【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
花陽は先に風呂から上がった。
身体を拭いて、今日買ってきたばかりの(ブラジャーと同じシャーベットグリーンの)ショーツを身に付ける。
身体を捻って、後ろ姿を確認してみた。
「おぉ、ピッタリ!」
満足そうに微笑んむ。
希が用意したスエットに着替えると、ドライヤーで髪を乾かし、先にダイニングキッチンへと戻った。
希からは「冷凍庫にアイスが入ってるから、先に食べててや」と言われた為、取り敢えず中を開けてみる。
小さめのカップアイスが5つ。
「これは、高いアイスですねぇ…。カチカチで、すぐに溶けないって言ってたから、少し出しておきましょう」
そこから、ふたつ取り出しテーブルに並べた。
…それにしても…
さっきの情景を思い出し、花陽はまだドキドキが止まらない。
遡って見れば、今日の希は、ずっとおかしかった。
妙に色っぽかったり、突然、甘えてきたり、急に黙りこんでみたり…
花陽に凛がいるように、希には絵里がいる。
少なくとも花陽は、そう思っている。
だから、きっと今日のような姿を、絵里には見せているのだろう。
…でも今日は…
…なんで花陽なんだろう…
「考えごと?」
風呂から上がり、ワンピースタイプのルームウェアに着替えた希が、花陽に声を掛ける。
洗い髪はそのままで、まだ束ねてもいない。
「アイス、食べてないやん」
「そんな、いくら花陽でも、そんなに食い意地は張ってません」
「ウチを待っててくれた?」
「もちろんです。少し出しておいたから、多分、ちょうど食べ頃かと」
「さすがやねぇ。じゃあ、一緒に食べよっか?」
「はい」
いただきま~す…2人はアイスを口にした。
「う~ん、美味しいですぅ」
「お風呂あがりのアイスは、最高やね」
「いつも食べてるんですか?」
「ほぼ日課」
「太りません?」
「…みんなには、絶対ナイショやからね…」
「今日に限って言えば、花陽も共犯者です」
「明日、少し先に行ってランニングしようか…」
「そうですね…」
2人が顔を見合わせて笑う。
それから2人は、他愛もない話をしながらアイスを食べた。
「髪、乾かしてくるから、隣の部屋でテレビでも観て、ゆっくりしててや」
と、希が席を立つ。
「希ちゃん、髪、長いから、乾かすのも大変ですね」
「そうなんよ」
「花陽はすぐに終わっちゃいますけどね…手伝いましょうか?」
「そんなん、悪いやん」
「花陽に出来ることなんて、これくらいしかありませんから」
…そんなことないんよ…
希は心の中で呟く。
「うん、ありがとう。お願いするね」
「はい」
そして花陽は、希の髪を乾かすのを手伝った。
「ありがとう。やっぱり、2人だと早いねぇ」
「いえ、いえ、どういたしまして。乾かし甲斐がありました」
「結構な、重労働やろ?」
「はい、想像以上に。でも、楽しかったですよ。美容師さんになったみたいで」
「ウチは本当にいい後輩を持ったねぇ」
「大袈裟ですぅ」
「ふふふ…。ところで花陽ちゃん、眠くない?疲れたんと違う?」
「はい、まだ全然…と、いうか今日は内容が濃すぎて、色々、興奮しちゃって、きっとすぐには寝れません。それに電車の中で『お昼寝』しちゃいましたしね」
「そやね」
2人して頭をポリポリと掻いた。
「普段何時くらいに寝るん?」
「花陽は…そうですねぇ、日付が変わる頃くらいまでは起きてますねぇ」
「朝は?」
「朝ですか?今は、5時半ですかねぇ」
「早いやん!」
「朝練あるし…」
「それにしても早過ぎなんやない?」
「あと…お弁当作るので…」
「なるほど!それは納得。しかも、2個分やもんね?」
「お恥ずかしい…」
「明日はそんなに早く起きたらいかんよ」
「そうですね」
「練習は10時やったっけ?花陽ちゃんは、一旦、家に帰って出直すにしても、7時に起きれば間に合うんやない?」
「はい」
「よし。それじゃ、あとは歯磨きだけ済ませちゃおう」
「はい」
花陽は来るときにコンビニで買った歯ブラシを持って、洗面台に向かう。
希が洗面台の三面鏡に隠されている、右の扉を開く。
そこには、2本の歯ブラシがあった。
「あっ!」
花陽は思わず声をあげた。
見るつもりはなかったのだが…不可抗力である。
「見ちゃった?もう1本はえりちの分。たまに泊まりに来るんよ」
花陽は、どう切り返して良いのかわからない。
「その話はまたあとでね」
「はぁ…」
「今日の夜は長いんよ。寝かさないんやから」
「なんかエッチです」
そうかな?…と言って希は笑った。
歯磨きを終えると、ダイニングキッチンの奥にある、8畳ほどのフローリングの部屋に通された。
希の部屋だ。
「ジロジロみたら、いかんよ」
と希。
そうは言われても、目を閉じてるわけにはいかない。
花陽は、つい部屋を見回してしまう。
まず目に付くのは部屋の奥にあるセミダブルサイズのベッド。
鮮やかなチェリーピンクのカバーが掛けられている。
ベッドの上には、数個のクッション。
そのベッドの枕側の壁には、3段の吊棚。
ぬいぐるみやら観葉植物やらが、わりと不規則に飾られている。
「希ちゃん…余計なお世話だとは思うんですけど…これ、地震の時、危なくないですか?落下したら、顔面直撃ですよ」
「そうやね。ウチもわかってんるんやけど、風水に従うとこうなるんよ」
…風水もやるんだ…
花陽は妙なところで感心してしまった。
吊棚の隣には、ローボードとキャビネットを組み合わせた戸棚。
「あっ!」
花陽がなにかを見付けた。
「これ、夏合宿の時の写真ですよね!」
戸棚の中には、やや大きめのフォトフレーム。
そこには真姫の別荘で撮った、μ'sのメンバーの集合写真が飾られていた。
デジカメをセットし、セルフタイマーで撮った写真…。
シャッターが切られる…まさにそのタイミングで、花陽のお腹が大きく鳴って、みんなが一斉に吹き出した瞬間が収められている。
花陽にとっては、少し苦い思い出…。
「それなぁ、ウチの大切な宝物なんよ」
「花陽は、これを見るたびに恥ずかしくなりますが」
「そのお陰で、みんな100%以上の笑顔やん。未だにウチ、真姫ちゃんのこんなに笑ってる顔、見たことないよ」
「確かにそうですけど…」
「だから、これは花陽ちゃんに、感謝、感謝の1枚。ウチは勝手に『奇跡の1枚』って呼んでるんやけどね』
「はぁ…そう言ってもらえると、少し救われます…」
「救われたのは、ウチや」
「えっ?」
「ううん、ウチだけやない。にこっちも、えりちも、真姫ちゃんも…みんな花陽ちゃんに救われてるんよ」
「えっ?えっ?…花陽が…みんなを救った?」
「ウチにとって、花陽ちゃんは女神なんや。『一番大事』な人なんよ」
「な、な、何を突然…」
「花陽ちゃんからは色んなモノをもらったのに、ウチは何ひとつ返せていない」
「の、希ちゃん…」
「だから、まずはこれを、何も言わずに受け取って欲しいんや」
「これは!?」
花陽は展開の早さと、差し出されたプレゼントとで大混乱に陥った…。
~つづく~