【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
白い重厚そうなドアを開けると、こじんまりとしたカフェスペースが現れた。
通りから見えるのはこの部分で、それ故、事情を知らない人は、ここがランジェリーショップだということに、すぐには気付かないだろう。
「いらっしゃいませ…」
2人が中に入ると、店の『奥』から人が出てきた。
年の頃なら20歳代後半から30歳代前半の、背の高いスリムな女性だ。
この店の店員らしい。
彼女は客の1人が希だとわかると、続けてこう言った。
「あら『ノゾミィ』じゃない。久し振りね」
「ご無沙汰してます」
「半年振りじゃない?」
「そんなに経って…あ、3年になったばかりの時に来たんだっけ?…4、5、6、7、8、9…本当だ、もうそんなに経つんですね…」
「まぁ、座って」
「はぁい!」
店内には小さめの丸いテーブルが、手前と奥に2台あり、それぞれに椅子が3脚ずつ配されている。
2人は奥のテーブルの椅子に腰を掛けた。
「アイスティーでいい?」
「はい!」
店員の問い掛けに、希が答える。
少し間を置いて、花陽が希に訊いた。
「いつもと話し方、違くないですか?」
「ん?ウチ?…基本的には学校以外じゃ、標準語なんよ」
「そ、そうなんですか?」
「元々、正確な関西弁やないし…。わかる人が聴いたら、恥かくだけやから」
花陽は思い出した。
…そういえば…希ちゃんが関西弁を使い始めたのは、絵里ちゃんと仲良くなる為の『キッカケ作り』って、誰かから聴いたような…
「はい、お待たせ!」
店員が2人分のアイスティーをトレーに乗せて運んできた。
「今日はどんなご要望で?」
「今日は…私ではなく、この娘です」
「妹さん?…では、ないわよね…」
「はい、部活の後輩で…」
「部活?ノゾミィ、部活なんてやってたっけ?」
「あ…それは…色々と事情があって」
希は照れ笑いをした。
「あ、あの、小泉花陽と申します。きょ、今日はよろしくお願いします!」
そんな2人の会話に割り込むかのように、花陽は突然立ち上がり、自己紹介のあと一礼した。
店員は一瞬面食らった顔をしたが、すぐにクスクスと笑いだした。
「おもしろい娘…」
「ふふふ…見ての通り、とってもピュアなんです。だから、意地悪しないでくださいね?」
「どうしようかな~」
店員が腰を屈めて、花陽の顔を覗きこむ。
真っ赤になって俯(うつむ)く花陽。
…言ってるそばから、しないでよぅ…と希。
「ウソよ、ウソ!ごめんねぇ、お姉さん、怖かった?大丈夫、大丈夫だから、リラックスしてね?」
「は、はい…」
「それじゃあ、改めて。今日はどのようなものをお探しで?」
「あ、あの…ブラを…」
花陽の声は、消え入りそうなほど小さい。
「そんなに恥ずかしがらなくていいのよ。ここは『それ』しか売ってないんだから」
「は、はい…」
「うふ、可愛い」
「サリナさん!」
「はい、はい、わかってるわよ…」
「花陽ちゃんは1年生なんだけど、この半年で、胸のサイズが大きくなっちゃったみたいなんです。だから、新しいブラを選んでもらおうと…ね?」
このままではラチが開かないと、希が助け船を出した。
「確かに立派なお胸だわ。そうね、正しいブラ選びは、綺麗な姿勢作りにも役立つし、何より健康に影響するから。肩凝り、腰痛はもちろんのこと、それが原因で頭痛、神経痛、視覚障害、歯痛(はいた)、血行障害による手足の痺れとか…」
そういうと希が『サリナ』と呼んだ店員は、花陽の肩や首の付け根をグリグリと揉み始めた。
突然のことに「ぴゃあ!」と小さく悲鳴を上げた花陽。
かなり強めに揉まれた為、その度に、んっ…んっ…と声が漏れる。
「うん、やっぱり、結構凝ってるね」
サリナが手を離したとき、花陽はグッタリとした表情になっていた。
「貴方みたいな大人しい感じの子は、大きいお胸を隠しがちだけど、もっと自信持ってアピールした方がいいわよ」
「は、はい」
「ふふふ…ホント、いちいち真面目ね」
「そこが彼女のいいとこなんです」
希は嬉しそうに笑った。
「そうしたら、早速計測しちゃおっか?」
いい、大丈夫?と訊かれ、花陽は首を縦に振った。
しかし、実はアイスティーにストローは差したものの、まだ一口も飲んでいなかった。
それに気付いたサリナは…急がないからゆっくり飲んでいいのよ…と優しく諭し、飲み終わったら教えてね…と店内の奥に消えていった。
「ぷはぁ~」
大きく息を吐くと、ふにゃふにゃとテーブルに突っ伏した。
「そんなに緊張しなくても…」
「いやいや、これはしますよ。花陽には、まだ、あのお姉さま感は刺激が強すぎますぅ」
「なに言ってるん?ほら、まだ今日はイベント盛り沢山なんやから」
「あ、そうですね…」
そう言って、少しだけアイスティーを口にした。
ただそれだけだったが、その一口が暑さと緊張の為に火照っていた身体を冷ましていく。
「ふぅ…少し落ち着きました…」
「どう?」
花陽がアイスティーを飲み干すのを見ていたかのように、店員のサリナが奥から声を掛けてきた。
「はい、もう、大丈夫です」
「うん、そうしたら…ごめん、ノゾミィ、案内してあげて。今、この時間、1人しかいないから手がないの」
「あ、はい。わかりましたぁ…」
希が立ち上がる。
「花陽ちゃん、荷物持ったら、あそこのドアの所に入って欲しいんやけど。そう、あそこのドア。…で靴を脱いで中に入ったら、カギ掛けて、上半身裸になって」
「は、裸になるんですか!?」
「脱がなきゃ、正確なサイズ、計れないやん。身体測定と一緒やって…。あ、でも、ここのは凄いんよ。ただ立ってるだけでいいんやから」
「立ってるだけ…なんですか?」
「あっと言う間に終わるから、心配しなくても大丈夫やって」
「はぁ…」
「はい、行ってらっしゃい」
花陽は、渋々と指定されたドアへと向かった。
中に入ると一畳ほどの部屋に、イスとバスケット、パイプから吊るされたハンガーが2つ…それと向かい側にもう1枚、ドアの存在が確認出来た。
《はい、じゃあ、まずカギを閉めてください》
壁に埋め込まれたスピーカーから、サリナの声が聴こえる。
《掛けたら、掛けたって言ってね?》
「掛けました」
《オーケィ!手荷物はバスケットに入れてね》
「はい、入れました」
《うん、そうしたら、上半身、裸になって下さい…あ、貴方、今日、ワンピースだったわね…ごめんね、それじゃあ、それごと脱いじゃって》
花陽はかなり躊躇(ためら)ったが、意を決して服を脱いだ。
「あの…脱ぎました」
《脱いだ?ワンピースはバスケットに入れるより、ハンガーに掛けた方がいいかな?任せるわ》
「あの…裸になるって、ブラもですか?」
《当然でしょ?平気よ、誰も見てないから。私も見えてないんだよ》
「は、はい…わかりました…」
仕方なく花陽はブラジャーを外した。
「は、外しました…」
誰も見ていない…と言われても、両の腕をクロスさせて、つい前を隠してしまう。
《うん、よく頑張った。恥ずかしいよね、すぐ終わるからね…。そうしたら、反対側のドアを開けて、そこを出て》
言われた通りに部屋を出る花陽。
そこは、さらに狭いスペースで、身長体重計のようなものが1台置いてあるだけだった。
《こういうの見たことある?身長と体重が同時に計れる機械なんだけど》
「はい、学校の身体測定はこれでした」
《なら、話は早い。台の上に乗って、足跡マークに足を合わせて…》
「はい」
《うん。背筋を伸ばして、後ろの棒に背中を付ける…はい『気を付け!!』》
言われた勢いで花陽は、両腕を身体の横にくっつけた。
《出来た?》
「は、はい」
《じゃあ、そのままで、20秒キープ!ちょっと暗くなるけど、そのままね。はい、いきま~す…イチ、ニィ、サ~ン…》
花陽は目を瞑り、息を止め20カウント待った。
《はい、お疲れ様…。もう、終ったから、着替えて、戻っていいわよ》
「あ、ありがとうございました」
《どういたしまして》
再び腕をクロスして前を隠しながら、前室に飛びこむ花陽。
その刹那…
「ぴゃあ!」
の声に続き、ドスン!と大きな音が…
《ちょっと、大丈夫?》
「は、はい、ちょっと、足を引っ掛けただけですぅ」
《ならいいけど…慌てなくていいからねぇ》
「すみません、すみません…」
何故か、スピーカーに向かって平謝りする花陽だった。
~つづく~