【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
ハァ…ハァ…ハァ…
息を切らして走っているのは、穂乃果。
家に帰り、これからのことを、ベッドの上でゴロゴロしながら考えていたところ、突然電話が鳴り、呼び出された。
相手の名は…
綺羅ツバサ…。
言わずもがなA-RISEのリーダーである。
電話は「近くまで来てるから、ちょっと会わない?」という内容。
ふたつ返事でOKをした穂乃果は、急ぎ身仕度を整えると、家を飛び出した。
そして指定された場所に辿り着く。
そこには白を基調としたミリタリールック風の衣装を着た…いかにもA-RISE然とした少女が立っていた。
「ツバサさん!」
「穂乃果さん!おかえり…でいいのかしら?随分とご活躍な様子で…」
「あははは…なんなんですかねぇ…私たちが一番驚いてます」
「ねぇ、少し時間ある?車を待たせてあるの…。ドライブしましょ?」
「ド、ドライブ!?時間はありますけど…免許取ったんですか?」
「うふふ、違うわよ…」
そう笑いながら、ツバサは穂乃果の手を引っ張ると、数メートル先に停めてあった黒塗りの車へと歩を進めた。
「えっ!こ、これって…」
穂乃果は一瞬、たじろいだ。
そこにあったのが『リムジン』だったからだ。
「デビュー曲の撮影で使ってるの」
「あ、それで…」
穂乃果は、彼女がこの時間、この場所で衣装を着ている理由を理解した。
「うわっ…すごい…」
中に入った穂乃果は、そこに優木あんじゅと統堂英玲奈がいたにも関わらず、まずはそのゴージャスな内装に圧倒され、茫然としてしまう。
「立ってないで、座ったらどう?」
「なにか飲む?」
あんじゅと英玲奈に声を掛けられ、穂乃果はやっと現実世界に戻ってきた。
「あっ…こ、こんばんは…」
「うふふ…ちょっと始めはビックリするよね…あぁ、座って…」
とあんじゅ。
「は、はい…失礼します…」
穂乃果は車内の…『コの字』に組まれた、革張りのソファに腰を下ろした。
「撮影は?」
「さっき終わったところ。ちょうど近くだったから…。少しいいですよね?」
ツバサが運転手に声を掛けると、車は静かに走り出した。
「どうだった?向こうは…」
「は、はい…とても楽しく勉強にもなりました」
あんじゅから手渡されたミネラルウォーターを口にして、穂乃果は少し落ち着いた。
「そうか…」
英玲奈は相変わらず、言葉短く、ぶっきらぼうに相槌を打った。
「ライブ、大成功だったみたいねぇ…」
あんじゅはを脚を組み替えながら、穂乃果に訊く。
…あんじゅさん…
…い、色っぽい…
…っていうか、見えちゃいそう…
その仕草に、思わず穂乃果の視線は、彼女の短いスカートの裾へと移る。
「どうか…した?」
「あ、いえいえ…別に…」
…μ'sにはいないタイプだよね…
少しだけアンニュイな雰囲気が漂うあんじゅを見て、穂乃果はそう思った。
「穂乃果さん」
「はい!」
「あんじゅに気を付けてね?」
「えっ?」
「意外とエッチだから。変なことされないように」
「!」
「ちょっと、ツバサ…うふふふ」
「は、はぁ…」
…希ちゃん系なのかな?…
「それはそれとして…次のライブはどこでやるの?」
「えっ?あっ…それがその…」
「その顔は、どうしよう…って顔ね」
「決まってないのか?」
「はい…。μ'sは3年生が卒業したら終わり。それが一番いいと私たちは思っていました」
「…」
「でも、今はすごいたくさんの人が、私たちを待っていてくれて…ラブライブの発展に力を貸せるなら…って…」
「期待を裏切りたくない?」
「応援してくれる人がいて…歌を聴きたいと言ってくれる人がいる。だから期待に応えたい…私たちはずっとそうしてきたから…やっぱり…」
「だったら続ければ?」
「あんじゅさん…」
「迷うことはないんじゃない?」
そう言うと、あんじゅは穂乃果の前に、1枚のカードをスッと差し出した。
「これは?…」
「名刺…って言ったらいいのかしら。私たちをこれからマネージメントしてくれるチームの」
「マネージメント…?」
「私たちは、スクールアイドルを辞め、プロとして歌っていく。学校を卒業してスクールアイドルじゃなくなっても、この3人で…A-LISEとして歌っていきたい、そう思ったから」
「はい、すごく素敵なことだと思います」
「でも、私たちも、それを決断するまでは相当迷ったの。だから、あなたの気持ちはわかっているつもり…」
「ツバサさん…」
「特にツバサは、μ'sに負けたことで、かなり自信をなくしていたからな」
「英玲奈!」
ツバサは…余計なことを言わないで…という顔をした。
それを見て、ふふふ…と笑う英玲奈。
「続けるか、否か、それが問題だ…って感じで」
「ハムレットね…。ラブライブを目指し、スクールアイドルとして活動、そして、成し遂げたときに終わりを迎える…それはそれで、とても美しいことだと思う」
あんじゅは髪を弄りながら喋る。
こういうところは、少し真姫に似ているかも知れない。
「でもね…」
ツバサが言葉を繋げる。
「やっぱり名前がなくなるのは寂しいの…。この時間を、この一瞬をずっと続けていたい。そして、お客さんを楽しませ、もっともっと大きな世界へ羽ばたいていきたい。そう思ったから 私たちは…」
「…」
「穂乃果さんがどういう結論を出すかは自由よ。でも、私たちは続ける…あなたたちも続けてほしい」
「共に、ラブライブを戦ってきた仲間として、これからも…私たちは競い合っていきたい」
「ツバサさん…あんじゅさん…」
「ところで…小泉さんは、元気にやってるか?」
「へっ?小泉さん?…花陽ちゃん?」
不意に飛び出した英玲奈の質問に、少し戸惑った穂乃果。
だが
「…えぇ…元気ですよ。部長として、みんなを引っ張っていってます」
とすぐに返答した。
「そ、そうか…」
「?」
「いや、一緒に利き米コンテストで戦ったから…それだけだ」
「は、はぁ…」
ツバサとあんじゅはその言葉を聴いて、ニヤニヤしている。
「?」
腑に落ちないのは穂乃果。
しかし、数日後、その理由を知ることになる…。
「あ、あの…」
「?」
「A-RISEは…みなさんは、ドーム大会に呼ばれたら…」
「当然出るわよ」
「断る理由がない」
「…ですよねぇ…」
「私たちのひとつの目標は、ドームでの単独ライブをすること。だから、もし呼ばれて出たなら…いい『下見』になる」
「ドームで単独ライブ!!…すごいな…。考えたこともなかった…」
「あなたたちなら、きっとドームをフルハウスにできるわ」
「フルハウス…」
「満席ってことよ」
「はぁ…えっ?え~っ!!穂乃果たちが?ドームを?」
「出来るわよ。あなたたち9人は、それだけの実力も魅力もあるもの」
「羨ましいな。私たちと同じユニットだったら、最強なんだがな…」
「同じユニット…そうですね」
「12人を束ねるリーダーは大変そうだけどね」
あんじゅは穂乃果の顔を見た。
「わ、わたし?無理、無理、無理…ツバサさんお願いします」
「ツバサは無理だな。自分勝手で、人をまとめるようなタイプじゃない!」
「…悔しいけど、反論できない…」
「ぷっ…」
穂乃果はそれを見て、吹き出してしまった。
「な、なに?おかしい?」
「A-RISEのみなさんも、私たちと変わらないんだな…って。なんか普段は普通に仲良しなんだな…って」
「勘違いされがちなのよね…。変わらないわよ、私たちだって、あなたたちと」
「はい…。良かったです、話ができて」
「私たちの思いは伝えたわ。あとは穂乃果さんたち次第…。もし、スクールアイドルに拘らず、活動を続けていくのであれば、いつでも相談に乗るわよ。さっきのカードに連絡先が書いてあるから」
「いつか一緒にステージに立てたらいいわね」
「どっちにしろ、自分たちの道だ。頑張れよ」
3人の激励を受け、穂乃果は車を降りた。
~つづく~