【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「さぁ、練習再開!」
絵里がパンパンと手を叩いて、メンバーを整列させた。
「次は新曲の『振り』の確認をするわよ。まずは頭(イントロ)から…にこ、背筋を伸ばして…そう。じゃあ、いくわよ…ファイブ、シックス、セブン、はい!」
絵里のカウントアップに合わせて、各自が身体を動かしていく。
「穂乃果、そこ、早い!」
「花陽、もっと大きく!」
「海未、指先伸ばして!」
「凛、ターンが逆!」
「全然合ってないわ、もう1回始めからやり直しね」
絵里から、容赦ないダメ出しが飛ぶ。
μ'sの振り付けは、結成当初…ファーストライブまで…は海未が担っていた。
しかし花陽とにこが入ってからは、3人でアイデアを出し合って決めている。
2人のオタクのデータベースから、アイドルらしい仕草やポーズをダンスに取り入れたりしながら、振り付けやフォーメーションを決めていく(とは言え、にこの意見は自己主張が強すぎて、だいたい脚下されてるのだが…)。
そしてμ'sとして大きいのは、やはりバレエ経験者である絵里の加入である。
素人では雑になりがちな『静止状態』においても、姿勢や脚の位置、腕の角度まで細かく指示を出す。
そしてバレエ特有の優雅さ、女性らしさを伴った指先の動きや、表情のひとつひとつに至るまで、絵里は妥協を許さない。
ダンスに関しては海未以上にストイックだ。
しかし、そうでなければ9人という大所帯のμ'sは、単なる烏合の衆になっていた可能性がある。
彼女たちのパフォーマンスの特長のひとつである大胆なフォーメーションチェンジも、基となるダンスが揃ってなければ、ただ場所を移動しているだけに見えてしまう。
絵里のコーチングは、他のライバルと比べても大きな強みであった。
そして、それについていけるメンバーの潜在能力の高さも、特筆すべき事項だろう。
しかし…
「真姫、全体的に半テンポ遅いわ!」
ここでも厳しい声が飛ぶ。
「真姫、下を向かないで!」
「真姫、もっと腕は高く!」
「真姫、脚をあげて!」
練習が進むにつれ、絵里の真姫に対する注意が多くなってきた。
元々、ダンスをそれほど得意としているわけではないが、今は明らかに精彩を欠いている。
「真姫…少し休んだ方がいいんじゃない?」
絵里が堪らず声を掛ける。
「やはり、今日の真姫は何かおかしいです」
「やはり?」
花陽が海未に訊く。
「海未、余計なことは言わないで!」
「ですが…」
「だけど…」
真姫の言葉に、海未と花陽がほぼ同時に反応した。
「真姫ちゃん…」
「私は大丈夫だから…花陽も心配しないで」
そう言った真姫は、花陽と視線を合わせなかった。
「具合が悪いんやったら、休憩したほうがいいんやない?」
「そうだよ。真姫ちゃんは次の曲も作ってるし」
「それはことりちゃんだって一緒でしょ!」
「それはそうだけど…」
「私だけ特別扱いなんてしないでよね」
「そういうつもりじゃ…」
「わかったわ、真姫がそういうなら練習は続けましょう。ただし、振り付けは一旦終わりにして、次はフォーメーションの確認…それでいいわね?」
絵里の問い掛けに、真姫は小さく頷いた。
「真姫ちゃん、大丈夫かな…」
ストレッチの時に海未が言った言葉が気に懸かる。
私、何かしたのかしら…さっきも目を逸らされた気がするし…
花陽は真姫を見た。
その瞬間、真姫も花陽を見ており、視線が交錯した。
「あっ!」
思わず小さく声をあげたが、真姫はすぐに明後日の方を向いてしまった。
「きっとアノ日よ、アノ日」
「にこちゃん、それはアイドルとして禁句なんじゃないのかにゃ~」
「バファ○ンとか、セ○スとか持ってないのかしら」
「そうだったら、さすがに飲んでると思うにゃ」
「ほら、そこ、無駄話しない!」
にこと凛が絵里に怒られた。
今、μ'sが練習しているのは、ラブライブ予選突破に向けた新曲である。
μ'sは9人という特性上、曲中、三人一組でフォーメーションを編成することが多い。
今回は紆余曲折あったものの、最終的には直前の合宿時の班分け…即ち作詞班(希、海未、凛)、作曲班(絵里、にこ、真姫)、そして衣装班(穂乃果、ことり、花陽)に分かれることとなった。
「海未ちゃん、真姫のこと、何か隠してるやない?」
「いえ、特には…。ただ、調子はあまり良さそうでないことは、間違いないようですね」
「凛ちゃんは、何か聴いてへん?」
「ううん…いつも通りだったにゃ。まぁ、一緒にいても、自分からペラペラ話すタイプじゃないから…。かよちんの異変ならすぐ気付くけどにゃ」
「そ、そやね…」
「花陽ちゃん、花陽ちゃん」
「あ、穂乃果ちゃん…」
「さっきから、少しボーっしてない」
「そうですか?あれ、おかしいな…」
「ことりも思ってました…。真姫ちゃんの事?」
「えっ!?えっ?あ、はい、具合悪いのかなって…」
「それはわかるけど、今は練習に集中しよう。あっちには絵里ちゃんも、にこちゃんもいるんだし」
「そうだよね。2人いるもんね」
「本当に大丈夫なの?」
「いいから、早く始めてよ」
「真姫、やる気があるのは認めるけど、前回の穂乃果みたいに、直前で離脱はなしにしてよ。今回は、なんとしても9人でステージに立つんだから」
「わかってるわよ…」
真姫は思った。
にこちゃんは時々部長みたいなことを言うんだから…
あ、部長か…
~つづく~