【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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最高のライブ その4 ~trick or treat(後編)~

 

 

 

 

 

「あぁ…うぅ…あ、う~ん…ごめんなさい、間違えちゃった…」

花陽は未だ慣れないミシンに悪戦苦闘している。

「焦らなくてもいいよ。ゆっくり、落ち着いてやれば大丈夫だよ」

その様子を見て、優しく慰めることり。

 

 

 

ことりの部屋。

 

今は、にこと3人でハロウィーンライブの衣装作りをしているところだ。

時間がない中での突貫作業。

ライブ前はいつもこんな状態である。

 

μ's結成当初から、衣装については、デザインも製作もことりが担当していた。

しかし、いつからか…自然発生的に花陽も手伝うようになった。

これは歌もダンスも苦手だと思い込んでいる花陽が、少しでもμ'sに貢献できればと始めたことである。

だが、なかなか上達しない自分の腕前に自己嫌悪するようで、この時も

「ことりちゃん、ごめんね。いつも足を引っ張っちゃって」

と謝っている。

「そんなことないよ…すごく助かってるから。2人が手伝ってくれないと、間に合わないもん」

その言葉に

「…おかしいと思うんだけど!なんでいつもいつもアタシたちが衣装作りやってんの!」

と異を唱える、にこ。

「でも、みんなは…生徒会があったり、ライブの他の準備があるから…」

「だから花陽は『優しすぎる』って言うの!そんなこと言ったら、アンタだって、アルパカの世話があるじゃない」

「それはそうだけど…」

「だいたい、こうなったのも『キャラクターのシャッフル』とか、くだらないことで時間使っちゃったからじゃない!結局、明確なヴィジョンが見えないまま、衣装だけ先に作るなんて…」

「そんなに無駄じゃなかった…って、ことりは思ってるよ」

「はぁ?どこが?」

「私は楽しかったよ。おかげでデザインのヒントももらえたし」

「あれで?」

「うん。やっぱり、μ'sのひとりひとりには強い個性があって、それを生かすことが衣装作りには一番大事なんだ…って気付いたの」

「もっともらしいこと言ってるけど、アンタもそんな役割に慣れちゃっているんじゃない?」

「私には…私には私の役目がある」

「ことり…」

「ことりちゃん…」

「今までだってそうだけど…私はみんなが決めたこと、やりたいことに…ずっとついていきたいの。道に迷いそうになることもあるけれど、それが無駄になるとは私は思わない」

「ふん、主体性がないだけじゃない!」

「にこちゃん!そういう言い方、良くないよ」

「あっ!…言い過ぎたわ…」

「ううん、いいの。にこちゃんの言う通りだから。でもね、だからこそ、これは私がやらなきゃ!って思ってるの」

「…」

「この衣装はにこちゃんのだよ。にこちゃんだから着れる衣装…にこちゃんしか着れない衣装…。みんなが集まって、それぞれの役割を精一杯やりきれば、素敵な未来が待ってるんじゃないかな?」

「ことりちゃん、素敵です!」

花陽は少し目を潤ませながら、ことりを見つめた。

「えへへ…半分、穂乃果ちゃんの受け売りなんだけどね…」

「まぁ、いいわ。ほら、休んでないで今日中に終わらすわよ!」

にこはことりの主張に納得したのか、パンパンと手を叩き、作業の再開を促した。

 

 

 

 

 

「トリック オア トリート!!いやっほ~う、はっちゃけてる?連日すごい盛り上がりをみせている、アキバハロウィーンフェスタ!なんと今日がイベントの最終日なんだよねぇ!でも落ち込まなくてOK!今日はスクールアイドルのスペシャルライブが観られるよう!お楽しみに!」

 

 

 

 

 

「うぅ~…いよいよライブ…緊張するねぇ」

「大丈夫よ、穂乃果。楽しんでいきましょ、みんなも…ほら、楽しそうよ」

絵里の視線の先には、歩道にあるハロウィーンの飾りを見て、はしゃいでいるμ'sのメンバー。

「なんとか間に合って良かったね」

「海未や真姫たちに感謝しないとね。毎回毎回、頭が下がるわ」

「ねえ…絵里ちゃん?」

「?」

「私、このままでいいと思うんだ。A-LISEがすごくて…私たちもなんとか新しくなろうと頑張って来たけど、μ'sはきっと、今のままが一番いいんだよ。だって、みんな個性的なんだもん!」

「どうしたの、急に…」

「普通の高校生なら似た者同士が集まると思うけど…私たちは違う。…時間をかけてお互いの事を知って…お互いのことを受け入れ合って…ここまで来られた。それが一番の私たちの特徴じゃないのかな」

「そうね…」

「私は…そんなμ'sが好き!」

「ええ、私も!」

「えへへっ…」

 

 

 

 

 

「μ'sの皆さんですよね!」

出番を前にしたメンバーに声を掛けてきたのは、4人組の少女だった。

「あっ!」

そのうちの2人を見て、花陽と真姫が同時に声をあげた。

「あなたは確か…『ミュータントタート…』」

「『ミュータントガールズ』さん!」

真姫が名前を間違えそうになったところを、すかさず花陽がフォローした。

「ミュータントガールズ?」

今度は花陽と真姫以外の全員が、驚きの声をあげた。

その名前はμ'sのメンバー全員が知っていた。

穂乃果の見た夢が『正夢』だったなら、最終予選出場はμ'sではなく、彼女たちだったのだ。

しかし、まさかここで実物に会うとは。

「前にかよちんが会ったという人たちにゃ?」

「う、うん…」

花陽と真姫は、2人でプラネタリウムを見に行った時、このうちの2人と遭遇していた。

「あ…小泉さん、西木野さん…その節は大変失礼致しました」

「いえいえ…」

「すみません、申し遅れました。私、調布女子高等学校でスクールアイドル『Mutant Girls(ミュータントガールズ)』をしています『中目黒結奈(なかめぐろゆな)』と申します」

結奈は初対面である『残りのメンバー』に、挨拶をした。

「同じく『亀井紫恩(かめいしおん)』」

「『神村愛美(かみむらめぐみ)』です」

「『葛西メリー』」です」

「あ、わざわざ…μ'sと申します」

穂乃果が頭を下げる。

「はい、存じております。私たちはこの間の予選で皆さんを知ってから、大ファンになりまして…今日もここでライブをやるとお聞きしたので、お伺いさせて頂きました」

リーダー結奈の口調は相変わらず丁寧である。

「素敵な衣装だね」

対して、紫恩の口調も変わらない。

初対面であろうと物怖じしない、ストレートな喋り口。

「ありがとうございます。今日はハロウィーンなので、それを意識した衣装にしてみました」

ことりが礼を述べる。

愛美とメリーは…さすがμ's…と感心しきり。

「今日はどんなライブを観せてくださるんでしょう」

「それは観てのお楽しみということで!」

「そうですね…。それにしても、私たちは1曲完成させるまで、ものすごい時間を要するのですが、皆さんは何故こうも、色々な曲が短時間で作れるのでしょうか」

「本当だよね。あなたたちはプロだよ、プロ。同じスクールアイドルとは言え、私たちとは違う世界で生きてるよ」

フランクに話し掛ける紫恩。

「プロだなんて、そんなぁ…」

謙遜する穂乃果。

「でも、何か秘密があるんでしょ?」

「秘密?」

「例えば…本当はゴーストライターがいるとか、プロにレッスン受けてるとか」

紫恩の発言に

「ない、ない…」

と首を振るμ'sメンバーたち。

「あとは、スポンサーが付いてるとか…」

これには一瞬、真姫に視線がいくものの、やはり思い直して

「ない、ない…」

と否定。

「単純に人数多いからね。ひとりで、あれもこれも…ってやらなくていいのは強みかな」

「穂乃果は何もしませんけどね」

「してるよぅ!一応リーダーだし」

「そうですよね。これだけの人数ってなかなかいませんものね。まとめるのだって大変だと思います」

「でしょ?でしょ?ほらぁ…」

「もうひとつ、お尋ねしたいことがあります」

「はい」

「μ'sは曲によって色々な表情を見せてくれます。でも、どれもがμ'sなんです」

「それってアタシたちがワンパターンってこと?」

「にこっち!」

希が喧嘩っ早いにこを素早く牽制する。

「いえ、そうではないんです。上手に言い表せないのですが…詩も曲も衣装もダンスも、きっとμ'sという柱がしっかりあって、その中で色々な世界を見せてくれる。この間のアカペラもそうです。皆さん私服でしたし、ダンスもありませんでしたが、それでもしっかりμ'sでした」

「誉められてるのかな?」

「もちろんです。私たちは次の曲を考えようとする時、どうしても同じようなイメージを避けようと、真逆の方向を選択しがちです」

 

…あれ?この話って…

 

「でも、無理なんですよね。自分たちが出来ることには限界があるんです」

「わかります。私たちもそうですし」

「いえ、皆さんは違います。詩の世界、曲調、衣装、ダンス…どれひとつとして同じものがなく…しかし決して奇をてらうことなく、μ'sの世界感の中で完結してる」

「難しいことを言いますね…」

穂乃果は頭をポリポリと掻いて、苦笑した。

「私たちも皆さんと変わりませんよ。アイデアが出ずにスランプに陥ったり、意見が合わずに言い争ったり」

「そうそう、今日のライブだってヘビメタでいこうか?とか言ってたくらいだもんね」

「ヘビメタ…ですか…」

「海未と穂乃果の言う通り、私たちも試行錯誤しながらここまできたの。決して順風満帆じゃないわ」

「絵里ちゃんなんて最初『認められないわ』とか言って、μ'sを潰そうとしてたにゃ」

「凛!私の真似はしなくていいから」

合計13名の少女たちに笑いが起こった。

「ただひとつ言えるのは…」

穂乃果が絵里の顔見ながら、言葉を続ける。

「さっきも絵里ちゃんと話してたんだ。普通だったら似た者同士があつまるところ、9人いて9人とも個性が違う。だけど、それぞれがそれぞれを受け入れて、高め合って今がある。私たちの曲が、どれもμ'sらしい…ってことは、つまりそういうことだと思うんだ」

「そうね。決めたことに対して、それを信じて真っ直ぐに突き進んでいく。それがμ'sなのかもね」

「暴走は困りますが!」

「ん?穂乃果のこと?」

「はい」

海未はにっこり微笑んだ。

「やはり、今日、お伺いして良かったです。私たちはラブライブには出れませんでしたが、まだ曲を披露する機会は残ってます。このまま解散しようかと思いましたが…最後までやり抜く決心がつきました」

「ごめんなさい、なんか偉そうなことを言っちゃって」

「いえ、私たちがμ'sを応援したくなる理由がわかった気がします。ありがとうございました」

4人が同時に頭を下げた。

「こちらこそ。応援してくれてる人と、直接お話が出来て良かったです」

μ'sのメンバーも4人に一礼する。

 

 

 

「μ'sの皆さん、そろそろ出番です。スタンバイをお願いします!」

 

 

 

「あ、そろそろ…」

「はい、頑張ってください」

「熱いパフォーマンスを期待してるよ」

「ありがとう!最高のライブにしますよ!」

じゃあ、また…と言って歩き出そうとしたμ'sのメンバーを紫恩が呼び止めた。

「ねぇ、写真撮っていい?集合写真!」

「紫恩!本番前ですよ!」

「いいわよ、撮りましょ!」

「真姫ちゃん!?」

「ファンの人の要望に応えるのも、アイドルの仕事でしょ?写真くらいで喜んでもらえるなら、それはそれでいいんじゃない?」

「アンタらしくないことを言うわね」

「いちいち茶化さないで!」

 

 

 

「すみませ~ん、スタッフのお兄さ~ん!写真をお願いしていいですか?」

 

 

 

「いきますよ~!はい、ミュ~ズ!!」

 

 

ぱしゃっ!

 

 

 

 

 

~つづく~


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