【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「あぁ…うぅ…あ、う~ん…ごめんなさい、間違えちゃった…」
花陽は未だ慣れないミシンに悪戦苦闘している。
「焦らなくてもいいよ。ゆっくり、落ち着いてやれば大丈夫だよ」
その様子を見て、優しく慰めることり。
ことりの部屋。
今は、にこと3人でハロウィーンライブの衣装作りをしているところだ。
時間がない中での突貫作業。
ライブ前はいつもこんな状態である。
μ's結成当初から、衣装については、デザインも製作もことりが担当していた。
しかし、いつからか…自然発生的に花陽も手伝うようになった。
これは歌もダンスも苦手だと思い込んでいる花陽が、少しでもμ'sに貢献できればと始めたことである。
だが、なかなか上達しない自分の腕前に自己嫌悪するようで、この時も
「ことりちゃん、ごめんね。いつも足を引っ張っちゃって」
と謝っている。
「そんなことないよ…すごく助かってるから。2人が手伝ってくれないと、間に合わないもん」
その言葉に
「…おかしいと思うんだけど!なんでいつもいつもアタシたちが衣装作りやってんの!」
と異を唱える、にこ。
「でも、みんなは…生徒会があったり、ライブの他の準備があるから…」
「だから花陽は『優しすぎる』って言うの!そんなこと言ったら、アンタだって、アルパカの世話があるじゃない」
「それはそうだけど…」
「だいたい、こうなったのも『キャラクターのシャッフル』とか、くだらないことで時間使っちゃったからじゃない!結局、明確なヴィジョンが見えないまま、衣装だけ先に作るなんて…」
「そんなに無駄じゃなかった…って、ことりは思ってるよ」
「はぁ?どこが?」
「私は楽しかったよ。おかげでデザインのヒントももらえたし」
「あれで?」
「うん。やっぱり、μ'sのひとりひとりには強い個性があって、それを生かすことが衣装作りには一番大事なんだ…って気付いたの」
「もっともらしいこと言ってるけど、アンタもそんな役割に慣れちゃっているんじゃない?」
「私には…私には私の役目がある」
「ことり…」
「ことりちゃん…」
「今までだってそうだけど…私はみんなが決めたこと、やりたいことに…ずっとついていきたいの。道に迷いそうになることもあるけれど、それが無駄になるとは私は思わない」
「ふん、主体性がないだけじゃない!」
「にこちゃん!そういう言い方、良くないよ」
「あっ!…言い過ぎたわ…」
「ううん、いいの。にこちゃんの言う通りだから。でもね、だからこそ、これは私がやらなきゃ!って思ってるの」
「…」
「この衣装はにこちゃんのだよ。にこちゃんだから着れる衣装…にこちゃんしか着れない衣装…。みんなが集まって、それぞれの役割を精一杯やりきれば、素敵な未来が待ってるんじゃないかな?」
「ことりちゃん、素敵です!」
花陽は少し目を潤ませながら、ことりを見つめた。
「えへへ…半分、穂乃果ちゃんの受け売りなんだけどね…」
「まぁ、いいわ。ほら、休んでないで今日中に終わらすわよ!」
にこはことりの主張に納得したのか、パンパンと手を叩き、作業の再開を促した。
「トリック オア トリート!!いやっほ~う、はっちゃけてる?連日すごい盛り上がりをみせている、アキバハロウィーンフェスタ!なんと今日がイベントの最終日なんだよねぇ!でも落ち込まなくてOK!今日はスクールアイドルのスペシャルライブが観られるよう!お楽しみに!」
「うぅ~…いよいよライブ…緊張するねぇ」
「大丈夫よ、穂乃果。楽しんでいきましょ、みんなも…ほら、楽しそうよ」
絵里の視線の先には、歩道にあるハロウィーンの飾りを見て、はしゃいでいるμ'sのメンバー。
「なんとか間に合って良かったね」
「海未や真姫たちに感謝しないとね。毎回毎回、頭が下がるわ」
「ねえ…絵里ちゃん?」
「?」
「私、このままでいいと思うんだ。A-LISEがすごくて…私たちもなんとか新しくなろうと頑張って来たけど、μ'sはきっと、今のままが一番いいんだよ。だって、みんな個性的なんだもん!」
「どうしたの、急に…」
「普通の高校生なら似た者同士が集まると思うけど…私たちは違う。…時間をかけてお互いの事を知って…お互いのことを受け入れ合って…ここまで来られた。それが一番の私たちの特徴じゃないのかな」
「そうね…」
「私は…そんなμ'sが好き!」
「ええ、私も!」
「えへへっ…」
「μ'sの皆さんですよね!」
出番を前にしたメンバーに声を掛けてきたのは、4人組の少女だった。
「あっ!」
そのうちの2人を見て、花陽と真姫が同時に声をあげた。
「あなたは確か…『ミュータントタート…』」
「『ミュータントガールズ』さん!」
真姫が名前を間違えそうになったところを、すかさず花陽がフォローした。
「ミュータントガールズ?」
今度は花陽と真姫以外の全員が、驚きの声をあげた。
その名前はμ'sのメンバー全員が知っていた。
穂乃果の見た夢が『正夢』だったなら、最終予選出場はμ'sではなく、彼女たちだったのだ。
しかし、まさかここで実物に会うとは。
「前にかよちんが会ったという人たちにゃ?」
「う、うん…」
花陽と真姫は、2人でプラネタリウムを見に行った時、このうちの2人と遭遇していた。
「あ…小泉さん、西木野さん…その節は大変失礼致しました」
「いえいえ…」
「すみません、申し遅れました。私、調布女子高等学校でスクールアイドル『Mutant Girls(ミュータントガールズ)』をしています『中目黒結奈(なかめぐろゆな)』と申します」
結奈は初対面である『残りのメンバー』に、挨拶をした。
「同じく『亀井紫恩(かめいしおん)』」
「『神村愛美(かみむらめぐみ)』です」
「『葛西メリー』」です」
「あ、わざわざ…μ'sと申します」
穂乃果が頭を下げる。
「はい、存じております。私たちはこの間の予選で皆さんを知ってから、大ファンになりまして…今日もここでライブをやるとお聞きしたので、お伺いさせて頂きました」
リーダー結奈の口調は相変わらず丁寧である。
「素敵な衣装だね」
対して、紫恩の口調も変わらない。
初対面であろうと物怖じしない、ストレートな喋り口。
「ありがとうございます。今日はハロウィーンなので、それを意識した衣装にしてみました」
ことりが礼を述べる。
愛美とメリーは…さすがμ's…と感心しきり。
「今日はどんなライブを観せてくださるんでしょう」
「それは観てのお楽しみということで!」
「そうですね…。それにしても、私たちは1曲完成させるまで、ものすごい時間を要するのですが、皆さんは何故こうも、色々な曲が短時間で作れるのでしょうか」
「本当だよね。あなたたちはプロだよ、プロ。同じスクールアイドルとは言え、私たちとは違う世界で生きてるよ」
フランクに話し掛ける紫恩。
「プロだなんて、そんなぁ…」
謙遜する穂乃果。
「でも、何か秘密があるんでしょ?」
「秘密?」
「例えば…本当はゴーストライターがいるとか、プロにレッスン受けてるとか」
紫恩の発言に
「ない、ない…」
と首を振るμ'sメンバーたち。
「あとは、スポンサーが付いてるとか…」
これには一瞬、真姫に視線がいくものの、やはり思い直して
「ない、ない…」
と否定。
「単純に人数多いからね。ひとりで、あれもこれも…ってやらなくていいのは強みかな」
「穂乃果は何もしませんけどね」
「してるよぅ!一応リーダーだし」
「そうですよね。これだけの人数ってなかなかいませんものね。まとめるのだって大変だと思います」
「でしょ?でしょ?ほらぁ…」
「もうひとつ、お尋ねしたいことがあります」
「はい」
「μ'sは曲によって色々な表情を見せてくれます。でも、どれもがμ'sなんです」
「それってアタシたちがワンパターンってこと?」
「にこっち!」
希が喧嘩っ早いにこを素早く牽制する。
「いえ、そうではないんです。上手に言い表せないのですが…詩も曲も衣装もダンスも、きっとμ'sという柱がしっかりあって、その中で色々な世界を見せてくれる。この間のアカペラもそうです。皆さん私服でしたし、ダンスもありませんでしたが、それでもしっかりμ'sでした」
「誉められてるのかな?」
「もちろんです。私たちは次の曲を考えようとする時、どうしても同じようなイメージを避けようと、真逆の方向を選択しがちです」
…あれ?この話って…
「でも、無理なんですよね。自分たちが出来ることには限界があるんです」
「わかります。私たちもそうですし」
「いえ、皆さんは違います。詩の世界、曲調、衣装、ダンス…どれひとつとして同じものがなく…しかし決して奇をてらうことなく、μ'sの世界感の中で完結してる」
「難しいことを言いますね…」
穂乃果は頭をポリポリと掻いて、苦笑した。
「私たちも皆さんと変わりませんよ。アイデアが出ずにスランプに陥ったり、意見が合わずに言い争ったり」
「そうそう、今日のライブだってヘビメタでいこうか?とか言ってたくらいだもんね」
「ヘビメタ…ですか…」
「海未と穂乃果の言う通り、私たちも試行錯誤しながらここまできたの。決して順風満帆じゃないわ」
「絵里ちゃんなんて最初『認められないわ』とか言って、μ'sを潰そうとしてたにゃ」
「凛!私の真似はしなくていいから」
合計13名の少女たちに笑いが起こった。
「ただひとつ言えるのは…」
穂乃果が絵里の顔見ながら、言葉を続ける。
「さっきも絵里ちゃんと話してたんだ。普通だったら似た者同士があつまるところ、9人いて9人とも個性が違う。だけど、それぞれがそれぞれを受け入れて、高め合って今がある。私たちの曲が、どれもμ'sらしい…ってことは、つまりそういうことだと思うんだ」
「そうね。決めたことに対して、それを信じて真っ直ぐに突き進んでいく。それがμ'sなのかもね」
「暴走は困りますが!」
「ん?穂乃果のこと?」
「はい」
海未はにっこり微笑んだ。
「やはり、今日、お伺いして良かったです。私たちはラブライブには出れませんでしたが、まだ曲を披露する機会は残ってます。このまま解散しようかと思いましたが…最後までやり抜く決心がつきました」
「ごめんなさい、なんか偉そうなことを言っちゃって」
「いえ、私たちがμ'sを応援したくなる理由がわかった気がします。ありがとうございました」
4人が同時に頭を下げた。
「こちらこそ。応援してくれてる人と、直接お話が出来て良かったです」
μ'sのメンバーも4人に一礼する。
「μ'sの皆さん、そろそろ出番です。スタンバイをお願いします!」
「あ、そろそろ…」
「はい、頑張ってください」
「熱いパフォーマンスを期待してるよ」
「ありがとう!最高のライブにしますよ!」
じゃあ、また…と言って歩き出そうとしたμ'sのメンバーを紫恩が呼び止めた。
「ねぇ、写真撮っていい?集合写真!」
「紫恩!本番前ですよ!」
「いいわよ、撮りましょ!」
「真姫ちゃん!?」
「ファンの人の要望に応えるのも、アイドルの仕事でしょ?写真くらいで喜んでもらえるなら、それはそれでいいんじゃない?」
「アンタらしくないことを言うわね」
「いちいち茶化さないで!」
「すみませ~ん、スタッフのお兄さ~ん!写真をお願いしていいですか?」
「いきますよ~!はい、ミュ~ズ!!」
ぱしゃっ!
~つづく~