【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
自宅まで戻ってきた真姫。
その真姫の気配に反応して点いた明かりが、2体の人影を照らしている。
真姫からは逆光となり、顔が判別出来なかった。
「じゃ~ん!正解はことりでしたぁ」
「ことり?…どうしてここに?」
「ごめんね、来ちゃった…」
「…あなたが連れてきたの?」
真姫の家の前に立っていたのは、ことりと花陽だった。
「いつから?」
「20分くらい前からかな。凛ちゃんに訊いたら、だいぶ前に別れたって…」
小声で話す花陽。
「少し寄り道してたから…。2人とも、ずいぶんとヒマなのね。衣装の製作はもう終わったの?」
「うん!花陽ちゃんが一生懸命手伝ってくれたから、とっても素敵なのが出来たよ。今回はアイデアも出してくれたんだよねぇ」
「ほんの少しだけど…」
何の屈託もない『ことりスマイル』とは反対に、花陽の表情は暗い。
「それで…何の用?」
真姫が、あからさまに面倒臭そうな顔で訊く。
「花陽ちゃんがね、真姫ちゃんのおウチ、すごく大きいから見に行こうって」
「言ってないですぅ」
「本当に大きいおウチだねぇ」
「あなたの家だってそうでしょ?」
「ことりのおウチはマンションだから」
「ふ~ん…。で、本当にそれが目的?」
「あ、真姫ちゃん、なんか様子がおかしかったから…心配で」
と花陽。
「べ、別に平気よ…。だから、たいした用じゃないなら帰ってくれない?私はまだ曲の仕上げをしなくちゃいけないんだから」
「真姫ちゃん、冷たい…」
ことりが目を潤ませて、真姫を見る。
「…穂乃果と海未には通じても、私はその手に乗らないから」
その時、真姫の背後から、もうひとつの人影が現れた。
「お友達?」
3人が声のした方向に目をやると、そこには真姫そっくりの女性が立っていた。
違うところと言えば、背の高さと髪の色、そして口元の黒子(ほくろ)くらいだろうか。
「ママ!」
真姫がその姿を見て、そう声を発した。
それは真姫の母親だった。
「あら、貴方は確か…小泉さん…よね」
「こ、こんばんわ。…あ、あの、私を覚えて頂いてるんですか」
「当然よ。真姫が高校に入ってから、初めてできたお友達ですもの」
「ちょ、ちょっと!余計なこと言わないでよ!」
「いいじゃない、別に…。そして、貴方は南さん…」
「初めまして。南ことりです」
「ウチの娘が、お世話になってます」
「いえ、こちらこそ。…私の事もご存知なんですか」
「よく娘が写真やら動画やらを見せてくれますので」
それを聴いたことりが、悪戯っぽく笑みを浮かべながら真姫を見る。
真姫は無言で下を向いた。
「立ち話もなんだから、中へどうぞ。ちょうど、美味しいケーキを頂いてきたところなのよ」
「あ、どうぞ、お構いなく…」
「日も暮れて涼しくなってきたし、わざわざ外で話している理由もないでしょ。さぁ、遠慮なさらずに、中に入りましょう」
真姫は渋い顔をしたが、親には逆らえず、結局、ことりと花陽を家の応接室に通すこととなった。
花陽にとっては2度目の…ことりは初の西木野家の応接室。
2人は重厚な造りのソファーに座り、真姫を待った。
部屋の広さ、天井の高さ、一目で高級とわかる調度品。
そのシチュエーションは、まるでホテルのロビーである。
合宿で西木野家の所有する『海と山の別荘』を訪れて、多少は『免疫』のあることりでも、口をポカーンと開けて、部屋を見渡している。
恐らく、ここにいるのが穂乃果と凛なら「うわぁ、真姫ちゃん、すごいねぇ」と言いながら、部屋を徘徊し、あれこれと物色しているだろう。
暫くして、真姫と真姫の母がケーキとお茶を運んできた。
「あ、このチーズケーキは自由が丘の…」
一目見てことりは、それが有名スイーツ店のものだとわかったようだ。
「あら、よく知ってるわね」
「私、チーズケーキには目がなくて…」
「ちょうど良かったわ。私と真姫だけじゃ多すぎて」
真姫はことりの、真姫の母は花陽の前に座った。
「どうぞ、召し上がって」
「あ、はい、ではお言葉に甘えまして」
「頂きます…」
「美味しい!!」
ことりと花陽は一口食べると、すぐに顔を見合わせて、ほぼ同時に叫んだ。
「このクリームチーズの下にあるレモンのコンフィチュールが、まろやかなチーズにアクセントを利かせていて、とてもマッチしています」
白米、アイドル以外にも、花陽は饒舌になるらしい。
「幸せだね!」
ことりがニコッと微笑む。
「お気に召したかしら」
「はい、とても美味しいです…真姫ちゃんは食べないの?」
ことりも花陽も、そして真姫の母も食べ終わったのに、真姫は口をつけていない。
「具合…悪い?」
花陽が心配して尋ねる。
「私は、さっきラーメン食べてきたばかりだから…花陽がいないから、トマトリゾットまで食べるはめになって、お腹いっぱいなの」
「トマトリゾット?」
ことりと花陽の声がシンクロした。
「と、とにかく、あとで食べるから、放っておいて」
「そっか、真姫ちゃんは凛ちゃんたちとラーメン食べてきたんだもんね」
「凛ちゃんは…猫の娘ね」
母が話に割って入る。
「はい、『にゃ~』の娘です」
とことり。
「ママは食べ終わったら、出て行ってよ!」
「はい、はい…。小泉さん、南さん、これからも真姫のことをよろしくね」
「こ、こちらこそ…です」
「合宿で別荘をお借りしたのに、何のお礼もせず…」
「いいのよ、どんどん使ってくれて。たまに空気の入れ換えをしないと、建物って、悪くなる一方だから」
「ありがとうございます」
「真姫の為なら、どんなことも協力するわよ…親バカかしら?」
「ママ、話が長い!!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない…では、ごゆっくり。帰る時は声かけてね。車出すから」
「そ、そんな…」
恐縮する2人。
「遠慮しないで。うちはこれが普通だから」
「はぁ…」
ことりも花陽もそれしか言葉が出なかった。
「そうそう、最後に南さん…」
部屋を出かけた真姫の母が、思い返したように踵(きびす)を返し
「真姫を音ノ木坂に入れて、本当に良かったわ。そう『浅倉』に伝えていてくださる?では、ごゆっくり…」
そう言ってドアを閉めた。
「浅倉?」
真姫がことりに質問する。
「お母さんの旧姓…浅倉…」
「ことりの?」
コクッと頷くことり。
一瞬、沈黙。
「ヴェェ!知り合いなの?聴いてないわよ!」
真姫はソファーごと、後ろに倒れた。
「ことりも初耳だよ」
「結局、真姫ちゃんに何があったか訊くことが出来なかったね」
「そうですね。チーズケーキをご馳走になっただけになっちゃいましたね」
ことりと花陽は、お互い顔を寄せて、耳元で囁きあっている。
黒塗りの高級セダン…の後部座席に、2人はいる。
前には西木野家のお抱え運転手。
ことりと花陽を家に送り届けている最中だった。
真姫は宣言通り、曲を仕上げる為に家に残った。
とにかく予選突破に向けて集中するから、今は私に構わないで…
そう言われると2人に返す言葉がない。
本線出場に懸けてきた思いは、ことりも花陽も同じ。
だから…
「大丈夫だよ!真姫ちゃんを信じよう!」
「はい!」
終始、耳元で囁き合う2人だった…。
~つづく~