【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「美味しかったにぁ~」
凛は両腕を突き上げて、伸びをしてから歩き出した。
「ま、まぁまぁ…ってとこね…」
とサイフの中を確認しながら、にこが後に続く。
「真姫ちゃんのトマトリゾットも、美味しそうだったにゃ」
「トマトリゾットって、余ったスープにご飯を入れただけでしょ?」
真姫が、凛とにこの後ろを歩く。
3人はラーメン屋を出て、それぞれの家に帰るところだった。
「いつも、ご飯はかよちんにあげちゃうから、凛もスープに浸して食べたのは初めてだったけど、なかなか、イケるにゃ」
「あぁ、そう…」
にこは気のない返事。
しきりに自分のサイフを眺めている。
「本当にいいの?出すわよ、自分の食べた分くらい」
真姫が、そんなにこを見て声を掛ける。
「な、なに言ってるのよ。こ、これくらい、先輩なんだから当然でしょ。生意気言わないの…」
「ゴチになるにゃ~」
「アンタは少しくらい遠慮しなさいよ」
「にゃ~!!」
「そう言ってれば誤魔化せると思ってるでしょ?」
「にゃ~!」
「やめてよ、大きな声で…」
真姫が公道でじゃれる凛とにこに自制を促す。
その後は、とりとめのない話をしながら、家路に就いた3人。
「それじゃ、にこ先輩、ごちそうさまでした」
凛は丁寧な言葉で一礼すると、また明日…と2人と別れ、先に帰宅した。
「なんだかんだ言って、慕われてるじゃない」
「当たり前でしょ、私を誰だと思って…」
「にこちゃん」
「またスルー…じゃわない…のね。わ、わかってるじゃないの」
軽く返されて拍子抜けの、にこ。
しかし、凛が居なくなったとたん、2人は無口になった。
「ちょっと、何か話なさいよ」
「別に、特に話すことなんてないもの」
「なくないでしょ!さっきのラーメン、美味しかったね…とかさ、にこちゃんって、やっぱり頼りになるね…とか、雨ニモマケズ、風ニモマケズ…そういう人間に私はなりたい…とか」
「なんで宮澤賢治が出てくるのよ、意味わかんない」
「だから、例えばよ、例えば。たまには自分から話しかけてみたらどうなのよ」
「それが出来れば苦労しな…」
そこまで言いかけて、真姫は慌てて口を押さえた。
「強がらない、強がらない」
「強がってなんかいないわよ!」
「はい、はい。じゃあ、そういうことにしてあげるわよ。本当に素直じゃないんだから」
にこは両の手を腰にあて、拗ねたポーズをしてみせた。
「にこちゃんはさ…絵里と希の関係について、どう思う?」
「はぁ?え、絵里と希の関係?」
まったく予期せぬ角度から質問(ボール)が飛んできて、焦るにこ。
「そ、それは…親友じゃない?やっぱり」
「じゃあ、にこちゃんと2人の関係は?」
「はぁ?」
もう一球、おかしな角度からボールが飛んできた。
「えっと…それは…なんでそんなことを訊くのよ?」
「別に…」
「正直言って、確かに2人とはそこまで親しい仲ではないわよ。ずっと気に掛けてくれてた希は別として、絵里とは接点なかったし」
「それで、いつも私たちと一緒にいるんだ」
「悪い?」
「…別に…」
2人はいつの間にか小さな公園まで来ていて、どちらからともなく、それぞれブランコに腰をおろした。
「アンタの気持ち、わからなくはないわよ」
「えっ?」
「その質問でだいたい悟ったわ。さすが、にこ様。伊達に部長はやってないわ」
「なによ、いきなり」
「絵里と希、穂乃果と海未とことり、凛と花陽…どの学年にも親友と呼ぶにふさわしい、コンビ、もしくはトリオがいる」
「そうね」
「それに嫉妬してるのね。そしてアンタは、にことそういう関係になりたいと思っている!!」
「な…」
「ふふふ…その驚きかたは図星のようね。仕方ないわねぇ、歳は違うけどなってあげるわよ…親友に」
なかなか鋭いじゃない…でも半分ハズレ…と真姫は心の中で呟く。
「どうして、そうなるわけ」
「相変わらず素直じゃないわね。こういうときは、まず、ありがとうございます…でしょ」
「あ、そうね…でも、どちらかというと、にこちゃんが私と親友になりたがってるんでしょ」
「なんでそうなるのよ。今日はアンタの様子が変だから心配してるのに」
「ありがとう。でも、大丈夫だから…。まだ戻って曲を仕上げなくちゃいけないし、先に帰る」
「真姫…」
「ラーメン、ごちそうさま。また、一緒に食べに行ってあげてもいいわよ」
そう言って、真姫は足早にその場を去っていった。
残されたにこは、すっかり暗くなった空を見上げながら、ひとり呟く。
「ママにお小遣いのアップをお願いしきゃ。先輩やるのも、楽じゃないわね…」
一方、真姫は…
はぁ…
ひとりになってから、やたらと溜め息を連発している。
そんな自分が嫌になって、また溜め息を吐(つ)いてしまう。
…みんな、お節介過ぎるのよ…
生まれもった性格だもの、急には変えられないわ…
仮に今、私が素直に気持ちを打ち明けたら…
…μ'sが壊れちゃうじゃない…できない…しちゃいけない…
とにかく今は、予選突破に集中しなきゃ…
そんなことを考えながら、真姫は家まで辿り着いた。
門扉の前まで来くると、防犯用の人感センサライトが点灯した。
そして気付く。
その明かりの中に、2体の人影があることを。
「誰!?」
真姫に時ならぬ緊張が走った。
~つづく~