【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
先週の予報通り、急激に秋らしい気温になった。
今週は少し、ぐずついた天気になるという。
今日の雨は降ったり止んだりだが、強くなることはないらしい。
幸いにも2人の行き先は屋内の為、交通機関が止まらない限り、大きな影響はなかった。
ラブライブの地区予選を突破して、初めてのオフ日。
『にことバックダンサー騒動』も終息して、μ'sは新たなスタートを切った。
…とはいえ、最終予選は12月。
気持ちの切り替えも含め、追い込むにはまだ早い。
真姫と花陽は、その束の間のリフレッシュタイムを利用して、電車で東京郊外まで来ていた。
『一応』凛も誘ったのだが
「凛はきっと寝ちゃうから…2人で行ってきていいよ。そのかわり、お土産待ってるにぁ~!」
との返事。
本心かどうかはわからない。
いや、きっと本心ではないだろうということは、真姫も花陽も気付いている。
しかし、余計な気遣いは変な邪念を生む。
今回は凛の言葉に甘えることにした。
最寄り駅で降りると、ここからバスに乗り換えて、約15分ほどで目的の場所にたどり着く。
霧雨が降る中、2人は次のバスが来るのを待った。
「電車からバスの移動って、なんだか、この間の合宿みたいだね」
「今日は人数の確認をする必要がないけどね」
合宿では、穂乃果が乗ってきた電車に『忘れ去られる』という事件があった。
真姫の一言に、花陽は思わずクスッと笑う。
「あなたも気を付けなさいよ。わりとドジなんだから」
「う、うん、そうだね。花陽もそそっかしいから」
「まぁ、そこが憎めないとこなんだけど」
「ん?」
「なんでもない」
真姫は素っ気なく答える。
同じ失敗をしても、イラッとさせられるタイプと、微笑ましく思えるタイプがいる。
真姫にとって花陽は後者だ。
理論では説明出来ない、感覚的なものだった。
ふと気が付くと2人の後ろには、年配の女性が数名と、女子高生が4~5名並んでいた。
今日は土曜日なので、真姫も花陽も私服だが、少女たちは制服を着ている為、高校生だとわかる。
とても仲良さそうに、明るい声で話をしている。
その声に引っぱられ、真姫が視線をそちらに移した。
特に意識して見たわけではないが、偶然、そのうちの1人と目が合ってしまった。
ポニーテールに白の大きなリボンをつけた少女。
雰囲気としては、ことりに似てなくもない。
真姫とポニテの少女は、ぶつかった視線のやり場に困り、お互いバツが悪そうに、なんとなく下を向いてごまかした。
「どうかした?」
「なんでもない。向こうを見たら、知らない人と視線が合っちゃっただけ」
「あるよね、そういうこと。気まずいよねぇ」
「別に何かあって見たんじゃないんだけど」
…と真姫と花陽サイドは、それで終わった。
しかし、女子高生サイドのポニテは、その後も時おり2人をチラ見している。
いや、真姫も花陽も気付いていなかったが、その少女はかなり前から2人のことを見ていたのだ。
だから真姫と視線が重なったのは、決して偶然ではなかったのである。
その事実はバスに乗ってすぐに、明らかになった。
一番後ろの席に2人は座る。
するとすぐにポニテの少女が近付いてきてた。
「ねぇ、あなたたち、音ノ木坂のスクールアイドル…μ'sのメンバーでしょ?」
「えっ!?」
真姫と花陽は小さく声を上げたあと、暫し絶句。
お互いの顔を見合わせる。
真姫ちゃん、どうしよう…と訴える花陽。
どうしよう…って私にもわからないわよ…と真姫。
以心伝心。
声には出さないが、お互いの言いたいことはわかった。
「しおん、いきなり、それは失礼ですよ!」
助け船を出したのは、ポニテの仲間…ボブカットの少女だった。
「ごめんなさい、突然…。実は私たち、スクールアイドルをしていておりまして…」
「スクールアイドル?」
花陽が聞き返す。
いくら花陽がオタクでも、有名校以外のスクールアイドルは、チェックしきれていない。
「私たちもラブライブの予選にはエントリーをしておりましたが…結果はご存知の通りです」
ボブカットの少女は口調は、どことなく海未に似ている。
「だからさ、私たちが『予選を突破したチームの顔』くらいは知ってても不思議じゃないでしょ?さっきから似てるなぁ…とは思ってたんだけど、こんなところにいるハズもないと思いつつ…。なら、直接訊くしかないということで…」
しおん…と呼ばれたポニテは、外見はことり風だが、口調は穂乃果っぽい。
彼女はスマホを取り出すと少し操作をして、2人に画像を見せた。
そこには、μ'sのメンバーが写っていた。
「やっぱり…でしょ?」
「まぁ、隠しても仕方ないわね」
「そ、そうだね」
「私の目に狂いはなかった…と」
女子高生は5人いたが、話しかけてきたの2人。
残りは遠巻きにこちらを見ていた。
「向こうの人たちも…ですか?」
花陽が訊く。
「彼女たちは普通に友達です。あ…すみません、申し遅れました。私、調布女子高等学校でスクールアイドル『Mutant Girls(ミュータントガールズ)』をしています、『中目黒結奈(なかめぐろゆな)』と申します」
「同じく『亀井紫恩(かめいしおん)』。よろしくね」
「ミュ…ミュータントガールズ!?」
2人の自己紹介を聴いて、真姫と花陽は驚きの声をあげた。
実在したんだ!
…これが驚きの声の理由…
穂乃果が見た夢の中に登場したスクールアイドル。
どこかで、何が間違っていれば、予選を突破したのは彼女たちだったかもしれない。
「私たちのことをご存知でいらして?」
「あ、え~と…お名前は…」
正直、自分たちのことが精一杯で…『A-RISE』は別として…それ以外のチームの情報は持ち合わせていない。
穂乃果はたまたま見た名前を、無意識のうちに脳内のどこかに留めていたのだろう。
「光栄です…名前だけでも」
ボブカットの結奈。
嫌味ではなく、本当にそう思っているようだ。
「実は…自分たちのことが精一杯で、他のチームを観ている余裕など全くなかったのですが、予選結果が発表されたあと、それぞれのチームのパフォーマンスを、初めて拝見させて頂いたのですが…皆様を観て、甚(いた)く感動いたしました」
「スゴいよね!歌も曲も…そしてダンスもさ、とても素人とは思えない完成度で」
「恥ずかしながら、私たちがやっていたのは、お遊戯でした」
「こういう活動をしているから、当然A-RISEの凄さは知ってるけど、紫恩的にはμ'sの方が上だと思うな」
「いえ、そんな…まだ足元にも及ばないかと…」
花陽はいつもの調子の小さな声。
「え~!?向こうは3人、あなたたちは、9人でしょ?」
「それって、ただ単に大所帯ってことでしょ?」
と真姫。
「いえ、そういう意味ではございません。9人もいるのに、みなさんひとりひとりに個性があって、尚且つ、雑にならずに統制がとれた、美しいパフォーマンス。本当に素晴らしいと思いました」
「あ、ありがとうございます」
「あれを観て以来、紫恩たちの目標はμ'sになったんだ。だから、スマホにもあなたたちの動画が…ほら、こんなに」
「わっ、すごい…」
「そして、まさかこんなところで、本人に会えるとは…」
「はい。ある意味、奇跡です」
「奇跡…って」
「一緒に写真、撮ってもいい?」
「紫恩!不躾(ぶしつけ)過ぎますよ」
「え~いいでしょ?写真くらい」
「構わないですよ」
「ちょっと、花陽!勝手に…」
「私もこの間A-RISEに会ったとき『サイン下さい!』って、お願いしちゃったし、気持ちはわからなくないから…」
「花陽がそう言うなら…」
「ファンを大切にするのは、アイドルとして1番大事なことだよ」
「わかったわよ」
「ありがとう!うれしい」
「その代わり、変なことには使わないでよ」
「はい、それは私がお約束致します」
こうして遠巻きに見ていた仲間のひとりを呼び寄せ、バスの中でスマホを使ってのプチ撮影会が行われた。
真姫と花陽が目的地に着く前に、彼女たちは途中下車した。
別れ際
「最終予選、頑張って下さいね。陰ながら応援しております」
「A-RISEに負けないでね!」
結衣と紫恩は、そう言い残してバスを降りていった。
~つづく~