【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
真姫編は一旦、完結です。
「面白かったねぇ」
花陽は嬉々とした声で、真姫に言った。
「たまにはいいでしょ?」
「今のプラネタリウムの技術力って、スゴいんだね。映像も綺麗だったし、3Dの迫力が」
「良かった。花陽ならきっと喜んでくれると思ったから」
「うん、うん」
真姫と花陽の今日の目的はプラネタリウム観賞だった。
最近のプラネタリウムは投影される映像が極めて緻密、かつ鮮明で、観る人を圧倒させる施設が多い。
そして2人が訪れてたここは、3Dシアターも併設されていて、学術的なだけでなくエンターテインメントとして、充分楽しめる施設だった。
2人はここで、2時間あまりの宇宙旅行を味わったのだった。
時刻は間もなく正午。
雨は止んでいる。
「真姫ちゃん、お腹空いてない?」
「そろそろ言う頃だと思ったわ」
「もう、お昼だもん」
「そうね。駅前まで戻って何か食べましょう」
「その前に…ここで…おにぎり食べていい?」
「えっ?」
「早起きして作ってきたんだけど…真姫ちゃんも食べる?」
「あ、ありがとう…。でも、ここでは…ちょっと…」
来た時と違って、今はそこそこの人出がある。
真姫としては、周りの目が気になるらしい。
「そっかぁ…じゃあ、花陽も我慢する…」
「あなたは食べなさいよ。電池切れなんでしょ?」
「だ、大丈夫だよ」
「『我慢できない』って顔に書いてあるけど」
「うぅ…でも…花陽だけっていうのは悪いから…」
「別に悪くはないけど…。わかった…私も付き合うわよ」
「ホント?」
「私のワガママでこんなとこまで来てもらったんだから、それくらいしないとバランス悪いでしょ」
「真姫ちゃん!」
「バスが来るまで時間があるわ。それなら、早く食べましょ」
2人は敷地の外に出掛かった足をターンさせ、施設内の休憩スペースに腰を下ろした。
「はい、これは真姫ちゃんの分」
「相変わらずの大きさね」
「真姫ちゃんのは、ひとつで色んな味が楽しめるように『鮭』と『おかか』と『明太子』が入ってるんだよ」
「花陽のは?」
「新米の美味しさを際立たせるため、単純に塩むすびだよ」
「ヴェェ~…その大きさをひとりで食べる気?」
花陽のおにぎりは真姫に渡したそれの、3倍以上の大きさ。
近くを通る人が二度見していく。
「いただきま~す」
「いただきます」
花陽が塩むすびにかぶりつく。
「ふむ、ほいひぃ!」
「あなたは本当に美味しそうに食べるわね」
真姫は彼女の食事シーンを見ると、とても幸せな気分になる。
それはきっと、大食いであっても、決して下品ではないからだろう。
「どうかな、味?」
「さすが、花陽ね。天才的な美味しだわ。やっぱり料理上手っていいわね…」
「じゃあ、花陽はピアノを教えてもらう替わりに、おにぎりの作り方を教えましょう」
「そうね。それくらいは出来ないとね…」
「その前にご飯の炊き方を…いやいや、その前にお米の選び方を…」
「それは無理だから」
真姫は苦笑して、花陽の話を遮った。
『食事』を終えると、2人はバスに乗り込み、駅へと向かった。
家族連れやカップルなども見受けられ、かなり混んでいる。
駅まではそれほどかからないので、2人は吊革に掴まり通路に立った。
「もう、ミュータントタートルズはいないわよね」
「ミュータントガールズだよ」
「どっちでもいいわよ」
「でも、ビックリしたねぇ…。μ's始めてから、初めての経験」
「花陽は嬉しかったんじゃないの」
「正直、ちょっとだけアイドルの夢が叶ったというか…。真姫ちゃんは?」
「面倒くさい」
「…らしいセリフだね」
「だって、出掛ける度に声掛けられたりしたら、自分の自由がなくなるのよ。…芸能人が変装して外に出るのが、なんとなくわかった気がするわ」
「サングラスにマスク?」
「にこちゃんみたいなのはイヤだけど」
真姫の言葉に花陽はクスッと笑った。
「な、なによ?」
「真姫ちゃんて、にこちゃん好きだよね」
「な、なに言ってるのよ」
「花陽にはわかるよ。真姫ちゃんは、にこちゃんが好き」
「嫌い…ではないわよ…」
「本当は花陽より、にこちゃんが好き?」
「えっ?…それは比べられないわ…。にこちゃんのことは好き。普段は先輩の『せの字』もないけど、自分に信念があって、真っ直ぐに突き進む姿勢は、ある意味尊敬してるし…一緒にいて、気を使わなくて済むし」
「ふむふむ」
「だけど、それはそれ。私は花陽といると優しくなれるの…あなたには、そういう力があるの。特殊能力と言ってもいいわ」
「そうなのかな」
「だから、やっぱり花陽は私にとって特別な存在なのよ」
「なんか、照れるね」
「私だって照れるわよ…こんなこと言うの。…でも、ハッキリ言っておく」
「ん?」
「これからも…ずっと、そばにいて。私から離れないで!!」
真姫は花陽を確(しっか)と、抱き締めた。
「は、はい!こ、こちらこそ…」
その勢いに押されて、身体を預ける花陽。
しかし、直ぐにお互いパッと手を離した。
周囲の視線が真姫と花陽に集中している。
どうやらバスの中で告白しあう(?)女子2人に、周りの乗客は興味津々だったようである。
知らぬまに注目されていた。
「…っていう、あの映画のワンシーンが好き」
「う、うん。そうね。私も」
それで誤魔化せたとは思わないが、そうでも言わないと、この場から逃れられない雰囲気だった。
「はぁ、恥ずかしかった」
真姫がため息をつきながら、バスを降りる。
「真姫ちゃんったら、あんなに大胆なことをするから」
と言いつつ、思い出し笑いをする花陽。
「あのねぇ、そこ、笑う?あれは勢い余って…って言うか、花陽は平気なの?」
「みんなの見てる前で、堂々と告白されちゃったら、それはそれで女の子としては、うれしいシチュエーションなわけで」
「花陽もまだまだ子供ね…夢みる乙女じゃない」
「真姫ちゃんだって、意外とロマンチストでしょ」
「な、なんで私が?意味わかんない」
「だって知らなかったけど、趣味が天体観測でしょ?」
「て、天体観測が趣味だと、どうしてそうなるの?」
「だって、真姫ちゃんがだよ…夜な夜な空を見上げて、ギリシャ神話に想いを馳せたり、うっとり星を眺めたり…って…」
「バカにしてる?」
「してないよ。でも、夢とかロマンがない人は、そんなことしないもん」
「するわよ。花陽は空を見たりしない?」
「それは、たまには見て綺麗とか思うことはあるけど…。天体観測というほどは…。あ!それで真姫ちゃんはトレードマークを☆にしてるんだね」
「それはまた別の意味でしょ。本来なら凛が付けてもおかしくないんだけど。星空凛っていうくらいなんだから」
「あ、それ。合宿の時に希ちゃんに似たようなことを言われたみたい。『名前が星空なんだから、もっと興味を持ったら』…って」
「そうね…。今日はプラネタリウムだったから、凛なら本当に寝てたかもだけど、今度、誘ってみようか。本当の天体観測」
「いいの?」
「花陽にとっての大事な親友でしょ?仲間外れみたいなことはできないわ」
「真姫ちゃん…。うん、そうだね」
「なれるかな?」
「えっ?」
「私たちも、海未たちみたいに」
「う、うん!なれるよ、絶対!」
「私は2人と違って付き合いは短いけど」
「そんなの関係ないよ!」
珍しく大きな声で否定した。
「花陽…」
「それは確かに…私と凛ちゃんは長い付き合いだし、真姫ちゃんには入りづらいとこもあるかもしれないけど…それは少しずつ縮めていけばいいと思うんだ」
「花陽…」
「まだまだ真姫ちゃんの知らないこといっぱいあるし、今日みたいに初めて知ることもあるけど、それも含めて、私も凛ちゃんも受け入れ体制は充分出来てるよ」
「うん。そうね。私がカベを作ってたらダメね」
「真姫ちゃん…」
「これからの高校生活…ううん、そのさきもずっと…友達でいてくれる?」
「もちろんだよ!」
「あと…2人きりの時は…『かよ』って、呼んでもいい?」
「えっ?」
「いいでしょ?凛だって『かよちん』って呼んでるんだから」
「うん。いいよ」
「じゃあ、花陽も2人の時は『まき』って呼ぼうかな」
「えっ!?」
「なぁんて」
「もう!からかわないで!」
「あっ!真姫ちゃん、見て!見て!向こうの空!」
「なぁに?…あっ!…」
「綺麗だね…」
「二重のを生で見るのは初めてだわ…」
「なんか、得した気分だね」
2人が見たのは、奥多摩の中腹から空に延びる2本の虹だった。
真姫も花陽も、暫くそれを見続けていた。
「10年後もこうして…虹、見れるかな」
「見ようよ…10年後も20年後も…その先もずっと…」
「10年後ねぇ…『かよ』は何をしてるのかしら?」
「う~ん…何してるんだろう?」
「夢とかないわけ?まさか本気でアイドルに?」
「と、とんでもない!…それはゼロではないけど…現実的なことを言えば、保育士とか幼稚園の先生とか…かな」
「なるほど…ピッタリね。絵が浮かんだわ。…あ、それでピアノ?」
「弾けたらいいかな…って」
「そうね。でも、私のレッスンは厳しいわよ」
「はい、頑張ります!真姫先生!」
「なにそれ、意味わかんない」
「それはわかるでしょ!」
花陽はそう言って笑った。
「これからも、よろしく」
「こちらこそ」
2人はどちらともなく手を握り合った。
「ただいま」
「あら、おかえり。どうだった?小泉さんとの初デート」
「デートって…」
「良かったね。素敵なお友達に出会えて」
「な、なによ、急に。よく知りもしないくせに」
「わかるわよ…あなたのママだもの。あなたが出掛けていく時の顔、今の表情を見れば、小泉さんがどんな娘なのかくらいは、ね」
「…想像に任せるわ…」
「素直じゃないんだから」
「シャワー浴びてくる」
真姫はそう言って、自分の部屋へと行きかけたが、クルッと振り返り、母に一言告げた。
「ママ…今度さ、おにぎりの握り方を教えてくれない?」
ともだち
~完~
いかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでもらえていれば幸いです。
もっと完結にまとめる予定だったんですけど、ダラダラ長くなっちゃいました。
次はテンポ良くいきたいですね。
ご意見、ご感想お待ちしてます。