【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
花陽と希は、中央線で新宿駅へと向かっていた。
「新宿に遊びに行ったりする?」
「え~と…ほぼ初めてに近いです…」
「なら、いつも何処に買い物行くん?」
「…えっと…圧倒的に『ド○・キホーテ』か『ア○レ』ですねぇ…」
「そりゃ、そうか…」
秋葉原、神田、お茶の水辺りは、所謂ショッピングモールや、大型スーパーのような施設はない。
日常の買い物には、あまり向いてる街とは言えない。
※設定は当時。
「渋谷とか表参道とかは、行ったりしない?」
「あの…その…この間までは中学生だったし、あまりお小遣いも貰ってなかったから、そういうとこには、あまり…」
「そやね!ごめん、ウチが悪かった…」
希は余計なことを訊いたと、少し後悔した。
考えてみれば『音ノ木坂』の大きな特徴は伝統とか由緒正しいとか品行方正とか…である(それ故、その古臭さが仇となり、廃校の危機に直面したのだが)。
つまり、この学校には『基本的に』中学から遊び歩いてるような生徒は入学しないのである。
時には『真姫』のような『超お嬢様』が居ないわけでもないが、彼女たちだって、そういうとこに中学生で足を運ぶことは、皆無に等しい(もっとも、親と一緒に銀座や六本木、南青山や表参道辺りに出掛けることは、あるかも知れないが)。
だから、花陽の返事は至極、全うな答えだった。
「じゃあ、下着は?」
一応電車の中なので、希は耳元で囁いた。
「ここ最近は…ネットが多いです。凛ちゃんと一緒に…」
希に合わせて花陽も耳元で囁く。
「やっぱ凛ちゃんと一緒なんや…」
と、溜め息混じりに呟く希。
「仲がいいのは構わないんやけど、少しは『凛ちゃん離れ』した方がいいんやないかな?」
「凛ちゃん離れ?」
「高校卒業しても、同じ道に進むとは限らんやろ?いや、もっと言えば、将来いつまでも、ずっと一緒…って訳にもいかないやん」
「…そうですね…」
「もっとも、ここ最近は凛ちゃんの方が、花陽ちゃんに依存してるようにも見えるけど…」
「…そう…ですかね?」
少し花陽の顔が曇った。
「あ、別に2人の悪口を言ってるのと違うんよ。ただ折角、μ'sに入って新しい仲間も増えたんやし、少しずつ違う人とも交流を深めないと…」
「確かに」
「なぁんて!…ウチもなぁ…あと半年で『えりち』と離ればなれになるなんて、想像出来んのやけど…」
「あ、あと半年で卒業ですもんね…花陽も3年生がいなくなることが、想像付かないです」
「このまま、時間、止まらんかな?」
「そう思うと、一日一日を大事にしなきゃ!って思いますね」
「ホンマやね…」
希は目を瞑りながら頷いた。そして、思い出したかのように名前を呼んだ。
「花陽ちゃん!」
「はい!?」
「今日一日、思いっきり楽しもうな?」
「は、はい!」
そんな会話を交わしているうちに、2人が乗った電車は新宿に着いた。
ホームは、乗降客が溢れんばかりで、いつ人が転落してもおかしくないほどの混雑だ。
「花陽ちゃん、手ぇ捕まって!」
「ぴゃあ!」
花陽が小さく叫ぶ。
そして、人混みを掻き分けながら階段を昇る希に引っ張られながら、何とか東口の改札まで辿り着いた。
「新宿って、こんなに人が多いんですか?」
花陽が、目を白黒させながら希に訊いた。
「そりゃ、新宿やもん」
答えになってないやん…と自分で思いながらも、花陽が妙に納得してる様子だったので、それ以上の説明はしなかった。
「ひとりで来たら絶対迷子になってますぅ」
「そやね、新宿はいつ来ても何処かしら工事してるし、ウチもたまに迷うんよ」
そう言いながら、希は先に改札を抜けた。
花陽もそれに続いたが…キンコ~ンの音と共に、フラップが閉まってしまった。
「…Suica…残高ありませんでした…」
そう言うと、あたふたと精算機に向かう。
…こういうとこが、花陽ちゃんらしいやん…
希がクスッと笑った。
2人は東口を出ると、大きな百貨店を目指して歩いた。
希が先を行き、一歩遅れて、辺りをキョロキョロと見渡しながら、花陽が着いて行く。
「ここが新宿なんですね…やっぱり秋葉原とは違いますね…」
「とても東京都民の言うセリフやないね」
「はい、その通りです…」
口ではそう答えたものの、見慣れぬ景色に、やはり目線は右に左に、上に下にと忙(せわ)しなく動いている。
4、5分程歩いただろうか
「はい、着きました」
希の脚がピタリと止まった。
右手で「どうぞ…」というポーズをとって、目の前の建物を案内する。
そこは大きなビルの一角にある、一見するとお洒落なアンティークカフェ…。
しかし…
「ここが…下着屋さん?…」
花陽が希に問いかけた。
「そう、ウチ御用達のランジェリーショップ『アンジェリーナ アンジェリーナ』。今日はまず、ここからスタートや」
希は少し戸惑っている花陽の背中を軽く押して、店内へと歩を進めて行った…。
~つづく~