【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

111 / 121
やりたいことは その11 ~アルファ、ベータ、ガンマ…~

 

 

 

 

「花陽…毎回毎回、穂乃果が迷惑を掛けてしまって、本当に申し訳ないです」

 

 

 

無事、穂乃果が帰ってきたことで、メンバーは部屋へと戻った。

 

ひと通り就寝までの支度を終えると、海未は『同室となった』花陽に向けて冒頭の言葉を発した。

 

 

 

「海未ちゃん…」

花陽は返答に少し困った。

海未に謝られる理由がないからだ。

 

「もう、頭を切り替えましょう。今回の穂乃果ちゃんのことは、ある意味『不可抗力』みたいなものだし…はぐれる、迷うなら、時々、花陽もやらかしますから。それに、そもそも海未ちゃんが責任を感じることじゃないよ」

「いえ、穂乃果の不祥事は、私の監督不行き届きです!」

「…」

「いったい、いつになったらあの性格は治るのでしょうか?私はいつまで、彼女の心配をしなければならないのでしょうか。いい加減、今日は疲れました」

 

「う~ん…」

花陽は、再び困った顔をした。

 

しかし、意を決するように「ゴホン!」と咳払いしたあと

「海未ちゃん!実はお話ししたいことが、ふたつあります!」

と言って、海未の前に正座した。

 

「えっ?あ…は、はい!」

花陽のその改まった態度に、海未も思わず正座する。

 

膝と膝を付き合わせる…とは、まさにこのことを言うのであろう。

 

 

 

「ひとつは穂乃果ちゃんのことです!」

「穂乃果?」

「…花陽が言うのもどうかと思いますが…海未ちゃんは穂乃果ちゃんに厳しすぎます!」

「えっ!?」

「もうちょっと、余裕があってもいいと思います!」

「花陽!…ですが、それはすべて穂乃果の為を思って…」

「わかってます!わかってますよ。海未ちゃんと穂乃果ちゃんの信頼関係があってこそ…っていうことは充分わかってます。海未ちゃんは、穂乃果ちゃんだけじゃなくて、自分にも厳しいし…」

「はい。自分のことを棚に上げて、ひとのことを言ったりするのは、好きではありませんので」

「それもわかってます」

「そもそも、穂乃果が、私に注意されるようなことばかりするから、いけないのです!それがわからない花陽ではないでしょう?」

「えっと…否定はできません…ですが…」

「ですが?」

「もう間もなく、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんが入部します。もしかしたら、他にも1年生が入部するかも知れません」

「はい…」

「雪穂ちゃんは…口ではあれこれ言っていますが、心の中では、穂乃果ちゃんのこと、尊敬してます」

「はい」

「そんなお姉ちゃんが、親友やクラスメイトの前で、毎日毎日怒られていたら、いい気持ちはしないですよね?ちょっと悲しくなっちゃうんじゃないかな…」

「…」

「怒っちゃダメ!…とは言いませんが、これからは、あまり穂乃果ちゃんのことで感情を爆発させるのは、避けた方がよいかと…」

「…確かに、そうかも知れませんね。私は穂乃果のこととなると、ことさら熱くなってしまいますので」

「はい。海未ちゃんが、穂乃果ちゃんのこと大好きだってことは、よ~く、わかってます。でも、さっきみたいに、マイナスの出来事を、あんまり海未ちゃんひとりで背負いこみ過ぎると、息が詰まっちゃいますよ」

「花陽…」

「やるときはやる、抜くときは抜く。メリハリが大事です」

「えぇ…」

「今までは希ちゃんやにこちゃんが、そのあたりのバランスを、うまい具合にとってくれてたんですけどねぇ…」

「…もう…いなくなるのですね…」

「はい…」

「花陽の言う通りです。私も反省しなければいけませんね…。それで、もうひとつは?」

 

 

 

「μ'sの今後についてです…」

 

 

 

「?」

 

 

 

海未は花陽の言葉の意味を理解できず、小さく首を傾けた。

「μ'sは解散すると決めたハズですが…」

「はい。今回のライブの結果によっては解散時期が多少『延期』になる可能性はありますが、スクールアイドルとしてのμ'sは、どうやっても、存続はできません」

「ではμ'sの今後について…とは?」

「そのことをいつ発表するか…ということです」

「いつ…って…あっ!」

「今、このことを知ってるのは、雪穂ちゃんとか、亜里沙ちゃんとか…一部の身内だけです。もし仮に『μ'sに入りたい』という1年生がいたら、先にそのことを知らせておく必要があると思うんです。『新しいメンバー…新しいしいユニット…新しい名前で活動します』…と」

「だとすると…新入生歓迎会…オリエンテーリングですね」

「その時は何を歌いますか?μ'sの楽曲?」

「それは…」

「取り敢えず6人で歌うなら『ν's』とでも名乗りましょうか」

「ニューズ?」

「ギリシャ文字でμ(ミュー)の次はν(ニュー)なんです!」

「そうなのですか!」

「新しく生まれ変わると言う意味では、ピッタリな言葉だと」

「はい!つまりNewですね?」

「これを見つけたときは、ひとりでニヤニヤしちゃいました」

「目に浮かびますよ」

「でも、それだけなんです。花陽は、まだこれからのことについて、全然イメージがわかないんです」

「それは私も同じです」

「それで…海未ちゃん…これは花陽の希望というか、お願いになるんですけど…アイドル研究部へ入部を希望する人の『多様性』を認めて欲しいんです」

「多様性?」

「はい」

 

 

 

…今日の花陽は随分と難しい話をしますね…

 

 

 

「これもいつかみんなに話そうと思っていたんですけど…」

「はい、どうぞ。説明してください」

「今のメンバーは、本当にみんな、すごい人の集まりなんです。歌って、踊れて…作詞も作曲も衣装も振り付けも…全部自分達で出来る」

「確かに。それが私たちの強みですね」

「でも…でも、そんな人ばかりじゃないんです。花陽みたいに何も出来ない人だっているんです」

「花陽のアイドルに対する知識は、誰にも負けないじゃないですか!」

 

「はい!そこなんです!!」

正座していた花陽は、上半身を前のめりにして、スッと海未との距離を縮めた。

 

 

 

…うわっ!びっくりしました…

…今日の花陽は、食事の時もそうでしたが、グイグイきますね…

 

 

 

「そこ…とは?」

動じないフリをしながら、海未が訊き返す。

 

「例えばですが、アイドルに憧れていても、自分は『歌う側』ではない、観ているのが好きなんだ!という人がいるかも知れません。花陽もどちらかというと、こっちのタイプでしたし」

「私などはアイドルの『ア』の字もありませんでしたけどね」

海未はこの部屋に戻ってきて、初めて笑みを見せる。

「はい!幸いにも花陽たちは、みんなに引っ張ってもらって『歌う側』の素晴らしさを知り、今、ここにいます」

「ええ」

「でも、やっぱりこれは、奇跡だと思うわけですよ。こんな素敵なメンバーが、一度に集まるなんて、通常は考えられません!」

「そうですね」

「それで…話は戻りますが…きっと中には、歌わなくてもいい!とか、実は衣装を作りたいんだ!とか、セットを造りたいんだ…とか…そういう人もいると思うんです」

「裏方志望ってこと?」

「確かに一般的にはそう呼ばれてますが、花陽はあまり好きな言葉じゃありません。私たちは、その人たち抜きでは、ステージに立てないのですから。照明さんがいなければ、ステージは真っ暗なままなんです。だから花陽は、敢えてスペシャリストと呼ばせてもらいます!」

「は、はい…」

「えっと…あ、つまり、そういうスペシャリスト志望の人も『アイドル研究部』には、いてもいいんじゃないかと」

「!」

「ラブライブを目指したい人がいる、そうじゃない人もいる…何人入部するかわからないけど、目標が違うなら、それぞれがそれを目指せばいい…。強制はできない…。もちろんすべてがバラバラなのは論外ですけど、すべてをひとくくりにはできません」

「それが花陽の言う多様性…」

「目指す目的が一緒なら、意見の食い違いがあったりしても、最終的には信頼しあえる仲間になれる」

「はい、それは私たちが体現してきました」

「だけど、ラブライブ出場だけがアイドル研究部じゃないと思うんです。そうした時に、そうした人を排除しないで欲しいんです!!」

「…花陽…」

「あっ!すみません!…熱くなり過ぎました…」

「いえ…感心して聴いてましたよ。…とはいえ花陽がそこまで色々考えているとは、少し、驚きました」

「えへへ…これでも部長なので…」

「素晴らしいです!絵里が聴いたら『ハラショー!』と手を叩いているところです。穂乃果にも、生徒会長として、これくらいの自覚があれば…」

「海未ちゃん!」

「はっ!そうでした…つい…」

「大丈夫ですよ、花陽の前なら」

「花陽は、この1年で、大きく成長しましたね」

「みんなのお陰です」

「ですが、なぜこのタイミングでそんな話を…」

「う~ん、なんでですかね…。でも、海未ちゃんなら理解してくれると思ったから…」

「はい。充分に理解しましたよ」

「良かったです…あ、もうこんな時間…」

「そうですね!明日に備えて早く寝ましょうか…」

「はい」

「明日、頑張りましょうね!そしてそれを観た新入生が、沢山入部してくれるといいですね」

「はい!」

「では、お休みなさい」

「はい、お休みなさい…」

 

 

 

 

 

どてっ!

 

 

 

 

 

「花陽?大事ですか!?どこか具合でも!?」

 

 

 

 

 

「…あ、あし…しびれました…」

 

 

 

 

 

…ふふふ、可愛い部長さんですね…

 

 

 

 

 

~つづく~


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。