【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
『インパクト』に対する考えがまとまらないうちに、イベント発表の告知の時を迎える。
μ'sを代表してリーダーの穂乃果、部長のにこ…そしてリーダー代理の凛がインタビューに応じることになった。
会場に足を運ぶと、そこにいたのは『利き米コンテスト』の時の女性司会者。
ハート型のフレームの眼鏡に、やや派手な衣装。
ハロウィーン仕様の格好で3人の前に現れた。
「は~い、二度目まして!この間のライブ良かったよぅ!お姉さん、感動しちゃった!今日はよろしくぅ!」
「よ、よろしくお願いします…」
「あとでインタビューがあるから、呼んだら前に来てね!」
「は、はい!」
「それじゃあ、のちほど…バァ~イ!」
「あ、はい…」
前回よりも更に高いテンションに、終始圧倒されっぱなしの穂乃果であった…。
「イェ~イ!!さぁ!…というわけで、今日から始まりました、アキバハロウィーンフェスタ!テレビの前のみんな!はっちゃけてるか~い!?」
…穂乃果ちゃん…あの人…私達よりインパクトあるにゃ…
…確かに…
…ふん、アイドルモードに入れば、アタシだって負けないんだから!…
「ご覧の通りイベントは大盛り上がり!仮装を楽しんでる人も沢山いますねぇ!みんなもまだ間に合うから、ぜひ遊びに来てね!…そして…なんとなんと!イベントの最終日には、スクールアイドルがライブを披露してくれるんだ!!ははは…やっほ~!まずはμ'sから。どう?はっちゃけてる!?」
とマイクを向けられた穂乃果。
「あ…うぅっ…」
「ライブに向けての意気込みをどうぞ!」
「せ、精一杯頑張ります!」
「よぉ~し!…そこの君にも聞いちゃうぞ!」
「ラ、ライブがんばるにゃ~!」
「あ、可愛い~!私も真似しちゃおうかな?『にゃ~!!』」
「えへへっ」
「次はアタシね?『にっこにっ…』」
「…というわけで音乃木坂学院スクールアイドルでした~」
「スルーかい!!」
…お約束にゃ!…
…うるさいわよ!…
凛とにこがアイコンタクトで会話する。
「そしてそして…な~んと…今回のイベントには、あのA-LISEもライブに参戦だぁ!」
女性司会者がそう言うと、例の大型ビジョンに、ツバサ、英玲奈、あんじゅの3人の姿が映し出された。
「みなさん、こんにちは。A-RISEです。私達は常日頃、新しいものを取り入れて、進化していきたいと考えています。このハロウィーンイベントでも、自分達のイメージを…いい意味で壊してみたいと思っています!…せ~の!」
「ハッピーハロウィーン!」
3人の掛け声と共に、空から紙吹雪が舞ってきた。
「あっはははは…なんということでしょう!さすがA-LISE!素晴らしいパフォーマンスです!どう?このハロウィーンイベント!目が離せないでしょ!?…以上、現場からでしたぁ!」
「もぅ!A-LISEに完全に持っていかれたじゃない!」
「にこちゃんが『にこに~』をやろうとするから…」
「やれてないし!…っていうか、いくらA-RISEでも『アレ』はやり過ぎよ」
「そうだよねぇ…あれじゃ穂乃果たち、完全に引き立て役だよ」
「あの司会者も目立ちすぎにゃ!」
「主役がアタシたちだって、わかってないのよ!」
告知が終わって、にこと凛は、そのまま穂乃果の部屋に立ち寄った。
作戦会議を開くハズが、単なる愚痴の言い合いになってしまっている。
「とにかく、これは問題よ!このハロウィーンイベントをものにしないと、最終予選を勝ち抜くのは難しくなるわ…。あのお客さんの盛り上がり見たでしょ?」
「確かに…」
「だけど…A-RISE恐るべし!って感じね…。敵ながら天晴れだわ。あれだけの実績を残しながら、現状に満足せずに努力している!なんだかんだ言っても、やっぱりスゴいわ…」
「優勝するだけのことはある…ってことね」
「でも、感心してるだけなら、アタシたちはそこで終わりよ!」
「…だよねぇ…」
「打倒A-RISE…か…。相当厳しいにゃ~」
凛は、お手上げ…というポーズをしたあと、床に寝転がった。
部室…。
「うーん…」
ことりが首を左右に捻りながら唸っている。
「インパクト…インパクト…」
穂乃果は念仏のように、ひたすらこの単語を呟き続けていた。
「…かと言って、いきなり路線変更を考えるのは…無理がありませんか?」
海未は穂乃果に問い掛けた。
しかし、それを無視するかのように
「今の私達にはインパクトがない!」
と穂乃果が叫ぶ。
「でも穂乃果ちゃん…インパクト…って今までにないものというか…新しさ…ってことだよね?」
「新しさか…」
「…それなら…思い切って現状を変えてみたらいかがでしょうか?」
「海未ちゃん?」
「部活のユニフォームでステージ!?」
部室にあとから来た1年組、3年組の6人が、海未の提案に驚きの声をあげた。
「穂乃果はテニスウェアを着てみたい!」
「ことりはラクロスかな?あのユニフォームって可愛いよね」
「にこちゃんは剣道とか似合うにゃ~」
「似合うも何も、顔が見えないわよ!」
「海未ちゃんは、そのまま弓道の格好でいいんやない?」
「どうせなら私も、違うユニフォームを着てみたいのですが…」
「水泳とか?」
「なぜ、水着なんですか!希はそういう発想しか出来ないのですか!?」
「いいやん、別に。減るもんやないし」
「そういう話ではありません!」
「スクールアイドルってことを考えると、色々な部活のユニフォームを着る…っていうコンセプトは悪くはないかも」
「だよね、だよね!絵里ちゃん、話がわかるぅ!」
「でも、これだと音ノ木坂の部活発表会みたいじゃない?今はもう、学校のアピールじゃなくて、いかにA-RISEに勝つか…でしょ。そもそもこれでステージに上がるなんてありえないでしょ」
真姫は反対のようだ。
「ウチはいいと思うんやけどなぁ…。わざわざ衣装を作らなくても、借りてくればいいんやし」
「でも、この季節に水着はちょっと寒いかも…」
「だから水着にはなりません!」
海未が必死の形相で花陽に迫る。
「う、うん…そうだね…」
「なら、一回、真逆の路線に行ってみる?」
と穂乃果。
「真逆…ですか?」
「スクールアイドルから一旦離れて…」
「例えばロックとか?」
「そうそう、真姫ちゃん!そういうの!どうせなら、もう少し過激に…パンク?…ヘビメタ?…」
「面白そうやね。『KI○S』みたいな感じやろ」
「希…それ本気で言ってる?」
「でも、花陽、楽器は出来ないですよ」
「そういう問題じゃないでしょ!ああいうメイクとファッションで、ステージに立てる?」
…にこの言葉に、それぞれが頭の中で、自分の姿をイメージしてみる…
「実は凛、これは世を忍ぶ仮の姿で、来週で3万16歳になる悪魔なのにゃ~」
「それは『KI○S』というより『聖○魔Ⅱ』やけどね」
「インパクトはあるけど…」
苦笑いする絵里。
「拷問です!」
海未の悲痛な叫び、
「ある意味、水着より恥ずかしいね…」
穂乃果も同意する。
これにより、ヘビメタ案は却下された…。
続いて…
メンバーがひとりひとり順番に、箱に手を突っ込み、くじを引いていく。
「まだ見ちゃダメだよ!」
「穂乃果に言われなくてもわかってますよ」
「ウチがラストやね…」
希が引き終わり、この瞬間、運命が決まった。
「じゃあ、一斉に開けるよ!イチ、ニのサン!」
「凛は真姫ちゃんにゃ~!」
「えっ!?凛が私?なんかイヤな感じ」
「ウチは穂乃果ちゃんか…簡単やね。パン食べてればいいんやもん」
「むっ!希ちゃん、それはひどいよ…」
…部活案、ヘビメタ案が却下になり、次なる打開策を検討した結果…『キャラクターのシャッフル』という案に行き当たった。
異論を唱えるメンバーがいなかった…訳ではないが…とにかく『まずはやってみよう!』ということなった。
そして、今、行われたのは『誰が誰を演じるか』…を決めるためのくじ引き。
「私は…私は…凛なのですね…」
異様に落ち込む海未。
「そんなに嫌がられるのは、不本意にゃ…」
「そうだよ、海未ちゃん。それは凛ちゃんに失礼だよ」
「わかっています…わかっていますよ…えぇ…」
「ほな、着替えよっか?」
「れ、練習着もですか!」
「当たり前やん。じゃなきゃ、雰囲気でないやろ…」
「はぁ…」
海未の目に涙が浮かんでいた。
「うぅ…にこちゃんのこれ、七分丈?」
「長袖だって言ってるでしょ!…って、この間から何回も同じことを…」
「この間から?」
「何回も?」
「ん?凛も真姫も何言ってるのよ…言葉の綾よ、言葉の綾」
「ふ~ん…」
「『花陽ちゃんの練習着』が一番苦しそうやもんね」
「人の服を貧乏くじみたいに言わないでよ…」
にこの返事を待たずに、希は真姫にも声を掛ける。
「堪忍してな。ウチのだとブカブカやろ…胸の辺りが…」
「うるさいわよ…」
希はとても楽しそうにニヤニヤしている。
「みんな着替え終わった?じゃあ、屋上に行って、早速やってみよう!!」
穂乃果の掛け声と共に、9人は練習場所へと移動した。
「おはようございまーす!…じゃなかった…『ごきげんよう』」
と海未を演じるのは穂乃果。
「『海未!ハラショー!』」
いつも語り口は穏やかなことりだか、今だけは絵里を真似て上から目線。
「『絵里!早いですね!』」
「『そして、凛も!』」
「うぅっ…うぅっ…うぅっ…無理です!」
「ダメだよ海未ちゃん、ちゃんとやらなきゃ。いい女優にはなれないよ!」
「女優になるつもりはありません!」
「穂乃果ちゃん、こういう時も海未ちゃんになりきった方がいいんじゃないかな?」
「あ、そうだね…では…『ダメですよ!海未!ちゃんと凛になりきってください!』」
「うぅっ、私が私に怒られるなんて…」
「『あなたが言い出したんでしょう!空気を変えてみたほうがいいと…さぁ!凛!』」
「うぅっ…うぅっ…くっ…『にゃ~!!さぁ、今日も練習いっくにゃ~』」
「『ハラショー!やれば出来るじゃないの』」
海未は全身の力が抜け、その場にへたりこんだ。
「『なにそれ?意味わかんない…』」
指先でクルクルと髪を絡める凛。
「『真姫!そんな話し方はいけません!』」
「『にゃ~!!』」
海未は自分が扮する『本物の凛』に向かって、猫が威嚇するかのようなポーズ。
それを一瞥した凛。
「『面倒な人…。恨むなら自分のくじ運を恨んでよね』」
「ちょっと凛!私はそんなこと言わないから…やめてよね!」
「『お断りします!』」
普段から人を茶化すことに慣れている凛は、真姫の真似もお手の物だ。
そこに海未役の穂乃果が近づく。
「『おはようございます、希』
「…」
無言で視線を反らす真姫。
「『あ~!喋らないのはずるいにゃ~』」
少し吹っ切れた様子の海未。
「『そうよ、みんなで決めたでしょ』」
ことりのなりきり具合も、ハンパではない。
「べ…別に…そんなこと…」
「『にゃ?』」
「『言った覚え…ないやん…』」
「『おお、希!すごいです!』」
穂乃果が思わず拍手する。
次に屋上にやってきたのは…
「『にっこにっこに~!あなたのハートに、にっこにっこに~!笑顔を届けるぅ…矢澤にこにこぉ!青空も~にこっ』」
「おぉ…」
花陽の『にこに~』の完成度の高さに、役を忘れて感嘆の声をあげる、穂乃果、ことり、海未…そして、凛と真姫。
「『ハラショ~!!』」
「『にこちゃ~ん、にこはそんな感じじゃないよぅ』」
にこがことりの真似をする。
少しだらしない喋り方に、一瞬、眉間にシワを寄せたことり。
そしてすぐに反撃に出る。
「『いえ、本家よりも可愛かったですよ!』」
「ちょっと、どういうことよ!」
素で怒るにこ。
「『まぁまぁ、ふたりとも…。いやぁ、今日もパンがうまい!』」
「うっ…」
希の演じる穂乃果に、言葉を失う本人。
「『穂乃果、また遅刻よ?』」
「『うわっ!絵里ちゃん、ごめ~ん』」
「私って…こんな?」
「『まんまにゃ~!』」
「…かなりバカっぽい…」
突きつけられた現実に、役を忘れて穂乃果が呟く。
最後、息を切らして入ってきたのは…
「『大変です!』」
「『花陽!』」
「『かよちん!』」
「『はぁ…はぁ…はぁ…みんなが…』」
「『みんなが?』」
「『みんなが~』」
タメを作った絵里。
そして…
「変よ!」
と言い放った。
「…だよねぇ…」
「やはり、他人を演じるのは無理があります」
「そうかな?私は楽しかったけどなぁ」
「ことりちゃんは役になりきってにゃ!」
「凛ちゃんも上手だったよ!」
「かよちんの『にこに~』可愛かったにゃ~」
「そういえばさっき、ことりはどさくさに紛れて、ひどいこと言ったわね?」
「へっ?にこちゃん?そ、そうかな?絵里ちゃんじゃなくて?」
「私は何も言ってないわよ!」
「ちゅん、ちゅん…」
ことりは笑って誤魔化した。
~つづく~