【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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ともだち その17 ~突然変異の少女たち~

 

 

 

 

 

先週の予報通り、急激に秋らしい気温になった。

今週は少し、ぐずついた天気になるという。

 

今日の雨は降ったり止んだりだが、強くなることはないらしい。

幸いにも2人の行き先は屋内の為、交通機関が止まらない限り、大きな影響はなかった。

 

 

 

ラブライブの地区予選を突破して、初めてのオフ日。

『にことバックダンサー騒動』も終息して、μ'sは新たなスタートを切った。

…とはいえ、最終予選は12月。

気持ちの切り替えも含め、追い込むにはまだ早い。

 

真姫と花陽は、その束の間のリフレッシュタイムを利用して、電車で東京郊外まで来ていた。

 

『一応』凛も誘ったのだが

「凛はきっと寝ちゃうから…2人で行ってきていいよ。そのかわり、お土産待ってるにぁ~!」

との返事。

本心かどうかはわからない。

いや、きっと本心ではないだろうということは、真姫も花陽も気付いている。

しかし、余計な気遣いは変な邪念を生む。

今回は凛の言葉に甘えることにした。

 

 

 

最寄り駅で降りると、ここからバスに乗り換えて、約15分ほどで目的の場所にたどり着く。

 

霧雨が降る中、2人は次のバスが来るのを待った。

 

「電車からバスの移動って、なんだか、この間の合宿みたいだね」

「今日は人数の確認をする必要がないけどね」

合宿では、穂乃果が乗ってきた電車に『忘れ去られる』という事件があった。

真姫の一言に、花陽は思わずクスッと笑う。

「あなたも気を付けなさいよ。わりとドジなんだから」

「う、うん、そうだね。花陽もそそっかしいから」

「まぁ、そこが憎めないとこなんだけど」

「ん?」

「なんでもない」

真姫は素っ気なく答える。

同じ失敗をしても、イラッとさせられるタイプと、微笑ましく思えるタイプがいる。

真姫にとって花陽は後者だ。

理論では説明出来ない、感覚的なものだった。

 

 

 

ふと気が付くと2人の後ろには、年配の女性が数名と、女子高生が4~5名並んでいた。

今日は土曜日なので、真姫も花陽も私服だが、少女たちは制服を着ている為、高校生だとわかる。

とても仲良さそうに、明るい声で話をしている。

その声に引っぱられ、真姫が視線をそちらに移した。

特に意識して見たわけではないが、偶然、そのうちの1人と目が合ってしまった。

ポニーテールに白の大きなリボンをつけた少女。

雰囲気としては、ことりに似てなくもない。

真姫とポニテの少女は、ぶつかった視線のやり場に困り、お互いバツが悪そうに、なんとなく下を向いてごまかした。

「どうかした?」

「なんでもない。向こうを見たら、知らない人と視線が合っちゃっただけ」

「あるよね、そういうこと。気まずいよねぇ」

「別に何かあって見たんじゃないんだけど」

…と真姫と花陽サイドは、それで終わった。

 

しかし、女子高生サイドのポニテは、その後も時おり2人をチラ見している。

いや、真姫も花陽も気付いていなかったが、その少女はかなり前から2人のことを見ていたのだ。

だから真姫と視線が重なったのは、決して偶然ではなかったのである。

 

その事実はバスに乗ってすぐに、明らかになった。

 

一番後ろの席に2人は座る。

するとすぐにポニテの少女が近付いてきてた。

「ねぇ、あなたたち、音ノ木坂のスクールアイドル…μ'sのメンバーでしょ?」

「えっ!?」

真姫と花陽は小さく声を上げたあと、暫し絶句。

お互いの顔を見合わせる。

 

真姫ちゃん、どうしよう…と訴える花陽。

どうしよう…って私にもわからないわよ…と真姫。

 

以心伝心。

声には出さないが、お互いの言いたいことはわかった。

 

「しおん、いきなり、それは失礼ですよ!」

助け船を出したのは、ポニテの仲間…ボブカットの少女だった。

「ごめんなさい、突然…。実は私たち、スクールアイドルをしていておりまして…」

「スクールアイドル?」

花陽が聞き返す。

いくら花陽がオタクでも、有名校以外のスクールアイドルは、チェックしきれていない。

「私たちもラブライブの予選にはエントリーをしておりましたが…結果はご存知の通りです」

ボブカットの少女は口調は、どことなく海未に似ている。

「だからさ、私たちが『予選を突破したチームの顔』くらいは知ってても不思議じゃないでしょ?さっきから似てるなぁ…とは思ってたんだけど、こんなところにいるハズもないと思いつつ…。なら、直接訊くしかないということで…」

しおん…と呼ばれたポニテは、外見はことり風だが、口調は穂乃果っぽい。

彼女はスマホを取り出すと少し操作をして、2人に画像を見せた。

そこには、μ'sのメンバーが写っていた。

「やっぱり…でしょ?」

「まぁ、隠しても仕方ないわね」

「そ、そうだね」

「私の目に狂いはなかった…と」

女子高生は5人いたが、話しかけてきたの2人。

残りは遠巻きにこちらを見ていた。

「向こうの人たちも…ですか?」

花陽が訊く。

「彼女たちは普通に友達です。あ…すみません、申し遅れました。私、調布女子高等学校でスクールアイドル『Mutant Girls(ミュータントガールズ)』をしています、『中目黒結奈(なかめぐろゆな)』と申します」

「同じく『亀井紫恩(かめいしおん)』。よろしくね」

 

「ミュ…ミュータントガールズ!?」

2人の自己紹介を聴いて、真姫と花陽は驚きの声をあげた。

 

実在したんだ!

 

…これが驚きの声の理由…

 

穂乃果が見た夢の中に登場したスクールアイドル。

どこかで、何が間違っていれば、予選を突破したのは彼女たちだったかもしれない。

 

「私たちのことをご存知でいらして?」

「あ、え~と…お名前は…」

正直、自分たちのことが精一杯で…『A-RISE』は別として…それ以外のチームの情報は持ち合わせていない。

穂乃果はたまたま見た名前を、無意識のうちに脳内のどこかに留めていたのだろう。

「光栄です…名前だけでも」

ボブカットの結奈。

嫌味ではなく、本当にそう思っているようだ。

「実は…自分たちのことが精一杯で、他のチームを観ている余裕など全くなかったのですが、予選結果が発表されたあと、それぞれのチームのパフォーマンスを、初めて拝見させて頂いたのですが…皆様を観て、甚(いた)く感動いたしました」

「スゴいよね!歌も曲も…そしてダンスもさ、とても素人とは思えない完成度で」

「恥ずかしながら、私たちがやっていたのは、お遊戯でした」

「こういう活動をしているから、当然A-RISEの凄さは知ってるけど、紫恩的にはμ'sの方が上だと思うな」

「いえ、そんな…まだ足元にも及ばないかと…」

花陽はいつもの調子の小さな声。

「え~!?向こうは3人、あなたたちは、9人でしょ?」

「それって、ただ単に大所帯ってことでしょ?」

と真姫。

「いえ、そういう意味ではございません。9人もいるのに、みなさんひとりひとりに個性があって、尚且つ、雑にならずに統制がとれた、美しいパフォーマンス。本当に素晴らしいと思いました」

「あ、ありがとうございます」

「あれを観て以来、紫恩たちの目標はμ'sになったんだ。だから、スマホにもあなたたちの動画が…ほら、こんなに」

「わっ、すごい…」

「そして、まさかこんなところで、本人に会えるとは…」

「はい。ある意味、奇跡です」

「奇跡…って」

「一緒に写真、撮ってもいい?」

「紫恩!不躾(ぶしつけ)過ぎますよ」

「え~いいでしょ?写真くらい」

「構わないですよ」

「ちょっと、花陽!勝手に…」

「私もこの間A-RISEに会ったとき『サイン下さい!』って、お願いしちゃったし、気持ちはわからなくないから…」

「花陽がそう言うなら…」

「ファンを大切にするのは、アイドルとして1番大事なことだよ」

「わかったわよ」

「ありがとう!うれしい」

「その代わり、変なことには使わないでよ」

「はい、それは私がお約束致します」

 

こうして遠巻きに見ていた仲間のひとりを呼び寄せ、バスの中でスマホを使ってのプチ撮影会が行われた。

 

 

 

真姫と花陽が目的地に着く前に、彼女たちは途中下車した。

 

別れ際

「最終予選、頑張って下さいね。陰ながら応援しております」

「A-RISEに負けないでね!」

結衣と紫恩は、そう言い残してバスを降りていった。

 

 

 

 

 

~つづく~


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