【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「し、失礼します…」
花陽の声は消え入りそうに小さい。
希の家に行った時とは別の緊張感。
それは家の造りが、少し古めの洋館であることも起因しているかも知れない。
エントランスを抜けて2階へ上がる階段は、肖像画こそ掛かっていないものの、ホラーやサスペンスに出てくる『それ』を彷彿とさせた。
一足先に帰って、既に着替えを済ませた真姫が、花陽を先導して自分の部屋へと招き入れた。
花陽が西木野家を訪れたのは、これで3回目になる。
しかし、真姫の部屋に入ったのは初めてだ。
大きさは10畳ほど。
真姫の部屋…にしては、狭いイメージ。
だが一般家庭と比べれば、個人の部屋なら充分広い。
パッと見たところ、入って右に机…正面奥にベッド…左の壁一面はクローゼット…ドアの側の壁には本棚…そして部屋の中央にはテーブルが配置されていた。
「あれ、ピアノは?」
真姫といえばピアノ。
花陽は、勝手に部屋に置いてあるものだと思っていた。
「ピアノ?…地下室にあるわ」
「ち、地下室?」
「外に音が漏れると迷惑だからって、パパか完全防音の部屋を設けたの。今はそこに録音機器も持ち込んで、スタジオみたいになってるわ」
「す、すごいね…」
「別に…。今度案内してあげるわ。…取り敢えず、その辺に座って」
真姫は部屋の中央を指差した。
丸いショッキングピンクのラグが、フローリングの部屋の真ん中に敷かれており、そこにガラステーブルが置かれていた。
花陽は指示された通りに座った。
「アイスティーでいい?」
「う、うん」
真姫は部屋の片隅…自分の机の隣に置いてある小ぶりの冷蔵庫から、ペットボトルを取り出して、ガラステーブルの上に置いた。
「部屋に冷蔵庫もあるんだね…」
「普通じゃない?」
「普通…じゃないよ」
少し苦笑いする花陽。
知り合った当初は、真姫の『世間ズレ』な感覚に、かなり戸惑ったこともあったが、今はだいぶ慣れた…つもりでいた。
それでも、ひとつひとつ『現物』を目の当たりにすると、住んでる世界が違うなぁ…と憧れの念を抱いてしまう。
「やっぱり、真姫ちゃんはスゴいね」
「いつも言うでしょ、私は関係ないから」
「そ、そうだったね」
真姫は所持品でも装飾品でも、自らそれをひけらかすようなことはしない。
そして、それは自分の努力で手に入れたわけではなく、親のお陰だといつも言う。
昔に比べれば、謙虚になったのよ…と以前、花陽は本人から聴いたことがあった。
「あ、アイスティー…頂くね…」
「どうぞ…」
花陽はペットボトルのキャップを開ける。
真姫は、ベッドに腰をおろす。
会話が途切れた。
静寂が訪れる。
「あ、あの…」
「えっと…」
その間に耐えきれず、2人は同じタイミングで声を発した。
「あ、真姫ちゃんからどうぞ…」
「私はいいから、花陽から」
「いえいえ、真姫ちゃんから…」
「花陽から…」
「じゃあ、花陽から…」
そして2人は「プッ」と吹き出した。
「なんか、お笑い芸人のやりとりみたい」
「そうね…」
真姫の笑顔を『あの日』から久々に見た気がする。
「じゃあ、まず、花陽から言うね」
真姫は黙って頷いた。
「今日は本当にお疲れ様でした。結果はわからないけど、最高のライブができたと思うよ。これもひとえに、真姫ちゃんが素敵な曲を作ってくれたお陰です」
「みんなのお陰よ…。にこちゃんに合宿で『曲はいつもどんなときも、全員のためにあるのよ』って言われなきゃ、たぶん作れなかったかも」
「にこちゃん、イザという時、本当に頼りになるもんね」
「たまにね」
「でも、真姫ちゃん、ギリギリまで編曲作業して、ダンスも覚えて…ライブしてる最中、涙出そうになっちゃった」
「当たり前でしょ。やるからには私の知性と美貌に見合った、完璧なパフォーマンスをしなきゃいけないんだから」
「そうだね。素敵な曲をありがとう」
「う、うん…」
真姫は少し顔を紅くして、下を向いた。
「衣装…良かったよ」
「本当?うれしいなぁ…って、ほとんど、ことりちゃんが作ったんだけど」
「でもアイデアを出したのは花陽なんでしょ?」
「そこまで大袈裟じゃないけど」
「とにかく、花陽もお疲れさま。やっと一息つけるわね」
「うん、そうだね」
そう言うと花陽は、恥ずかしそうに言葉を続けた。
「今度、余裕が出来たら…ピアノ…教えてもらってもいい?」
「えっ?ピアノ?」
「見よう見まねで『ねこ踏んじゃったくらい』は弾けるんだけど、ちゃんと習ったことないから…」
「べ、別にいいけど…」
そんなことしたら、あなたへの想いが止まらなくなるじゃない…
真姫は心の中で呟いた。
~つづき~