【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
綺羅ツバサは、そのパフォーマンスを見終わったあと、暫く動かなかった。
いや『動けなかった』が正しい。
拍手をすることさえ忘れていた。
隣にいた優木あんじゅと統堂英玲奈に肩を叩かれるまで、ただ茫然と立ち尽くしていた。
それほどまでにインパクトが強いステージだった。
敵地に乗り込み、堂々、新曲『ユメノトビラ』を披露したμ's。
その完成度の高さにツバサは、彼女たちの予選突破は間違いないと確信した。
本選での一番のライバルはμ's…
私の目に狂いはなかった…
そう言い残し、会場をあとにした。
しかし当の本人…μ'sのメンバーたちに…そんな感触はまるでない。
新曲の製作にあたり、予選突破のプレッシャーからノーアイデアに陥った海未、真姫、ことりの3人。
仲間の協力を得て、ようやく今日に至った。
その想いが結実したステージ。
とにかくやりきった。
自分たちの持てる力は出しきった。
今は結果云々よりも、安堵の意識の方が強い。
その充実感の中「今から打ち上げをしよう!!」…と穂乃果が提案したが、各自…特に真姫の疲労を考慮して、日を改めた方が良いということになった。
真姫はギリギリまで編曲を行い、最高の音源を作り上げてきた。
苦手なダンスパートもキッチリ仕上げきた。
そして心配された体調不良も、精神的疲労も、あの日以来、そんな素振(そぶ)りを見せず、集中してここまでやってきた。
それだけにパフォーマンス終了後の脱力感は、半端なものではなかった。
楽屋に戻ってからは、立ち上がることさえ辛そうに見えた。
メンバーが真姫を心配して声を掛けるが、その度に、私は大丈夫だから…と返答する。
しかし、花陽の時だけは違った。
「今日、このあと、うちにこれない?」
他のメンバーに気付かれないよう、真姫が囁く。
「えっ?」
「大事な話があるの」
「えっ?あっ、い、いいけど…」
「じゃあ、あとで来て。私は先に帰るから…」
「ま、真姫ちゃん…」
花陽もずっと集中力を保ち、あの日のことは極力気にしないようにしていたが、今、この瞬間、それは解禁された。
どうしても訊きたいことは花陽にもあった。
「ゴメン、疲れたから先に帰る」
と真姫がメンバーに告げる。
彼女の疲弊ぶりを見れば、誰も止めることは出来なかった。
「しょうがないわねぇ。ゆっくり休みなさいよ!次は本選があるんだから!」
にこなりの気遣い。
にこにとって予選突破は両刃の剣。
だが今は、そんなことを気にする余裕などなかった。
部長として、全力を尽くした後輩を思いやる、打算のない言葉だった。
「じゃあ、今日はここで解散ということで」
と穂乃果。
「そうね。みんな本当にお疲れ様」
絵里がひとりひとりと握手を交わす。
「大丈夫。予選突破は間違いなしや。ウチのカードがそう告げてる」
「それでダメだったら、タダじゃおかないからね」
にこが希を睨み付ける。
だが、すぐに
「うそよ…」
とにこは笑みを見せた。
「にこちゃん、早くラーメン食べにいくにゃ~」
「わかったわよ。それじゃ、お先するわ」
「バイバイ」
穂乃果が手を振る。
「凛ちゃん、待って!」
「ん?かよちん?」
「私はちょっと、急用が出来ちゃって…一緒に行けないんだ…」
「最近、かよちんは冷たいにゃ~」
「ホントにゴメンね…」
凛は花陽の手を見ている。
花陽が何か誤魔化そうとする時の…指先をスリスリする癖…それはしていない。
急用と言うの嘘ではないようだ。
「わかったにゃ。また今度。約束にゃ」
そう言って凛はにこを連れて、ラーメン屋へと旅立った。
「では、私たちも」
「そうだねぇ。穂乃果は何か甘いものが食べたくなっちゃった」
「家に帰ればいいじゃないですか」
「なんで?お饅頭じゃなくて、違うのがいいよぅ!」
「穂乃果は贅沢です!」
「もう、いいもん。海未ちゃんは誘わないから。ことりちゃん、何か食べに行こうよ」
「いいですよ。ことりは秋の新作スイーツがいいな!」
「ことりは穂乃果に甘過ぎです!」
「じぁねぇ!」
先に歩き出した穂乃果とことり。
「お疲れさまでした」
海未は一礼して、2人の後を追う。
「この状況でも、相変わらずブレないわね」
絵里は3人のやりとりを見て苦笑した。
「では、私もこれで…」
「うん、お疲れさま」
「しっかり休むんよ」
最後に残った花陽も、絵里と希に頭を下げて、その場を立ち去った。
~つづく~