【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「『かよ』…聴いたわよ。階段から滑り落ちたんだって?大丈夫?」
「情報早いね…」
「そのあと、希に襲われたって」
「襲われ…てはいないよ」
ちょっと怪しかったけど…と返答に一瞬詰まった。
「最後は部室でヌードに…」
「なってないよ!」
これは即答した。
「…だろうね…」
「…にこちゃんだね?『先生』にそんなことを吹き込んだのは」
「正解…。もちろん信じてるわけじゃないけど、面白いから最後まで聴いてみた」
「にこちゃんらしいというか…」
「子供っぽいというか…。なんであんな見え透いた嘘をつくのかしら」
「花陽が思うに、家庭環境が影響してるんだよ」
「家庭環境?」
「ほら、にこちゃんと妹さん弟さんとは、少し歳が離れてるでしょ」
「そうね。正確にはわからないけど、少なくとも6歳以上は違うかしら」
「だからきっと、昔から妹さんたちに、色んなお話をしてあげたんじゃないのかな…」
「読み聞かせ?」
「うん、昔話とかおとぎ話とか。でも同じ内容だと飽きちゃうから、そのうち面白おかしく脚色して、楽しくお話ししてあげてたんじゃないかな?」
「その延長で、私たちにも『盛って』話す…ってこと?」
「悪気はないと思うけど…」
「かよらしい分析だわ…。私はただ単に、かまって欲しいだけだと思うんだけど」
花陽のことを『かよ』と呼ぶ電話の相手は…真姫だった。
真姫は『親友になる第一歩』として、花陽とツーショットの時に限り、そう呼ぶと宣言していた。
「でも、ケガの話は本当なんでしょ?」
「それも、ちょっと違うよ…おしりを打っただけだから」
「打撲?」
「なのかなぁ…さっき凛ちゃんに見てもらったら、アザになってるって…」
そう、さっきまで凛はここにいた。
真姫からの電話は、凛が帰って間もなくのことだった。
「結構、強く打ったのね」
「でも、どうしようもないよね。簡単に治るものでもないし」
「本当はすぐに冷やせばよかったんだけど…」
「さすが先生」
「私がいれば何らかの応急処置ができたのに」
「うん…でも、おしりだし…」
「ケガに恥ずかしいも何もないでしょ!」
「う~ん…」
「なによ?」
「先生だったら、おしり出せる?」
「ヴェェ~!なんで私がおしりを出さなきゃいけないのよ」
「だから、先生が、怪我した場合だよ」
「わ、私は…かよみたいなドジはしないもの」
「それはそうだけど…って、答えになってないよ」
「でも、不幸中の幸いね」
「ん?」
「脚とか手とか、肌が露出する部分だったら一大事だわ。そんなのアイドル失格でしょ?」
「おぉ、先生にアイドルとしての自覚が芽生えてる!」
「茶化さないで!」
「ごめん、ごめん」
「階段から落ちた…って聴いたときは血の気が引いたんだから」
「それはホントにごめん」
「痛みが引かないようなら医者(ウチ)に受診しなさいよ」
「うん。先生に診てもらう」
「かよ…」
「ぬ?」
「さっきから気になってるんだけど、その『先生』って呼び方、なんとかなならない?」
真姫が花陽を『かよ』と呼ぶときは、花陽は真姫を『(ピアノの)先生』と呼ぶことにしていた。
…が…
真姫には違和感があるらしい…。
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「『マキ』でいいんじゃない?」
「よ、呼び捨て?」
「と、友達なんだから…呼び方も対等じゃないと…」
「う、うん…。じゃあ…マキ…ちゃん」
「『ちゃん』はいらないの」
「あははは…いきなりは無理だよ」
「慣れね」
「それより…マキ…ちゃん」
「なに?」
「今日、花陽に用があったんじゃ?」
「えっ、あぁ…べ、別にたいしたことじゃ…」
そんなぁ!
元はといえば真姫ちゃんが原因で足を滑らせたんだよ!
…とは、さすがに言えないよね…
「マキ!」
「えっ!?」
「…隠し事はダメだよ!」
「かよ…」
「…なぁんて、ね」
「うん…わかったわ、ゴメン。実は…ちょっと、おにぎりにチャレンジしてみようかと思って…」
「わぁ!素敵だね」
花陽のテンションが一段アップした。
「どうせなら、お米の研ぎかたから教わった方がいいんじゃないかと」
「うん、うん。いいね、いいね。それは大事なことだねぇ」
「急ぐことじゃないから、別にいつでもいいんだけど」
「そうしたら…明日、試食会をしようよ」
「試食会?」
「うん、そうしよう!」
「ちょっ…ちょっと、なに勝手に決めてるのよ…って、明日?」
「うん、明日」
「話を聴いてた?そんな急ぐことじゃ…」
「大丈夫だよ。ほら、みんな『利き米コンテスト』に参加するって言ってたから、グッドタイミングだよ」
「私は出ないけど…」
「それに花陽は、まだ明日はダンスとか厳しそうだし」
「それはそうね」
「じゃあ、早速準備をしないと」
「本気なの?」
「マキちゃ…マキ、わざわざ、電話してくれてありがとう」
「当たり前でしょ!…と、友達なんだから」
口調から真姫が照れてるのがわかる。
「うん。じゃあ、また明日」
「お大事に」
スマホを切った花陽は、勢いよくベッドから起き上が…れずに
「いたたた…」
と、臀部を押さえながら、ゆっくりと降りた。
「おばあちゃんみたい」
誰もいない部屋で、ひとり、花陽は呟いた。
~つづく~