【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「希に、変なことされなかったでしょうね!?」
「へっ?変なこと?」
「あの人、初対面の私の胸をいきなり揉んだりする変態だから」
真姫の顔に笑顔はない。
「そ、そうなんだ…それは知らなかった」
花陽は初耳のエピソード。
「『ワシワシ』は、希ちゃんなりのコミュニケーションなんだと」
「そういう問題?しかも勝手に触って『発展途上やね』とか言ったのよ。ホント失礼!大きければいい…ってものでもないでしょ?」
「あははは…」
その件については、花陽も答えようがない。
笑うしかなかった。
「いくら希でも、花陽を汚(けが)したら、ゆるさないんだから」
「大袈裟だよ」
花陽は笑顔を見せたが、心臓は飛び出しそうだった。
真姫ちゃん、ごめん!
…しちゃいました…変なこと…
ん?変なこと?
あれは変なことなのかな?
汚されたわけではないよね?
自問自答する花陽。
「花陽!どうかした?」
「えっ?ううん、なんでもないよ」
「だから、2人でいるのを見た時、そんなことを考えて…」
「ありがとう、心配してくれたんだね。でも、希ちゃんは変な人ではないと思うよ」
「わかってるわよ。でも、私の中ではまだ掴みきれていないのよね」
「掴みきれてない?」
「いくら『カードがそう告げたから』…って、割りと早い時期から、私たちに関わってたでしょ?」
「そうだね」
「バックアップだけじゃなくて、結局、自分もメンバー入りしてるし…。むしろ希が穂乃果たちを操ったんじゃないか…っていうくらい」
「それはないと思うよ」
「謎の人物のひとりなのよね」
花陽は、希がどんな想いでμ'sに加入したか詳しく聴いた。
だから本当はそのことを真姫に伝えたかったが、今はまだ、黙っていることにした。
人の秘密を暴露するようで、気が引ける。
それは花陽の趣味ではなかった。
「あれ?今、謎の人物のひとり…って言った?まだ他にもいるの?」
「海未」
「海未ちゃん?」
「そう」
「どうして?」
「どうして…って、あの性格でスクールアイドルやってるのよ。花陽は不思議に思わない?」
「それを言ったら、私もμ'sにいることが、いまだに信じられないんだけど…」
「それは私もそうだけど…。そういう話じゃなくて…その…普段のイメージと、書いてくる歌詞のギャップとか」
「あぁ、それは確かに…」
「『START:DASH!!』なんか、始まりが『HEY! HEY! HEY!』なんだから…」
「普段の海未ちゃんなら言わないね」
「大和撫子然としてるけど、彼女の考えてることは、色々謎だわ。いつか精神分析したいと思ってるの」
「それは怖いかも…」
「あと穂乃果との関係とか」
「穂乃果ちゃんとの関係?」
「いくら幼馴染みとは言え、海未と穂乃果は真逆の性格で…私の経験上、もっとも苦手なタイプだと思うの」
「穂乃果ちゃん、マイペースだもんね」
「マイペースじゃなくて、ルーズなのよ」
「そうとも言うかな…」
花陽でもそれは思うらしい。
「それでも、海未は親友って言い切ったわ」
「直接訊いたんだ…」
「あ、その…ほら、打ち合わせの時とかに…」
「親友って断言出来るの、すごいね」
「あなただって、凛とは親友でしょ?」
「どうなんだろ?」
「どうなんだろ…って…」
奇(く)しくも、希とそんなことを話したばかりだ。
花陽の中で、まだ結論は出ていない。
「あなたと凛が親友じゃなかったら…私なんて、一生そういう関係にはなれないじゃない…」
真姫は不思議そうに花陽を見つめた。
「うーん、凛ちゃんは花陽にとって、大事な大事なお友達。いつも、そばにいて私を助けてくれたり、後押ししてくれたり…本当に大切な人」
「海未も穂乃果に対して似たようなことを言ってたわ」
「でも、私は凛ちゃんと対等な立場なのか、自信がないの。引っ張ってもらうだけで、頼りっぱなしで…もしかしたら、私が一方的に友達と思ってるだけで、凛ちゃんは頼りない妹くらいにしか思ってないかも…なんて考えたりして…」
「そうね。妹として見てるかは別として、凛のあなたに対する愛は、少し異常かも」
「異常なのかな?…」
「うらやましいけどね。私にはそんな人、いないもの」
「どうして?真姫ちゃんは綺麗でスタイルも良くて、お勉強も出来て、歌もピアノも上手で…おまけにお金持ちで、言うことないのに」
「完璧すぎるのね」
こういうことをサラッと言うのが、真姫の真姫たる由縁。
「そっか、真姫ちゃん、スターのオーラがあるもんね」
何の突っ込みもせず、流してしまうのも、また花陽らしい。
にこや凛なら「自分で言う!?」と一言発してるところだ。
「友達が出来ないわけじゃないからね。作らなかっただけなんだから」
「ひとりの時の方が楽な時もあるもんね」
強がる真姫に、あっさり同意する。
「花陽は凛と四六時中一緒で、息苦しくない?」
「息苦しいなんて言ったら、凛ちゃんに怒られちゃうよ」
「喧嘩とかしないの?」
「昔はあったけど、最近は…」
真姫は立ち上がると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、ベッドに腰掛けた。
「何かあっても、あなたが押しきられるイメージ」
「凛ちゃんを悪者みたいに言うのはダメだからね」
「そうは言ってないわよ。でもあなたは優しいから…」
「優しいのは凛ちゃんだよ。優し過ぎて、辛くなるときはたまにあるかな。優しさに甘えている自分に、自己嫌悪に陥ることがままあります…」
「あなただって充分優しいじゃない。普通は生徒手帳落としたからって、家までは届けないわよ」
「そうなのかな…」
「友達なんて面倒だと思ってたし、実際、面倒な人たちばかりだけど、最近は、それも大事だと思うようになってきたの」
「うん、良かった」
「多分、あのままだったら、人の気持ちには寄り添えない、心の傷みのわからない…そんな医者になっていたかも」
「真姫ちゃんに限って、それはないよ」
「えっ?」
「だって、あんなに上手にピアノを弾いて、あんなに綺麗な声で歌うんだもん」
「なにそれ?意味わかんない」
「真姫ちゃんは知らないだろうけど、真姫ちゃんのファン第一号は花陽なんだよ」
「えっ?」
「毎日、聴きに行ってたもん。真姫ちゃんのピアノと歌声」
「ヴェェ!」
真姫はベッドに座っていたが、そのまま仰け反り、後ろに倒れた。
「かなり恥ずかしい…」
「同じクラスだけど、声も掛けられず…でも、いつか、こんな素敵な人と友達になれたらいいな…って思って」
「誉め殺し?」
真姫はベッドの上に仰向けになったままで呟く。
「生徒手帳届けたのも、話すきっかけが欲しかったのかも」
「花陽…」
「だから、真姫ちゃんがボイストレーニングしてくれた時は、本当に嬉しかった。凛ちゃん以外で、花陽に優しくしてくれる人がいるんだ…って、本当に嬉しかった」
「見ていられなかったのよ。せっかくの才能を埋もれさせるのがもったいなかったから」
「凛ちゃんと真姫ちゃんが、花陽の両手を引っ張ってくれた時『誰かたすけてぇ』ってくらい困ったけど、同時にスゴい幸せ者だと思っちゃった」
「私はまだ、凛との関係性を知らなかったから」
「さっき、真姫ちゃんが花陽のことを、1番の友達って言ってくれだけど、花陽も真姫ちゃんは、高校に入って初めての友達なんだよ。凛ちゃんとはまた別の、大切な、大切な友達」
「…あ、ありがとう…」
「なんか、お互い同じようなことを考えてたんだね」
「偶然ね」
「偶然も重なれば…」
「必然!…なんでしょ?」
真姫は上体を起こして、花陽を見た。
「うん!」
そして同時に微笑んだ。
~つづく~