【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
ニューヨークでのライブを無事に終えたμ's。
現地スタッフからは
「Great!」
「Amazing!」
「Marvelous!」
と絶賛され、手応えは感じていた。
しかし、一夜にして、まさかこんなことになろうとは…。
帰国したメンバーが成田から向かったのは、穂乃果の部屋。
彼女たちの表情は一様にして、疲労困憊といったところ。
疲れまくっている。
穂乃果の部屋と、雪穂が運んできた穂むらの饅頭、日本茶…このワンセットが揃って、ようやくホッとした顔になった。
「やっと我が家に帰ってきた…って感じ?」
「そりゃあ、アンタの部屋だからね」
「あははは…でもさ、普通、国内に旅行に出掛けても、地元の景色を見ると『あ~帰ってきたぁ~!!」ってなるじゃん!」
「そうやね」
「だけど今回は…」
と穂乃果。
メンバーはここに着くまでの様子を、各々頭の中で振り返る。
空港ではライブの映像が流れ、彼女たちに気付いた『ファン』にサインを求められた。
しかも、ひとりやふたりではない。
今まで経験したことのない、長蛇の列。
初めての出来事に戸惑いつつも、その場はなんとか凌いだメンバー一同。
次に待ち受けていたのは、地元アキバのフィーバーぶりだった。
至るところにμ'sの大小ポスターが貼られ、店のそこかしこに『μ'sの街、アキバ』というポップが目に付く。
そしてA-RISE御用達の『あの駅前の巨大ヴィジョン』でさえ、μ'sのニューヨークライブの様子を繰返し流していた。
まさに街を挙げての便乗ぶり…いや、歓迎ぶり。
ここでの認知度は以前から高かったが、それでも『一部のファンの間では…』とエクスキューズが付いていた。
しかし、彼女たちは、ライブの衣装を着て歩いているわけでもないのに、全方向から視線が集まるのを感じていた。
それは今までにない感覚。
視線を気にしないように振る舞おうとすればするほど、逆に不自然な動きになってしまう。
それが原因なのか…それとも9人で団体行動をしているせいなのか…はたまた、自然と醸し出されるアイドルとしてのオーラなのか…行く先々で『ファン』に囲まれ…その恥ずかしさやら緊張やらがあって、逃げるようにして、穂乃果の部屋までやってきた…というわけだ。
「スターになるってことは、こういうことなのよ」
にこはこの様子を楽しんでいるが、それ以外のメンバーは、本人たちに自覚がないにも関わらず、急に有名人になったことに、不安を隠しきれなかった。
「ウ…ウゥッ…無理です!こんなの無理ですっ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて…」
「泣かなくても…」
穂乃果とことりに慰められているのは、海未。
「参ったわね…。帰ってきてから、街を普通に歩いていても気付かれるくらいの注目度。海外でのライブが至るところで流れてる…」
「真姫ちゃん、これって夢なんじゃない?」
「はぁ?そんわけないでしょ?」
「にゃ?穂乃果ちゃんの気持ちもわかるにゃ!」
「でしょ?でしょ?…だとしたらいつから…」
「このニューヨークライブの話自体が、夢だったんにゃ…」
「凛ちゃん、そこから?」
「いや、凛ちゃん…もしかした、ことりちゃんが見た夢…まだその中にいるのかも!」
「あ、穂乃果ちゃん、それだ!」
「穂乃果もことりも、バカなことを言わないでください!」
「いやいや、海未ちゃん…そもそも廃校になるっていうのが、夢だったんじゃないかな?」
「そこから!?」
これには、さすがにメンバー全員が穂乃果に突っ込んだ。
「雪穂ちゃん、いったい何があったんか、説明して欲しいんやけど…」
「はい。みなさんのライブがテレビとネットで、生中継局されたのは、知っての通りです」
「そうやね」
「凄かったのは、そのあとです!」
「?」
「まずアメリカの有名アーティストが、お姉ちゃんたちのライブ映像を観て『素晴らしい!』って、呟いて…」
「えぇっ!?」
「ほら、この人…」
と雪穂がスマホの画像を見せる。
「本当だ…」
「…で、これが、あっという間に話題になって…ワイドショーやニュースで『日本の女子高生がニューヨークで快挙!!』って繰返し報道されたから。それで、今回のライブだけじゃなくてμ'sが過去にアップした動画も、取り上げられたりして…」
「わっ、すごい再生数になってる!」
花陽は雪穂のPCを見て、驚きの声をあげた。
「じゃあ私たち、本当に有名人に?」
と絵里。
「そんな…無理です!恥ずかしいぃぃ…」
「海未ちゃん…だから泣かなくても…。あ、でもさ、それって!海外ライブが大成功だったってことだよね!?」
「うん!そうだと思う!」
「だよねぇ、花陽ちゃん!これはドームも夢じゃないよね!これでドーム大会も実現したらラブライブはずっとずーっと続いていくんだね!よかった!嬉しい~!」
「まだ、そう決めつけるのは早いんじゃないかしら」
「絵里ちゃん、冷静だね」
「なにかあまりに出来すぎで…そんなに上手くいくのかしら…って」
「確かにね」
真姫はうん、うんと首を縦に振る。
「それにしても、海未ちゃんほどやないにせよ、こう急に注目されちゃうと…芸能人が変装して外出する気持ちもわからなくはないやね」
「もうね、大変だったんだよ。さっきもファンの人が、お店にお姉ちゃんを訪ねてきてさ」
「えっ!そうなの?」
「まぁ、お母さんは『これで売り上げが上がるかしら?』…って、喜んでたけど…」
「まさか『高坂穂乃果の店』なんて、看板出さないよね!?」
「えっ!?えっ!?…それは…出さない…でしょ…」
…雪穂ちゃん、そのつもりだったね…
花陽は雪穂に『前歴』があることを知っている。
店内にはまだ『アキバのお米クイーンも太鼓判!』と書かれた文字と、花陽の写真が載ったチラシが貼られているからだ。
「それはそうと、これからは人気アイドルなんだから、行動に注意しなさいよ」
「えっ?にこちゃん?」
「A-LISEを見ればわかるでしょ?人気アイドルというのは常にプライドを持ち、優雅に慌てることなく…とにかく、どこに目があるかわからないから、外に出るときは恰好も歩き方も注意すること!」
「めんどくさ…」
真姫がいつも通りの一言。
「確かに、そこまで気を遣うのは…」
「私もちょっと…」
花陽もことりは「ねぇ…」と顔を見合わせた。
「アイドルってそういうものでしょ!」
「にこが言うこともわからなくないけど…それよりも前に、考えなきゃいけないことがあるでしょ!!」
「考えなきゃいけないこと…って…絵里ちゃん、なに?」
「穂乃果はわからない?」
「…はて…」
「こんなに人気が出てファンに注目されているのよ?」
「そうやね、これは間違いなく…」
「?」
~つづく~