【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
絵里は勝手知ったる我が家のように、お湯を沸かし、紅茶を入れている。
テーブルにはソーサーに乗せられたティーカップが2組と、ジャムが入った小ぶりのビン。
そして、そのテーブルの椅子に座って待っているのは、この家の主(あるじ)の希。
練習が終わると、絵里は一緒に希の家に来た。
特別大事な用…ではなかったが、今日は2人でお茶をすることになっていたからだ。
「やっぱり、これを入れるのはえりちやないとね」
「別に、これくらいは誰だって出来るわよ」
「そやけど、なかなか、普通の高校生は、バラの花のジャムでロシアンティーなんて飲まないと思うんやけど」
「たまたま親戚がジャムを送ってくれてるだけで…私だってそうじゃなければ、そんなに飲まないわよ」
「いやいや、ありがたい、ありがたい。毎回毎回、ごちそうさんやね」
絵里はビンに入ったジャム掬(すく)うと、それぞれのカップソーサーの縁(ふち)に、少量ずつ取り分けた。
…彼女はカップの中に先にジャムを入れるのは、邪道だという。
理由は諸説あるようだが、寒さが厳しい本場ロシアでは、それをやると折角の熱い紅茶が、温(ぬる)くなってしまう為、スタンダードな飲み方ではないらしい。
絵里は2人のカップに、かなり濃い目の紅茶を注いでから、椅子に座った。
「いただきます」
希はソーサーに添えられたジャムを、少しだけスプーンに乗せ、口へと運ぶと、それを舌に乗せた状態で、紅茶を飲んだ。
口内に広がる気品溢れる、バラと紅茶の薫り。
希はうっとりとしながら、呟いた。
「う~ん、幸せ~。セレブになった気分やわ。リラックス効果抜群!って感じやね」
うふふ…と笑う絵里。
それを見て希が言う。
「えりちの顔…優しくなったなぁ」
「…そうかもね。少し前までは、周りを見ている余裕なんて、まるでなかったもの」
「μ'sのみんなに感謝やね」
「本当に…。でも、今考えると希の策略に、まんまと嵌まっちゃったかな?」
「策略って…」
希は苦笑した。
しかし、すぐに真顔になって訊き返す。
「後悔してるん?」
「まさか!毎日とても充実してるわ」
そう言った絵里を、希はとても嬉しそうに見ている。
「なによ…」
「これでウチの願いごとがひとつ叶ったんやな…ってね」
「願いごと?」
「えりちが誰かのためやなく、自分のために輝けるのをずっと待ってたんよ」
「なにそれ、意味わかんない」
「真姫ちゃんのセリフやん!」
今度は希がふふふ…と笑った。
「真姫と言えば…」
話を切り替えたのは絵里。
「今日、少し様子が変だったけど」
「大事な時期やし、多少ナーバスになってるんやないかな」
「心配だわ」
「そやね。真姫ちゃんも誰かに似て、そう簡単に弱味を見せるタイプじゃないから、内に溜め込んじゃうんやろうね」
「希だって人のこと言えないと思うけど」
「ウチはまだ、えりちがいるやん。でも真姫ちゃんは…。花陽ちゃんや凛ちゃんには言えないやないかな」
「2年組もそうだけど、花陽と凛も長い付き合いみたいだから…一緒にいて疎外感みたいなのがあるのかしら」
「えりちはどう?」
「私?私は…未だに浮いてると思ってるけど」
「そうなんや」
紅茶おいしいやん…と言いながら、希はもう一杯カップに注ぎ足した。
「合宿の時は『本当に』何もなかったん?」
「合宿?この間の?…だから希が期待するようなことは何もない…って言ったじゃない」
「ないんや…」
希は、はぁ…と溜め息をひとつ吐(つ)いた。
「ウチらは海未ちゃんが暴走したりして、なかなかの合宿やったけど」
「聴いたわよ。海未ちゃんが実はあんなに山ガールだったとは知らなかったけど」
「名前は海未やのに…」
「凛は川に飛び込んだり、遭難しそうになったり、散々だったわね」
「後々、ああいうアクシデントが、いい思い出になるんよ」
「そうね…」
「えりち達は?」
「私たちは…アクシデントはなかったけど、にこと真姫が意外と仲良くしてたのが、発見だったかしら」
「にこっちは普段弄(いじ)られキャラやけど、いざという時は一番しっかりしてるんやない」
「そうかもね」
「そう言えば、穂乃果がμ'sを抜けるっていった時は、にこっちが、メチャメチャ怒ったやん。殴りかかりそうな、にこっちを止めたのは、確か真姫ちゃんやったような…。でも、結局、穂乃果ちゃんは、海未ちゃんに叩かれちゃうんやけどね」
「そうだっかしら」
「にこっちやったら、真姫ちゃんの相談相手になってくれそうやけど」
「私もそれは同意するわ。合宿の時も、真姫が曲作りで悩んでたとき『曲はいつもどんなときも、全員のためにあるのよ』ってアドバイスしてたのを訊いて、あぁ、にこにはかなわないなぁ…って思ったの」
「盗み聴き?」
「テントの中にいても聴こえたの!」
オーバーアクションで、違う、違うと否定する絵里。
恐らく希にしか見せない仕草。
「でもね…あの合宿で、3チームに分かれて、私は真姫の手伝いをしようとか言っておきながら、結局、何の役にも立たなくて…にこみたいに気の利いたことも言えなくて、随分落ち込んだわ」
「それを言ったらウチも…やね」
「あの時、私がもっと真姫のことを気に掛けてあげれてれば…」
「えりち、そんなん言ったらダメやろ。にこっちにはにこっちにの、えりちにはえりちの役割があるんやから」
「私の役割?」
「えりちが無理して、にこっちになる必要はないやん。今、えりちがやらなくちゃいけないことは…」
「全力でダンスレッスンをしてあげること。予選突破出来るようにね」
「それで、いいんやない。ひとりひとりが自分の得意なことを生かし、全力でぶつかっていく。それがμ'sやん。ウチらは9人もいるのに、誰ひとり欠けてもダメなんよ」
「そうね」
「真姫ちゃんのことは心配やけど、彼女ならきっと乗り越えるんやないかと信じてる」
「希…」
「そやから、今日はそうっとしておいてあげて、明日の様子を見てから判断しよう」
「わかったわ」
「それにしても…ウチのメンバーは繊細な娘が多いんやね…」
「みんな思春期ですもの」
「これじゃ、ミュ○ズやなくて、ナイ○ブやね」
希としては会心の駄洒落だったが、絵里は理解出来ず、ただ、キョトンとするだけだった…。
~つづく~