【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「はい、今日はここまでです」
海未が時計を見て、練習の終わりを告げる。
「では、にこから今日の締めの言葉を…」
エッヘン!と咳払いしてから、にこが話し始めた。
「予選のライブ撮影まであと1週間を切ったわ。正直、すべてが未完成だし、ギリギリの勝負だけど…にこは…とにかく勝ちたい。ただの想い出にはしたくないの。だからみんなには、中途半端な気持ちでは臨んで欲しくない…」
にこのいつになく真剣な言葉に、一同息を飲む。
「わかってるわね、真姫」
「わ、わかってるわよ…なんで私が名指しされるのよ、意味わかんない」
「さっきも言ったけど、くれぐれも穂乃果の二の舞には絶対にならないでよね。μ'sは9人揃ってなきゃ、意味がないんだから…。何かあったらこのアタシに相談しなさいよ!」
「にこちゃん、先輩みたいにゃ…」
「みたいじゃなくて、先輩なの!まぁ…そういうこと。はい、以上、解散!」
「お疲れ様でした!」
一同、礼をして今日の練習は終わった。
「…花陽…」
真姫が帰り支度を始めた花陽を呼び止めた。
しかし、声が小さかったため花陽は気付かない。
もう一度、名前を呼ぼうとしたが
「か~よちん!ラーメン食べに行こう!」
と凛が先に声を掛けてしまった。
「ごめんね。今日はこれから、ことりちゃんの衣装作りのお手伝いがあるの」
「そっか…それは仕方ないにゃ」
「ラーメン食べにいくなら、付き合ってあげてもいいわよ」
残念…とガックリうなだれる凛の前に、そう言って仁王立ちする、にこ。
「穂乃果ちゃん、ラーメン…」
「ごめん、今日はちょっと、お店の手伝いしなくちゃいけなくて…」
「穂乃果ちゃんも手伝いにゃ…」
「アタシが付き合ってあげるわよ」
スーッと凛の正面に顔を突き出す、にこ。
「希ちゃん…」
「ウチも今日はえりちと…」
「海未ちゃんは?」
「私も今日は…」
「ア~タ~シ~が行くって、言ってるでしょう~」
無言でにこを見つめる凛。
一呼吸置いてから出たのは、次の言葉だった。
「そうしたら真姫ちゃ…」
「まだスルー!?」
にこはその場に倒れこんだ。
その頭を撫でながら凛が言う。
「はぁ…。そうまで言うなら連れてってあげるにゃ」
「…なに…この敗北感…」
その様子を一同、ニヤニヤしながら見ていた。
凛ちゃんの『にこっち弄(いじ)り』の徹底ぶりは見事なもんやね…とひとり感心する希。
「それじゃあ、行っくにゃ~」
「真姫、アンタも行くわよ」
にこがスクッと立ち上がり、強引に真姫の腕を引っ張る。
「ヴェ~!わ、私はいいわよ!」
「いいから付き合いなさいよ。じゃないと『支払い』が…じゃない、えっと『賑わい』がないじゃない!」
「なにそれ、意味わかんないんだけど」
「いいから、行くわよ!凛!」
「はいにゃ!」
真姫の両脇を、凛とにこが抱え込む。
そして、ほぼ無抵抗の状態で、そのまま真姫は連れ去られて行った。
「拉致…やね」
と希。
「拉致…ですね」
海未が返答する。
「それにしても恐るべきコンビネーションです」
「さっきの弄り倒し方といい、凛ちゃん、にこっちのこと、相当好きやね」
「こういうのを相性というのでしょうか」
「2人で川に飛び込んで、身体を暖めあった仲やしね」
「希はどうしてすぐに、そういうことを言うのですか!!破廉恥です!」
海未は顔を真っ赤にして怒る。
「ウチは別に、裸で抱き締めあったとは言うてへんよ。想像しすぎなんやない?」
「…もういいです…」
海未は俯(うつむ)きながら歩き出し、先に中へ入ってしまった。
「海未ちゃん!待ってよ!あ、お先に!!」
と穂乃果があとを追いかける。
「ありゃりゃ…海未ちゃんのアレは困ったもんやね…」
「今のは希が悪いわ」
「そうなんやろか…なら、あとで謝っとく」
「謝る話でもないと思うけど…。それより心配なのは真姫よね…花陽、何か変わったことはなかった?」
「はい、特には…」
「そう…」
「でも、もし何かあっても、真姫ちゃん、自分から積極的に話す人ではないので…」
「えりち、実はさっき、ウチも凛ちゃんに同じこと訊いたんよ」
「それで?」
「花陽ちゃんと同じ答えやった」
「ごめんなさい…役に立たなくて…」
「ダメよ、変に責任感じたりしたら。別に花陽が悪いわけじゃないんだから」
「…はい」
「大丈夫だよ、きっと。だって、にこちゃんが一緒だもん」
「ことりちゃんの言う通りやね。にこっちはああ見えて、面倒見がいいからね。それに、理由がわからないまま、ウチらが悩んでても仕方ないやん」
「そうね…今日はにこに任せましょう」
「はい」
「ところで、そっちの進み具合はどう?」
「順調ですよ。花陽ちゃんが手伝ってくれるので、とても助かってます」
「そんな…いつも失敗ばかりしちゃって…」
「そんなことないよ。花陽ちゃんは折り紙とか得意だし、手先が器用だから、数をこなせばすぐ上手になるよ!」
ことりが、花陽の両手を握りしめて微笑む。
「は、はい!頑張ります!」
花陽は恥ずかしげに目を逸らして、そう答えた。
ん?今のことりちゃんと花陽ちゃんの表情は…
ひょっとして、ウチのライバルは凛ちゃんだけやないかもしれへん…
希は2人の様子に若干の嫉妬心がを芽生えた。
「私たちも手伝ってあげたいんだけど…」
「ウチも、えりちも裁縫はセンスの欠片(カケラ)もないからね」
「任せてくださいな!気持ちだけで結構ですよ。それじゃ、花陽ちゃん」
「あ、はい…では、お先に失礼します」
「ことり、花陽…お願いね」
「はい、頑張って可愛いのを作ります!」
ことりは満面の笑みで応え、花陽と2人、屋上をあとにした。
~つづく~