【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
ともだち ~心の乱れ~
放課後の音楽室。
いつものように、ピアノを奏でている少女がいた。
このピアノは彼女…西木野真姫の『私物ではない』のだが、他に弾く生徒がいないらしく、ほぼ毎日、独占状態で使用している。
真姫はホームルームが終わると、部活に行く前にここに立ち寄り、ショパンやラフマニノフなどを2~3曲、軽く指馴らし程度に弾くのがルーティーンになっていた。
この日も音楽室でピアノを奏でる真姫。
それ自体は日常の、いつもと変わらぬ光景。
しかし今日に限って言えば、実はそこに僅かな『異常』が隠れていた…。
それを見抜いたのは、園田海未だった。
海未は真姫に用があり、部活前に音楽室を訪ねてきたのだったが、その異常に気付き、入室を躊躇(ためら)っていた。
そして真姫がピアノを弾き終わるのを待ってから、中に入った。
「真姫…」
「!?…あぁ、海未…何か用?」
「『何か用?』とは、お言葉ですね。今度の曲の『符割り』について、打ち合わせをしましょう…と約束していたハズですが…」
「…そうだったわね…」
「それよりも、あなた、どこか具合が悪いのではないですか?」
「なによ、いきなり…意味わからない」
「クラシックに関して余り造詣は深くないのですが、そんな私にもわかる『ミスタッチ』が何ヵ所かありました。曲全体としても走りぎみで…なんと言いますか、荒々しさが感じられました」
「だから?」
海未に指摘され、真姫は一瞬目を逸らした。
それを海未は見逃さなかった。
「単刀直入に申します。体調不良でないなら、心の迷いが現れています。いずれにしても、今日は休んだ方が良いと思われます」
「私は医者の娘よ。自分の体調くらい、自分が誰よりも理解してるわよ」
「『医者の不養生』という言葉もあります」
真姫が、再び顔を背(そむ)ける。
面倒な人に見付かった…そう思っていた。
μ'sとして活動を始めて、半年が過ぎた。
しかし、真姫にとって、未だに理解不能な『謎のメンバー』が2人いる。
ひとりは東條希。
そしてもうひとりが…目の前にいる園田海未である。
海未は作詞を、真姫は作曲を担当している関係で、今日のように練習前後で打ち合わせを行うことは少なくない。
しかし、それ以外、プライベートな付き合いとなると皆無に等しい。
海未は穂乃果とことりと、真姫は花陽と凛と、それぞれ行動することが多いからである。
だが、学年ごとに別れてしまうのは至極当然で、ことさら不思議なことではない。
また真姫は、他人の私生活にあまり関心がないので、そのこと自体、大きな問題ではない。
しかし真姫にとって、海未の存在は他の2年生とは少し違う。
…というより非常に興味がある人物で『要、調査』として脳内に登録されているのである。
園田海未も、日舞の家元の跡取りであるため『自分と同様』良家の血筋のお嬢様であると思っている。
容姿端麗で頭脳明晰…これも『自分と同じ』。
性格的には『人見知り』『引っ込み思案』で、決して『社交的ではない』と思っている。
どちらかと言えば個人主義。
それは、掛け持ちしている部活が(団体競技ではない)弓道部であることや、彼女の趣味が読書や箏(そう≒琴)であることからもわかる。
確かに海未は、弓道を嗜(たしな)む、文武両道の大和撫子で、どちらかというとスポーツが苦手な真姫とは、そこに大きな開きがあるのだが、それは本質的な問題ではないと考えている。
つまり、真姫にとって海未は、自分と多くの共通点を持つ人物として認識しているのである。
…にも関わらず、いくら幼馴染みとはいえ、穂乃果のように少しルーズで、何故かやたらとポジティブな人間と、今でも親友であるということが真姫には、不思議に思えてならない。
経験上、穂乃果の様なタイプは1番苦手な人種のハズなのだ。
しかし海未は、むしろ穂乃果に対して、自ら積極的に関わっているように見える。
ことりを含む3人の、幼少期からの関係性を知らない真姫には、かなり奇異なことに感じらていた。
またそもそも海未が、スクールアイドルをしていること自体、理解が出来ていない。
結成当初の海未の緊張ぶりを目の当たりにしていた真姫には、歌ったり踊ったりせずとも、作詞に専念する…という選択肢があっても良かったのではと考えている。
そうすれば自分も作曲のみという形で済んだのでは…と未だに思う時がある。
海未に興味を惹かれる、もうひとつの理由。
それは、彼女の作品にある。
詩も曲も、全てが採用される訳ではない。
特に詩に置いては、単語ひとつひとつを組合せていくため、ボツになる作品も多いのだが、それ以前に『これは…』と、思わず絶句するようなテーマの作品が上がってくることがある。
ひとりが好き→空想や妄想やが好き→詩を作る、小説を書く…という創作活動の流れは、わからなくもない。
しかし、妄想が過ぎて、それが作品に反映されるとなると、少し心配しなくもない。
真姫は外科医を目指していのだが、そういう作品を見るたび、精神科医も面白いかも…と思ってしまう。
実際に、フロイトやユングの本を最近読み始めたところだ。
だから先ほどの指摘を受けたとき「海未こそ、カウンセリングを受けた方がいいんじゃないの」と言いかけたが、それはさすがにマズイと、思い止(とど)まった。
「本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫だから…」
「わかりました。そこまで言うのでしたら、今日はこれ以上申しません。ただし、何かありましたら、速やかに報告下さいね」
…さすがに海未……
…指摘されたことは事実。
…音の乱れから、私の心境を読み取るとは、ただの妄想家じゃないってことね…
「…わかったわ…ありがとう」
真姫は、そう答えて、この話題については打ち切った…。
~つづく~