
言い掛けて、希の言葉が止まる。
…あかん…こんなこと花陽ちゃんに言ったらいかんやん…
…でも…花陽ちゃんにしか言えんのよ…
「ウチなぁ…時々、情緒不安定になるんよ…無性に人恋しくなるっていうか…そのバイオリズムが、今日の花陽ちゃんの存在と合致してしまったん」
希は言葉を止めることが出来なかった。
だが、この言葉には少しだけ嘘が混じっている。
でも、まだ明かせない。
「それは…いつも、ひとりきりだから…ですね…」
花陽の問い掛けに、希は
「それを言い訳にはしたくないんやけど…」
と答えた。
「いいと思います…言い訳にしても」
「ダメな先輩やね…」
「なんでそんなこと言うんですか…μ'sのメンバーは家族だって、希ちゃんがさっき言ったんですよ」
「そうやね…」
「だったら…花陽じゃ、全然チカラになれないかも知れないけど…困ったことがあったら言って下さい!」
「ありがとう、花陽ちゃんは本当に優しい娘やね…。そうしたら…」
「はい…」
「お願い、もう少しだけ、このままでいさせて」
「…はい…」
花陽が返事をすると、希の抱き締める腕の力が強くなった。
お互いの鼓動が響き合っている。
花陽には、希のそれがSOSに感じられた。
初めて見た希の「陰」の部分。
助けてあげなきゃ…と花陽は強く思った。
「希ちゃん…このままだと風邪ひいちゃいますから、一度、湯船に浸かって温まりません?」
「そうやね」
花陽が濡れたままの髪の毛を手で絞ると、タオルを頭に巻いて湯船に入った。
希が掛け湯をしてから後に続く。
2人は向き合っていたが、乳白色に濁ったお湯のお陰で、花陽はそれほど恥ずかしさを感じずにいた。
「花陽ちゃん…」
「は、はい!」
「もうひとつお願いしていいかな…」
「は、はい。出来ることがあれば、何なりと…」
「笑わんといてね…」
「なんですか?」
「今度は、花陽ちゃんに後ろから、ギュッとされたいんやけど…」
「あ、そんなことなら簡単で…って…ええっ!?」
「ダメならいいんよ」
「そんなことを言われたら…でも、これは結構、恥ずかしいです」
「ウチも恥ずかしいんよ」
確かに希の顔は真っ赤だ。
「わかりました…。じゃあ、希ちゃんは、向こうを向いて下さい」
「うん…」
希が湯船の中で、身体の向きを変えた。
「では、失礼して…」
花陽が少し距離を詰めて、希の肩越しから抱き寄せた。
「誰かにギュッてされるのって、なんか幸せやね」
「花陽も、とても穏やかな気持ちになってます」
「お風呂があったかいから?」
「それだけじゃありませんよ。きっと、人と人との温もりを感じるからです」
「さすが花陽ちゃん。ウチには言えないセリフやね」
「そんなこと…」
「ねぇ、花陽ちゃん」
「はい」
「せっかくその格好になってるんやから、たまには…ウチにワシワシしてみる?」
「な、なんと!?」
「いつもウチだけで悪いやん…しても…いいんよ」
…わっ、わっ、どうしよう!?…
…希ちゃんのおっぱいをワシワシ?…
…確かに…こんなチャンスは二度とないかも…
…しかもナマですよ、ナマ!…
花陽は頭がボーッとしてきた。
やおら希が叫んだ!
「あかん、このままやったら、2人とも逆上(のぼ)せてしまう!花陽ちゃんは先に上がった方が良さそうやね…」
「そうですね…」
…ホッとしたというか、残念というか…
幸か不幸か、花陽の逆ワシワシはお預けになった。
~つづく~