【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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ともだち その16 ~ファン第一号~

 

 

 

 

 

「希に、変なことされなかったでしょうね!?」

「へっ?変なこと?」

「あの人、初対面の私の胸をいきなり揉んだりする変態だから」

真姫の顔に笑顔はない。

「そ、そうなんだ…それは知らなかった」

花陽は初耳のエピソード。

「『ワシワシ』は、希ちゃんなりのコミュニケーションなんだと」

「そういう問題?しかも勝手に触って『発展途上やね』とか言ったのよ。ホント失礼!大きければいい…ってものでもないでしょ?」

「あははは…」

その件については、花陽も答えようがない。

笑うしかなかった。

「いくら希でも、花陽を汚(けが)したら、ゆるさないんだから」

「大袈裟だよ」

花陽は笑顔を見せたが、心臓は飛び出しそうだった。

 

真姫ちゃん、ごめん!

…しちゃいました…変なこと…

ん?変なこと?

あれは変なことなのかな?

汚されたわけではないよね?

 

自問自答する花陽。

 

「花陽!どうかした?」

「えっ?ううん、なんでもないよ」

「だから、2人でいるのを見た時、そんなことを考えて…」

「ありがとう、心配してくれたんだね。でも、希ちゃんは変な人ではないと思うよ」

「わかってるわよ。でも、私の中ではまだ掴みきれていないのよね」

「掴みきれてない?」

「いくら『カードがそう告げたから』…って、割りと早い時期から、私たちに関わってたでしょ?」

「そうだね」

「バックアップだけじゃなくて、結局、自分もメンバー入りしてるし…。むしろ希が穂乃果たちを操ったんじゃないか…っていうくらい」

「それはないと思うよ」

「謎の人物のひとりなのよね」

 

花陽は、希がどんな想いでμ'sに加入したか詳しく聴いた。

だから本当はそのことを真姫に伝えたかったが、今はまだ、黙っていることにした。

人の秘密を暴露するようで、気が引ける。

それは花陽の趣味ではなかった。

 

「あれ?今、謎の人物のひとり…って言った?まだ他にもいるの?」

「海未」

「海未ちゃん?」

「そう」

「どうして?」

「どうして…って、あの性格でスクールアイドルやってるのよ。花陽は不思議に思わない?」

「それを言ったら、私もμ'sにいることが、いまだに信じられないんだけど…」

「それは私もそうだけど…。そういう話じゃなくて…その…普段のイメージと、書いてくる歌詞のギャップとか」

「あぁ、それは確かに…」

「『START:DASH!!』なんか、始まりが『HEY! HEY! HEY!』なんだから…」

「普段の海未ちゃんなら言わないね」

「大和撫子然としてるけど、彼女の考えてることは、色々謎だわ。いつか精神分析したいと思ってるの」

「それは怖いかも…」

「あと穂乃果との関係とか」

「穂乃果ちゃんとの関係?」

「いくら幼馴染みとは言え、海未と穂乃果は真逆の性格で…私の経験上、もっとも苦手なタイプだと思うの」

「穂乃果ちゃん、マイペースだもんね」

「マイペースじゃなくて、ルーズなのよ」

「そうとも言うかな…」

花陽でもそれは思うらしい。

「それでも、海未は親友って言い切ったわ」

「直接訊いたんだ…」

「あ、その…ほら、打ち合わせの時とかに…」

「親友って断言出来るの、すごいね」

「あなただって、凛とは親友でしょ?」

「どうなんだろ?」

「どうなんだろ…って…」

 

奇(く)しくも、希とそんなことを話したばかりだ。

花陽の中で、まだ結論は出ていない。

 

「あなたと凛が親友じゃなかったら…私なんて、一生そういう関係にはなれないじゃない…」

真姫は不思議そうに花陽を見つめた。

「うーん、凛ちゃんは花陽にとって、大事な大事なお友達。いつも、そばにいて私を助けてくれたり、後押ししてくれたり…本当に大切な人」

「海未も穂乃果に対して似たようなことを言ってたわ」

「でも、私は凛ちゃんと対等な立場なのか、自信がないの。引っ張ってもらうだけで、頼りっぱなしで…もしかしたら、私が一方的に友達と思ってるだけで、凛ちゃんは頼りない妹くらいにしか思ってないかも…なんて考えたりして…」

「そうね。妹として見てるかは別として、凛のあなたに対する愛は、少し異常かも」

「異常なのかな?…」

「うらやましいけどね。私にはそんな人、いないもの」

「どうして?真姫ちゃんは綺麗でスタイルも良くて、お勉強も出来て、歌もピアノも上手で…おまけにお金持ちで、言うことないのに」

「完璧すぎるのね」

こういうことをサラッと言うのが、真姫の真姫たる由縁。

「そっか、真姫ちゃん、スターのオーラがあるもんね」

何の突っ込みもせず、流してしまうのも、また花陽らしい。

にこや凛なら「自分で言う!?」と一言発してるところだ。

「友達が出来ないわけじゃないからね。作らなかっただけなんだから」

「ひとりの時の方が楽な時もあるもんね」

強がる真姫に、あっさり同意する。

「花陽は凛と四六時中一緒で、息苦しくない?」

「息苦しいなんて言ったら、凛ちゃんに怒られちゃうよ」

「喧嘩とかしないの?」

「昔はあったけど、最近は…」

真姫は立ち上がると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、ベッドに腰掛けた。

「何かあっても、あなたが押しきられるイメージ」

「凛ちゃんを悪者みたいに言うのはダメだからね」

「そうは言ってないわよ。でもあなたは優しいから…」

「優しいのは凛ちゃんだよ。優し過ぎて、辛くなるときはたまにあるかな。優しさに甘えている自分に、自己嫌悪に陥ることがままあります…」

「あなただって充分優しいじゃない。普通は生徒手帳落としたからって、家までは届けないわよ」

「そうなのかな…」

「友達なんて面倒だと思ってたし、実際、面倒な人たちばかりだけど、最近は、それも大事だと思うようになってきたの」

「うん、良かった」

「多分、あのままだったら、人の気持ちには寄り添えない、心の傷みのわからない…そんな医者になっていたかも」

「真姫ちゃんに限って、それはないよ」

「えっ?」

「だって、あんなに上手にピアノを弾いて、あんなに綺麗な声で歌うんだもん」

「なにそれ?意味わかんない」

「真姫ちゃんは知らないだろうけど、真姫ちゃんのファン第一号は花陽なんだよ」

「えっ?」

「毎日、聴きに行ってたもん。真姫ちゃんのピアノと歌声」

「ヴェェ!」

真姫はベッドに座っていたが、そのまま仰け反り、後ろに倒れた。

「かなり恥ずかしい…」

「同じクラスだけど、声も掛けられず…でも、いつか、こんな素敵な人と友達になれたらいいな…って思って」

「誉め殺し?」

真姫はベッドの上に仰向けになったままで呟く。

「生徒手帳届けたのも、話すきっかけが欲しかったのかも」

「花陽…」

「だから、真姫ちゃんがボイストレーニングしてくれた時は、本当に嬉しかった。凛ちゃん以外で、花陽に優しくしてくれる人がいるんだ…って、本当に嬉しかった」

「見ていられなかったのよ。せっかくの才能を埋もれさせるのがもったいなかったから」

「凛ちゃんと真姫ちゃんが、花陽の両手を引っ張ってくれた時『誰かたすけてぇ』ってくらい困ったけど、同時にスゴい幸せ者だと思っちゃった」

「私はまだ、凛との関係性を知らなかったから」

「さっき、真姫ちゃんが花陽のことを、1番の友達って言ってくれだけど、花陽も真姫ちゃんは、高校に入って初めての友達なんだよ。凛ちゃんとはまた別の、大切な、大切な友達」

「…あ、ありがとう…」

「なんか、お互い同じようなことを考えてたんだね」

「偶然ね」

「偶然も重なれば…」

「必然!…なんでしょ?」

真姫は上体を起こして、花陽を見た。

「うん!」

そして同時に微笑んだ。

 

 

 

 

 

~つづく~


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