【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「利き米コンテスト」当日…。
会場では、整理券を求める参加希望者で、長蛇の列が出来ていた。
マイクの調子を確認する関係者。
まだイベントスペースの設営が終わっていないのか、右往左往しているスタッフ。
何が行われるのかと、立ち止まり、写真撮影をする外国人旅行者。
そんなザワザワした空気の中『最後尾』のプラカードを持つ男性に駆け寄る数人の少女たちがいた。
μ'sのメンバーである。
「まだ間に合いますか!?」
息を切らせながら、穂乃果が訊いた。
男性は「多分…」とだけ答えた。
「だいたい、穂乃果が寝坊などするから…」
「わかってるよ。だからそれは謝ったじゃん」
「開き直りですか!」
「海未!穂乃果!いい加減にしなさい!」
「ほらぁ…絵里ちゃんに怒られたぁ…」
悪びれる様子のない穂乃果に、悔しさを滲ませる海未。
「なんで、私まで怒られるんですか…」
と呟いたあと、ひとつ溜め息を吐(つ)いた。
「じゃあ、私たちは邪魔になっちゃうから、あっちにいるね」
ことりが列から離れた方向を指差した。
「そうね。出ないんだから、一緒に並ぶ必要はないものね」
真姫が同意し、ことりと絵里の3人は、その場から離れた。
μ'sのメンバーは希、にこ、凛、花陽、穂乃果、海未の順に並んだ。
彼女たちの後ろにも人は集まってきたが、どう贔屓目に見ても前の方ではない。
「予備予選って、何名までの受付やったっけ?」
「確か150人だったかと…はい、150人です」
花陽がスマホの画面で確認して答えた。
「なら、花陽ちゃんはウチの前に並んだ方がいいね。ざっと見たところ、結構ギリギリな感じがするんよ」
「そうですね。花陽が出られないとなると本末転倒ですからね。念のため、少しでも前の方が」
「うん、希ちゃんと海未ちゃんの言う通りにゃ!」
「あ、ありがとう…」
そう言うと花陽は、凛に押し出されるようにして、希の前へと歩を進めた。
そうこうしているうちに、列が少しずつ前に進み始め、整理券をもらった参加希望者が、ひとり、ふたりとメンバーの横を通り過ぎていく。
何人とすれ違っただろうか。
間が空かないように前の人の足元ばかりを気にして、行き交う人の様子など特に見てはいなかったのだが、何故かその一瞬だけ、花陽の視界に見覚えのある人影が映った。
「あっ!」
今のは…と、通り過ぎた人影の後ろ姿を、振り向き目で追う。
背が高く、髪の長い…少し大人びた少女…。
今日は見馴れた制服でもなく、ステージ衣装でもない。
黒のジャケットと黒のデニムのパンツ…と、いつもとは真逆の格好。
それでも花陽が『彼女』だと気が付いたのは、天性のアイドル受信アンテナスキルの高さなのか。
花陽の声に反応したのか、同時にその少女も立ち止まり、キュッと靴を鳴らし『キレ』のあるターンを決めた。
「やっぱり!」
花陽の声に、慌ててその視線の先に目をやる、ほか5人。
「やはり、小泉さんか。似ているとは思ったが…」
「げぇ!」
その姿を確認したにこは、オーバーアクションで驚き、そのままフリーズした。
その少女こそ、μ'sの目標であり、ライバルである『A-RISE』のひとり『統堂英玲奈』だった。
「統堂英玲奈さん!どうしてここに?」
「高坂さん、公衆の面前でフルネームで呼ぶのはどうかと…英玲奈でいい」
「あ、すみません」
「それより『どうしてここに?』とは、随分な言いようだな。ここは私の庭だ。逆に私から言わせれば、何故、μ'sがここに?…ということになる」
「あははは…そうですよねぇ。私たちは見ての通り、利き米コンテストに参加しようと思って…。ちょっと来るのが遅れちゃって焦ってるんですけどね」
穂乃果はその場で駆け足をして、おどけてみせた。
「あなた方も出るのか?」
英玲奈は少し『意外』という口調で、訊き返した。
しかし、表情は変わらない。
「…と、言うと…英玲奈さんも出られるのですか」
「実は…内緒なんだが、あとでサプライズライブを行うことになっている」
「さすが地元のスーパーアイドル!」
「にこちゃん、ゴマすり感が凄いにゃ」
「…ということは、コンテストに参加するわけではないのですね?」
海未が何気なく問い掛けた。
「いや、参加する」
「えっ!?」
英玲奈の答えに、6人が同時に声をあげた。
「他の2人も…ですか?」
「いや、私だけだ。『あんじゅ』は別として『ツバサ』は味音痴が酷く、参加するに値しない」
「へぇ、そうなんですか。私なんか、まったく自信ないですけど」
「そういう前向きな姿勢が、μ'sのリーダーたる由縁ではないかと、個人的には思っている」
「あ、ありがとうございます」
面と向かって誉められて、赤面する穂乃果。
その時…ちょっと、前、進んでよ!…と、後ろから野次が飛んで、気付いた。
英玲奈と話しているうちに、花陽と前の人との間隔が空いていた。
慌ててその間を詰める。
「では、後(のち)ほど。健闘を祈る」
そう言うと英玲奈は軽く手を上げ、その場から離れた。
「なんか、絵里ちゃんと海未ちゃんと真姫ちゃんを足して3で割ったみたいな人だにゃ」
「口調はあれやど…性格はサッパリしてそうやね」
「花陽!なんとしても勝ちなさいよ!」
「む?にこちゃん?」
「いい?これは最終予選に向けての前哨戦なのよ。ここで叩いておいて、心理的に優位に立つのよ!」
「それは関係ないと思うよ…」
「何を言うかと思えば…」
と、呆れ顔の海未。
「なによう、これでも部長として、どうしたらラブライブの本選に出場できるか、常に考えてるんだから」
「それにしても、このコンテストは関係ないと…」
「まぁまぁ、そのへんにせんと。ほら、もうすぐ順番やん」
希の言う通り、あと数人で整理券を受け取るところまで進んできた。
「この分なら、みんな貰えそうやね」
そして花陽の順番。
「このあと、8時に…あそこに並んでる椅子の…同じ番号の席に座って待っててください。その時間にいなければ、失格ですので、時間厳守でお願いします」
係員がそう言って整理券を手渡した。
「はい、ありがとうございます…私は…146番…ぴゃあ!ギリギリだねぇ」
花陽は自分の券をまじまじと見つめた。
そして気付いた。
「あれ?私が146番…ってことは…」
「何故、私が…」
崩れ落ちたのは6人の中で一番後ろに並んでいた海未。
「こういう役割は、にこのハズです。何故、私の前でおしまいなのですか」
「いや、海未ちゃんも、そこそこオチ担当やと思うよ」
「い…いつから私はそのようなポジションに…。それより穂乃果!その150と書かれた整理券を私に譲りなさい。元はと言えば、あなたの寝坊から始まった話。それがなければ、余裕で参加できたのです!」
「海未ちゃん、こればかりは運ということで」
「悪魔ですか!あなたは悪魔ですか!」
「海未ちゃんだって、普段、穂乃果には悪魔みたいに怖いよ!」
「それはあなたがだらしないからです!」
「海未ちゃん!」
「ことりは邪魔しないでください!」
「海未!」
「真姫もです!」
「海未!」
「絵里も!…絵里?…」
「周りに迷惑だから…」
海未が周囲を見回すと、通行人を含め、かなりの視線が自分に集まっているのがわかった。
「あ…」
「まったくもう、相変わらず穂乃果のことになると、熱くなるんだから。もう少し冷静になりなさいよ」
「すみません…お恥ずかしい限りで…」
年下の真姫に諭され、言葉を失う海未。
「ここは大人しく引き下がって、5人を見守りましょう」
「はい」
こうして海未は、絵里、ことり、真姫と供に応援にまわることになった。
~つづく~